時間軸を無視した外伝シリーズです。
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医師は休めない。正月だろうが呼び出される過酷な職業と思われている。
むろんそれは正しい。医師に休みはなく責任も重い。
だが拘置所の医師の過酷さはまた別次元の問題だった。
なにしろ相手は犯罪者なのだ。突然暴れるものから自暴自棄になるものまでおり、普通の病院にはない気苦労が多かった
「中村先生、元旦から呼び出してすみませんでした」
神崎刑務官が中村医師に向かって頭を下げた。
中村は医師になってから日も浅くまだ若造と言ってもいい。
そんな男性に向かってキャリアを積んだ神埼が頭を下げる姿はどこか滑稽に見えた。
「まぁこれが仕事ですしね」
1人の被収容者が突然暴れだして呼び出すはめになったことを詫びているようだが、もちろん彼女は悪くないことを中村は理解している。
ここは薬物犯罪者の巣窟。どんな突発的な事態も起こり得たからだ
「そう言ってくれると助かります」
再び頭を下げた。神崎は絵に書いたような堅物の人物だった。
後輩の指導教官もかねていることを見てもわかるとおり真面目でミスらしいミスもしない。
あまりに隙を見えない姿はどこか人間味がなく、苦手という陰口は中村の耳にも聞こえていた
(でもそれは違うんだよな。あいつらは何もわかっていない)
そんな陰口を中村は心の中で一蹴していた。
確かに鉄仮面で何を考えいるのかわからない。だが一皮むけば彼女も普通の女性でしかない。
それは全刑務官に対して月に一回の定期健康診断を行なっている中村が一番良くわかっていた
「神埼刑務官、顔色悪いですよ。大丈夫ですか」
「徹夜明けですからね。でも問題ありません」
「いいえ、やはり気になります。ちょっと診察しますのでこっちに来てください」
そう言うと神崎刑務官は立ち止まる。どうやって断ろうかと考えているようだが中村はこの一瞬の隙を見逃さない。
速やかに聴診器を取り出し、断る逃げ道を塞ぐ。
中村とて本当ならとっとと終えて家に帰るつもりだったがはずだったが神崎がいるなら話は別だった。
もちろん神崎の裸そのものはもう何度も見ているし今更新鮮味はない。
それでも今日裸に剥いておくべきと思った。元旦という特別な日だからこそ裸にされるべき女だからだ
無言の圧力のようにカチャカチャと診察台の上を片付けると神崎は「わかりました」と言って堅苦しい刑務官の制服を脱ぎ始めた。
全裸の条件は囚人たちだけではなく全職員にも徹底させていた。
もちろん医師の効率重視のやり方に不満はある職員も多いだろうが、神崎のような上に立つものが今更決められた条件を拒否するはずがない。
制服の上着がかごの中へ置かれる。ここには普通の診察室にはあるはずの衝立がなかった。
つまりどこで脱いでも丸見えであるため神崎はやや横を向けながら一枚一枚脱いでいく。
しばらくすると黒のブラと黒のパンツに飾られた肢体があらわれる。
薄暗い診察室のせいか白い肌はより白く見え、バストの谷間はより強調されていた
神崎はチラッと中村を見る。
ずっと脱衣を見つめる視線が気になるようだが、医師としての立場がそれを正当化させる。
結局神崎は何も言わずに背中に手を回し黒ブラのホックをはずすと白く半円球の熟した乳房がこぼれ落ちた。
神崎は着痩せするタイプだった。
あの堅苦しい制服の下にはこんな立派なものを隠し持っていることを知っているのは旦那ぐらいであると思うと中村は自身の顔が緩むのを感じた
手がパンツに掛かる。毎日脱ぐことを強要されている女囚もパンツを脱ぐ瞬間は躊躇うものだ。
脱衣の命じる立場の神崎もそれは例外ではなくやや硬い表情をしながら下着を下ろした。
そのまま中村の前に立つ。
手で体は隠していない。たわわに実ったふたつの乳房やお綺麗に整えられた陰毛も晒している。
神崎は仕事ばかりして女の忘れているようなイメージを持たれているがとんでもない。
旦那のためなのかわからないが40歳代になっても体の手入れは怠っていないのだ。
「お座りください」
神崎はここまで体を隠す素振りは見せなかった。
それは自分がさんざん隠すなと言ってきた贖罪なのかもしれない。
「どこか痛いところはありますか」
「いいえ」
中村は聴診器で胸の音を聞きながら体のチェックをした。
首筋を触り撫でるように下へと動かす。隠しきれない羞恥のためか皮膚はうっすらと汗に濡れていた。
脇の下を触りながら乳房に触れるが神崎の顔に変化はない。
指先が乳首に触れる。乳首は明らかに固くなっていた。
それはどんなに平静さを装っていても体は羞恥を感じている証拠だった。
「なぜ職員も全裸検査の条件を飲んだのですか。反対意見も多かったでしょうに」
中村はふと疑問を口にした。この条件はダメ元で出したからだ。
