番台少年の片思い 1話


「今日も客が少ないな…」
 築五十年は過ぎている古き銭湯の番台に座る武は不満気にグチを漏らした。
 左に見える女湯には客はゼロ。右の男湯には80歳を超える爺さんが1人で風呂に入っている。
 普通なら稼ぎ時の午後7時だというのにこの状態なのだから不人気ぶりが伺えた。
 まだ中学3年で進路を決めるべきではないとは言え、この銭湯の跡取り息子として思うことは一つしかない。
 この銭湯に未来はない。どう贔屓目に見ても街の銭湯としての役目は終わっている。

 まず外見が古い。今時昭和の木造銭湯なんて古くからの常連以外に誰が入るというのか。
 もちろん設備も古い。なんと言ってもサウナすらないのだ。
 そして最大の問題はこの男湯も女湯も丸見えな番台の存在。昔は誰も気にしなかったらしいが今は違う。
 女性はもちろん男性ですら番台からの視線に抵抗感を持つ客が多い。
 興味半分で入ってきた客が一目で逃げ出すなんてこともあるぐらいだ。
 結局のところ客は大昔からこの銭湯に来てくれる常連しかいない。

 今来てくれている常連達の大半は大昔から通っている人たち。つまり老人たちだ。
 ここ数年で常連のおじいちゃんおばあちゃんが亡くなる悲報も増えてきた。常連は減ることはあれ増えることはない。亡くなればそれで終わる。
 そんな絶望的な状況の銭湯を継げと言われてもそれは無理な相談だった。

 そんなことを考えていると銭湯の古いドアが開き、白いブラウスを着た中学生ぐらいの女の子が入ってくる。
「学生一人。お金はここに置きますね」
 女の子は大きな帽子を深々と被っているために番台の高さからではよく顔が見えない。
「確かに。ごゆっくり」
 女の子は武の顔を見ること無く、深く俯いたまま足早に脱衣場がある奥へと早足で向かっていった。
(本当にあの子はなんなんだろうね)
 誰にも聞こえないほどの小さな声で武は独り言を呟く。
 彼の疑問はもっともだった。
 この銭湯に新規の女の子は殆ど来ない。なぜなら近くに大きなスーパー銭湯があるからだ。
 こんなオンボロ銭湯に来る理由はないはずなのに、この女の子は毎日のようにやってくる。
 武にとってこの客はまさに謎であり、興味を惹かれる存在になっていた。

 帽子を深く被り、常に顔を見られないようにやってくる女の子。
 風呂場から出る時すら、俯きながら歩くのでやはり顔はよく見えない。
 ちらっと見える顔は真面目でおとなしい大人しい感じがした。
 
 顔こそよくわからないが体は隠しようがないので裸は既に隅々まで把握していた。
 あの小さな乳房や薄い陰毛を見る限り、同じぐらいの年齢だろうと予想したが、所詮はそこまで。

 いったい彼女は何者なのか。
 そんな疑問を武がいつも思っているとも知らずに女の子は番台から1番離れた奥の右側へと行き、周りをちょろちょろ見渡す。
 誰も見ていないことに安心したのか服を脱ぎ始めた。

 武はその様子を番台から見て「フッ」と笑う。
 おそらく女の子は番台からの障害物を考えて、見えにくいあの場所を選んでいる。
 確かに女の子からはロッカーと古い扇風機が邪魔をして番台の人物は殆ど見えない。

 でも実際にはあそこで脱いでも裸は見えるのだ。
 番台からは障害物が邪魔で直接上半身は見えないが、少し頭を下げるだけで、背中もお尻も丸見えの場所でもあった。

 しかも右の壁にある大きな鏡が斜め横から反射しており、鏡を見れば正面の胸部分から下半身の陰毛の有様まではっきりとわかる脱ぎ場所だった。
 武はあの場所を恥ずかしがり屋の銭湯初心者が飛びつき、その初々しい裸体を全てさらけ出す公開ストリップゾーンと呼んでいた。
 そんなことも知らずに女の子は今日も公開ストリップゾーンでスカートを脱ぐ。
 当然のごとく番台からは綺麗な太股と白いパンツが丸見えになる。

(今日は白なのか。シマシマの日だと思ったんだが)
 これまで確認した女の子のパンツの色は5種類。
 武は女の子が来るたびに、今日のパンツの色を予想するのが密かな楽しみになっていた。
 女の子はシャツを脱ぎブラを外す。
 そして周りを気にしながらパンツも下ろした。
 鏡には膨らみが増しつつある綺麗な胸とまだ生え掛けの陰毛が映る。
(うんうん。今日も小さいけど、いい胸の形しているねえ)

