入院生活の羞恥 10話 病院の水

 
 午後2時。優奈の個室部屋
「僕の掛け声で移すよ。イチ……ニイ…のサン」
「はわわわ」

 高木がお約束の掛け声を出すと優奈の体がすっと隣に置かれた移動ベットへ移された。
 比較的スムーズな移動だったが彼女の口からおっかなびっくりの声が漏れる。

「大丈夫ですか」

 高木と一緒に移動の手伝いをした初対面の女子学生が心配そうに眺める。
 ベッド間の移動は基本スキルだったがそこはまだ学生。
 実際に上手く行ったかどうか判断がつかないようだ。

「ええ、全然大丈夫。ブイブイ」

 優奈は動くほうの腕でVサインをしてみせた。
 女子学生から安堵の息が漏れる。

「じゃいきましょうか」

 高木がベッドを押すとスルスルと滑らかにベッドは移動し始めた。

「うわー気持ちいいーー」

 外出ではなくただの病院内の移動だというのに優奈の心は喜びに満ちていた。
 個室という閉鎖空間ではない。普通に人が歩いている場所に来ただけで日常に戻ったような感じがした

「担当医の許可が出たら車椅子で庭まで行ってみますか」

 高木がそう言うと優奈は笑みを見せる。
 事故にあってから結構な日が経ったがようやく希望の光が見えてきた。
 上機嫌ですれ違う人たちの顔を見ていたが先に進むにつれて、彼女の顔がみるみるうちに曇っていく。

(え、この順路は…… まさかまたあそこなの?)

 目新しい廊下が終わり、増築前に使っていた古い建物に入る。 
 急に照明は暗くなり辺りはボロくなっていった。
 ここは老人たちの入院患者が多い病棟。
 向かう先には既に10人ほどの呆けている老人たちが廊下に集められていた。

 彼女はここに来たことがある。この先には青いビニールシートが引かれた大きな元待合室みたいなスペースがありそこで患者の体を洗っているのだ。
 ただしその場所は風呂場ではなく普通の通路の一角なので遮蔽物も何もない。
 とても若い女子が裸になる場所ではなかった。

「ごめんね。意識がなく要監視な人はここで体を洗うことになっているんだ」
 
 優奈もそれはわかっていた。
 前回来た時は自分の意識も混濁しており目が離せない状態だったのは間違いなかったからだ。

 元受付前の待合コーナーだけあってスペースはとても広く、看護師たちが10人近く集まってもまだ余裕があった。
 これだけサポートの人がいれば、何があってもすぐ助けられる。
 それは意識レベルが低くなった老人たちの安全を考えても必要なこと。
 まさに理に適った理由ではあったが、若い女子がただの廊下で全裸に剥かれることに抵抗感を持つなというのはあまりに無理だった。

「優先。お願いします」
 
 後ろから声がしたと思ったらベッドが横に移動される。
 どうやら体調の悪い患者を優先させるシステムのようだ

(ひい)
  
 優奈は悲鳴を出しそうになった。
 真横を通過していくベッドには60代ぐらいの意識レベルが低そうな男性。
 その男はパジャマも下着も付けていない完全な全裸体だった。

 男の大きなシンボルをモロに見てしまった優奈は頬を赤らめながら今の状況をようやく理解した。
 前回は気が付かなかったがここは男女の区別すらない。
 本当に効率と安全だけを重視した空間なのだと。

「○○さん。僕達も準備しておきましょうか」

 高木がこの空間の主らしいベテランの女性看護部長に聞くと優奈の心臓がドクンと鳴る。
 準備とは裸にすることに決まっている。いくら意識がないとは言え、10人以上いそうな男の前で裸にされる。 
 到底受け入れられることではない

「まだいいわ。もう少し掛かりそうなので」

 優奈の年齢に配慮してくれたのか看護部長は見逃してくれた。
 どのみち脱がなくてはいけないことには変わらないのに優奈は心の底からほっとした。


「こんにちわ」

 突然、老人だらけのフロアに場違いなキレイな声が聞こえた。
 先ほどいた全裸の男性は先に行き、真横にはベッドに乗せられた見知らぬ20歳ぐらい長い髪のお姉さんがいた。
 体には白いシーツを掛けられているが肩の素肌が見えておりパジャマは既に着ていないようだ。

「え?あ、どうも……」

 この病院に来てから初めて出会った女性の入院患者に優奈は面食らう。
 人見知りとかには無縁の性格だったが不意を付かれて反応できない。

「初めて見る顔ね。いつから入院しているの?」
「えっえっと一週間ほど前からです」

 焦りながら答えると女性はニコリと笑って話をつなぐ

「じゃここに来るのも初めてだよね。びっくりしたでしょう」
「ええ」

 本当は二度目だがビックリしているのは事実なのであえて口にしなかった。

「まぁ今に慣れるわ。辛いのは最初だけだから」

 女性は何処か遠い目で語った。
 優奈は彼女が自分より遥かに状態が悪く、そして長くここにいることを悟った。
 思えば彼女は一度たりとも体を動かしていない。
 自分と同じ介護5。いや上限が5というだけでおそらく比べるのもおこがましいほどの差がある


「そろそろ準備してください」

 看護部長の声が聞こえると横にいた見知らぬ男性看護師の手が女性のシーツを掴みぱっと取り払う。
 周りには老人や看護学生の男性も複数いるのになんの配慮もない動きだった。
 
「あっ」
 
 優奈の視界に突然メロン型の巨乳が飛び込んでくる。
 まったく動いていないのにシーツを取った瞬間ぷるんと震えた気がした。

 女性はこんなこところで全裸にされたと言うのに顔色一つ変えなかった。
 シーツを外した男性看護師も患者の秘部が露わになったと言うのに何も動じない。
 それはまるでこの病院のあるべき姿を表しているかのようだった

