36話 山村所長

 矯正展は来週に迫っていたが準備はほとんど進んでいなかった。
 グラウンドには作りかけのセットや資材が散乱し、未決囚たちの運動の邪魔になっている。
 何かがおかしい。誰もがそう感じていた。
 そしてそれはついに表面化する。
 ある日の早朝、その知らせは唐突にやってきた。
「所長が代わったらしい」
 誰かが低い声で呟いた。その噂は瞬く間に広がっていく。
 外を見れば、雨の中でも矯正展の準備は止まることなく続いている。
 しかし、心なしか工事関係者の表情にも不安が浮かんでいた。

 昼になると、神崎刑務官の声が拘置所のスピーカーから響いた。
「本日付で所長が交代されましたが、予定の変更はありません。矯正展は予定どおり行われます」
 アナウンス自体が異例の出来事だった。
 当然のごとく未決囚、受刑者、さまざまな立場の人々が戸惑いの顔を見える
 だが、誰も言葉を返さなかった。
 トップが変わっても方針が変わっても求められるのは規律正しい服従である。
 その放送をどこか他人ごとのように聞く者が大半だった。



 午後。
 新しい肩章をつけた見慣れない男が、廊下を歩いていた。
 鍛え上げられた体は年齢を感じさせず、歩くたびに靴音が床に響く。
 その横を刑務官に連れられた手錠腰縄の受刑者が通り過ぎた。
 男が小さく呟く。
「ここは、上が変わっても変わらないんだろうな」
 腰縄を持つ刑務官は、それを注意することもなく軽く聞き流し、窓の外を見た。
「そんな甘い話じゃないかもしれない」
 どしゃ降りの雨の中、矯正展の宣伝垂れ幕が風にあおられ揺れていた。



 所長室。
 机の向こうには新所長の山村が座っていた。
 五十代半ばで既に頭に髪の毛はなく、蛍光灯の光が反射している。
 本来ならそれはどこか滑稽に見えるはずの姿だが、そのがっしりとした体格と強面の表情が笑いを寄せつけなかった。
 まるで街の裏社会に生きる男のようだった。

 机の上には、前任者が残した書類の束がそのまま置かれている。
 山村は一通り目を通すと、背もたれに深く身を沈めた。
「全てが遅れている事情は理解した。それが前任者のせいだということもな」
 低く響く声。部屋の空気が微かに震えた。
「私たちにもサポートしきれなかった面があります」
 神崎刑務官が答える。
 事実上の現場責任者として彼女は新旧所長の板挟みに立たされていた。

「囚人との馴れ合い、規律の欠如。その結果が、矯正展の遅れとはな」
 責めているというより確認のような口調だった。
「矯正展の体験コーナーはどうなっている」
「最終案は参加者10人ほどを予定。参加者は刑務官の服を来てもらいモデルとなった囚人の1日を圧縮で体験してもらう手筈になっています」
 神崎が用紙をみせる
 独房をそのまま再現したかのような寝具、便器、洗面台が一体化した部屋が完成図がそこにはあった。
 セットとはいえ外からは見えずに開放はされていない。
 本当にグラウンドの真ん中に普通の部屋を作ったような手間の掛け方だった。 
「ここまで手間を掛けるなら実際の独房使ったほうが早いだろ。風呂監視の体験も出来るし」
「一般参加者は独居房や雑居房が並ぶ棟には入れませんのでグラウンドに作るしかありませんでした」
 完璧な反論に山村はややムッとした顔を見せた。
「モデル候補者の資料を出せ」 
「はい。未決囚三名の資料です」
 神崎は透明なクリアファイルを机に置いた。三枚の顔写真が並ぶ。
 前所長が決めかねていた選考。
 話が話だけに本人の同意と社会的な意義の両立を模索していた案件だった。
 しかし山村は写真をひと目みただけで指を止めた。

