ヌードモデルに選ばれた姉

34話 姉の一日


 グラウンドに着くと、姉は軽く準備運動を始めた。

 手を伸ばしながら浅い屈伸。下着なしの違和感がどこまであるかを確認する。

「意外と大丈夫そうね」

 姉はほっと安堵の息を洩らした

 普段はダサいと評判の白の体操服に膝上まであるブルーのショートパンツは予想外にいい仕事をした。

 後ろを見てもお尻の線は現れていない。スカートの場合はお尻に張り付くことがありバレるのではないかと常に気をつけていたが、このショートパンツなら心配はない。

 あとはブラに押さえられていない乳房の問題だが、そこまで大きくないのでその心配もないはず。そう楽観していると。


「まったく。ショートパンツを履くなんてヌードモデルとしての自覚が足りていないじゃないの」

 背後からいきなり声を掛けられる。白鳥だ。

「そ、それってどういう意味。まさか脱げなんて言うんじゃ」

 思わず声がうわずった。体に跡が付くから下着禁止なんてわけがわからないことを言い出す女だ。

 そのぐらいは言い出しかねなかった。

「ふふっ。今は体育の授業中なのよ。下半身丸出しで走れなんて言うはずがないじゃない」

「……」

 にわかには信じられなかった。今の白鳥は何を言い出すかわからない。

「それに今のあんたじゃ校外の路上で脱ぐなんて出来ないでしょう。まったくヌードモデルになってからもう1ヶ月以上は経つというのになにをやっているのやら。今年度のヌードモデルは1年のメガネもストリーキングを完走できなかったし、もう頭痛いわね」

 白鳥はわざとらしく手を広げてお手上げのポーズを取る。 

「ストリーキング? ってまさかあんた」

 聞き捨てならない単語に姉が反応する。

「合宿も近いし一度ヌードモデルの特訓状況を確認したくてね。みんなにストリーキングをやらせてみただけよ」

「あんたそんなことまでやらせているの。酷い。人に見られたらどうするのよ! 可哀想じゃないの!!」

 ヌードモデルに慣れさせるために様々ことをやらせているのはわかっていたが、まさかストリーキングとは。

 その中には1年生もいるという。まだ初々しい新入生が涙を流しながら全裸で町中を走ったと思うと、会ったこともない生徒にも関わらず腹がたった。


「心配しなくていいわよ。今日のマラソンコースでもある土手の道を早朝に走って貰っただけだから騒ぎにはなっていないはずよ」

「騒ぎになっていないからいいって話じゃないでしょう!裸を見られたことが可哀想だと言ってるの!」


 確かにあの土手は人通りが少ない。

 早朝なら老人たちの散歩やジョギングをしている人ぐらいなので目撃者はごく少数のはず。

 でも逆に言えば確実に何人かには見られたことになる。

 やはり許せる話ではなかった

 

「ふふっ、女性の体はね。見られることによって美しくなるものよ。佳子だって本当は理解しているはずだわ。だってすでにあれだけの美術部員たちに肌を晒したんだから。これから何百人。何万人に裸を見られればどんなに美しくなるかも……」  


「触らないで!!」

 姉は頬に手を伸ばしてきた白鳥の手を払い飛ばす。

 やはりこの女は狂っている。どう考えてもまともじゃない。


「まったく。何を怒っているのやら。やはり佳子は脱ぐことの抵抗感をなくさないと駄目ね。そんなことでは新人の2年や他の『みんな』に笑われるわよ」

「だ、誰が、そんなことを」

 ようするに白鳥は一般生徒をいつでも裸になれる使い勝手のいいモデルにしようとしている。

 話を聞く限り1年はまだ抵抗しているようだが、2年はすでに裸になることに受け入れているようだ。

 こんな洗脳のようなことが認められるはずがない。

 姉は更に食って掛かろうとするが、

「集合ーーー」

 体育教師の掛け声があたりに響くと白鳥は楽しそうに姉のもとから去っていった。


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 それから10分後 

 姉はヘトヘトになって土手を走っていた。

 普段ならなんてことはない距離。だが無意識のうちにやってしまう膝を擦り含わせるような内股走りで長距離を走るなんて土台無理な話。

 もちろんこれはノーパンで心もとない下半身を隠そうとする気持ちの表われだったが、そんな走りをすれば当たり前のように体力が消耗していった。

 気になるのはお股だけじゃない。乳は予想以上にみっともなく揺れ、お尻も恥ずかしそうに揺れまくった。

 

