入院生活の羞恥 09.5話 幼馴染の苦悩

 
 優奈の幼なじみである櫻井は今日も憂鬱な気分で帰宅した。
 あの元気だけが取り柄の優奈が生死をさまよったなんて今でも信じられなかった。
 あまりのことでどうすればいいのかわからない。見舞いに行く勇気もない。
 ただ時間だけが過ぎていった。

「ただいまー」
 そんな暗い気分で自宅の玄関を開け、靴を脱いだ。
 すると見慣れた靴が置かれていることに気がつく。

「あ、兄貴。珍しく帰っているんだ。兄貴も家が近いんだから寮なんて入らず家から大学病院に通えばいいのに…… って大学病院?」

 優奈が入院している病院に兄貴は勉強していると聞いたことがある。
 もしかしたら、なにか知っているかもしれない。
 そう思った弟は藁にもすがる思いで居間へと急いだ

「よお、おひさ」
 兄はニコニコしながらテレビを見ていた
 機嫌もいいようだ。
「優奈が大学病院に運ばれたんだけどなにかしらないか。兄貴はあそこの大学病院で勉強しているんだろ」
 弟は久しぶりの再開の挨拶もなしに要点を言いまくる。

「優奈って近所に住んでいる石井さんだろ。小学生の頃はよくうちに遊びに来ていたっけ。あの時から可愛い子だったよな」
 弟の真剣な声をからかうが如く兄は適当な受け答えをした。

「兄貴、俺は真剣なんだよ」
「あー、悪い悪い。優奈ちゃんとは昨日会ったよ。教授と一緒に診察に立ち会った時にばったりであって驚いたのなんのって。だって優奈ちゃんあんな格好だし」
「で、どうなの。元気だった?治るの?」
「そんな立て続けで質問するなって。リハビリに相当な時間はかかるだろうけど数ヶ月もすれば立つことぐらいは出来るようになると思うよ」

「はあ、よかった。って優奈の診察に立ち会ったの?」
 無事と聞いてほっとする弟だったが、兄が診察に立ち会ったと聞いて思わず質問をした。
 この兄が優奈の胸を見た可能性がある。この仮説はにわかには受け入れられなかった。

「うん。優奈ちゃんは俺のことに気がつかなかったみたいだけどね」
「で、兄貴は見たの」
「なにを?」
「ゆ、優奈の胸とか」
「胸どころか全部見たよ。だって診察は全裸だし」

「ぜ、全裸ぁ。全部脱がして診察するの」
 驚きのあまり大声を出す。
 診察を見たと言ってもシャツを少しめくって見ただけとか最悪でもおっぱいを晒して程度だと思っていただけに予想外の答えに驚く。

「あの病院がそのあたり容赦無いのは有名だろ。入院患者の診察は殆ど全裸と言うよ。外来患者でもパンツ一枚が普通。でも、そのおかげで優奈ちゃんの全裸が見られたんだよなぁ。あの小さかった優奈ちゃんがあんなに女らしい体になっていると思わなかったよ。うんうん」
 弟も優奈の裸は何度と無く想像したことがある。
 胸の形は大きいか小さいのか。
 セーラー服の隙間から不意に覗かせる白い肌はいつも心を惑わせていた。

 もちろん優奈とは幼なじみ以上の関係になることはありえないのは理解している
 裸を見る機会は永遠にないと思い諦めていた
 だがそれをこの兄はみた。嫉妬とも言える感情を覚える

「でも兄貴はまだ学生で医者でもないのに患者の裸とか見てもいいのよ」
 どうしても納得がいかず兄を攻めるような口調で話す

「逆、逆。学生だから色々なタイプの患者を見ないといけないの。あの大学病院の患者はそういう役目。つまり裸を学生に見せる義務があるの。優奈ちゃんだってその義務にしたがい、かなりの人数に裸を見られているはずだよ」
 兄は何を馬鹿なことをと言わんばかりの呆れ顔で話す。

「そんな沢山の人に裸を……兄貴は優奈に悪いとかそんなことは思わないの。可愛そうだよ」
「そんなことイチイチ思っていたら医者なんてやっていられないからよ。患者は病気を治すのが第一なんだから裸を見られるぐらい我慢してもらわないと」
「そんな」
「まったく何をショック受けているのか。そもそも優奈ちゃんは毎朝全裸で足を開いて診察を受けているんだぞ。今更見られたも何もないだろ」
 弟は顔を真っ赤にして俯いた。
 全裸検査も意味わからないが足を開いて検査なんてもっと意味がわからない。
 そんなことをすれば色々見えてしまうじゃないか。
 
「そうだ。お前はまだ進路を決めていないんだろ。いい機会だから医者を目指せよ」
 弟は高二になった今でも進路を決めかねていた。
 医者が大変な仕事なのは自分がよく見てきたからだ。
 高校に入ってからはもっと楽に仕事をしたいと思う気持ちのほうが強くなり、実際に別の道を探し模索していた。

「で、いい機会って何?」
 兄の言葉に弟は反応した。兄がどこか含みがある顔をしていたからだ。
 「優奈ちゃんのリハビリは長期間掛かる。どう見ても数年単位だろう。つまりお前が医学生になれば優奈ちゃんの診察に立ち会う可能性がでてくるってことだ。見たかった裸が見られるぞ」
「別に見たいわけでは……」
 とは言ったものの確かに優奈の裸は見たかった。
 だがそんなことのために自分の進路を決めていいのか。

「こういうのは役得と考えないとダメだぞ。俺だってこの道に入らなければ優奈ちやんの裸なんて見ることは永遠になったんだし。まぁ見られる側にとってはたまらないだろうけどさ。ははは」

 悪魔にも似た兄の誘惑に逆らえるほど弟は大人ではなかった。