ヌードモデルに選ばれた姉

37話 公民館


 日曜日。モデル当日。
 
 町内の公民館は正面部分が筒抜けの透明のガラス窓が大量に使われていた。
 誰もがこの公民館を構造を見れば気がつく。ここが潰れたスーパーか大型のコンビニを再利用した建物であることを。
 地震の際は避難所として使うことも想定されており、50人以上は軽く入ることが出来た。
 とはいえ、普段はそこまでの人数は集まらない。
 今回も人は少ないとタカをくくっていた佳子だったが、この期待は見事に裏切られた。
 時間までまだあると言うのに既に30人ぐらいはいた。小学生低学年の子供も多く母親も目立ったが、最も目立つのは20代から40代ぐらいの男性がだった

「これは……」
 佳子は無意識にうちに上着に手をやる。
 今日は紺のブラウスに長ズボンとオシャレとは程遠い服装をしていた
 もちろんブラパンツ禁止のための苦肉の服装ではあるが、何かミスを犯しているような気がした。

「お、来たのか。今日はよろしくね」
 入るやいなや、お隣の旦那さんに挨拶されて佳子は大いに戸惑った。
 なぜならお隣さんは子供がいない夫婦二人家族だったからだ
 子供もいないのに、なぜここにいるのか。

「今日は来てくれてありがとう。いやぁこうして見ると本当に大きくなったね」
 今度は初老の気配を感じさせる鈴木さんがニコニコとして出迎えてくれた
 鈴木さんは町内のまとめ役と言われる年配の男性だった。
 揉め事の解決にも積極的で、実際に佳子も子供の頃、世話になったことがある。
 その時の恩は今でも忘れてはいない……が。

「佳子ちゃんも学校でヌードモデルをやっていると聞いてびっくりしてね。心配したんだよ。大変だったでしょう」
 鈴木さんはいかにも心配そうに話をしているが、何かがおかしい
 なぜ、ヌードモデルをやらされていることを知っていのか。
 そもそも、なぜここに呼び出されたのか。
 本当に心配してくれているなら、モデルの依頼なんてするはずがない。
 全ての辻褄が合わなかった。

「なぜそのことを……」
 彼女がストレートに聞くと、鈴木は何の躊躇いもなく喋りだす。

「この前来たヌードモデルの学生さんから聞いてね。今度新しく入った先輩がこの町内に住んでいるって。名前を聞いたら佳子ちゃんのことでびっくりしたよ」
「私のことを言った?誰なのですか」
「名前は知らないけど2年生だと言ってたかな。とにかく脱ぎっぷりが良い子でね。やって来て挨拶したと思ったら、そこの玄関でぱっぱっと全部脱いでそれじゃモデル始めましょうかと言うんだからビックリしたよ。いやぁあの学校の生徒さんはしっかりしている。いくらヌードモデルの勉強をしているからってなかなか出来ることじゃない」

 当日のことを興奮気味に話す鈴木の尻目に佳子は冷や汗を流しながら後ろを振り向き玄関前を見る。
 この公民館の玄関はガラス戸のせいもあり見通しがよかった。
 外は大通りに面しており車も歩行者も多く遮蔽物は何もない。
 もし、あそこで裸になれば何人の視線に晒されるか検討もつかない
 その2年生が何者かはわからないが、あんなところでわざわざ裸になるなんて正気じゃない。
 イカれていると思った。

「佳子ちゃんもヌードモデルをやってるならぜひ書いてみたくなってね。こうして呼んだわけなんだが」
「……正気ですか」
 佳子は思わず悪態を付いた。
 悪い予想があたり失望を隠しきれない。

「軽蔑してもらっても構わない。私は佳子ちゃんがこんなに小さなときから知っているし実際に親子ぐらいの年の差がある。気持ち悪いと思うのも当然だ。それでも私は君の裸を書いてみたい」
「今日はヌードではないはずです」