「この一番若い女だ。四番、これを選べばいい」
 即断だった。女子大生ほどの年齢で、平凡な顔立ち。
 一般人が突然逮捕されここへ送られた。
 そういう印象をひと目で与える人物だった。
 神崎の表情が曇る。
「しかし四番はまだ裁判の日程も決まっておらず、訓練もまだ終えていません」
「関係ない」
 山村は書類から目を離す。
「資料を見る限り模範的な態度を取っている。訓練を終えていないと言っても尻開きはできるのだろう。なら見世物として申し分ない」

 神崎の眉がわずかに動いた。
 尻開きとは四つん這いの姿勢から自ら手で尻肉を開き、肛門検査を受ける体勢を示す刑務所用語である。
 刑務所の所長経験もある山村にとっては当たり前の言葉かもしれない。
 だがここは拘置所だ。
 拘置所では尻開きは最も屈辱を伴う姿勢とされており四番もそこに至るまでには時間がかかった。
 何人もの刑務官が必要性を丁寧に説明し日を重ねてようやく説得に成功した。
 その努力を山村の一言が軽く踏みにじるように聞こえた。

「あとサンプル写真は全裸のものを使え。ここは拘置所とはいえ薬物関連が多い。刑務所と同じやり方でいく」
「……わかりました」
 神崎はわずかに抵抗を感じながらも、同意するしかなかった。
 確かに全裸写真を使えば体の状態や傷、陰毛の様子まで一目で分かる。
 それは確かに合理的ではあった。
 ただしその合理の下で、本人は深く傷つくという現実を無視すればの話だったが。
 神崎が資料を回収しようとすると、山村が低く命じた
「待て。今、直接俺が判断する。四番をここに連れて来い」
「今すぐにですか?」
「そうだ。四番の尻開きと性器の開示を見て、最終決定をする」

 神崎刑務官は不安を隠せなかった。
 四番は感が鋭く頭の回転もいい女性だ。間違っていることはすぐに見抜く。
 拒否を続けていた尻開きを受け入れたのも、違法性がないと判断し感情よりも利益を優先した結果に過ぎない。
 それでも彼女は今も嫌悪を露わにしながら肛門を差し出していることを神崎は知っている。
 果たしてそれをこの初対面の男の前でやれるのか。不安しかなかった
「……わかりました。今、連絡します」
 神崎はスマホを手に取り指示を送る。
 数分もすれば刑務官が四番を連れてくるだろう。

「ところで、朝の点呼はどうやっている?」
 やはり始まったと神崎は思った。
 前任の所長はこのあたりが甘く現場任せにしていた。
 新所長が真っ先に改革しようとするのは容易に想像つく。
「刑務官の判断で、適切に行っています」
 曖昧な返答。
 だが、これ以上現場の負担を増やす改革は避けたかった。

「点呼時には必ず頭を下げて土下座をさせろ。検査時の全裸姿勢も直立不動ではなく頭の後ろで手を組み足を開かせろ。刑務所のスタイルに変える」
「確認に手間がかかる尻開きとガラス棒検査はどういたしますか?」
 神崎が先に言った意味を山村はよくわかっていた。
 刑務官の作業を増やすなの思いを汲み取りわずかに笑う。
「それは今まで通り自己判断でいい。ただし全刑務官は最低一度は全収容者の性器、肛門を開示させガラス棒検査を行うこと。これは規律のため馴れ合い防止のためである」
「……わかりました」
 神崎は机の端に置かれた四番の資料に目を落とした。
 拘置期間の割に、彼女のガラス棒検査の回数は少なかった。
 行った刑務官もごく一部に限られており、自身の指による性器の開示もろくにやったことがないはず。
 指摘のとおり馴れ合いが生じていたのかもしれない。
 
「四番を連れてきました」
 ドアの外から、若い刑務官の声がした。
 神崎はゆっくりとドアノブに手をかける



 所長室に連れてこられた4番こと姉は警戒心をあらわにした。
 手錠腰縄姿という屈辱的な姿にも関わらず新しい所長を睨んだ。
 事情は大体聞かされていた。新しい所長が矯正展のモデルに選びたいと。
 冗談じゃない。はっきりと断ろうと思った
 確かに模範的な態度を取って自身の正当性を証明する考えはある。
 だが、それと矯正展のモデルはまるで違う。
 モデルをやったことにより刑の軽減された例があると言われても断固拒否するつもりだった。
 そもそも欲しいのは無罪であって減刑などではない
 当たり前の話だった。

