とある大学病院の一室。
「というわけで、来月から一ヶ月間は向こうで働いてほしい」
いかにも教授らしい老練な風貌を持つ男が椅子から立ち上がり、若い新人医師に向かって話しかける。
声こそ優しかったが、有無を言わせない強い意志も感じられた。
「つまり、私に中学生の体格調査をやれということでしょうか」
目新しい白衣を着た新人医師の池上は、歯切れの悪い口ぶりで返答した。
まだ新人でしかない立場を考えれば、教授の申し出は即答で受けなければいけない案件ではあったが、池上はあえて言葉を濁した。
いくら教授の頼みとはいえ、あまりに気が乗らない案件だったからだ。
「そうだ。今年の調査地域は平前中学校なので、君にその仕事をやってほしい」
池上の反応の悪さを気にすることもなく、教授は淡々と命令口調で言う。
教授にとっては池上みたいな若造の意志は関係ない。
断るなんて予想すらしていなかった。
「よりにもよって平前中学校ですか」
池上の表情がさらに曇る。
彼は体格調査そのものは別に嫌ではない。
新人医師として様々な体を見る経験は糧にもなるからだ。
だが、場所が平前中学校となれば話は別だった。
できることなら断りたいしやりたくないと思った。
「あそこは君の地元でもあるし、学校の場所もわかるから丁度いいだろ」
何を躊躇っていると言わんばかりの言い方をする教授。
「でも、体格調査はプライバシーに関わる部分のため、検査員は別地域を選ぶのが通例では」
池上は教授の機嫌を損なわないように慎重に反論する。
住民体格調査は日本人の体の変化を知るために重要な調査ではあったが、近年はトラブルが相次ぎ、地元の医師はやりたがらなくなっていた。
理由は至って単純。そこに住む住民から恨まれるのだ。
いくら学術的に必要な調査とはいえ、やられる側にとってはただ裸を見られていじられる検査でしかない。
検査は学校や職場という上からの方針に断れない閉鎖社会で行われていることが多かったのも住民の怒りに拍車をかけていた。
恥ずかしい思いをした住民の恨みは、そのまま検査した医師へと向けられる。
住民から嫌われた医師がどうなるか、結果は火を見るより明らかだった。
そのため、なるべくその地域とは無関係な医師を選び、後の仕事に影響が出ないようにするのが通例になっていた。
「地元と言っても君はもう何年も帰っていないし帰る気もないんだろ。平前中学校はうちの関係校なので大抵のことは黙認できる。君のやりたいようにやってくれればいいから頼むよ」
教授が機嫌よく言う。
言葉に嘘はなさそうだ。
「具体的に何をすればいいのですか」
自由にやっていいと聞いて、池上は少し乗る気になった。
確かに戻る気がないなら気兼ねする必要はない。
「こんなカルテを作ってくれればいい」
教授は机から男子学生のカルテを取り出し、池上に手渡す。
カルテに目を通した池上の表情がこわばる。
予想以上にカルテの項目は細かかった。
男子学生の身長から体重はもちろん、ペニスの大きさまで記入されていた。
そして何よりも驚いたのは、全裸体で直立不動の姿勢を取る男子の全身写真まで付属されていたことだ。
「全裸写真を撮るのは男子だけですか?」
思わず池上は聞き返す。
男子は全裸だが女子は羞恥心に配慮して下着姿、または衣服着用での撮影の可能性を考えたのだ。
「君は何バカなことを言ってるのかね。体格検査だぞ。一部分でも隠したら意味がない。もちろん女子も全裸だ。あと今回の調査地域は平前中学校になっているので、検査対象は生徒だけではなく教師も含めてだ」
「つまり一括調査ですか」
学校の関係者を全て検査すれば、子供から大人まで様々なデータが一遍に取れる。
お役所らしい合理的な考えだった。
「そうだ。検査のため必要と言ったら大抵の検査もできる。経験を積みたい君にとってはいいチャンスだと思うがね」
「でも中学生の裸じゃそこまで得るものはないのでは。私は小児科じゃありませんし」
やはり気分が乗らない。貴重な機会がそのまま自分のキャリアになるわけじゃないのだ。
「そういうと思ってこのカルテを持ってきた。見たまえ」
教授は嬉しそうにカルテをもう一枚取り出す。
笑顔を見せながら池上に手渡した。
まるで自分の自慢のコレクションを見せるかのような雰囲気だった
「これは……」
カルテに貼られた写真を見た池上は思わず生唾を飲み込む。
渡された二枚目は女性のカルテだった。
カルテの女性の年齢は21歳。写真の中の女性は一枚目の男子同様に、衣服はもちろん下着すら一切付けていない。
本来隠すべき丸みを帯びた乳房や、薄い下の毛までもが写されていた。
「どうだ、いい女だろ。こんな田舎でもいい素材はいるものだぞ」
なぜか教授は自慢げに話す。
どうやらこの女性は教育実習中に運悪く住民体格調査が行われている学校に来てしまい、検査を受ける羽目になったようだ。
笑っていれば可愛いであろう顔は強張っており、どう見ても不本意に全裸体での撮影をされてしまったのが伺えた。
「確かに調べがいがある女だ」
池上は女のカルテに書かれているHymen(処女膜)の記述を見てニヤリと笑う。
この女を調べた医師はそんなところまで調べたのか。
処女の肉体を調べるチャンスなんてそうはない。
俺もやってみたいと思った池上は「やらせてください」と言った。
「そうか、やってくれるか。では頼んだぞ」
教授はやってくれる人がなかなか見つからず困っていたのか、大変満足な顔をする。
「学校の健康診断か……」
池上にとって裸体を自由に見て触れる機会は、まさに絶好のチャンスだった。
運が良ければカルテの女のような大人も見られる。
しかも、多少無理な検査をしても大丈夫なのは非常に魅力的だ。
医者としての経験を積めて、そのうえ教授のポイントも稼げる。
何一つ問題がない美味しい話だった。
そう、この学校に何年も会っていない疎遠状態の妹が通っていること以外は。
★
それから一ヶ月後。夏の日差しが強まる平日の朝
池上は生徒の登校時間を避けるように静まり返った平前中学校の校門をくぐり、職員室へ向かう廊下を歩いていた。
