逮捕された姉


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  刑務官がいかにも裏口を思わす古めかしい扉を開けた。
 行けと指示を出すと腰縄で拘束された3人の女性が静かに扉をくぐる。
 すると冷気がスッと女たちの体を包み込む。

「あっ」
 喜びを隠ししきれないのか先頭の女が思わず声を出した。
 刑務官が女の方を見る。
 だが注意することなく再び視線を戻す。

(ふうー)
 姉は刑務官たちが見ていないことを確認しながら大きく深呼吸をする。
 ずっと溜まっていたモヤモヤが少し晴れた気がした。
 
 そう。ここには牢獄では決して味わえない新鮮な空気があった。
 上を見上げれば曇り空も見える。
 姉はもちろん一緒に連れ出された女たちの顔にも笑顔が溢れた。
 シャバの空気は美味いというのはこういうことなのか。
 逮捕前はあって当たり前の空間がそこにはあった。

 そんなささやかな幸せも「進め」の声で打ち消される。
 姉の表情が曇る。進む先を見れば否応なしに現実を実感する古い車が止まっていたからだ

 一見すると普通のワゴン車のバスにしか見えない。
 しかし、よく見ると内側から金網が貼られている。
 自然と皆の目つきが鋭くなる。あれは何度乗っても慣れることはない車、護送車だ。

 乗り心地は良いとは言えない。しかし乗り心地よりも圧迫感が嫌だった。
 否応なしに自分が犯罪者であることを認識させられる。
 普通の人が乗ることは決してないクルマに乗せられることは精神的にも堪えた。

 嫌と思っても拒否できるはずはなく、引き継ぎを終えるとあっさりと乗せられ車が出発する。

 護送車の中は2人掛けの椅子が並んでおり、いつも窓際に座らされた。
 椅子の数を見ても10人は乗せられそうなのに乗るのはいつも数人。
 今日も後ろに座るのは哀れな手錠姿の女性3人と体が大きい男性刑務官2人しかいない。
 防犯の都合なのか、たまたまなのか。囚人や被告人が女性しかいない場合でも移動時の刑務官は常に男性だった。

「出発します」
 運転席から男性の声がすると車はゆっくりと走り出した。

 ようやく走ったと思う暇もなく、赤信号に引っかかり車が止まる。
 すると座っていた刑務官が愛のもとに詰め寄った。

「おい、お前何をやっている」
「なにもしていません。ちょっと胸元が暑くなったので少し空気を入れていただけですわ」

 愛は手錠を掛けられた手で器用に服の前を引っ張る。
 姉からは見えないが、側で立っている刑務官からは愛の胸元の奥がはっきりと覗けたはずだ。

「大人しくしていろ」
 そんな愛の誘惑を振り払うかのように刑務官は注意を与えて席に戻っていった

 護送にしろ、身体検査にしろ、異性の刑務官だけがやるなんて本来はあっていけない。あるほうがおかしい。
 その思いは今でも変わらないが、向こうも大変な仕事であることは姉も理解してきた。
 愛のような悪意のある色っぽい女に迫られても冷静でなくてはならない。
 もし手を出せば破滅が待っている。
 この狂った時代に生きる男性刑務官は女の裸を見ても動じない精神力まで求められるのは不憫だと思った。

(そういや篠原はなぜこんな仕事を選んだんだろ)

 姉にとって篠原は中学1年の時にテニス部で出会った3年の先輩でしかなかった。
 そこそこイケメンでテニスの実力もあったので女子受けもよかったが性格は軽く、とても社会正義に目覚めて警察関係の仕事を目指すタイプとは思えなかった。

 実際に今の篠原からも、そんな真面目な雰囲気は感じられない。
 それを証明するかのように篠原は中学1年以来の再開だったにもかかわらず、いきなり脱衣を命じたのだ。

 こんなところで先輩にあった。もしかしたら助けてくれるかもしれない。
 そんな淡い期待は彼の前で裸体を晒した時にすべて打ち砕かれた。
 あれから何度裸を見せたかわからない。
 そのたびに思う。なぜ篠原がここにいるのか。自分がここに連れてこられたのも本当に偶然なのかと。



 数分後。何事もなく目的の警察署についた
 姉以外は誰も降りない。愛もこの署とは無関係なので降りることはない。

「立て」
 繋がっている縄を解いた刑務官が感情を感じさせない冷たい声を出した。
 姉が命じれたまま、立ち上がると愛がニコリと笑う。
 彼女はどこへ行くのだろう。目的地は近いのだろうか。遠いのだろうか。姉には何もわからない。

