番台少年の片思い 2話


 朝。一人の小柄な少女が校門をダッシュで駆け抜ける
 廊下を走り階段を駆け上がると少女のスカートがなびいた。
「発見〜」
 廊下を歩く目的の人物を見つけた少女はラストスパートを掛ける。
「りっちゃん。おはよー」
 少女こと立花はその小さな体をオーバーに動かし手をブンブン振って廊下を走る。

「こら、立花。廊下を走らない。あと学校であだ名も止めてよ」
 クラス委員長の陸野久美は立花がやってきた方向に振り向く。
 しなやかなストレートのロングヘアーが肩筋に流れる。
 久美は立花の落ち着き無い動作に少し困り気味の顔をしながら返事をした。

「久美は本当に真面目だね~。そんなことでは青春は謳歌できないぞー」
 立花は久美の肩を叩きながら『ごめんごめん』と少しおどけた感じを見せながら謝る。

「学生は真面目に励まないと駄目でしょう。さあ、一緒に教室行きましょう」
 久美は困った表情をしつつ、立花と一緒に登校する約束を果たせてホッとする。
 流石に立花が廊下を全力で走ってきたのは驚いたが、あんな口約束をきちんと守ってくれた友人に感謝していた。

「そういや昨日あの銭湯に行ってたでしょ」
 立花は昨日のことを思い出し話題を振った。
「なぜしっているの」
 驚いた表情をする久美子。
「いくら浴槽で隅っこにいても気がつくよ。話しづらい雰囲気だったので声はかけなかったけどさ」
「ごめんね。私は裸を見られるのがとにかく嫌で誰にも合わないようにしていたから」
「でも家のリフォームもまだまだ掛かるんだったらいい加減慣れないと駄目だよ」
「そうは言ってもね。今でも誰も見ていないのはわかっているのに脱ぐ時は人の視線を感じてしまって」

 久美はあの銭湯の構造を把握したつもりだった。
 何処で脱げば番台から見られないか。浴槽に行く最短コースはどこか。
 ようやく最小限の露出で済むコースがわかったというのにあの銭湯の雰囲気には未だに慣れないでいた。

「そうだ。今度一緒に行ってみようか。2人だと案外平気かもよ。もちろん武には絶対に見るなと念を押す。脱ぐ場所も番台から死角になる場所で脱ぐ。これなら大丈夫よ」
 立花は久美の手を握り、一緒に行こうと強く勧める。
 友人を助けたい気持ちもあったが、それ以上に一緒に楽しくお風呂に入りたい欲求もまた強かった。

「……そうね。2人で行ってみましょうか」
 肌を見せるのが嫌いな久美にとっては友人と銭湯に行くという行為も十分すぎるハードルであったが、友人の心遣いやあの意味不明の羞恥を克服したい一心で承諾した。
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 後日の夕方。
 立花と久美は銭湯の前に来ていた。
 かなり緊張しているのか久美の体が震える。

「では入るよ」
 立花はそんな久美の手を握りながら、入り口のドアを開け中に入る。

「おう、立花。よく来たな。って横にいるのは誰?」
 思わぬ来客に武は驚きの表情をした。

「誰って見ればわかるでしょう。クラス委員長の久美よ。今日はね。この寂れた銭湯に私の友人を連れてきたのよ。ありがたく思うように。ただし久美の裸は見たら駄目よ。ってかこちらを向くな。ずっと男湯のほうを見ているように」
 立花は久美の前に立ち、しっしっと手を振り、あっち向けのポーズを取る。

「無茶苦茶なことを言うなよ。でも銭湯の良さをわかってほしいから見ないようにするよ。クラスメイトだしね」
 武は心にもないこと言い2人を安心させる。
 確かに新規のお客はありがたいし、ずっと来て欲しいのも間違いないが同級生の裸。
 しかも堅物の委員長である久美の裸を見逃す手はなかった。

「では武くん。お願いね」
 久美は上品な雰囲気を醸しながら番台の前を通って行く。

「私はいつものところで脱ぐけど久美はあの隅っこへ行く? あそこなら見えないだろうし」
 立花はあそこがストリップゾーンであることは気がつかず、親切心であの場所を指差す。

「そうね。私はあそこに行くわ」
 久美はいつもの場所に行った。
 そこは周りにロッカー等の障害物が多くまさに脱衣場の隅っこと言える場所。
 番台の人物はおろか番台の壁すらろくに見えない。
 恥ずかしがり屋にとっては、これ以上ない場所のはずだったが、久美にはここがどこか歪な感じがする空間に思えてならなかった。