別にやましいことをやりに来たわけではないが、今は妹に会いたくなかった。
今更どんな顔をすればいいのかも分からないし、かける言葉も見当たらないからだ。
「池上先生ですよね」
ふいに後ろから呼び止められる。
池上が振り向くと、そこには気が強そうな女性が一人。年は30前後だろうか。
いかにも口うるさそうな教師っぽい雰囲気を持つ女性だった。
「えっと、どなた……?」
池上はこの女性に面識がなかった。
だが、相手は自分の名が言えるほど知っている。
これは一体どういうことなのか。
「私は生徒指導の佐藤と申します。今日はお暑い中をわざわざおいでいただき、ありがとうございました」
佐藤は池上に近寄り、彼の前で頭を下げた。
「池上です。こちらこそよろしくお願いします」
女性が生徒指導とは珍しいと思いながらも、池上は挨拶を返す。
「先生の職場に案内しますので、こちらにどうぞ」
そう言うと佐藤が歩き出す。職場とは保健室のことだと察した池上も後に続く。
「よく私が医師だとわかりましたね」
池上は先程の疑問を口にした。
「先生のことはよく知っていますよ。病院から詳しい経歴を送ってもらいましたからね」
「なるほど」
こんな時代だ。たとえ医者でも得体の知れないものはいらないということだろう。
池上は納得したが、どこかムカつく気持ちも感じていた。
知らないうちに自分の全てを調べ尽くされているというのは、やはり気分のいいものではない
「着きましたよ。どうぞ」
佐藤は手書きで保健室と書かれたプレートが掲げられている部屋のドアを開ける。
「え?」
中に入った池上が驚きの声を上げる。
扉を見る限りここは普通の教室だったはずだが、目の前に見えるスペースはあまりに狭かった。
いや、保健室の大きさそのものは別に狭くない
ただ、中央を分断するように引かれているカーテンのせいで異常に狭く感じた。
カーテンは囲うように吊るされているため、中も全く見えない。
「カーテンの中は撮影室です。撮影は全裸で行われるため、カメラ担当以外の立ち入りは禁止となっております。これは生徒からの強い要望に応えるためなので、先生も気をつけてください」
佐藤はどこか苛ついた口調で話す。
「私も生徒の全裸姿を見たら駄目ってことは、診察は……」
思わず池上が口を挟む。なにか話がおかしい。自由に検査できるのではなかったのか。
「脱がしてもパンツ一枚まででお願いします。医師とはいえ、男に全裸を見せるのは『カワイソウ』らしいので」
呆れた顔をしながら佐藤が言う。
どうやら、どこからかの横やりで色々な制限が加えられたようだ。
「もしかして佐藤さんは、この方針に反対ですか」
池上は彼女の迫力に押されながら恐る恐る質問する。
すると佐藤はキッと強い眼差しで池上を見つめながら、
「当たり前です。中学生が羞恥心を考えるとかあまりにバカバカしい。過保護にもほどがあります」
と大声で答えた。
「ですよね」
思わず同意する池上。
ここには教授が言うような上手い話はなかった。
いや、本当はあったのかもしれないが今は無い。
だが池上の表情には笑みが浮かんでいた。
この女教師は同類だ。彼女と組めば楽しいことができる。
それに……
「どうなさいましたか」
「いえ、」
池上は職業柄、この女の体が隠れ巨乳であることを目抜いていた。
年齢は30代後半。体のラインを見せないような教師が好む服を着ているがそんなことではプロの目はごまかせない。
上手いことこの女を全裸にし各検査をやってみたいと思い始めていた
★
一週間後。2年5組。
池上香菜はいつものように机を向かい合わせにし、仲が良い女友達と一緒に弁当を食べていた。
笑顔で昨日のドラマの話をする友人。何もない日常。
香菜には変わらない平穏な日々に思えた。
「ねぇねぇ、香菜聞いた? 3年の女子がみんな裸にされたんだって」
そんな時、少し太り気味の友人が卵焼きを食べながら、穏やかではない話題を始めた。
「なにそれ、どういうこと」
香菜は驚いた顔をしながら返事をする。
最初はまた友人の冗談だと思った。
女子が裸にされるなんてあってはならないし、ありえないからだ。
ましてや3年生の全女子生徒が裸にされたとか、にわかには信じられない。
だが、友人は至って真面目な顔。冗談を言っているようには見えなかった。
「よくわからないんだけど、今度の身体検査はいつもと違うんだって。全部脱がされるわ、触られるわ、裸の写真まで撮られるとか」
友人は顔を赤くしながら小声で話す。
内容が内容だけに男子には聞かれたくないようだ。
「なにそれ。いつもの保健医はどうしたのよ。北条先生はあんなに気を使ってくれたのに」
「今回はどこかの病院の男性医者がわざわざうちの学校に来て直接やるんだって。だから北条先生も口が出せないらしいわね」
「げー、マジ。そんな男なんかに裸は見せたくないよ」
香菜にとって医者は嫌なイメージしかない。
何と言ってもあの兄貴が医者なのだ。
あんないやらしく気持ち悪い兄貴が医者になった。
もうそれだけで、医者というものを嫌うには十分な理由だった。
実際に兄貴が医者を目指すと言ってからは、香菜は風邪にかかっても医者には行かなくなっていた。
「よくわからないんだけど、裸の写真は佐藤先生が撮るというから普通の身体検査じゃないよね」
「佐藤って生徒指導の? いくら同じ女性だからって、先生がヌードカメラマンの真似事をやるの?」
香菜はツリ目でガミガミと口うるさい佐藤教師の姿を思い出し、うんざりした顔を見せる。
「らしいわね。で、その佐藤先生いわく、裸の写真は厳重に管理し他の生徒には見せないようにするので安心してほしいと言ったとか言わないとか」
「裸の写真を撮られて何を安心するのよ。私たちは学校のモルモットではないわ」
香菜は思わず声を張り上げる。
彼女の怒りも無理はなかった。
何しろ明日は我が身に起こることなので冷静でいられるわけはない。
「私も伝聞なのでどこまで本当かはわからないけど、嫌な話よね」
友人は熱くなる香菜をなだめるように軽い口調で答える。
「それって誰から聞い……」
