柔道部の伝統 01


トップに戻る___/_


 
プロローグ
 太陽の日差しを浴びながらグラウンドを走る全裸の生徒たちの姿はあまりに美しかった。
 女子の乳房や男子の性器の先に至るまで日に焼けた筋肉質な身体はまさに圧巻。
 これぞ、心と体を鍛える教育だと若き指導者たちは確信した。
 彼等はこのトレーニング方法を自分の学校に持ち帰り、後世に伝えようと思った。 
 これが出来るようになれば決して負けない。いつの時代でも最強でいられると信じて。



 

本編 

 それから40年後
 梅雨も明けた7月上旬。
 朝一番で校長室に来るようにと言われた男子柔道部の東山顧問と、その息子である大輔はいつもより早く登校し早足で校舎の廊下を進んだ。

「父さん。こんな時間に校長室へ呼ばれるって何かしたの」
「学校では父と呼ぶな。東山監督と言え。呼ばれた理由? 柔道部に関することらしいがそれ以上のことは何もわからん」

 まだ高校1年の部員でしかない大輔にも当然理由はわからなかった。
 部がらみと言われても、何かトラブルがあった記憶はない。
 そもそも、なぜ親子ともに呼ばれたのか。あまりに謎が多い校長の呼び出しだった。

「失礼します」

 二人が校長室へ入ると校長はニコニコしながら立ち上がる。

「おお、こんな朝っぱらから済まないな。早く伝えようと思ってね」

 校長は60代とは思えない笑顔を振りまきながら東山の手を取る。
 だが、その笑顔とは裏腹に胡散臭い雰囲気が漂っていた。
 この校長を表面で捉えてはいけないと、父が言っていたことを大輔は思い出す。
 こんな人良さそうな顔をして、世間的には強攻策を取る豪腕な校長として知られていた。
 事実、あれだけ反対意見が多かった男子校と女子校の併合を短期間でなり遂げた。
 もちろん強引に併合したために学校内部は大混乱。
 共学になって2年も経つが、未だに2つの高校が共存しているような二重構造状態が続いていた。

 そんな2人の疑念をものともせず、校長はペラペラと事情を語った。
 すると、みるみるうちに父の顔が曇る。
 悲報というわけでもないが、やはり良い話ではなかった。

「つまり、女子柔道部と男子柔道部を統合して私に女子も担当してほしいと言うことですか。どう考えても無理です。男子だけでも大変なのに更に女子なんて」

 東山は校長の案に異議を唱える。
 1年部員の立場でしか無い大輔が見ても無茶な案に思えた。
 なぜなら男子柔道部には、既に多くの部員がいたからだ。
 ここに女子部がまるごと加わると、混乱を起こるのは目に見えていた。

「とは言っても、このままでは女子柔道部は消滅だ。そうなったら優秀な生徒たちが渋々柔道を辞めることになる。君はそんな彼女たちが可愛そうだと思わないのかね」

「そんなこと言われましてもねぇ」

 校長の白々しい熱弁を聞き、東山はうんざりした顔を見せた。
 どう考えても、これはただのコスト削減に他ならなかったからだ。
 男子部と統合すれば、維持費は半分以下に下げられる。
 そう。学校だけが得をし、他の人は損しかない案。

「ほら、君だってあれだけ才能に溢れたライバルの娘が、そのまま柔道を辞めるのは勿体無いと思うだろう」
 
 校長はそう言いながら数枚の写真を机の上に置く。
 女子柔道部が春の大会で県4位になった時の写真だ
 東山は高校時代ともに戦った戦友の娘が写っている写真を見て眉をピクリと上げる。

 大輔も、写真の女子生徒のことは知っている。
 小さい頃からの幼馴染であり、同じクラスの1年2組の女子でもあったからだ。
 背が高くて、彼女が繰り出す技の速さは男の大輔でもなかなか躱しきれない。
 ガサツな性格はともかく、柔道の才能は誰もが認める生徒だった。