「医師不足のため選択がありませんでした。それに被収容者たちが毎日受けている苦しみを若い刑務官たちにもわかって欲しかった思いもあります」
「なるほど。でもそれはただの自己満足でしか無いではありませんか」
理由は理解できる。だが中村は刑務官の健康診断と被収容者たちの身体検査はレベルが違うこともわかっていた。
刑務官はいいとこ全裸を見られるだけだが、被収容者たちは肛門やら女の穴を調べられる
それは処女だろうが例外ではない。つまり神崎の考えも甘すぎるのだ。
これでは被収容者の気持ちなんてわかるはずがない。
「自己満足……確かにそうですね」
神崎の階級が高いと言っても所詮は現場責任者にすぎない。
組織の改善をやれるような立場ではなく、自分の出来る範囲で刑務官の意識改革をしようとしていたのだろう。
「ちょっと立ってください」
ふと良からぬ思いついた中村は神崎を立たせる。
そして机の中から撮影用のカメラを取り出して、いきなりシャッターを切った。
「え? なにを」
まったく予想だにしていない行動に、さすがの神崎も反応できない。
体を隠す時間は全くなく、カメラには全裸姿がバッチリ収められただろう。
「女囚はこんなふうに裸を撮影をされても文句言えない立場です。では刑務官はどうでしょう?抗議しますか?」
かなり意地悪な返しだった。刑務官の全裸検査は囚人の気持ちがわかってほしい意図もあると言った以上、これも受け入れないとおかしいからだ
「この写真をどうするつもりですか」
自分の裸体情報を他人が管理する。それは女性にとって大きなプレッシャーになる。
だからこそ大昔から囚人の体の全てを書かれた身分帳なんてものを作る文化が存在しているのだ。
「破棄しろと言われれば今すぐ消します。言われない時は……そうですね。カルテ代わりに刑務官たちの身分帳でも作りましょうか。そのほうが一括管理が楽ですし」
あからさまに軽い言い方。からかい半分の返事に神崎の目つきが鋭くなる。
しかし反論らしい言葉は帰ってこなかった。
「冗談はともかく後ろを向いてください」
神崎が言われたとおりの動作をすると目の前に見事な形をしたボリュームある生尻が現れる。
またカシャと言う擬似音がなった。
「つぅ……」
カメラのシャッターが再び切られると神崎の体から緊張が伝わる。
中村は神崎の尻を撫ぜた。スベスベした叩きがいのある尻だと思った。
この尻を見てもわかる。この女のプライドの高さと知性が。神崎という女の人生を物語るような尻だった。
(しかしつくづく身分帳が似合いそうな女だな)
神崎からは犯罪の匂いがまったくない。そんな女が裸体を管理されている証明でもある身分帳に乗せられる。
それはなんとも言えないインモラルな感じがした。
中村は両手で尻を掴んだ。もし本当に身分帳を作るならここで肛門を晒して撮影しなくてはならない。
このままぐっと左右に広げるだけで秘めた尻穴はむき出しになるが……
「……まぁいいでしょう。服を着てください」
中村は結局何もせず診察を終えた
ここで神崎の肛門を晒し身分帳作りを始めるのは簡単だったが、それでは駄目だと思った。
この女はいずれ罪を償わなくてはならない。いくら仕事とはいえ冤罪なのに全裸に剥かれて肛門にガラス棒を突っ込まれた子だっていたはずだからだ。
数多くの怨念、恨みはこんなことでは償えるはずがない。
「神崎刑務官、あけましておめでとう」
下着を履こうと手を伸ばした瞬間を狙って中村はあえて新年の挨拶をした
本人にとっては最低の1年の始まりになっただろうが神崎は全く表に出さない。
そのまま向き直り「新年おめでとうございます」と言って頭を下げる。
もしこの場で第三者がいたらびっくりするであろう。
あの神崎刑務官が全裸体で男に向かって頭を下げているのだから。
挨拶を終えると神崎は急いて制服を着た。
かなり早い。なんだかんだ言っても恥ずかしくて仕方がなかったことが伺える。
「失礼します」
制服を着直した神崎が部屋を出る。
その姿は先程まで全裸を晒していたとは思えない口うるさい上司、鉄仮面の名にふさわしい凛とした態度だった。
深夜の時間になり照明が落ちた。
中村は先ほどのカメラを手に取る。
暗い部屋の中でデーターを見ると全裸直立不動に近い体位の神崎刑務官の姿が写っていた。
正面と後ろ姿。どちらも頭の上から足元まで捉えておりこのまま身分帳の全裸写真として使えるクオリティがある。
NGである乳房や陰毛のピンポケもなく乳輪の回りにある毛穴(モントゴメリー腺)まで確認できた。
「さてどうしようかね」
誰もが寝静まった時間にもかかわらず、医務室には再び明かりが灯った。
中村はカメラを卓上ディスプレイに繋いで神崎刑務官の恥ずかしい写真を映し出す。
そして何をするわけでもなく、ただじっとディスプレイに映し出された裸体を眺めながら思考した。
おしまい