(ああ……)

 しかしそれを見せられている優奈は冷静でいられない。
 彼女の体は贅肉もなく肌は真っ白だった。いや白いと言うより肌色がよくない。
 健康そうで男好みの巨乳と、病人らしさを隠しきれない細い手足はなんともアンバランスでインモラルに思えた。

(生えていない? ううんそうじゃない。処置されているんだ)
 
 秘部にはあるべき陰毛が一切なかった。
 ぷくっと膨らんだ肌色の左右の丘と鋭く落ち込んだ一本の谷がなんとも神秘的に見えた。

 か弱い女性の体とはここまで美しいものなのか。
 もし男性なら誰もが守ってあげたい。抱きたいと思うだろう。
 同姓でありながら優奈も彼女の体から目が放せなかった。


「そこの学生たち。こっちに来なさい」

 高木が呼ばれて全裸の彼女の側まで行く。
 病状の説明なのか裸に指を指しながら難しい話をしはじめた

「ごめんなさい。見苦しいものを見せてしまって」

 複数の視線の晒された全裸の女性が優奈に向かって謝る
 しかし優奈は必死に首を振った。
 見苦しさなんて欠片もなかった。体の美しさもさることながらこんなところで裸にされても全く動じない精神力。
 どれをとっても優奈が持っていないものだった。

「とんでもないです。ちょっと上手く言えませんが人として立派だと思います。自分なんてちょっと裸にされただけでみんなに迷惑かけてしまうというのに」
「ふふ、ありがとう。でも私はそんな大層な人間じゃないわ。ただここの水に慣れただけの元大学生よ」


 そう言ってる矢先に彼女のベッドが動く。
 順番が来たらしい。別れの言葉も名前も聞くこと無く視界から消えた。
 向かう先は人が沢山いる体を洗うスペースの場所。

 全裸のまま男だらけの中に連れて行かれるのを見て凄い女性だったと改めて思った。
 それに比べて自分はなんてちっぽけな女なのか。
 あそこを覗かれただけなのに泣き叫んで親身になってくれた学生も傷つけた。
 人としての器の違いを見せつけられた気分だった

「そろそろ準備するね」

 ようやく順番が近づいたのか高木は優奈のパジャマ型のローブに手を掛けて胸をはだけされた。
 先ほどの女性とは比べ物にならないささやかな乳房が丸見えになる。
 ここまでは高木によくやられた行為。

 だが今日はこれだけでは済まないのはわかっていた
 そして、そのことを表すかのように高木はローブの下部分も開け完全に体を露出させる。

 高木に全裸を見せたのは初めてだった。
 先ほどの女性と同じ陰毛が剃られてツルツルの割れ目。そこに入れられた一本の尿道カテーテル。
 医療知識がない家族が見たら卒倒するような悲惨な状態だったが当然高木は何も驚かない。
 見なくてもわかっていた下半身の状態を確認しニコリと笑うながらいう。

「大丈夫ですか」
「え、えぇ」

 羞恥のため頭の中で天井がぐるぐる回っているような気がした
 つまりまったく大丈夫ではなかったが、それでも気丈にそう答えた。

 高木はベッドの下に付けられた尿袋の日付を見てどこかわざとらしい声を出す。
「おっといけない。朝、交換するのを忘れていました。今から外しますので少し我慢してくださいね」

 外す?なにを?。そう思っている矢先に両膝が立てられ大きく開かれた。

「ちょ、ちょっとなにを」

 焦る優奈。彼女の足はちょうど人が多い方を向けられていた。
 全裸のまま足を開かされれば、向こうから丸見えになることでは明らかだった。

「なにって尿管カテーテルを抜くのですよ。本当は朝やる予定だったのですがすっかり忘れていました。入浴前にやらないといけないので今やっておきますね」

「や、やめてこんなところで」


 動かない足を閉じようとするが高木は難なく両膝を開き、頭を股の間へ入れる。
 目の前に広がる優奈の恥ずかしい割れ目を左右にいっぱいに開き、その初々しい内部を確認しながら人差し指をそっと侵入させた。

「や……やだぁ。」
 大事なところに男のゴワゴワした指先を感じた優奈の口からかすれた悲しみの声が漏れる。 
 昨日の決意。先ほどの覚悟なんて軽く吹っ飛んでいた。
 男性にあそこを覗かれて処理されることに意味を嫌と言うほど悟った。

「ちょっと我慢してね」
 謎の台詞が聞こえると同時に優奈の体がビクンと若鮎のように跳ねた。
 高木は彼女の秘部に隠れていた可愛らしい肉豆をむき出しにし指で弾いたのだ
 麻痺している体でも反射はあるのか事故後では一番の反応だった。

(何?今の)

 優奈は今何されたのか最初はわからなかった。
 だが下半身からジワリと性の信号が広がっていくのを感じ取り、そして悟った。
 女の部分に対するありえない暴力を

 いくらなんでも今のはない。こんなのが治療に必要のわけがない。
 猛抗議しようと思っていたら既に高木は優奈の体から離れている。
 手には見慣れたあのおぞましい尿道カテーテルがあった。
 いつの間に抜いたのか優奈は全く気が付かなかった。
 あれは入れる時も抜く時も激痛が走る。大の大人でも涙目になるのだ。気が付かずにやるなんて不可能はずなのにどうして。

(さっきのはわざと?)

 全裸体であることも忘れてじっと高木を見つめた。
 かなり胡散臭い優男。オッパイを露出させてから話すという謎の方針を持つ学生。
 先ほどの暴力にしても何を突然やるのか全く読めない。
 それなのに心のどこかで信頼してもいいかもという気持ちが生まれていた。