 満足そうに武が頷く。
 この子が銭湯にやってきたのは二週間ほど前。
 武はすでに10回近く女の子が脱ぐところを見ており、その脱ぎ方から裸の特徴にいたるまで全てを把握していた。
 女の子は脱いだ服をロッカーへ入れようと手を伸ばす。
 公開ストリップゾーンで脱いだ子は、服を目の前にある背が低いロッカーに入れるが、これがまた罠であり、背を向けて腰を曲げることにより番台から性器が丸見えになる。

 武の目には女の子の綺麗な割れ目と、少しはみ出たピンク色のビラを捉えていた。
(あの割れ目の形がいいんだよな。成長途中のせいか他の人とは違うビラの歪みがあるのがいい)
 本人が決して見られたくない部分をマジマジを見つめながら、失礼すぎる批評をしていた。

 女の子は、いつものように顔を伏せ、タオルで体を隠しながら風呂のドアへと向かっていく。
 人は前ばかり隠したがるが、一番危険なのは後ろからの視線。
 ここでも本人は完全に隠していると思っているんだろうが、実際は後ろから尻がチラチラと見える。
 武は脱衣の時と浴槽に入る時の見える綺麗なお尻が大好きだった。
 女の子のお尻の右側にホクロがあるのも知っている。
 今日も女の子のお尻を眺めながら幸せを感じていると、
 「こら、なにジロジロと見ているのよ」

 入口のドアが開き、小学生と間違えそうな身長の幼馴染が声を掛けてきた。
 幼馴染の名は立花。
 武が番台に座るようになってからは、同級生たちは男女問わず来なくなったが、立花だけはなぜかずっと来てくれた。
 立花の心境はよくわからないが、銭湯にとってはありがたいお客だった。

「いや、ちょっとあの女の子の行動が……」
 女の裸に夢中だったことを知られるのは困ると思った武はいかにも気になることがあったみたいな言い方をした。

「女の子って、さっき入っていった、りっちゃんのこと?」
「え、あの子は知り合いなのか」
「同じクラスじゃない。何を言ってるのよ」

 なにをバカなことを言わんばかりの声を出す立花。
「顔を隠しているからわからなかった。誰なんだ」
 武は想い人の正体がわかると思い、立花に詰め寄った。
「いくら隠してたって顔を覚えていたらわかるでしょう。つまり武はクラスメイトの顔もよく覚えていない薄情者ってことよ」
 罵倒をいいつつ立花はお金を置き、いつも使う番台から一番近いロッカーを開けた。

「たしかに女子の顔なんて覚えていないけどさ。クラスメイトなら言ってくれればいいのに」
「そういや銭湯に行かないといけなくなったけど恥ずかしくてとか言ってたっけ。なるほど。それで顔を隠しているのか。うんうん」

 立花は一人で納得し、上着を脱いで服を入れるかごを足元に置いた

「だから誰なんだよ」
 武は番台から身を乗り出しながら立花に聞く。
「そんなエロい目で見ている人には教えてあげない。このエロ魔人め」
 少し怒ったような表情を見せながら立花は肌着を脱ぎ白いブラのホックを外した。
 立花が脱いでいる場所は番台と目と鼻の先。手が伸ばせば届きそうなぐらい近かったが武も立花も気にしない。

 ブラが外され小さな乳房と乳首が丸見えになっても2人は何も反応しなかった。
 「誰がエロ魔人だ。裸が見えるのは仕事なんだから仕方がないだろ」
 実際に武は立花の裸には欠片も興味なかった。
 もちろん脱ぐところは何百回と見ているし、裸も見飽きるほど見ているが、なぜか面白くない。
 これは見飽きたから面白くないわけでは無く最初からまったく面白くなかった。
 今では裸を見ることより、今日のパンツの色だけ確認して、すぐ視線を外す。
 武にとって立花の脱衣シーンはその程度の扱いになっていた。

「まったく。女の子の気持ちをなにもわかっていないんだから」
 立花がガサツにスカートを脱ぐ。
 番台からはパンツに包まれた丸く張りのあるお尻が見える。
(今日はいちご柄か。相変わらず立花はお子様だな……)

 武は軽くため息をつきながら立花のパンツ1枚の姿を眺めた。