姉が複数人部屋に送られて初めての朝を迎えた。
独房生活が長かった彼女にとって2人の共同生活というのはあまりに不慣れだった。
相手の女性は年齢も離れており、何処かのエライ人の婦人に見える。
お互いになにを話せばいいのかわからないまま1晩が過ぎた。
姉が布団を片付けながら部屋を見渡す。
ここは今までの1人部屋に比べるとかなり広かった。
置かれている家具や壁も明らかに前の部屋より新しい。
そして一番の違いは便器が洋式であること。
和式とどちらがいいのだろうなどと考えていると婦人も布団を畳み終える。
「トイレはどうしましょうか」
どちらが先に使えばいいのかわからず聞いてきたようだったが、姉にもわからなかった。
これが一般社会なら簡単だった。身上である婦人に譲るのが礼儀。
だが、ここは拘置所の牢。洋式のトイレは例によって丸見えで隠す壁が一切ない。
いくら見ないようにしても、側で行われる行為の匂いや音は手に取るようにわかる。
つまり、最初に恥ずかしい思いをするのは誰かの順番でしかない。
姉は少し考えてから「私は後でいいです」と言った。
その言葉を聞き、婦人は躊躇いの顔を見せる。
どうやら先延ばしにしたかったようだが、結局何も言わずにそのまま便座へと向う。
姉が背を向けると背後からシャーと尿の音がした。
我慢していたのか、おびただしい量の尿が便器内の水たまりに当たり音を立てた。
温かく細かな飛沫が舞い、匂いが漂っている。
当然のごとく婦人は屈辱に体を震わせた。
(これでいいよね)
おそらく婦人は最初にやらせたことを不満に思っている。
なぜこんな目に合わなくてはならないのかと言った理不尽から生まれる八つ当たり。
だが姉は1ヶ月以上この拘置所で暮らしてきた経験がある。
ここのルールを考えれば最初の方がマシになる可能性が高いと確信していた。
尿の音が止み、ゴソゴソと備え付けのトイレットペーパーが引っ張られる音がする。
「えっとこれは……どうすれば」
振り返ると婦人が便器内に溜まった黄色い尿が流せず困った顔をしていた。
水を流すレバーには鍵穴があった。ここに鍵を刺して回さないといけない構造でなっており、鍵がなければびくともしない。
トイレの事情を知っている姉が言う
「すぐ刑務官が来ますので、そのまま待っていてください」
「え?それって」
婦人の顔が歪む。ようやくここのルールを理解し始めたようだ。
姉の言葉通りにコツコツと刑務官が足音が聞こえた。
2人は扉に向かって正座をするが、次の動作になかなか移れない。
初めての婦人はもちろん、1ヶ月以上も日課としてやってきた姉すらこの瞬間は強い屈辱感を覚えた。
それでもやらなくてはいけない。
姉は額を床に擦り付けるように深く頭を下げ土下座のポーズを取る。
少しだけ遅れて婦人も土下座をすると鍵が開けられる音がして扉が開いた。
「4番、23番」
顔をあげると杉浦刑務官がいた。
実際の身長より大きく感じられる。
決して逆らえない上下関係がそこにはあった。
「これをしたのは23番で間違いないね」
「は……はい」
婦人が躊躇いながら返事をすると杉浦刑務官はすぐ水を流す。
ゴボゴボと音を立てながら本当なら決して人には見られたくない物は消えていった。
「さて次は4番の番よ。見ていてあげるから早くしなさい」
杉浦刑務官がそう言うと婦人が驚きの表情をする。
そしてすぐ申し訳なさそうな顔を見せた。
そう。姉にはわかっていた。前もトイレを我慢していたら二度手間になるから今すぐやれとその場でさせられたことがあったからだ。
2人部屋だからってわざわざ2回確認に来るとは考えにくかった。
「わかりました」
姉は便器の前でズボンと下着を下ろし、洋式の便座に座ろうとする。
こんなのいつものこと。今更動揺する姿なんて見せてやるものかの思いを胸に用をたそうとするが。
「そうじゃない。洋式の場合はズボンとパンツを脱いで規定の位置に足を置く」
杉浦刑務官が床に向かって指を挿した。
便座の左右の床にある印の位置を見た姉は顔色がさっと変わる。
印は便座のかなり手前にあり、股を大きく開かせて座らせるように書かれていた。
女性は足を閉じる派と開く派がいるが姉は閉じてやる派だった。
もちろん開く派と言ってもこんなに足を開くわけがない。
どんなみっともない姿になるのか見当もつかない。
屈辱のあまり彼女は目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。
「早くしなさい!!」
杉浦刑務官はイライラし始めた。
諦めの極地に至った彼女はズボンとパンツを足から抜いて規定の位置に足を置いた。
「あっ……」
姉が思わず声を出す。あまりな滑稽な姿だった。
水平に近くまで足は開けられ陰毛を剃られた割れ目は丸見え。
まるで赤ん坊におしっこをさせるような格好を連想させる
「もう少し深く座りなさい。この位置だと飛び散って汚れるわよ」
杉浦刑務官はニヤニヤしながら指示を出した。
彼女も聞いたことがあった。女性は構造的に脱毛状態で足を開き用を足すと周りを汚す人がいると。
感覚的に陰唇が開いているのがわかる。確かにこの状態でやればあらぬ方向に飛び散るだろう。
「はい。出して!」
杉浦刑務官がそう言うと反射的に尿が排出された。
最初のうちは刑務官に見られながらすることが、どうしても出来なかった。
それが今では掛け声一つで出るようになった。
姉は止まらない尿を見ながら心の中で同じぐらいの量の涙を流した。
こんなことが出来る自分はもう普通じゃない。女囚なんだと思い知らされる。
プライド。人の尊厳。そういったものが全て流れていくのを感じた。
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