番台少年の片思い 04



 下町の寂れた銭湯から1人の少年が疲れた顔をしながら外に出てくる。
 すでに時間は23時。辺りは静まり返っている。このぐらいの時間になると駆け込みに来る客もいない。
 この銭湯の跡取り息子である中3の武は玄関に掛けられた男女と書かれた暖簾を外した。

「やはりもっと早めに閉めたほうがいいな。22時、いや21時で十分だろう」
 銭湯は遅くまでやってもさほどコストが掛からない
 だから客が1人でも来るなら遅くまでやるべきだが、長時間1人も客が来ないというのは精神的にも肉体的にもきつかった。
 中3という遊びたい年頃でオンボロ銭湯を継ぐ気もない少年にとってはあまりに無駄な時間
「あら、今日は終わりなの」
 そんなことを思いながら少年がのれんを持つと、後ろから女性が声がした。
 女性の年齢は20歳半ばだろうか。やや長髪でメガネを掛け、紺のスーツがよくにあうお硬いインテリ風の女性だった。

「いえ、後一人ぐらい構いませんよ。入っていきますか」 
 武は女性に入っていくように勧めた。
 後片付けは遅くなるが、滅多に来ない若くて新しい客を逃がす手はなかった。
 もしかしたら、これを切欠に常連になってくれるかもしれない。
 しかも、相手はこんな銭湯には不似合いのガチガチにお硬そうな女性。
 下心がないといえば嘘になるが、せっかく来てくれた客にうちの銭湯を体験して欲しい。
 これは銭湯をやるものとして当り前の感情だった

「じゃお願いしようかしら」
 女性は笑顔を見せた。どうやら風呂に入りたくてかなり銭湯を回っていたようだ。

「ではさっそく」
 武は扉を開け、中に入る。
 そして古めかしい番台へと登った。
 少年が高めの位置にある番台に座ると女性の眉がピクリと動く。
 それもそのはず。この銭湯は昭和の時代から何も変わっていない古典的な作り。
 やや高い位置にある番台から脱衣場は丸見え。透明のガラスドアの向こうにある浴槽まで見えている。
 そんな番台に中学生ぐらいにしか見えない武が登ったことに疑問を覚えているようだ。

「あの、親御さんは」
 不信感とも何とも言えない表情をし女性は話す。
「ばっちゃんなら今日は休み。もう年だからね」
 武は番台から女性を見下ろしながらそういった。
「そう」
 女性は顔を俯かせ、考え事をしているようだ。
 このまま入っていいものか。迷っている様子がありありと伺えた。

「どうしたのですか。もしかして恥ずかしいの」
 戸惑う女性を番台から上から眺めながら武はやや小馬鹿にした声を出す。
 年上なのにそわそわしている仕草が妙に可愛く見えたからだ。

「そ、そんなわけないでしょう。番台の人。しかも子供相手に恥ずかしいなんて」
 女性はそのスラッとした体を震わせ反論する。
 やはり印象通り勝ち気な性格のようだ。
「ですよね。僕子供ですし。では、ごゆっくり」
 武の態度に怒ったのか、女性はバンとお金を叩きつけるように置くと、やや大股で脱衣所へ歩いて行った。

(やれやれ)
 置かれた小銭を集めながら、武はそっと女性の動きを目だけで追う。
 まだ中学生とはいえ、武は親から銭湯を任せられているプロだ。
 裸を見る時は、客に感づかれないように観察する。
 興味本位で見ていることを、決して悟られてはならない
 それが番台に上がるものとしての鉄則だった。

 女性は数回番台のほうを伺い、脱衣所のロッカーを開けた。
(中央とは珍しいな)
 武は女性が真ん中を選んだことに軽い違和感を覚えた。
 普通、始めてきた客は一番奥のロッカーを選ぶ事が多い。
 なぜなら、あの場所は番台からは丁度死角になっているように『思える』からだ。
 番台とはいえ、初対面の男の前で裸になるのは嫌という女性の心理が奥へと選ばせる。

(それなのにあの、メガネは)
 女性は再び番台の方を振り向く。
 先程より顔が赤い。よほど見ていないか気になるようだ

「まったく負けず嫌いなんだから」
 武は愚痴を言いながら番台の正面上部に設置してあるテレビの電源を入れた。
 もちろんテレビなんて見る気はない。
 これはあくまで客のためのテレビだ。
 そう。客を安心させるためのテレビ。