香菜が喋り出すと同時に、昼休みの終了を告げる機械的なチャイムが鳴り響く。
友人は「またあとでね」と言って立ち上がり、自分の席へと戻る。
香菜も弁当を片付け、次の授業の準備を始めようとカバンを掴み机の上に置く。
「あ、」
カバンの横に下げた陸上部用のシューズを見て香菜は小さな声を出す。
「そうだ。今村先輩は大丈夫かな……」
不安そうな顔をしながら、香菜は女子陸上部の先輩であるキャプテンの姿を思い出していた。
先ほどの話がデマでなければ、3年生は全ての生徒が検査を終えたという。
その中には当然、同じ3年生である今村先輩も含められるはずだ。
だが、あの気が強く物事をズバズバ言う今村先輩が、素直に全裸のままカメラの前に立ったとは思えない。
また先生たちとぶつかっていなければいいが。
香菜は自分のことも忘れて、尊敬する先輩のことを考えていた。
★
放課後。
香菜は今村先輩とともにグラウンドを走り、汗を流していた。
スラリと伸びた四肢を持つ香菜は2年でも目立つ存在だった。
彼女の体つきを見ればどれだけ速いのだろうと誰もが思った。
しかし現実は非情。香菜はどんくさかった。
なぜこれだけ恵まれた体格をしていて遅いのか。
その疑問は何度も何度も指導した顧問にも今村キャプテンにもわからない部の七不思議の一つになっていた。
「よーし。ここまで。池上なかなか良くなってきたぞ」
小柄で色黒の中性的な今村先輩が声を張り上げる。
「ハァハァ……あ、ありがとうございます」
息も絶え絶えな香菜は今村のそばまで駆け寄り、頭を下げる。
顧問にも匙を投げられた香菜だったが、それでも今村は諦めずに付きっきりで彼女の指導を続けた。
香菜にとって今村は感謝しても尽くせない存在になっていた。
「そんじゃ今日はここまでにしよか」
完全にバテている香菜とは違い、今村は余裕たっぷりな声を出す。
香菜は呼吸を整えながら、今村の細身の体をじっと見つめていた。
背も低く女性らしい凹凸もあまり感じられない先輩の体。
先輩はよく自分には女の魅力がないと言うが、香菜から見ればとんでもない。
ボーイッシュな顔立ちも男勝りな言動も、今村という女性の魅力を引き立てる要素でしかなかった。
そう、こうして見惚れることも少なくないほどに。
「ん? そんなに見つめてどした。僕の無い胸でも気になるのか」
笑みを浮かべながら今村が言う。
「いえ、なんでもありません。失礼します!」
我に返った香菜は顔を赤くしながら、逃げるように今村のそばから離れた。
女同士とはいえ、香菜は今村の裸を見たことがない。
よく幼児体型だわーと冗談を言うが、実際にそうなのかはわからない。
だが、この学校にはそんな先輩の体の秘密を暴いた人物がいる。
その人物は今こうしている時も、先輩の裸の写真を見ているかもしれない。
そう思うと、香菜は何とも言えない悔しさを感じた。
★
一日の仕事が終わり自宅に帰った池上医師はぐっと一度背伸びをしてからパソコン机の椅子に座る。
「さて、始めるか」
そう言いながら、彼は今日の検査データが入っているUSBメモリをパソコンに差し、一枚目の電子カルテをクリックする。
するとモニターには3年1組 栗原緑と書かれた背が低い一人の生徒のデータが細かく映し出された。
「バスト78か。中3にしては貧乳だな」
栗原の身体データと直立不動の全裸の画像姿を眺めながら、池上はビールを一口飲む。
「乳房は小さめ。形は半球型。乳輪の色に変化はまだなし。陰毛は確認できず。成長は遅いが健康体と判断する」
添付された裸体写真と診察時の記憶を辿りながら、電子カルテに医学的見解を打ち込む。
二人目、三人目と、中学3年の全裸写真が次々と映し出され整理されていく。
(ん?)
テンポよく電子カルテを整理していた池上の手が突然止まる。
モニターにはこれまでと同じように一人の女子生徒の全裸写真が映し出されていた。
だが、そこに映されている生徒の表情は他の生徒とは明らかに違う。
これまで写っていた生徒の写真は誰もが恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、恥辱の時間を耐える顔をしていた。
しかし、この女子生徒は鋭い目つきで睨みつけていた。
その姿はまるで「私はあなたを許さない」と語っているような表情だった。
「こいつか。やたら抗議していて絶対に脱がないと騒いでいた子だな。結局クラスの連帯責任にするぞと脅したらようやく脱いでくれたが、まさか全裸撮影中もずっと睨んでいたとはな」
池上は彼女のプロフィールを見て少し納得した表情を見せる。
彼女の名は今村遥。女子陸上部キャプテンを務める生徒だった。
この体格でキャプテンを張るってことは相当なカリスマと実力を持っているんだろう。
池上は今村の全裸画像を改めて見る。
顔こそ赤いが、こんなこと絶対に認めないと言わんばかりの反抗心むき出しの鋭い目つき。
背は平均より高いがまだまだ膨らみかけの小さな乳房。
まるで本人の気丈な性格を表しているように少しだけ立っている乳首。
陰毛が殆ど生えていないクレパスが丸見えの股間。
女としての成長こそ遅いが健康体と言える裸だった。
「今頃、彼女は悔しさで眠れないんだろうな。私は君の恥ずかしい写真を隅々まで見直して楽しい気分だというのにさ」
手を焼いた女の裸を一方的に見ることがこんなに愉快なこととは。
池上はこれまで感じたことがない性的興奮を覚えながら、彼女の裸体画像を私的なフォルダーへコピーした。
★
翌日
池上が学校へ行こうかと立ち上がった時を待っていたかのように電話が鳴り響く。
こんな時間に電話とは珍しいと思いながら池上は使い古しの黒い固定電話を取る。
「えー、お世話になっています。私、担当の平井です。先生、あのですね、今日の健康診断を一日延期して明日改めてやってほしいのですがいかがでしょうか」
明らかに不愉快そうな声で話す担任。
「どうしました? なにかトラブルでも」
池上の心に一抹の不安がよぎる。
まさか昨日の検査がやりすぎだったのか。
