逮捕された姉

26話 愛の思惑



 独房に張り詰めた空気が漂う。それはあまりに異様な光景だった。
 普通はこんなことにならない。刑務官は絶対的な支配者であり囚われたモノは虐げられるものだからだ
 ましてや今は朝の全裸検査中。この部屋にいるのは服を着た女と濃い陰毛を曝け出した全裸の女の2人だけ。
 普通ならそれだけで絶対的な差が生まれるはずなのに、ご立派な制服を着た刑務官の頬に汗が流れる。
 この道何十年のベテラン刑務官の神崎ですら目の前の裸体から視線を動かせない。

 28歳という女ざかりの年齢に相応しい大きく熟した果実のような乳房。
 知性や気品を感じさせる表情。学生時代は県下屈指の名門女子校に通っていただけのことはある。
 顔と表向きの経歴だけ見れば愛は冤罪に巻き込まれて身体検査されている哀れな女性に見えるかもしれない。
 だがしかし、実際は逆。こんな2人しかいない空間で裸になれと命じた人間が試されていた。
 この人物と2人っきりでいることの意味と重荷を感じずにはいられない。

「ふふっ。『先生』どうしまして。顔色が悪いですわよ」
 愛は妖艶な笑みを浮かべた。全裸もまるで隠さない。
 それは自分に対して確固となるプライドを感じた。
 実際に彼女がシャバに戻る日には何十人という出迎えが来るだろう
 そんな人物を毎日裸にしている刑務官だと知れば何もされるかの恐怖が付きまとう。

「尻を突き出しなさい。ガラス棒検査をやります」
 神崎は毅然とした態度を取った。
 ここで引けば部下たちに示しが付かないし安全にも関わる。
 彼女を抑えることは管理部門トップとして必要なことだった。
 
 ガラス棒検査と聞いた愛は一瞬だけ顔を歪ませたがすぐに四つん這いになった。
 そして腰を持ち上げ顔を犬のように床にこすりつけ、股ぐらのものを自らの両手で全て曝け出した。
 彼女はたった半年だが刑務所にも収監されたことがある。
 そこでみっちりと教えこまれただけのことはあり、お尻の持ち上げ方や足の開きも申し分ない。
 ぱっくりと開かれた肛門や黒ずんだ性器を見事なまでに刑務官に向けて捧げていた

 神崎は袋から標準サイズのガラス棒を取り出し、いつものように入りやすい角度や狙いを定めようとしたが、その作業はあっさり打ち切られた。
 これが4番のようにガラス棒検査になれていない穴の場合は細心の注意を払いながら『広げて』行く作業も必要だが愛の肛門の有様では必要ない。

 神崎は大きく開ききっている肛門にガラス棒を突っ込み、時間を掛けて直腸を探る。
 入り口こそ緩いが、中は粘膜に覆われておりガラス棒の挿入を防ごうとしていた。
 もちろん、そんなことではガラス棒は止まらない。異物がないかと奥へ奥へと進めるが何の手応えもなかった。
 それは異物だけではなく、便すら直腸付近にはないことを表していた。
「ツゥ!」
 ガラス棒が最奥部に到達すると愛の頬から冷や汗が流れ落ちる。
 そう。いくら慣れていても人として最も隠すべき肛門を差し出して中を探られる屈辱からは逃れられない。
 過酷な刑務所生活をした愛ですらそれは変わらない……はず。
 そんな一本の希望の糸を手繰る気持ちで神崎は愛の肛門を探り続けた。


「ありがとう御座いました」
 検査が終わると、神崎は愛を全裸のまま土下座させ、検査のお礼を言わせた。
 普通ならこんな非人道的なことはしない。土下座をさせるにしても必ず着衣をしてからやる。
 だが相手が愛となれば、そんなことも言っていられない。
 これだけのことをしても抑えられている自信が持てなかったからだ。

「今から面会者が来るので用意しなさい」
 そう言うと愛は顔を上げ、着衣を開始した。
 野暮ったいボロいパンツを足に通し、ふるびたショートズボンと白の体操服のような揃い上着を着る。
 動作はスムーズで引っ掛かりがない。先程のガラス棒検査と全裸土下座の効果がもう消えていることを感じずにはいられなかった

 神崎は普段よりもきつく手錠を締めて腰縄も固く縛った。
 これは本来刑務官が持ってはいけない感情。恐怖の現れ。
 むろん愛が移動中に暴れるなんて考えられない。この頭脳明晰な女性はそんな何も生まない行動はしない。
 それでも恐怖心が尽きまどった

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 面会室に入ると神崎は愛の手錠と腰縄を外す。
 そして椅子に座り会話内容記録のための準備を始めた。
「仕事熱心なことで」
 愛がボソリと呟く。面会者の会話を聞かれるのは当然のこと。
 だからやばい話をするわけがないとバカにしているのだ。
 
 神崎はそんな100も承知な嫌味を軽く聞き流し、面会者が入ってくるのを待った。
 すると部屋を分けるガラス板の向こうの扉が開き女性が入ってくる
 女性の髪は長く年齢は愛よりかなり若いだろうか。社会人になったなりぐらいの年に見える

 両者がガラス越しに椅子に座る
「お久しぶりね。例の件は調べてくれた?」
 愛が言うと女性はやや怯えながらも真が通った声を出す。
「はい。大学内を調べましたが特に問題はありませんでした」
「そう。なら警備体制はどう?」
「元々うちの学校は過去の事件があったせいで違法物の持ち込みが厳しくその心配もないかと……あっ」
 女性はそこまで言ってしまったという表情を見せるが愛は気にする様子はない。
 それどころか笑顔すら見せた。
「ふふっ、5年以上前の逮捕劇の影響が今でも残っていると。それは愉快ですわね」

 神崎は会話内容を書き込みながら面会者名簿を開く。
 面会者の女性の名は西山梢子。綾女子大学の4年生のようだ。
(え?)
 神崎は資料を見てふと繋がりを見つける。
 綾女子大学は愛が学生時代に在籍していた学校であり、4番が通っている大学とも近い位置にあった。

「あちらの学校のほうは?」
「現在調査中の報告を受けていますがやはりうちとは無関係のようです」
「そうですか。ありがとう。また何かあったら教えてくださいね」
 愛は珍しく屈託のない笑顔を見せながら面会を終えたことを告げようとすると梢子が焦ったように話し出す
「私、お嬢がすぐに帰ってくることを信じていますから……あのその……頑張ってください!」
「ありがとう。また会いましょう」
 愛が手を上げると神崎は軽く俯き、面会室から連れ出した。

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 神崎は愛を面会室の隣にある身体検査室に連れていき、面会後の規則通りに脱衣を命じた。
 愛はためらいもなく全裸になり直立不動のポーズを取った。
(お嬢か……)
 神崎は先程の面会者を思い出す。
 梢子という女性は愛を信頼し陶酔している感じすらした。おそらくそれは彼女だけではない。
 愛に関わった友人や組織の末端に至るまでお嬢の行動に注目し喜んで行動する。
 それだけの魅力と権力が愛にはあった。

「これ以上好きにはさせない。絶対に」
 愛の裁判はまだ終わっていなかった。数年前は何とか有罪にし刑務所送りに出来たが今回はかなり苦しい。
 このまま無罪放免となり、再び組織の全権を取り戻す可能性も否定できなかった。
 愛は神崎の決意に対して何も答えない。
 全裸のまま、その妖艶な眼差しで見つめてくるだけだった。

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