 女性は武がテレビを見始めたと思い急いで脱衣の準備を始めた。
 所持品をロッカーに入れ、スカートに手を掛ける。

 武がじっと見ているとも知らずに女性はスカートを降ろした。
(黒か。ラッキー)
 武は張りの良さそうな尻肉にピタリと張り付く黒のパンツを見ながら心の中でガッツポーズを取る。
 そんな武の反応に気がつくことなく女性は上着とシャツを脱いだ。
 ブラの色は黒。パンツと合わせているようだ。
 女性はそのままパンツを下ろす。
 ブラではなくパンツから脱ぐ女性は自分の体にコンプレックスをもっている人が多いことを武は経験上把握していた。
 胸がないのか、またはありすぎるか。
 どちらだと興味津々で見つめる中、女性は背中に手を回してブラのホックを外し全裸になった。
 背中を向けているため胸はまだ見えないが体の線は細く足もスラッとしている。
 そして何よりも目を引くのはそのおしりの形。全体的にヤセ型なのに尻の肉厚だけはある。
 シミはなく張りもあり垂れてもいない。あまりに見事なお尻の形だった。

「あっ」
 全裸になった女性は少し焦りながらカバンの中を漁る。 
 どうやらタオル等の入浴セットをもっていなかったようだ。
 こうなれば手は1つ。番台に行って買うしか無い。
 女性がもう一度服を着直そうと手を伸ばした瞬間を狙って武がいう。

「入浴セットなら200円で売っていますよ」  

 声を聞いた女性は下着を手に取り、考え込む姿を見せる。
 番台に取りに行く格好は何が自然か考えているようだ
 体を隠したくてもタオルはない。なら全部着なおす?今更その行為が不自然なのは本人も自覚しているようだった。
 先ほど啖呵を切った手前、いかにも恥ずかしがっているような行為は選べない
 実際に一度裸になった客が番台に話す場合はそこまでする人は少なかった。
 若者もご老人もパンツ一枚か全裸が圧倒的に多い。
 パンイチと全裸組の差は武もよくわかっていないが、単純に性格によるものな気がした。

 その時ふと脳裏に立花の姿が頭を過ぎった。
 幼馴染の立花は昔から全裸派だった。武が初めて番台に上がったときですら全裸のまま話しかけていた。
 あの時の立花は何を思っていたのか。今となってはわからないが立花が普通に接してくれたからこそ番台の仕事を続けていられている気はした
 
 女性はまだ考えている。
 既に尻は見られたい放題なのに前を見せる勇気が付かないようだ。
 おそらく彼女は自分の失態を後悔しているだろう。
 最初に入浴セットを買っておけばこんなことにはならなかったと。
 
 ようやく女性は番台に向かう。
 服で前を隠すか。それともみっともなく両腕で胸と股間を隠しながら歩くか。
 武は興味津々で視線を向けるが。
(え?)
 思わず声を出しそうになった。そのどちらでもなかったからだ。
 女性はどこも隠さず歩いてきた。やや小ぶりの乳房や乳首も晒している。
 視線を下にむければ申し訳程度の薄い陰毛も確認できた。
 そう。堂々と歩いているように見えなくもない。一見は。

「ば、番台さん。入浴セット一つ買いますわ」
 だがしかし頬は赤く声も裏返っていた。自信がないであろう胸やあそこを隠したくて仕方がないのが見て取れた。
(可愛い)
 武はおそらく倍近くの年上であろう女性を可愛いと思ってしまった。
 恥しさを我慢し意地のため体を晒しているんだからなんといじらしいことか。
 おそらくこんな古い銭湯に入るのは初めてなんだろう。
 番台に見られることが慣れていないと言ってくれれば、いくらでも対処したのにそれをしようとしない。
 なんてプライドが高くてそして可愛いのか。

 すっかり女性のことを気に入った武は今一度足首、膝、太腿、陰毛、乳房と視線を下から上に動かす。
 生まれたままの姿であることを確認した武は軽く笑みを浮かべる
 そして、つんと上を向いた淡いピンクの乳首を見ながら言った。
「200円です」
 
 その瞬間、女性の表情が固まった。
 裸を見られることばかり考えていたためお金を持つことすら忘れていたのだ。
「ご、ごめんなさい。今取ってきます」
 相当焦ったのか急いでロッカーまで戻り服を入れた下団の棚の扉を開ける。
 この銭湯の棚は腰からやや下の位置にあった。
 服を脱ぐ際はさほど問題にならないが、風呂から出て座らず服を取り出そうとすると、丁度尻を番台に向けて突き出すような体位になりやすい。
 もちろん角度や足の開きの問題もあり、いつも尻の谷間の奥にあるものが見えるわけではないが、それでも常連客の肛門を見ない週はなかった。