「いえね、昨日検査を受けた生徒の一人が猛反発しまして。改善しろとうるさいんですよ。もちろんこちらは変える気はないので、とりあえず一日延期して改善するように働きかけると嘘を言って納得してもらいましたが」
担任はその生徒に相当手を焼いているのか、怒りすら感じている声を出す。
「3年で猛反発した生徒ですか」
池上にも心当たりがあった。
診察中も反抗的な態度ばかりとっていた今村遥。
昨日カルテをまとめたばかりの子だ。
「普段から生意気な生徒でしてね。ちょっと生徒に強く当たるとすぐ反発するんですよ」
たとえ先生相手でも一歩も引かない性格。もう今村に間違いないと池上は思った。裸にされても抗議していた生徒なんて他にはいなかったし、普通はありえないからだ。
「もしかしてこの生徒ですか。今からそちらに写真を送りますので確認してください」
ふと悪戯心が湧いた池上はパソコンを操作し、昨日整理した今村遥の全裸写真付きの電子カルテを学校のサーバーに送る。
しばし沈黙のみ驚いた声が帰ってくる
「え? これは……いや、確かに私のクラスの今村で合っていますが……この画像は……」
送られたカルテを見た担任は明らかに動揺していた。
無理もなかった。いきなり教え子の全裸写真が送られてきたのだから混乱しないわけがない
「池上先生。これを私に見せてもいいのですか?」
担任はもっともな疑問を口にした。
いくら教師とはいえ、男が女子生徒の身体情報を見ていいわけがない。
ましてや裸の写真なんて。
「おっと、顔写真のつもりが間違って全裸写真付きのカルテを送りましたか。まぁ本人確認もできましたし、別に問題ないでしょう。これにも顔は写っていますしね」
サバサバした声で話す池上。
もちろん診察中に罵倒を浴びせまくっていた彼女への仕返しも兼ねてわざと全裸写真を担任に送ったのだ。
★
担任は職員室で送られた今村の全裸画像をじっと見ていた。
全裸直立不動。女らしさはあまり無いが、体だけ見ればまさに可愛いといえる裸体。
だが顔を見ると、ものすごい目つきで睨みつけている。
その残酷なアンバランスさが妙にエロチックに感じられた。
こんな写真撮られている時ですら怒っているんだから、身体検査中は相当医者を困らせたに違いない。
池上医師がこの写真をわざわざ送った意図を理解した担任は、
「ははっ、確かにただの手違いですね。そもそも今村がこんな騒ぎを起こさなければ、こんな手違いも無かったわけですし彼女にも責任の一端はあるということで構わないでしょう」
と、日頃から迷惑を掛けられる生徒の全裸体を見ながら明るい声で答えた。
「では、そういうことで。よろしくお願いします」
担任はなんとか池上医師に延期の許可をもらい、ほっとして電話を置く。
一件落着だった。いや、それだけではない。医師から良いものももらえた
「話は付きましたか。先生、大変でしたね」
体育教師らしくガタイのいい別の教諭が近寄って声をかける。
「まったく今村のせいでとんだ迷惑だ。1年の時から制服のスカートが短すぎるだの、先生がいやらしい目で見ているだの、やたら文句ばかり言ってきてもう嫌になったよ」
「うちのクラスの香菜もそんな感じですな。まったく今の生徒は自意識過剰なんですよ。ちょっと体が触れただけでギャーギャー騒ぐ」
体育教師も今村には手を焼かされていたのか、その声には強い嫌悪感が感じられた。
「まったく、こんな胸もろくに無い、割れ目も丸出しな子供だというのに口だけは一人前だ。先生も見てくださいよ、この画像」
担任は送られてきた全裸写真を自分だけのものにしようとも思ったが、今回の騒動を起こした彼女を許す気にはなれず、同じ不満を持つ体育教師にも見せてやることにした。
「何の画像って……これは今村か。凄い格好で凄い顔しているな。あははは。これは傑作だ。あのリーダーシップの塊みたいな子が、実は毛も生えていないガキとは」
予想以上に大喜びする体育教師。どうやら彼女に対する不満は担任よりも上だったようだ。
「同じくクソ生意気なうちのクラスの香菜もこんな感じだったら笑えるな。そうだ。診察が終わったら池上先生に頼んで、香菜の全裸写真も見せてもらいましょうよ」
先程までの重苦しい空気は何処へやら。
本人にとっては誰にも見せたくない全裸写真を話の種にし、ストレスを解消する教師たちであった。
★
検査予定がキャンセルとなり時間に余裕ができた池上はぶらぶらと校舎の廊下を歩いていた。
今は授業中のため誰もいない。シーンと廊下は静まり返っていた。
だが、数分たてば授業も終わる。休み時間になればこの廊下にも生徒が溢れてくる。
それはつまり、彼が妹と偶然出会う可能性が高くなることを意味していた。
池上の表情に笑みが浮かぶ。もしばったりと会えば妹はどんな顔をするだろうか。
そして「明日検査だからよろしく」と言えば、妹はなんて言いながら怒るだろうか。
これが数ヶ月前なら彼も言い訳をしてその場を収めようとしたかもしれない。
しかし今の彼は、そんなことをする気は毛頭なかった。
そもそも関係を修復するつもりなら、こんな仕事は受けない。
そう、これは妹に対するけじめ。
子供の頃から何度となく覗いてきた妹の体を今一度見て、直に触る。
これはずっとやりたいと思っていたこと。そのために医者になったと言ってもよかった。
★
検査当日。
香菜が通う2年3組の教室に、男の図太い声が響き渡る。
「今日の身体検査は一斉ではなく、授業中に一人ずつ行うことになった。これは検査中の姿を見られたくないという生徒の要望によるものだ。呼ばれた者は速やかに保健室に行くように」
体育教師はどこか含みのある顔をしながら大声で言う。
教師の説明を聞いて生徒たちがざわめく。
一人なら恥ずかしくないと安堵するもの。
一人だから余計に恥ずかしいかもと思うもの。
反応は様々だが、概ね好意的に捉えられていた。
(なんか嫌な感じ……)
そんな和気あいあいとする教室で、香菜は一人厳しい表情をしていた。
散々ろくでもないことばかりやって今更改善?
あれだけものをはっきり言う先輩ですら裸にされたのに?
