逮捕された姉

27話 弟


 姉が逮捕されてから1ヶ月以上が過ぎた。 
 本来なら家族が面会に行くはずだが実際に姉のもとに行ったのは弟だけだった。
 それだけ竹田家が置かれた立場は微妙だった。
 実家住まいの娘が逮捕されれば当然のごとく家族が疑われる。
 黙認。若しくは一緒にやっていたのではないのかと。
 そんな当たり前の疑いを掛けられた結果、何度も家宅捜索が行われ両親や弟には尿検査が強要された。

(それでも両親の疑いは晴れなかった。もし姉に続いて両親まで逮捕されたら僕はどうすればいいのだ……)
 弟こと博史(ひろし)は昼休みだと言うのに湿気た顔をしながら考えていると悪友の和宗が近寄る。
「なに辛気臭い顔をしているんだよ。また家族のことが考えていたのか。心配なのはわかるがお前が悩んていても仕方がないだろ」
 和宗はサバサバした性格で友人の姉が逮捕されても全く気にせず関係を続けてくれた。
 彼がクラスメートを説得してくれたからこそ博史はまだ学校に通えていると言っても過言ではなかった。

「そうはいってもなぁ。やはり誰も家にいないというのは辛いよ」
 両親は逮捕こそされていないが家には戻らず警察の監視の目があるホテル暮らしをしていた。
 今あの家で暮らしているのは博史のみだった
「それなら姉に会いに行けばいいだろ。まだ1度しか面会していないんだろ。そろそろ行ってやれよ」
 和宗は少し度を越したエロ好きが玉に瑕だが成績はよく頭も切れる。今やるべき最善の行動をいつも教えてくれた。
 普段なら良き相談相手でもあったが今回ばかりは事情が違った。
「でも僕が行ったらまた姉さんが恥ずかしい目に合うかも知れないし」
 初めて面会に行ったあの日。姉は刑務官の前でズボンを下ろしていた。あんな辛そうな姉はもう見たくなかった。

「前も言ったが面会後の身体検査はお前のせいじゃないって。毎日必ずやられていることなので面会に行ってもいかなくても変わらないぞ」
「でも僕が部屋から出た直後に姉が肛門を調べられたと思うと悔しくて」

 和宗は拘置所内で行われていることを色々と教えてくれた。
 土下座の作法。腰縄手錠による拘束。毎朝の身体検査。そしてガラス棒検査のこと。
 あの頭脳明晰で尊敬する姉が毎日のように肛門を弄られているかと思うとなんとも言えない変な気持ちになった。

「お前の姉は大学生で大人なんだし案外したたかにやっているかもしれないぞ。肛門にガラス棒を入れられることも納得しているかもしれんし」
「あの姉さんが?ないない」
 姉はプライドが結構高くて気が強い性格をしていた。
 手錠を掛けられてメソメソ泣いて過ごしているとも思えなかったが、屈辱の生活を受け入れているなんて考えにくい。

「うーん。見せようかどうか迷ったけど、この前こんな記事があったんだ」
 和宗はカバンから週刊誌を取り出す。赤い文字。下品の煽り文句
 コンビニの隅っこに置かれていそうな低俗な週刊誌だった。

「僕がマスコミに懲りているのは知っているだろ。どこも適当なことばかり書くし」
「まあ聞け。これがよくある机記事ならわざわざ見せたりしない。だけど実際にお前の姉らしき人物に取材した記事だったとしたらどうだ」
 博史は驚きのあまり表紙を見直す。確かにこの雑誌名には記憶があった。
 ここの記者と名乗る女性と話をしたこともある。
 結局すぐ家から追い出したが、もしかしたら真剣に事件のことを考えてくれていた人物だったのではないのか。
 本を受け取った博史は期待を胸に特集記事のページを開くが。

緊急逮捕!美人女子大学生A、屈辱の全裸検診 !!
朝の挨拶は土下座。考査訓練の真実
決意の全裸肛門検査。肛門を晒しながら冤罪を訴えるA

 低俗な見出しを見て博史は怒りがこみ上げてきた。
 Aが姉である事は間違いなさそうだが、事件の話やインタビューとかもなく、ただ拘置所生活を面白おかしく書いているだけの記事に思えた。
 いくらエロ好きでも、こんな雑誌を買うのは勘弁して欲しい。
 そんなことを考えていると和宗が言う。

「お前はこの手の雑誌を読みなれていないからわからないだろうけどこの記事は凄いぞ。いつものとは全く違う」
 と、言われても博史にはよくあるエロ週刊誌にしか見えなかった。
「例えばこの3ページ目だ。背中と肩しか写っていないが検査を受けているシーンがあるだろ。普段のこの雑誌ならこんなまどろっこしいことはしない。最低でもおっぱいを載せるはずだ」
「おっぱいって……」
 自分も見たことがない姉の胸が雑誌に載せられる。そんなことあるはずがないと言いたかったがなぜか否定できなかった。

「記者はこの特集に自信を持って書いているのが伝わる。姉の話も裸体検査がどうこうと性的なセンセーショナルなことばかり書いてあるが、それらは全て被害者視点で語られている。ここまで徹底するってことは冤罪の証拠を掴んでいるのかも知れない。おそらく連載が進めながら色々とバラしていくつもりなんだろう」 

 雑誌に疎い博史にはそのあたりの感覚はわからない。
 だが普段からこんな雑誌ばかり読んでいる和宗の言葉にはそれなりの説得力があった。
 確かにその考えが正しければ、姉が記者に協力しているように見えるのにも説明が付く。

「もう一度、会って話をしようと思う。姉さんにもこの記者にも」
 博史は逃げてばかりじゃ何も解決しないことを悟った。
 やはり行動を起こさなくてはならない
「それがいい。あと、この記者はお前の姉の手錠腰縄姿や全裸検査中の写真を持っているはずだから一度見せてもらえ」
「……なぜ?」
 和宗がエロいことを考えるいつものだらしないモードの顔をしながら言ったが、博史には意味がわからなかった。
 検査中の写真があるってことは記者が姉の裸の写真を持っている可能性が高いのはわかる。
 だが、わざわざ見る必要がどこに。

「だって博史より先に姉のおっぱいを見たら悪いだろ?この雑誌は発売日に買っているんだし急がないとな」
 和宗は家にも遊びに来たこともあり姉とも面識がある
 それなのに姉の手錠姿や裸が雑誌に載る日を何処か楽しみに待っているような顔をした。
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