 気持ち悪いことを自覚しているだけタチが悪い。
 それならとばかりに、その目的が果たされないことを告げた。
「そうだよ。それそれ。学校とは話が通っていたのに美術部の部長が妨害した。どうしても君のヌードは駄目だと言うんだ。信じられるか?ヌードモデルなのにヌードはだめなんて」
「白鳥がそんなことを?」
 意図が読めなかった。
 白鳥は常に恥ずかしい目に合わせようとしているのに、なぜ今回に限って。
「そしたら白のYシャツ姿1枚ならいいって話になった。もちろん胸は見たかったが足はいくら見ても構わないと言われたから今日呼んだわけ……」
「は??」
 思わず佳子は話を遮った。
 自分が知らないところで、体を売買されているような気持ち悪さを感じる。
 恥ずかしい目に合わせるなら、いつものように全裸体を強要すればいいのに、それをやらない白鳥の考えも気持ち悪い。
 何もかもが気持ち悪い空間だった。

「Yシャツはこちらで用意した。男物で大きめだが新品だから心配しなくてもいいしテーマも既に考えてある。今日のテーマはずばり抱かれた男のシャツを着て余韻に思い耽る女性の姿。どうかね」
「……最低」
 ようやく彼女は現状を理解し始めた。
 鈴木は自分がノーブラノーパンであること聞いて、こんなテーマを思いついたのだ。
 もちろん教えたのは白鳥で間違いない。全裸にしない理由は未だにわからないし、知りたいとも思わないが、これもまた策略であるのは疑いようがなかった。

「着替えは奥の部屋でお願いします。こちらも準備がありますので」
 と、言って鈴木は男性たちと一緒に丸い机を部屋の中央に置き始めた。
 机はやや低めのごくありふれたものにしか見えない。
 しかし下着もなくYシャツ1枚であの上に座ればどうなるか。
 足先に座る人たちからはあそこが覗きたい放題になるのは間違いなかった。

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 着替えは1分もかからず終わった。
 確かに胸は晒さない。露出範囲だって水着のほうが大きいくらいだ
 大きめの白のYシャツは太ももこそ丸見えだが、割れ目やお尻はなんとか隠してくれた。
 そっと歩けば見えることはない。
 だがそれも机の上に座れば完全に破綻する。見ようと思えば誰もがあそこを見ることが出来る。
(どうしよう……)
 彼女は明日からどんな顔をして近所の人たちと挨拶すればいいのかわからなかった
 自分のあそこの形を知っている人たちとどう接するべきなのか。
 何度も考えたが、やはり答えは出なかった

 Yシャツ1枚の姿で大部屋に入ると40人ぐらいの人数が集まっていた。
 そんな中でパチパチパチパチと1人の拍手が聞こえる。
 やっているのは小学2年ぐらいの女の子だった。
 悪意なんかない。女の子は屈託の無い笑顔を見せていた。
 エロ目的の男性を睨むのは簡単だ。悪意を持つ女性も変わらない。
 しかし無垢な女の子にはどんな顔すればいいのか。

 そんな戸惑う佳子に気がつくことなく鈴木が中央へと誘導する。

「佳子ちゃん。この机の上に座って」
 もうここまで来たら後には引けない。やや諦めの表情を浮かべながら佳子は机の上に乗った。
「そうそう。次は左足だけ折り曲げて右足は水平に。背筋を少し後ろに倒しながら顔は憂いを思い出すかのように上向き。そして悲しげな表情。おお、いいよいいよ」
 ポーズを取るにつれて、周りが静まり返っていくのがわかった。
 大きめのシャツとはいえこのポーズをやると胸の形が浮き出る。
 乳首の位置もはっきりとわかった。
 そして……

「おおお、綺麗な赤貝」
「へぇこれが佳子ちゃんの…」
「なるほど。もう大人なんだな」
「毛も少し生えているね。これは剃り残しかな」

 案の定、中年男性たちが代わる代わる足先に行き、あそこをのぞき込んできた。
 ちらっと見て去るもの。ジロジロと眺めて感想を述べるものまで様々な反応だったがここにいる男性で見に来なかった人はいないのではと思うほど次々とやってくる。
(つぅぅぅう)
 隠すことも出来ない。学校のように怒ることも出来ない。
 佳子は顔を真っ赤にしながら剥き出しの股間に向けられた視線に耐えていると先程拍手した女の子が見えた。
 女の子は他の子どもたちと一緒に必死に絵を書いている。
 他の大人たちとは違い、わざとらしく席を立つこともなく、ただ純粋に絵を書いていた。
(はは……)
 恥ずかしさと不安で頭の中がぐじゃぐじゃになりながらも佳子は救われた気持ちになった。
 このくだらないモデルの依頼にも、ほんの僅かな救いはあるのだから。

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