とても教師の額面通りに受け取れないと彼女は思った。
この話にはきっと裏があると。
香菜の心配をよそに、一人の女子生徒が呼ばれ教室から出て行く。
10分後、また女子の名前が呼ばれる。
そうして次々と生徒が教室からいなくなっていった。
既に5人が呼ばれ、授業時間も終盤だというのに、最初に呼ばれた生徒はまだ戻らない。
だが、これも予定通りなのか担任は特になにも言わない。
ただ淡々と授業を続けていた。
「香菜」
ついに香菜の名が呼ばれる。
「はい」
香菜が立ち上がる。
疑問だらけだし納得もできないがもう悩んでも仕方がない。
覚悟を決めた香菜はそう心の中でつぶやきながら、教室を出て保健室へと向かう。
階段を降り、一階の体育館に続く渡り廊下を足早に進む。
そして体育館入り口のそばにある保健室へたどり着いた。
(なんだろあれ?)
香菜が保健室の前に置かれたカゴを見て首を傾げる。
そのカゴに見覚えはあった。脱いだ服を入れる保健室の備品だ。
実際にカゴの中には女子生徒の制服一式が入っていた。
問題はなぜそれが扉の前にあるのか。
脱いだ制服が入っているカゴをわざわざ外に出してある理由がわからない。
香菜はカゴの中に入っていた紺のスカートを手に取る。
名は書かれていない。上着の名札を見ようとカゴの中を見ると、白い下着が入っていた。
「あ、」
クラスメートが脱いだ生々しいブラを見てしまった香菜は、思わず周りを見渡す。
廊下には誰もいない。授業中のため生徒がいないのは当たり前だが、先に行った生徒たちもいない。
下着を誰にも見られていないことを確認した香菜はホッとしながら、手に持ったスカートで下着を隠すようにおいた。
その時、突然保健室の扉が開く。
「キャ!」
いきなり視界に肌色の物体が見せられた香菜が悲鳴を上げる。
保健室から出てきたのは二人。一人は女性教師、
そしてもう一人は先に行ったクラスメイトの赤田恵美。
恵美はなぜかパンツ一枚の姿だった。
「恵美、どうしたのその格好は!」
信じられないと言う表情をする香菜。
いくら人がいないとはいえ、殆ど裸に近い格好でクラスメートが廊下に出てきたのだ。驚かないはずがない。
「……」
恵美は彼女の質問に答えることなくカゴのそばに行き、ブラを手に取り無表情のまま付ける。
ブラを付ける際に丸みを帯びた形のいい乳房が晒されたが、まったく表情に変化はない。
ただ淡々と制服を着直していた。
「終わった者は体育館に行くこと。順番を待っている者はここでパンツ一枚になって待つように」
女教師がズバズバと命令調で話す。
制服を着終えた恵美は小さく「はい」と返事をして体育館へ向かった。
検査に行った生徒は体育館にいる、だから教室に戻ってこなかった。
だがそんなことより、女教師はもっと重要かつ耳を疑うことを言った。
この廊下でパンツ一枚になれと。
「教室で説明があったでしょう。これは診察中の姿を見せないための配慮です」
状況が飲み込めず茫然としている香菜に対して女教師が言う。
「は、配慮って、これが配慮だと言うの? 生徒を廊下で脱がせることが……」
理不理な理由を聞いて我に返った香菜は、女教師を睨みつけながら強い口調でそう言った。
彼女は腹が立った。これは配慮なんかじゃない。嫌がらせだ。
「どうしたの。早く脱ぎなさい」
「こんなところじゃ嫌よ!」
当然のごとく香菜は拒否した。こんな明るく開けた廊下で脱げるはずがない。
「いいのかなー。早く脱がないと授業時間が終わるわよ」
女教師はニヤニヤしながら言う。
その言葉を聞き、香菜はあっと驚いたような表情を見せる。
そう。時間は残り少ない。あと少しで休み時間に入る。
もしこのまま彼女が拒否し続けて休み時間になれば、どうなるのか。
授業を終えた他の教師やら生徒やらが騒ぎを聞きつけ集まってくるのは間違いない。
野次馬根性丸出しに騒ぐ生徒に、早く脱いで検査を受けろと怒鳴り散らす複数の教師。
どう考えても今より状況が良くなるとは思えなかった。
「はぁ……」
香菜は大きなため息をつきながらスカーフに手を掛ける。
今彼女にできることはただ一つ。すばやく脱いで、すぐ検査を受け終わらせることだけだった。
「そうよ、いい子ね」
女教師はどこか熱っぽい眼をしながら、香菜の脱衣シーンをじっと見る。
(なにこの人……)
女とは思えないいやらしい視線に戸惑いながら上着を脱ぎ、スカートをおろす。
身体検査日ということもあり、今日の香菜は上下ともに白のシンプルな下着で統一していた。
「子供っぽい下着ね。でも素敵よ」
女教師が素直な感想を言う。
確かに運動部らしいスラリとした香菜の体に白の下着はとても似合っていた。
(くぅ……)
香菜の顔が羞恥で赤くなる。
なぜ教師に下着のことを言われなくてはならないのか。
香菜はふとブラに包まれた自分の胸を見る。
小さい。どう考えても中2としては小さな胸がそこにはあった。
(子どもだからといって、こんな扱いは許せない)
震える手でブラのホックを外す。
つまり学校の言いたいことはそういうことなんだ。
中学生なんて子供。子供が恥ずかしがって教師に迷惑を掛けるなんて許されないと。
ブラが香菜の体から離れ、小ぶりの乳房が一瞬あらわになる。
だが可愛い乳房が廊下の空間に晒されたのは、本当に一瞬だった。
香菜は器用に左手でブラを取り、右手ですばやく隠した。
「なんでそんなもんを必死に隠すの」
乳房が見えなかったことに怒ったのか、女教師は不機嫌な声でそう言った。
「恥ずかしいからに決まっているでしょう!」
香菜はもっと不機嫌な声で反論した。
いくら膨らみが足りてなくても乳房は乳房なのだ。晒していいはずがない。
そんな時、二人の言い争いを止めるように保健室の扉が開く。
「おい。なにをやっているんだ。早く次の生徒を……って、え?」
保健室から出てきた池上が、廊下にいる妹を見て固まる。
「嘘……兄貴?」
きょとんとした目で見つめる兄と妹。