「ちょっと大丈夫?」

 姉の状況をみかねた友人の育江が声を掛ける。

「えぇ」

 姉は思わず土手の道の上で座り込んだ。

 誤算だった。ノーパンノーブラでのマラソンがここまで精神力を持っていかれるとは思わなかった。

 胸が大きくなくても長時間走れば不快感が半端ない。それに……


 姉は道のそばでカメラ台を睨みつける。

 ここまで来る間にも何台もカメラがあった。

 バードウオッチングでもしているかのようだったが、どれもが姉が近くに来るとレイズを向けられシャッターを切られた。

 そのたびに精神力体力ともに失われた。

 こいつらはなんなのか

 

「佳子。どうしたの。もう少し休んでいたほうが……ってえ?」

 心配する育江を尻目に姉は立ち上がる。カメラを弄っている30前後の小太りな男の前に行く。

 男は姉が文句を言いに来るのがわかっているはすなのにシャッターチャンスとばかりにノーブラの体操服を写し続けた。

「いい加減にして。なんなのよ。あんたたちは」

 姉は男のカメラを取り上げようとするが男は体格に似合わない動きをし、ひょいと避ける

「なにって。バードウオッチング。ほら鳥があんなに」

「よ、よくまぁそんな嘘を言えるわね。あんたたち駅前によく現れる盗撮魔の仲間じゃないの」

 この近辺で問題になっているネットに画像を上げる盗撮魔だと思い、問い詰めるが男は手を降る

「違う違う。あいつらはこんな目立つことしないって。俺たちはおこぼれを狙いにきただけ」

 姉がそう言うと男の視線がすっと胸へと移った。

 姉は羞恥で顔がカッと火照った。

 やはりバレていた。カメラが一斉に狙い撃ちしたからおかしいとは思っていたがバレバレだったのだ。


 姉が再び疑念の視線を向けると男がスマホを取り出す。 


「だから俺達は違うって。えっと見てもらったほうが早いか。あいつらはこんな画像が撮れるの。乳揺れの体操服姿で満足している俺達と全然レベルが違うだろ」

「これは……」

 男のスマホには土手の上を全裸で走る集団が写っていた。

 先頭には胸はさほど無いが筋肉質で長身な女子。その横には背は小さいが妙に巨乳なメガネを掛けた子。その後ろにも複数いる。

 全て顔にモザイクが掛けられていたが、先頭の2人は薄い陰毛すら晒しながら走っている全身像を見事に捕らえられていた。


 姉は食い入るように画像を見ていた。これは間違いなく白鳥がやらせたストリーキングの時の写真。 

 ヌードモデルに選ばれた生徒の人数が予想よりも多いことにも驚いたが、それより背後に小さく写っている女子のことが気になった。

 何処かで見た気がした。

「もっとはっきり写った画像はないの?」

「ないよ。この盗撮グループはいつも無修正で上げるけどこの画像だけは修正掛かっているんだよな」

「……」

 姉が固まっていると友人の育江が後ろから声を掛ける

「ねぇ。そんな連中無視して早く行こうよ。授業終わっちゃうよ」

「……ええ。そうね」

 姉はそれ以上問い詰めるのをやめて男から離れた。

 みっともない乳揺れの写真を撮られたのは屈辱でしか無いが、目の前の状況はもっと深刻だった。

 この付近には盗撮した画像をネットに上げるたちの悪い盗撮魔がいる。

 そいつらはどうやって知ったのか白鳥が行ったストリーキングの特訓風景も写真に収めてネットに上げている。

 それは果たして偶然なんだろうか


(ネットに裸を晒されることすら白鳥が言うヌードモデルとしての特訓だとすれば?)

 だが姉はその可能性を即座に否定した。

 白鳥だって女性なのだ。そんな女の敵とも言える盗撮魔に手を貸すなんてありえない。

 ありえないはずたが、それでもやはり一抹の不安が残った。

 なぜなら姉自身も一度校舎裏という外で裸にされているからだ。

 もし白鳥が盗撮魔と繋がっていれば、あのチャンスを逃すわけがない。

 あの時に撮られていたとすれば、すでに裸の写真が外部に流出。ヘタをすればネットに上げられているかも知れない。

 

 真夏も近いというのに姉はなんとも言えない寒気を感じた



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