​「所長、これを」
 神崎が差し出したのは先ほど持ってこさせた姉の身分帳だ。
 それを見た姉の眉が跳ね上がる。
 表情には激しい拒絶と抗議の色が浮かんでいた。
 身分帳には全裸写真を含む彼女のすべてが暴かれている。
 あんなものをこれほど無造作に他人の手に渡していいはずがなかった。
 
 所長は身分帳を手に取る。
 そしてなんの遠慮もなく本人の前で身分帳を開く。
 最初の写真は正面からの全裸写真が載せられていたはず
 衣服を奪われ直立不動を強いられた姿。
 姉の握りしめる拳に力が入る
「ふむ」
 所長が鼻を鳴らした。
 さらにページがめくられる。
 ここ位置からは載せられた写真は見えない。
 だが、所長の視線はページをめくるごとに上下に動く。
 どの部分を見ているかが手に取るようにわかった。
 
 ひと通り見終わった所長は最初の全裸直立の写真を見ながら語る 
「どんな女も身分帳の写真を見られるのを嫌がる。それは裸を見られたくないなんて単純な感情ではない。初めて裸にされた素の自分が記録されているものを見られるのが嫌なのだ」
 
 身分帳を作られた本人でも気が付きにくい核心を突かれた姉が生唾を飲み込む。
 この男はやばい。只者じゃない警告が心の中で鳴り響く

​「拘置所につれてこられて何もわかっていない時に撮られた全裸の立ち姿。これを見れば女の全てわかる。写真に写っているこの女は屈辱に顔を歪めてはいるがビンタの痕跡はない。指導される前に状況を察し自ら体を開いたのだろう。理知的な計算高さが伺える。胸は大きくはないが肌色が良く生活苦は感じられない。注射痕、入れ墨もなく健康状態も良好だ。そしてこの手入れの行き届いていない陰毛。男の影があればこうはならないし肌を晒す際の滲み出る羞恥の強さも経験のなさを物語っている。つまり人付き合いを避け机に向かってばかりいたタイプの処女。それがこの女の正体だ」

「いっ……、」
 姉は叫び声を抑えるのに必死だった。
 裸を見られる以上の屈辱を感じると同時に恐怖を覚える。
 この所長の言ったことはほぼ事実だったからだ。
 たった1枚の全裸写真でここまで人の人生を読み取れるものなのか
 
「だが今のお前はこの写真よりいい面構えだ。この身分帳に載っている4番は初めての全裸直立姿勢の撮影に怯えている一般人でしかないが今はそうではない。2ヶ月弱の拘置所生活で学んだことは多いようだな」
 
 姉は身を固くした。
 初対面の相手にここまで的確にプライバシーを暴かれたショックは大きかった
 そんな隙を狙って所長が本題に入る
  
「ここに呼んだのは矯正展のことだが……」
「お断りします」
 それでもここで流されるわけには行かない。
 所長が話をしている途中にも関わらずはっきりと拒絶した

 場に緊張が走る
 拘置されている立場の人間が職員の話を遮るなんてあってはならないことだからだ。
 神崎が怒鳴ろうとするが所長がそれを制して
 「なぜかね」
 と低音の迫力がある声で言った。
「やる意味がないからです。拘置所のイメージ向上に協力なんて意味がわかりません」
 姉はいかにも若い女性の声だったが強い意思が感じられる。
 規律正しく刑務官の言うとおりに過ごす監視生活。全裸検査もやり切る心構え
 良くも悪くも所長が言った拘置所生活の経験は確実に姉を強くしていた。
 逮捕前ならこんなヤクザみたいな所長を前に反論なんて出来るはずもなかったからだ。
 