今の状況がつかめないのか、二人は見つめ合ったまま動かない。
時間にしては数秒だが、本人たちにとっては長い沈黙の時間が続いた。
しかしその静寂は突然破られた。
何と言っても今の彼女はパンツ一枚の姿なのだ。
それをいきなり見られて騒がないはずがない。
「きゃああああああ、いやーー!」
静まり返った授業中の廊下に似合わない女の悲鳴が轟く。
香菜は自分の体を隠すように座り込んだ。
★
「な、なんで兄貴がここにいるのよ!」
香菜は床に座り込み、胸を隠すように両腕をクロスさせながら声を上げた。
兄である池上は困ったような表情を浮かべつつも、半裸の香菜を見下ろしながら「だって俺はこの学校の担当医だし」と涼しい顔で答えた。
「た、担当医?」
思いもかけない答えに香菜の顔に驚きの色が浮かぶ。
つまりどういうことなのか。彼女には今の状況がまったく飲み込めなかった。
「しかし大きくなったな。俺が家を飛び出してから5年は経つし、当たり前だけどさ」
池上はむき出しになった妹の体をマジマジと見ながら感心したように言う。
「ひぃっ」
池上のねちっこい視線を感じ、香菜が怯えたような声を出す。
そう、今の彼女はパンツ一枚の裸なのだ。
いくら体を丸めて隠そうとしても、一目で乳房の大きさもパンツの色も丸わかりだった。
全身に鳥肌を立たせながら、香菜は急いで先ほど脱いだ服が入っているカゴを取ろうと手を伸ばす。
カゴの中には脱いだ服が入っている。
すぐに着直すことはできなくても、服があれば前を隠すことぐらいはできる。
彼女はその一心の思いでカゴの中の服を取ろうとした。
ひょい。突然、香菜の視界からカゴが消えた。
「え?」
いったい何が起こったのかと考える間もなく、座り込んでいる香菜の頭上から声が聞こえた。
「これはどういうことなんですか」
女教師は制服が入ったカゴを手に持ちながら、やや強い言葉で言う。
一人状況が分からずイライラしているようだった。
「えっと、この生徒は私の妹なんです」
女教師の迫力にやや押されながらも、池上は頭を掻きながら照れたように話す。
「そうなの? あまり似ていないわね」
女教師はあまり納得していないような微妙な表情をした。
「ははっ、お恥ずかしい」
「まぁいいわ。兄妹なら気にすることないわね。ほら、早く保健室に入ってお兄ちゃんに体を見てもらいなさい」
(診察? 冗談じゃないわ!)
香菜はパンツ一枚の姿であることも忘れて、この場から逃げようと立ち上がる。
走り出そうと右足に重心を掛けたその時。
「こらこら、何処へ行くの。こっちでしょ」
女教師が香菜の手首を掴み、強引に保健室の中へと押し込む。
「はい先生、後はお願いします。もう時間が無いのですから早くしてください」
続けて池上も乱暴に保健室へと入れられる。
バタンと勢いよく扉が閉まる。他の用事があるのか女教師は入ってこない。
今、保健室にいるのは白衣姿の兄と、パンツ一枚の妹のみ。
「えっと、なんと言っていいか……元気だったか?」
池上は普段は使わないような優しい声で言う。
「だから、なんでここにいるのよ!」
香菜は拳を握りしめながら問いかけた。
「仕事だから仕方がないだろ。断れなかったんだよ」
軽い雰囲気で返事をする池上。
少なくとも悩んでいる雰囲気は感じられない。
(断れない? 仕事? 絶対に嘘だ!)
彼女には確信があった。この男はそんなことを考える人間ではないと。
「時間もないし早く始めよう。はい、座った座った」
相変わらず軽い声を出しながら椅子を指差す池上。
「……」
確かにこうしていても埒が明かない。
早く検査を終わらせようと思った香菜は、胸を隠しながら診察用に用意された何の変哲もない丸い椅子に座る。
そう。今の池上は医師免許を持つ医者であり、香菜はパンツ一枚姿の生徒に過ぎないのだ。
今彼女にできることはないに等しかった。
「ええっと、手を下ろしてくれるかな。まずは上半身を見るので」
どこか楽しそうに池上が言った。
(えっ……)
医師として変なことを言ったわけではないのに、香菜はショックを受けていた。
実の兄が妹の自分に対して胸を見せろと言う。
それは何とも言えない背徳感を感じる言葉だった。
「早く」
再び催促。
その口調は先程より強い。
香菜は唇を噛み締めながら手をおろし、胸のガードを解いてその膨らみかけの乳房を兄の目の前に晒した。
悔しさで涙がこぼれそうになるが必死にこらえようとする。
「ふーん。久しぶりに見たけど、あまり変わっていないな」
池上は妹のなだらかな形を描く乳房をまじまじと見ながら話す。
「くっ……」
香菜は羞恥と怒りのため真っ赤になった顔を隠すようにうつむいた。
やはり兄はなにも変わっていないと思った。
自分がどんなに止めてと言っても、兄は毎回のように風呂を覗きに来た。
着替えを見られるなんて日常茶飯事だった。
「では始めます。少し触りますのでリラックスしてください」
そんな兄が医師という絶対的な立場を手に入れた。
もう昔みたいに殴って止めさせることも怒ることもできない。
池上の右手が香菜の額を触り、少しずつ下へと移動していく。
額から頬、唇と首筋をなでるように触っていく。
いよいよ池上の手が胸に迫ろうと言う時に、香菜が小さな声で話し始める。
「やはり偶然だよね? 知らずにこの学校の担当になっただけだよね?」
香菜は儚い希望を掛けて兄を問いかけた。
それは香菜の心の叫びとも言える本音。
いくら喧嘩別れをしている兄とはいえ、わざわざ妹の学校を選ぶはずがない。
そこまで兄は腐っていないはずだと。
だが、池上は返事をしない。
そのまま躊躇なく自分の手を香菜の右乳房の上へ移動させる。
(あっ……)
胸を触られた香菜の体がビクリと反応する。
そんな初々しい香菜の反応を楽しむように、池上は手のひらを大きく広げて乳房を絞るように握った。
乳房全体が圧迫され、陥没気味の乳首がぴょこんと飛び出る。
そしてこれが先ほどの返事だとばかりに、香菜の可愛いピンク色の乳首を爪を使ってねじり上げた。