 久美はそんな違和感を感じつつも上着のボタンをはずしブラウスを脱ぐ。
 スカートに手をかけ脇のホックを外し、ゆっくりとスカートを下ろす。
 上下お揃いのピンク色のブラとパンツが彼女の真っ白な肌をいっそう引き立たせる。
 ブラを外そうと手を後ろに回すとどこからか視線を感じた。
 彼女は脱いだブラウスで前を隠し周りを見渡す。
 しかし誰もいない。相変わらず番台は見えないし、立花も離れたところで脱いでいるので周りには誰もいない。

「はぁ。私って駄目ね」
 誰も見ていないのに見られていると感じる。
 完全に意識過剰だと久美は思った。
 しかし毎回のように感じるこの視線は彼女に耐え難い羞恥を与えていた。

 久美は震える手でブラを外す。
 するとこの年齢の平均より少し小さな胸がぽろっと出る。
「ひっ」
 その瞬間を狙ったようにまたも視線を感じた。
 彼女の身体は羞恥で赤くなる。
 こんなことなら立花と一緒に脱げばよかったと久美子は後悔した。

 武は公開ストリップゾーンに引っかかった哀れな委員長をずっと見ていた。
 学校では真面目すぎて面白みがない女子でしか無かったが、恥ずかしそうに服を脱ぐ委員長の姿は武の心を興奮させるものだった。
 特に彼の目を楽しませたのは委員長の下着。
 委員長みたいな真面目な生徒は下着も白に違いないと思っていたのに実際はブラ、パンツともにフリルの付いたピンク色。
 下着の種類に拘る武としては新鮮な発見に思えた。

「コラ。何やっているのよ。例え相手が見えなくてもこちらを見るな。久美が恥ずかしがるでしょ」
 武がニヤニヤと女子脱衣場を見ているとタオルで身体を巻いているだけの半裸の立花が番台の前に立ち抗議する。
 タオルで肝心な所こそ見えないが胸の谷間が番台の上からはっきりと確認できた。

「うるさいな~。そう言うお前はそんな格好恥ずかしくないのかよ」
 半裸の立花を武はつまらなさそうに見る。

「幼稚園の時からずっと番台の人に見られて育ったので今更番台の人が幼馴染に変わってもなんとも思わないよ」
 仁王立ちをし、なぜか偉そうな立花。

「そんなものかねぇ。しかしこうして見るとお前も結構胸がでかくなったな。タオルの上からでも大きさがわかるぞ」
 武は先ほどの仕返しとばかりに立花の体を上から下まで視線で舐め回す。
 その視線は明らかに番台のそれではなく一人の男としてのいやらしい視線だった。

「な、なにを言ってるのよ!!この変態。エロ魔人。死ね。番台が客の体のことを言うなんてなに考えているの!」
 立花は顔を真っ赤にし胸の谷間を手で隠す仕草をしながら怒鳴りつける。
 そして散々罵倒を言いまくった挙句に怒りながら久美の元へと歩いて行った。

「なんだよ。やっぱ恥ずかしいのか。女心はわからん」
 武はため息を付きながら、最後に委員長の全裸を確認しようといつもの角度を見る。
 そこには、全裸になり立花の元へと歩き始める委員長の姿があった。
 歩き出しているために角度は悪いが鏡に写る膨らみかけの綺麗な乳房。
 そして見慣れた右側にホクロがある綺麗なおしりが一瞬見えた。

「えっ」
 驚きの表情をしながら武はもう一度見直す。
 だがそこにはもう誰もいない。既に委員長は立花のところ場所へと移動していた。
 しかしあのお尻を見違えるはずがない。
 今思えあのピンク色のパンツも見たことがある。
 もう間違いないと思った。あの割れ目からビラがはみ出している綺麗な女の子は委員長だったんだ

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翌日 学校
 武は一日中、久美の行動を観察していた。
 彼女が手を伸ばす姿、制服から少し見える肌。
 体のラインを見るだけで裸のイメージが隅から隅まではっきりと思い出せる。
 今までは気にもしなかったが、こうして見ると久美は可愛いと思った。
 裸を見て始まった恋心。あの体を抱きしめたい。武は思い切って告白することを決意した


 放課後になると武は久美子を校舎裏に呼び出した。
「武くん。伝えたいことってなに?」
 やや警戒しているような表情をしながら久美はこんなところに呼び出された理由を聞く。
「久美さん、僕と付き合ってください」
 武はいつになく真剣な顔をし委員長に告白した。
「え?なぜ私なの」
 久美は当然のごとく戸惑う。
 彼女にとって武はクラスメート以上に銭湯の番台であるイメージが強い。
 銭湯の番台。つまり裸が見られているかもしれない相手であり、あまり会いたくない男子ですらあった。

