第3部学校の制度 エピローグ
夜の美術室に電灯の明かりが灯る。
白鳥が椅子に座ると眼鏡を掛けた真面目そうな女子が俯きながら室内に入ってくる。
女子の背は小さく高等部の制服を着ていなければ中等部と勘違いする人がおかしくないほど子供っぽさを残していた。
「もう開放してください。お願いします……」
入るやいなや、女子はその小さな体を震わせながら必死に訴えた。
その声は暴力や争いと言ったものとは無縁の生活を送ってきたのを感じさせる弱々しい声だった。
「美香さん。ヌードモデルを辞めたいなら私より直訴の権利を行使して校長に頼んだほうが早いんじゃなくて。幸いあなたはヌードモデル。裸になって訴えるなんて簡単でしょ」
白鳥は部員以外の下級生相手の場合はさん付けで呼ぶ。
本来は悪意も何もない呼び方。それなのになんとも見下した有無も言わせない圧を感じさせる。
「いや……」
美香は真っ青な顔をして否定した。
少女にとって校長は遠目でしか見たこと無いが、それでも圧倒的な威圧感があった。
うちの学校の生徒なら誰もが恐怖と畏怖を覚える。
あんな男を前にして裸になって訴えるなんて誰ができようか。
「全く、あれいやこれいやと仕方がないわね。あなたはクラス委員長なんでしょ。もう少し自分の立場を考えてほしいものね。美香さん、脱いで」
白鳥は話の流れを完全し無視した脱衣命令を唐突に出した。
その言葉に戸惑いながらも少女は諦め気味に眼鏡を外す。そして制服を脱ぎだした。
体にはプラやパンツと言った下着類は一切着けられていない。上着と肌着とスカート。たった数枚脱ぐだけで少女は裸になった。
電灯の明かりが裸体を照らす。全裸体になっても少女の印象は大きく変わらない。
ただ胸が大人にも負けないほど大きかった。
体は小さく陰毛もない。割れ目の成長も遅い子供のよう。
だが乳房だけは立派なのはなんとも言えないアンバランスな感じがした。
「お願いします……もう嫌なんです」
美香は再び同じことを言った。体は隠していない。
ヌードモデルの生徒はいかなる場所でも命じられればすぐ裸になり恥部を晒す
白鳥の求めるレベルではないとは言え、この女子の体には既にヌードモデルとしての教えが浸透しているのが見て取れた。
高1の性器とは思えない子供のようなさくっと割れた1本の筋を眺めながら白鳥がフッと笑う。
「ふふっ。美香さん。あなたも知っているでしょう。この学校が融通がきかないことを。一度決まったものは変えられないのがルールですよ」
「知っています。でも嫌なものは嫌なんです。そもそもどうして私なのですか。もっと綺麗な生徒は他にもいるのに」
確かに美香は可愛らしくて小動物のよう。だが決して美人というわけでもない。
胸こそ立派だが女の美しさはそれほどでもない。モデルの素質という意味では佳子に遠くおよばなかった
「一つ教えましょう。悪いけど今のあなたの体は書く価値がさほどない。つまり本当ならここにいる資格がない生徒なんですよね」
「……価値がない? ならどうして」
美香は裸体を晒しながらキョトンとした顔をした。
「そりゃもちろん、あなたのクラスメイトの隆が強く推薦したのよ」
「え?うそ。だって隆くんは反対したって」
美香は目を大きく見開いた。あまりにも話が違いすぎた。
「そんなの嘘に決まっているでしょう。考えてもみなさい。本当に反対したなら部を休むなり辞めるなりして反対の意思を表せばいいだけ。でも彼はモデル当日にもしっかり来てあんたの裸を見たでしょ。それが答えよ」
虫も殺さない大人しい美香の顔に殺意が初めて乗った。
ヌードモデルに選ばれたからの数カ月間はまさに地獄、苦界だったはず。
彼女の体の上を通った男子の視線は何十人になるのか。白鳥には手に取るように彼女の苦しみがわかった。
「酷い……そんなの酷すぎる」
美香は全裸のまま座り込む。そして泣きじゃくった。
中等部の男子にまで裸を見せたのにそれが全て必要なかった。
あまりにも理不尽な話だった。
「美香さん。隆のこと憎いですか」
白鳥の質問に美香は静かに頷く。
「ふふっ。それならこれを見て」
白鳥は取り出したたスマホを見せる。
画面には全裸の女性が直立不動で写っていた。そうこれは白鳥が何時も持ち歩いている佳子が初めて肌を晒した全裸検査の時の画像
「この人は?」
いきなり無修正の裸体画像をみせられたと言うのに美香は躊躇いもなく、じっと見た
「この生徒は3年のヌードモデルである佳子。隆の姉よ」
姉と言うと美香が驚きの顔を見せる。
なぜ美術部員の姉がヌードモデルに?の疑問を聞く前に白鳥がいう。
「隆はせっかく才能があるのにモデルに対する敬意と言うか態度がなっていなくてね。彼に反省を唸らすために私が佳子をヌードモデルにしました。実の姉がヌードモデルになれば今までの行いを反省しモデルの心がわかる人物になると思ったのですが」
「駄目だったと」
「そうなのよ。隆ときたら実の姉の裸を平気な顔で書いていたわ。だから私は次の手を打とうと思うの。そこで美香さんに協力してほしいってわけ」
口八丁手八丁。白鳥はその豊富な経験を生かし美香を誘導する。
静まり返った校舎にふたりの話し声だけが聞こえた。
3部完