「いやぁぁぁ!」
香菜の目が驚きと痛みのため大きく見開く。
いったい何をされたのか彼女はわからなかった。
突然受けた性の暴力。それはまだ処女な香菜にとって未知の感覚でしかなかった。
★
今時の中学生は生意気だ。
これは池上がこの学校で数日間仕事をして得られた答えだった。
だが、いくら生意気といっても所詮は中学生であることも彼は十分把握していた。
どんな反抗的な生徒も突然の性的暴力には耐えられない。
そう。このように乳首を少し強めにつまんで性的な刺激を与えると、誰もが黙りこくり従順になった。
それは喧嘩別れをし疎遠となった妹とて例外ではないはずであった。
「ああぅ……」
乳首を乱暴に摘まれた香菜の目尻に涙が浮かぶ。
香菜の体がガクガクと震え、全身が戦慄く。
突然与えられた暴力の大きさが伺えた。
「おっと。痛かった? ごめんごめん」
香菜の涙目を確認した池上が手を離す。
(そんなに私のことが……)
乳首に残る痛みに耐えながら、香菜は冷静に現状を理解した。
この態度、この乳首への暴力。
兄貴は昔となにも変わっていない。敵のままなのだと。
そんな彼女の心境も知らずに、池上は聴診器を取り出し診察を始めた。
まだ赤みが残る右乳首に冷たい聴診器を当てる。
激痛が走っているだろうに香菜の顔に大きな変化はない。
乳房は丸出しで乳首も潰されたというのに、ただキッと強い目つきで睨みつけるだけだった。
池上が腑に落ちないといった表情を見せる。
おかしいと思った。
これまで乳首を潰して心が折れなかった生徒は今村しかいなかったからだ。
なぜ妹の心が折れないのか。彼にはわからなかった。
「手を上げて」
違和感を感じつつも、池上は香菜の診察を始めた。
まずは手を上げさせて脇を見る。
香菜の脇はワキ毛の痕跡もなく綺麗だった。
脇から胸に繋がるラインが何ともいやらしく見えた。
「これになんの意味があるのですか」
脇の下をジロジロと見られることに耐えかねた香菜が不満の声を出す。
「いや、少しリンパ腺が腫れているからどうしてかなぁと。もし乳房から来ているものだとすれば、乳管検査をやったほうがいいし」
池上は嘘を並べながら、両手を使い香菜の小さな乳房を丹念にこねくり回した。
「んっ。乳管検査って……なに? あ、やだ……」
乳を乱暴に揉まれながら、香菜は初めて不安げな顔を見せる。
「なにって、この乳首に細いカテーテルの管を突き刺して中をみる乳管内視検査のこと」
「ひぃっ!」
説明を聞いた香菜は思わず悲鳴を上げた。
摘まれただけで激痛が走る敏感な乳首に管を突き刺す。
中2の乙女にとっては想像するだけで恐ろしい検査だった。
(さてと……)
池上は青ざめた妹の顔を眺めながら、保健室の扉をちらりと見た。
扉は閉じられており人の気配はない。
先ほどまで廊下にいた女教師も今はいないようだ。
誰もいないことを確認した池上は、淡々とした口調
「パンツも脱いで」
と言った。
もちろんこれは違反だ。教師からも生徒を全裸にするなと言われている。
だが、そんなことはバレなければいいだけの話でもあった。
久しぶりに妹の裸を見たい。
その欲求に兄が勝てるはずもなかった。
「……」
突然全裸になれと言われた香菜は、目を大きく開き、なにか言いたそうに口をパクパクとさせる。
しかし何を言っても無駄だと悟ったのか、無言のまま立ち上がりパンツに手をかけた。
そしてゆっくりとパンツを下ろし、全裸を晒した。
(これが中2になった香菜の裸……)
そこには、兄が何度となく夢で見た妹の全裸があった。
なだらかな乳房。適度に生えている黒い茂み。
その茂みに隠された一本の縦筋。鍛えられ締まった太もも。
医学的にも健康体。中学2年の体としても満点の裸体だった。
「次はなにをすればいいのよ!」
全裸になった香菜が怒鳴り声を出す。
ここまでの姿を晒しても、反抗的な目付きは変わらなかった。
いや、むしろ強まっているようにも思えた。
動物以下の貴方なんかに見られても恥ずかしくない。
だから体も隠さない。そう語っているような香菜の態度だった。
池上は返事もせず、自分の手の平を彼女の乳房の上に置く。
そして体を撫でるように少しずつ下へ移動させていった。
胸から臍へ。臍から股間へ。股間から手を後ろに回し、お尻へと移動させる。
左手で尻肉を掻き分け、右手の指で尻の穴をなぞる。
すると香菜の体がピクリと動く。
だが、表情は未だに変わらない。相変わらず睨んだままだ。
池上は香菜の心を折るべく、お尻の穴に人差し指を強引に突き立てた。
その時、ズブという音がしたような気がした。
指は第一関節をやすやすと通り抜け、根本までねじり込まれる。
「あああっ、や、やめて!」
香菜は額に脂汗を浮かべつつも、はっきりと憎しみがこもった声で言う。
「ふーん。やめてねぇ」
みりみりと小さな肛門が拡張されていく感覚を指先に感じながら、池上は香菜の態度に感心した。
肛門に指を入れられたまま反論されたことは、初めての経験だったからだ。
大の大人ですら肛門に指を入れられればショックのあまり口も聞けなくなる。
それだけ肛門とは微妙な器官であり人としての弱点なのだ。
なのに我が妹の心は折れなかった。これは大したものだ。
「あなた達、何しているのですか!」
突然保健室の扉が開く。
凄い剣幕をした女教師がズカズカと入ってくる。
相当怒っているようだ。
「いや、これはこの生徒の肛門に異常があって……その……」
急いで指を抜いた池上はたどたどしく言い訳をした。
「あなたは肛門科じゃないでしょう! それに手袋も付けずに肛門を触るなんて何考えているのですか!」
女教師が大声を出す。ごもっともな指摘だった
「え、えっと……」
池上が言葉に詰まる。
生の指を使ったのは、妹の肛門の中を直に触りたかったからなんてとても言えなかった。
「まったくしょうがないわね。生徒を全裸にするなと言われたことをもう忘れましたか」
「え?」