「財布はえっと……」
 そんなことも知らずに女性は腰を曲げながらうつむき加減でロッカーの中を漁る
 焦っているのか足が開き無意識のうちに力まで入れている。
 棚の奥に手をやるために前屈に近い動作をすると遂に武の目に尻の奥にある肛門や裂け目の造りが顕になった
(へぇー)
 女性の肛門は菫色であり年齢を考えると小さく可愛い感じがした。
 もちろん少年と同じ年齢の立花の肛門と比べると色も黒く大人のものであったが何故か清潔感があった。
 割れ目も同様に黒ずんていたが形は崩れていない。未使用のわけはないだろうが少なくても出産経験がないのが伺えた

 肛門やらあそこの形やら見られていたことも気が付かない女性は財布から100円玉2枚を取り出し急いで番台に戻ってきた。
 武が入浴セットを渡すと女性は「ありがとう」と言いながら浴槽がある女湯の中へ入っていった。

「本当に可愛いな。胸は大きくないがそれもまた悪くない。本当にこのまま常連になってくれないかなぁ」
 女性が体を洗っている。他に客がいないのにも関わらずマナーを守る。
 根から真面目な性格であることが伺えるし裸体が綺麗な面も含めて理想の客と言えた
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エピローグ
 
 翌日
「ってなことが昨日あったのよ」
 日曜の朝一番にやってきた幼馴染の立花に向かって武が自慢げに話す。
「ふーん。こんなオンボロ銭湯に美人のお姉さんねぇ」
 立花は脱衣室内を歩きながら上着を脱いた
 置いてあったかごを持ち、スカートを下ろす。
 今日のパンツの色は白だった。
「また来てくれないかな。燃料費高騰で経営が厳しいんだよ」
 そんな愚痴には興味ないとばかりに立花はポンポンと服を脱ぎながら昨日女性が使っていたのと同じ棚に向かっていく。
 
 昨日はここで女性が秘めたものを見せてくれた。
 ならこの銭湯の構造を知り尽くしている立花は言うと。
「よっと」
 これまた前屈しながら両手で豪快にパンツを下ろした。
 背後から肛門やら女性器やらを見られることなんて欠片も気にしていないようだった。
 
「そんなことよりもさ。来週から担任が変わるって話聞いた?」
 脱いだパンツを指でくるくる回しながら遊んでいる立花が突然思いついたように話す
「知らん。始めて聞いた」
「そう?女子の間では噂になっているわよ」
 立花は相変わらず脱ぎたてのパンツを指で回しながら番台に向かって歩く
「やっぱこういう情報は女子のほうが早いな」
 もう何百回も見た立花の全裸を見ながら武が話す
 立花も気にせず、大人の体に近づいた形の良い乳房も薄い陰毛も隠さない。
 まるで学校で話すように裸体を晒しながら堂々としていた

「それにしても綺麗な女性だったな。また来てくれないかな」
 こんな下町のおんぼろ銭湯には似合わないインテリ風の女性。
 本人は自信なさそうだったがヌードも素敵だった。
 初日に肛門まで見せてくれたのも美化へと繋がっていた

「ばーか」
 他の女の裸を思い出していたのが顔に出たのか立花はぷんぷんと怒りながらパンツをカゴに投げ込み女湯へと向かった。
「何を怒っているんだよ」
「うるさい。このスケベ魔人が。ばーかばーか」

 少年に女心はわからない。
 思春期で羞恥心も敏感な時期の立花がなぜ幼馴染の男子に裸を晒してまでこの銭湯に毎日来ているのか。そんなこと知る由もなかった。

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月曜日 学校

「今日からこのクラスの担任を務める清水 亜耶乃です。」
 朝のホームルームで突然担任の交代を告げられた。
 3年の半ばでの交代は異例。前任者はどうしたんだろうのヒソヒソ声が生徒の間から聞こえた。
 そんな重苦しい空気の中で1人の男子が立ち上がる
「あ!!」
 指を指しながら大声を出す武。それを見た清水教師も
「あーーーーー!!」
 2人の驚きの声が教室に響いた。

 学校では初対面にも関わらず既に先生の肛門の形まで知っている生徒。
 そして銭湯の客とは言え自らの意思で裸を生徒に見せてしまった教師
 2人の間になんとも言えない気まずい雰囲気が漂うが、その理由を知るものは誰もいなかった。



もしも近所にHなサービスをしてくれる銭湯があったらもしも近所にHなサービスをしてくれる銭湯があったら
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