「銭湯で見た裸が忘れられないんです。これは真剣です」
 武は告白する時は全て本心で語ると決めていた。
 本心こそ相手の心を動かす力をがあると信じきっていた。

「え?」
 裸と聞いて久美は羞恥で顔が赤くなった。
 やはり裸は見られていたのだ。
 恋の告白より見られていた事実を突きつけられた衝撃で、その後のことは全く頭に入ってこない。恥ずかしい。早くこの場から逃げ出したい。
 その一心で久美はこの場を走り去った。

「なぜ……」
 本当のことを言って最大限褒めたのに委員長は一目散で逃げ出した。
 武は唖然としながら去っていく委員長の後ろ姿を見つめるしかなかった


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 後日、立花は落ち込んでいる武の様子が気になり銭湯へとやってきた。
「ちわ。まだ落ち込んでいるの」
 番台でしょぼくれている武に向かって立花は話す。
「うるっさいな。初恋に敗れた男を笑いにきたのかよ」
 ため息を付きながら武はふてくされた顔を見せる。
「何を言ったのかしらないけど久美が怒っていたわよ。あの様子だともうこないんじゃないかな」
「はぁー、あの綺麗な裸はもう見れないのか」
「ダメじゃこりゃ。エロ魔人は勝手に落ち込んでいなさい。はい、お金」
 立花は落ち込んだ幼馴染に呆れながら、脱衣場の死角へと歩いて行く。

「ん。立花、そんなところに行くのか」
「うーん。エロ魔神に見られたくないからしばらくこの見えないところで脱ぐね」
「何を急に色気づいているのやら」

 あそこは銭湯初心者がその初々しい裸を隅々まで見せる場所であり、立花のようなベテランに使われてもなと思いながらも、武は公開ストリップゾーンで脱ぐ立花の姿をぼーと眺めていた。

 立花は番台から背を向けて服を脱ぐ。
 斜め右の鏡には立花の全身像がはっきりと映し出されていた。
 昔から散々見た立花の脱衣シーン。
 しかし前から後ろから見られる公開ストリップゾーンで脱ぐ幼馴染の姿は、武の心に興奮を感じさせるものであった。

 見られているとも知らずに立花はブラウスをポイと脱ぎ捨てスカートを乱暴におろす。
 人に見られていない安心感からか、上品とは程遠い服の脱ぎ方だったが、
その生々しく健康的な体とマッチした豪快な脱ぎ方でもあった。
 武に見られていることに気が付くことなく立花はブラを外しパンツも脱ぐ。

 武の目には全裸の立花が隅々まで見える。
 童顔で小柄なのに乳房はそれなりの存在感があった。
 薄いながらも綺麗に生え揃った陰毛。小振りながらも引き締まった形のいいお尻。
 子供っぽい行動や背の小さな見た目とは裏腹に一人の女として見られる裸体がそこにはあった。

(なんだ、少し見ないうちに色っぽい体になりやがって。可愛いではないか)
 武は無意識にうちに立花を可愛いと思った。
 委員長には振られたが身近にもかわいい子はいるじゃないかと思い、
「おーい。立花。俺たち付き合わないか」
 武は大声で告白した。その言い方には真剣味はなくまるで雑談の1つのように聞こえた。

「ははっ。やだよ。ばーか。ばーか」
 武の場を考えずない告白を冗談と思った立花は笑いながら拒否した。
 そして返事をすることなく立花は浴槽へと消えていった。
 ガランと誰もいなくなった脱衣場。
「はぁ。またふられたか。2連続かよ」
 武は大きな溜め息を付きながら女湯を見た。
 女湯と脱衣所には透明なガラス戸があるだけなので番台からも浴槽がよく見えた。
「それでね」
「へえ…」
 全裸の女の子2人が体を洗いながらなにか楽しそうに喋っていた。
 他の客はいない。視界に入るはクラスメートの全裸姿のみ。
(ま、いっか)
 2人に振られた武であったが、こうして裸を見るだけの関係も悪くないと気持ちを切り替えていた。


----エピローグ

 番台。それは女性の裸を見られる男のロマン。
 まだ誰にも見せたことがない女性の肌すら一方的に見ることが出来る。
 しかし裏を返せば、つき合う前から彼女の裸体の全てをしっているということでもあった。
 普通ならしるはずかない顔見知りの近所のおばさんや、毎日挨拶する若奥さんの裸だってしっている。
 常に裸を見た見られた関係での生活。
 この状況は男にとって幸福でもあり、不幸でもあった。
 武はそのジレンマに気が付くことなく、今日も番台に座り客の裸を見続けていた