「自分が勝てなかったライバルの娘の『身体』を鍛えると言うのも面白い運命だとは思わんかね」

 校長は娘の身体を強調し、含みのある顔をした。
 実際に東山の人生は今村に完敗を繰り返しだった。
 主将争いも、学校の成績も、淡い思い人さえも持って行かれた。

「でも女子もやるなら指導方も細かく作り直さないといけませんし場所だって」

 東山は首を縦に振らない。
 なんとか校長に諦めてもらおうと当たり前の懸念を述べるが。

「場所も育成の違いも考える必要はない。男女の区別なく行えばいいだけなのだから」
 校長はサラッととんでもないことを言った。

「え?」

「女子と言っても同じ柔道だ。何も変える必要はないだろう。実際に君の指導のおかげでは部はみるみるうちに強くなったし息子さんだって成長した。そうだろう大輔くん」

 むろん校長も男子校らしい柔道部の伝統は知っている。
 それでも構わないと言っているのだ。
 
「あのー、校長先生は女子があの古臭い柔道部のシゴキに耐えられると思いますか」

 思わず大輔は口を挟んだ。
 毎日毎日、ビンタを受け、生尻に竹刀の痕が付けられる。
 柔道部員が全裸でグラウンドを走らされていることは学校の生徒なら誰もが知っていることだった

「本人たちが男子の練習にも耐えられると言ってるんだから信じるしかないだろう。その結果なにがあってもそれは自己責任としか言えんよ」

 校長の含みのある顔を見て『なるほど』と大輔は思った。
 ようするに校長はどちらでもいいのだ。
 むろん、育成が上手く行って、女子が強くなることに越したことはない。
 逆に女子たちが男子の練習に耐える約束を破り、退部することになってもそれはそれで問題ない。
 コストばかり掛かる女子柔道部が生徒の意志によってなくなるだけなのだから。


「なるほど。女子生徒たちが男子の練習を見て納得しているのなら、これ以上言うことはありません。わかりました。お引き受けします」

 結局、東山は校長の案を飲んだ。
 大輔はその判断に微妙な違和感を覚えて首を傾げる
 父は利益がないと動かない人間だ。生徒が可愛そうだからなんて考えは決してありえない。
 そんな父が受けたのだから今の話の中に何かが自分のやりたいことと一致したのは間違いない。
 でもそれが何かわからない。
 だが、父の瞳になにか邪なものを写っている感じがした。


------
 数10分後、大輔はダンボールの山を父の車の中へと運ばされていた。
 これらは全て女子柔道部の歴史を記録した資料だった。 

(こういうことか。やはり校長は食えない人物だ)
 大輔はいいようにコキ使わさせたことに溜息を付く。
 結局のところ、校長は父が断るなんて考えてもいなかった。
 もう、その日のうちに引き継ぎもやらせるつもりだったのだ。

 最後のダンボールを取りに大輔が資料室に戻る。
 部屋の中では父と若い女性教師がなにやら話し合っていた。

「東山先生。うちの子たちをよろしくお願いします」
「わかっています。任せてください。でも先生も少しは手伝ってくださいよ。私1人じゃやはり無理なので」
「それはもちろんです。出来る限りのことは……」

(女子柔道部の顧問かな)
 大輔は初めて見る女性教師に頭を下げ、最後のダンボールを持ち上げる。
 重い。写真の山らしく他の箱よりも重さがまるで違った。

「ほら大輔行くぞ」

 二人は資料室をあとにしようとしたが。

「あ、東山先生。そのダンボールには私の学生時代の記録も入っているので……あまり見ないでくれると助かり……ます」

 去り際に女性教師がなにやらモジモジしながら言った。
 まだ若い新人だけあって可愛らしい仕草だった。

「ははっ分かっていますよ」

 東山はそう言って廊下に出る。
 どこか楽しそうだ。

「父さん。さっきの話ってなんなの」
「ん?あれか。あの先生は俺と同じ母校の出戻り組だからな。自分が柔道部員だったころの資料も入っているから見られたら恥ずかしいと言いたかったんだろう」

「これってそんなに大事なものなの」
 学生時代の写真を見られるのがそんなに嫌なんだろうか。
 まだ学生の大輔にはピンとこなかった。

「ただの記録では無くて40年間の女子柔道部員全てを写した記録だからな。この中にはあの先生の初々しい身体の写真もあるはず。そりゃ男なんかに渡したくなかっただろうな。はははっ」

 父は笑う。こんな上機嫌の父を見るのも久しぶりだと大輔は思った。

気が強い女子アナウンサーが屈辱に耐えられなくなるまで レズ苛め編気が強い女子アナウンサーが屈辱に耐えられなくなるまで レズ苛め編
---------
FOR / 2015年06月20日 template by TIGA