 刑務官に小突かれるように護送車から降りる。
 降りた場所は裏口だった。正面には一般人が多くいるので裏から入ってくれたことは姉にとっても助かることだった。

「その部屋に入れ」

 どこへ移動しても真っ先にやられるのは身体検査だった。 
 拘置所を出てから10分も経っていない。その間はずっと監視されており、物を隠し持つはおろか触るチャンスもない。
 それなのに身体検査をする。どう考えても嫌がらせとしか思えない。

 
 部屋の中には黒いブラとパンツをつけた若い下着姿の女性が1人と、これまた若い女性警察官が2人いた。
 下着姿の女性は姉と男性刑務官が入ってきたことに驚いているようだ。

「魚津さん。早く出ていって。いま女性の身体検査中です」

 若い女性警察官の朱音は年上の男性刑務官相手にも関わらず、強い口調で注意をした。
 いかにも気が強そうな顔つきであり、新人の女性だからと言って引くつもりはないのがはっかりとわかった。

「あーすまんすまん。じゃ4番置いておくのであとはよろしく」
 男性刑務官は照れ臭そうに少し頭を掻きながら書類と姉を置き、急いで部屋の外へと出ていった。

「○○さん。気にしなくていいからまっすぐ前を見てください」
「え?は、はい」

 同性とはいえ、下着姿を見られるのは恥ずかしいのか容疑者の女性は姉の存在に戸惑いながら直立不動をした
 声もうわずっているし相当混乱しているのが見て取れた。

 姉もこの気持ちはよくわかった。
 突然手錠を掛けられてこんなところに連れて来られ身体検査をされる。
 今度どうなるのかの不安。見知らぬ人に命じられて服を脱ぐ屈辱。
 色々なことが頭を駆け巡りまともの思考を停止させる。

「○○さん次はこの書類に名前を」
わ 
 朱音がバスタオルを渡す。
 容疑者の女性は急いでバスタオルを体に巻いて書類を書き始める。

 姉はその様子をじっと見ていた
 警察官たちは皆優しい。身体検査と言っても下着姿だしバスタオルも用意してくれる。異性がいたらきちんと排除もしてくれる。
 女性本人は横暴な警察の扱いに怒りも覚えているようだが、実はそうではない。
 まだ逮捕されただけの人には優しいのだ


 手が空いたもう1人の若い女性警察官こと紗和子が姉に近寄る。
 こちらも制服が真新しい。朱音に比べると背も小さく童顔なのが余計に新人らしいフレッシュさを感じさせた。

「えっと次はあなたね。なになに。あー。あの拘置所から来たんだ。ってことは下着も含めて脱がないといけないんだよね?」

 紗和子が疑問形で話すと横で容疑者の女性の相手をしている朱音が「そうだから全部脱いでもらって」と言った。
 この2人立場は同じのようだが朱音のほうが頭がいいのか常にリーダーシップを取っているようだった

 「全部脱いで」の声を聞いた容疑者の女性がぎょっとした顔を向けた。
 そう。これ逮捕されただけの人と起訴された姉との差なのだ。

「わかりました」

 手錠と腰縄を外された姉は上着を脱ぎ、肌着で手をかける。
 首から肌着を脱ぐとぷるんと乳房がこぼれた。
 ブラは禁止なのだから当たり前だが、容疑者の女性はいきなり晒された乳房を見て「え?」と驚いた顔をしている
 このことを知っているはずの紗和子も照れ臭そうに視線を逸す。
 まるで人を裸にしたのは初めてのような反応だった。

(やはりそういうことなのね……)

 姉は唇を噛み締めながらズボンを下ろした。
 この署の部屋に来るのはもう何度目かわからないが、1度たりとも同じ警察官を見たことがない。
 常に若い新人のような警察官に検査をさせた。

 これが偶然のわけがない。
 つまりこの署の身体検査室は新人の体験場として使われている。
 おそらくこの地域が凶悪犯罪が起きない平和なところであることも選ばれた理由。
 ここに来るのは少し道を外れただけの一般人でしかないから練習にはうってつけ。

 だからこそ生々しい剃られた薄い陰毛を見るといつも皆が言葉を失う。
 
 姉が白いパンツに手を掛ける。覚悟を決めて膝まで下ろすと容疑者の女性はおろか朱音、紗和子の若い警察官2人までが固まる。
 3人ともむき出しの割れ目を見せられ、我を忘れていた。


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forr / 2015年04月20日
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