兄と教師の会話を聞いていた香菜が驚いた表情をする。
つまり、兄の前で全裸になる必要なんてどこにもなかったのだ。
もちろん、肛門を触らせる必要も。
「まあいいわ。ほらアンタ、早くこっちに来なさい。今から身長体重を測って写真を撮るから」
女教師はそう言いながら、全裸の香菜を乱暴に簡易撮影室へと連れて行く。
★
「はぁ……なんか疲れた」
一人ぽつんと残された池上は、軽くため息をつきながら倒れ込むように椅子に座り込んだ。
「ほら、手で隠さない。前を見て。手は腰のところで伸ばす!」
「は、はい……」
女教師の怒鳴り声と、少し怯えたような妹の声が壁の向こうから聞こえた。
その声を聞いた池上はふっと笑う。
彼には確信があった。
この全裸撮影は、肛門検査にも耐えた妹の心すら打ち砕くと。
女子がカメラの冷たいレンズの前で全裸になるということはどういうことなのか、それは男である池上にも十分すぎるほどわかっていた。
5分後。
「もういいわよ」
女教師の声がし、香菜が出てくる。
やや青ざめた顔をしているが、足取りはしっかりしていた。
「今撮った写真の管理は、大丈夫なんでしょうね……」
香菜が池上の前で立ち止まり、怒っているのか不安なのかよくわからない表情で話す。
「もちろん心配ない。見られるのは関係者だけだから、担任や同級生が独断で見ることはできない」
池上は他の生徒にも答えた嘘八百な説明をぬけぬけと言う。
すると香菜は何も言わず、脱いだパンツを手にし、制服がある廊下へと出て行く。
(あっ)
その時、池上は見てしまった。
それは香菜が振り向いた時に見えた。
妹の頬に、必死に拭ったと思われる涙のあとがついているのを。
(こうして見ると、香菜も普通の女の子なんだな)
池上は軽く笑みを浮かべながらカルテを棚へとしまう。
そして次の生徒が来るのを待ち続けた。
★エピローグ
こうして兄妹による意地の張り合いは終わった。
兄は妹との関係修復を諦めてやりたいことをやった。
妹は兄の無慈悲な行為に怒りを感じ、当然のごとく腹を立てた。
だが、兄妹の絆はここまでやっても切れることはなかった。
この二人の関係はなにも変わらない。
喧嘩、疎遠という名の冷戦状態のままだ。
確かに兄妹が仲良くなることはないかもしれない。
しかし、完全に縁が切れることも考えられない。
なぜなら、この妹にとってこれが兄との関係なのだから。
憎しみという名の兄へのキズナはどんな兄妹の結びつきよりも強かった。
[終]
おまけ 2026-04-04
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14年ぶりにこの話を続きを書いてみます
蛇足注意
全ての検査を終えて池上が学校を去る日。
生意気な生徒の全裸写真を送ったきっかけで池上と男性教師たちは仲が良くなっていた。
今日は4人の男性教師がわざわざ送別会まで開いてくれることになり池上は久しぶりに飲んだり食ったりと羽目をはずしていた
「あんたのおかげで今村たちも大人しくなったし、もうずっといてくれればいいのに」
担任がぐびぐびとビールを飲む。
思えば彼に渡した全裸写真がきっかけで分かり合えるようになった
当時は気まぐれの行動に過ぎなかったがあれのおかげで楽しく仕事が出来たのだからどう転ぶかわからない。
「ほう。あれがおとなしくなりましたか」
あの今村という生徒は検査中でも本当に生意気で手を焼いた。
正直なところ未だにムカついていた
「なんというか影が出来ましたね。私が胸の方に視線を向けると顔色が変わるのですよ。もしかしたら裸の写真を持っていることに気がついているのかもしれません」
「中学生と言っても女ですからね。本能的に察していても不思議ではありません」
池上は医師と言ってもこの分野の方は素人同然だった。
だが性格の悪い人も医師の前だと大人しくなる例はよく見た。
女は裸を見せた相手には弱くなるものなのかしれない。
「へぇ。そんなものですか。そういや佐藤先生も少し大人しくなったような」
「佐藤先生?」
「ほら、生徒指導の佐藤です。撮影もやっていたはずですが……」
「ああ、あの先生、佐藤という名字でしたか。いつもは下の名で言ってたのですっかり忘れていました」
初めて佐藤とあった時は厳しい印象があり一緒に悪巧みできると思っていたが結局何もなかった。
確かに生徒指導らしく厳しい先生で生徒を脱がすことも厭わなかったが生徒を裏切るような真似は決してしない。
ちょっと遊ぼうかと思ってもすぐ文句を言われて、とんだ見込み違いだった。
酔った体育教師が絡んでくる
「そこで私は思ったわけですよ!佐藤が大人しく…なったのは先生の住民体格検査でショックを受けたからじゃないかと。どうなんです!」
池上は含みを持たせて言う。
「あの検査は強制なのでもちろん佐藤も受けています。いやはやなんといいましょうか可愛かったですよ。初めて見せる全裸に震えたりしてさ。生徒にはあんなに恥ずかしがるなといってるのにそのギャップが可愛いといいますか」
「か、可愛い?。あのお局が?」
「お局は酷いな40歳ですよ。あれでも。」
どよめきが起こる。数学教師が詰め寄る。
「さっき初めて見せる全裸と言いましたよね。佐藤はあの年で未婚だしつまり……」
池上はニヤリとしながらカバンからノートパソコンとUSBメモリを取り出す。
「見ます?佐藤先生の初脱ぎ。生まれて初めての全裸撮影」
一斉に集まる4人の教師。
女性のプライバシーを餌にして盛り上がる。
本当なら佐藤に顔向けできない裏切り行為だったがもう学校を去る池上には関係のない話だった
「おおお、胸でか。なんじゃこりゃ。こんなにでかかったのかよ」
同僚の裸を見るというのはどんな気持ちなんだろうか。
池上はふと怒った妹の姿が浮かんだがそれも騒ぎでかき消される
「先生はこれを触ったのですか。どんな反応でした?」
今は妹のことは忘れて楽しもう。
池上は教師たちと一緒にバカな話に盛り上がった
終わり