 姉の拒絶にも所長は動じない。
 視線を上げることなく口を開いた。
「矯正展のモデル。模範囚として市民の視線を集める。それを断るだと?何様のつもりだ」
 それは死刑宣告のように聞こえた。
 姉は唇を噛み、目の前の男を睨みつけた。
 手錠の鎖が微かに鳴る。

 所長が立ち上がる。その大柄な体がゆっくりと姉の周りを歩き始める。
「頑固な女だ。だが嫌いではない。その強気な瞳が絶望に染まっていく様を見るのは格別だからな」
 耳元で囁かれた言葉に姉の肌が粟立った。
 この男は楽しんでいる。権力者の力に酔っているのだ

「取引をしよう」
 所長は姉の手錠と腰縄を外して顎を指先で持ち上げた。
「やってくれれば弁護士との面会時間を無制限にしてやる。書類の差し入れも自由だ。裁判官への心証を良くするための報告書も書いてやろう」
 甘い誘惑。
 実際に面会時間の制限は厳しかった。
 十分な打ち合わせができず時間切れになる日々。
 それが解消されるのはあまりに大きい
 姉の心に一瞬、迷いが心をよぎる。
 だが、すぐに弟の顔が浮かんだ。
 姉の潔白を誰よりも信じている弟。
 もし姉が媚びを売ってモデルをしている姿を見たら許してくれるだろうか。
 
「お断りします」
 姉は持ち上げられた顎を振りほどいた。
 所長はため息をつき神崎の方を見て言う。
「神崎。教育が足りないようだな」
「……はい」
 突然批判されたせいなのか神崎の返事は硬かった。
「言葉で分からんのなら身体に教えるしかない。身体検査だ。徹底的にやれ。すべての穴をだ」
 女2人の顔色が変わる
 どう考えてもこんなの間違っている。筋が通らない。
 2人とも同じ思いだったが神崎は唇を噛み締め姉に向き直った。
「四番、脱衣」
 神崎の声からいつもの迫力がない。
 そのせいか姉は動かなかった。
 所長室での全裸検査。数多く脱衣をやったがこれは違う
 まともじゃないと思った

「遅い!」
 所長の怒号とともに、机が蹴り上げられた。
 神崎もこの事態を収拾出来ない。どう収めるべきか困惑しているようだ。
 それでも姉は動こうとしない。
 ただこのまま何もしなければどうなるのかを考えていた
 おそらく自分はおろか神崎まで罰せられる。
 新所長の体勢になったばかりだと言うのに2人まとめて立場が悪くなるのは避けたかった
 もちろん、神崎との相性は最悪だ。
 刑務官としてのプロ意識は認めるが頑固者で関係が良好とはお世辞にも言えない。
 それでも姉は神崎刑務官を助けるために服に手をかけた。

(仕方ないか……)
 自分のせいで神崎の立場が危うくなるのはどうにも本意ではなかった。
 神崎を庇う義理など微塵もない。
 だが自分のわがままで誰かの足を引っ張るというのは面白くない
​ 姉は上着と肌着を同時に脱ぎ捨てた。
 ブラを身につけていないその胸は無防備に所長の目に晒される。
 続けてズボンと下着を足首まで落とし彼女は完全な全裸となった。
​ 姉は静かに腕を下ろしぐっと胸を張る。
 全裸直立不動。
 彼女が最初に叩き込まれた基本中の基本動作だった。
 
 所長の視線が、姉の裸体をなぞる 
「いい体だ」
 下品な感想。やはりこの所長は神崎刑務官とは違う。
 プロ意識なんてかけらもない
 姉は手を握りしめた。こんな男に見られて悲しくなったが涙など見せてやる気はサラサラ無かった。

 無言のまま姉は次の命令を待つ。
 どうせ嫌がらせの肛門のガラス棒検査が来ると思った。
 この所長ならそのぐらいの指示は平気で出すだろう。

 所長が口を開く。
「前だ」
「え?」
 2人の女性の声がハモって聞こえた
 姉は今言われたことを必死に考えた。
 何を言った?前だって…前?
「仰向けになれ。早くしろ」
 所長は硬い床を指差す。
 まさかまさか。姉は今起きていることが信じられないまま仰向けになった。
 天井の電灯がなんとも非現実な光景に見えた 
「足を手で開け。M字だ」
 前に教えられた動作。やったことは殆ど無い
 姉は言われたとおりに膝を抱え込み、大きく股を開いた。
 なんて残酷なポーズなのか。一番大切な内部の粘膜がむき出しになった。
 ピンク色の柔らかな肉が、所長室の無機質な照明の下に晒される。
 膣口も尿道口も丸見えだった。



「ほう」
 所長が興味深そうに股の間を覗き込む。
 視線には遠慮はない。相手がまだ判決も出ていない推定無罪の立場であることをまるで気にしていないようだった。
 彼女の割れ目はいまや大きく開き、肉の襞までさらけだしていた。
 所長は更に目を近づけてくる。
「やっ……」
 ここまで色々な検査に耐えてきた姉の体が拒絶するかのように反応する。
 所長の視線は刑務官たちと違う異質なものだった。
 本能的に足を閉じようとするが。
 バシ。
 鋭い音が部屋に響いた。右頬に所長のビンタが綺麗に入った。
 思いがけぬ行動に神崎が思わず「あっ」と驚きの声を出す
 叩かれた姉は何の反応も出来ない。表情が固まり今何をされたのか理解が追いつかない。
 それでも女の本能なのか。本人の意志とは関係なく足は再び左右に大きく開かれた。

 妙な空気が所長室に漂う。流石の所長も女二人の反応に疑問を持った
「ここでは体罰の扱いはどうなっている」
「やむを得ない場合を除いて許可していません。ここは刑務所ではないので」
 神崎は遠回しに所長の行動を批判した。
 いくら刑務所のやり方に慣れた所長とは言え拘置所には拘置所のルールがあるのだ
 好き勝手にやらせるわけには行かなかった 
「ふん。あまちゃんが。じゃ性器検査をやるからガラス棒をよこせ」
「それも駄目です。男性による性器検査は医師による許可を求めることになっています。今日は中村医師はいないので所長が行うことは出来ません」
 神崎はきっぱり言ったが、どこか芝居がかっている言い方だった。
 姉は大股を開きながら神崎らしくない屁理屈に少し違和感を覚える
 ガラス棒の制限を性器検査全体の制限のように語っていからだ
 実際ところ男女問わず浅い性器検査はあったのでその制限はあくまで奥を探り破瓜の危険があるガラス棒検査だけのはず
 誤魔化そうとしている姿は自身の信念に誇りを持ついつもの神崎ではなかった 
  
「ふん、見え透いた嘘をつくな。冤罪の可能性が高いからお前は4番を守ってやっているんだろ。だからこそガラス棒を下の関に触れることさえ躊躇っている。違うか?」
 神崎の眉がピクリと動く。
 姉には信じられない話だった
 守ってくれている?あの鬼のような神崎刑務官が?
 ありえないと思いつつ思い当たるふしもあることに姉は困惑した

「古い刑務所用語を使うのは止めてください。下の関なんて言っても若いものには通じません」
「わかりやすい話題逸らしだな。まぁいい。ならわかりやすく子宮口と言おうか」
 子宮口。その単語が出た瞬間、姉の背筋に冷たいものが走った。
 膣の入り口だけではない。最奥の子宮の入り口までガラス棒を突き入れられる。
 噂として聞いていたことが現実として語られていることに姉の体は震えた
 
「ここは拘置所です。彼女はまだ刑が確定していない未決囚です。刑務所のような身体検査は人権侵害になります」 
「それだ。未決だからこそモデルとして相応しいと言ってる。これを見ろ」
 
 所長は姉の股間に顔を近づける。
 吐息がかかるほどの距離。
「ほら綺麗なピンク色だ。この穢れを知らない色は刑務所では決して見られない」
「ひぅ……っ」
 姉は悲鳴を漏らした。
 視線の暴力が無防備に開かれた股間へ注がれる。
「四番、もっと広げろ」
 所長の命令が飛ぶ。
 先程のビンタが効いているのか姉は素直に膝を掴みさらに外側へと倒した。
 割れ目が引っ張られ更なる奥が晒される 
 所長は満足げに頷くと、無防備な姉のあそこを指差した。
 
「部屋の明かりが弱くて奥まで見えないな。神崎刑務官、ガラス棒を入れろ。女のお前なら医師の許可なしでも出来るんだろ」
「え?」
 姉が戸惑う。神崎も何か言いたげに口を開きかけた。
 だが、結局は無言のまま、細いガラス棒を手に取る。
 先ほどの言い訳をうまく利用された形であり拒むわけには行かなかった。
 神崎は短く息を吐くと、床に横たわる姉の前に膝をつく。
「四番、手は外していいから足を開いたまま力を抜きなさい」
 姉は涙目なりながら赤ん坊がオムツを変えるようなポーズを取る
 神崎は開かれた割れ目の入口にガラス棒の先端を当てる
「ひっ……」
 冷たい感触に姉の体が跳ねた。
 だが神崎は動じない。
 職人のような巧みな手つきでガラス棒を割れ目の中へ滑り込ませた。
 触ってはいけない部分を絶妙な角度で避けながら確実に奥へと侵入させる。
 
 姉は声にならない悲鳴を上げる。
 ガラス棒はどんどん奥に行くが痛みはなかった。
 だが、自身の指すら知らない奥を硬い棒によって掻き分けられる感覚はいかに神崎が上手くてもどうしようもない。
 
 神崎はガラス棒を比較的浅い位置で止める。
 子宮口には全く届いていなかったが、それでも経験のない姉にとっては貫かれたのと同じような錯覚を覚える深さだった。

 神崎は内部を確認するかのようにガラス棒を回転させる
 1回転、2回転、3回転。内壁を擦られる異物感に姉の体は縮こまる。
 そしてまるで時間稼ぎのように動きは止まる。
 その間10秒。短くそして長い時間が経過するとガラス棒は素早く引き抜かれた。
「ひい」
 姉の口から悲鳴が漏れる。
 神崎はそんな姉の様子は目もくれずガラス棒をまじまじと見る
 ガラス棒には体の反応を示す愛液がべっとり付着しているが出血の痕跡はなかった

「異常なし」
 どこかほっとした表情をした神崎が姉の体に小さなタオルを掛けた。
 姉は起き上がりそのタオルで前を隠す
 処女を奪われることはなかった。
 だが大切な部分を犯された感じは何も変わらない。
 震えが止まることはなかった。
「上手いものだ。未通女の道を傷つけずあそこまで入れるとな。現場トップの腕は伊達ではないな」
 一部始終を見ていた所長は感心したように声を漏らした。
 それは純粋な技術への賞賛だった
 所長は震える姉を見下ろしながら告げた。
「さて、四番。モデルをやる気はないか」
 姉は唇を噛み締め、充血した目で所長を睨み返そうとしたが対抗できるはずもなかった
 身体の最も恥ずかしい部分を弄られた後だ。
 これ以上無い弱気が姉の心を支配していた。

「先程の条件は本当ですか…」
 姉は消え入りそうな声でいった。
「嘘は言わん。弁護士も含めて要求は全部飲もう」
「詳しく聞かせてください」
 所長の口元が歪み、満足げな笑みを浮かべる。
 それとは対象的に神崎は複雑な表情で目を伏せた。
 わかりきった結果だった。
 相手の弱点をつき、飴と鞭を使い分けて支配下に置く。
 流石は刑務所すら統治していた所長だけのことはあった。
 最初から普通の大学生でしかない4番が太刀打ちできる相手ではなかったのだ
 新所長、山村。
 この男のコントロール下に入った矯正展はどうなるのか。
 長年ここに務める神崎ですらわからなかった