柔道部の伝統 09


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「で、金月どうだったよ。男子部員全員にオッパイを見られた感想は。なかなか刺激的な体験だったろ」

 新田がパンツ1枚の金月に近づき、裸の肩をポンポンと触れる。
 同学年の女子がさらし者になってると言うのに笑みすら浮かべていた。

「そうね。裸で出迎えなんて柔道とは何の関係もないヤバンでゲズな伝統だということがよくわかりました。男子はこんなもんを守って代々受け継いできたと言うのですから笑ってしまいます」

 そんな新田に対して鋭い視線で対峙する金月の姿は依然として主将としての風格に溢れていた。
 恥辱の半裸体でも彼女の持つ雰囲気は何も変わらない。

「おうおう、オッパイ晒しながらよく言うねぇ。なら、そんな糞みたいな伝統に受け入れているお前は何よ」

「男子と同じ扱いを受けても構わないは学校との約束ですから。理由はただそれだけです」

 学校との話し合いの結果、女子が自分の裸を晒すことすら承諾したことは大輔たち男子にとっても理解に苦しむ話だった。
 特に金月は3年で柔道名門の大学に行くことが決まっていると聞く。
 わずか半年程度、柔道を我慢しても彼女のキャリアには何の問題もないはず。
 それなのに男子柔道部の伝統を受け入れ、裸になってまでも柔道を続ける道を選んだ。その理由は誰にもわからなかった。

「ふん。そのすました態度がいつまで取れるか見ものだな。おい、1年坊主。ぼーとしていないでスマホで撮っておけよ」

 新田が言う。それは命令に近い口調だった。


「待ってました!」
 宮井がスマホを掲げる。すかさず疑似シャッター音が鳴り響く。
 ヌード写真を撮られているというのに、金月はただ黙ってその行為を受け入れていた。
 どうやらこれが初めてではなく、他の部員にも撮られ続けたようだ。
 思えば大輔も出迎えをやった時に撮られた記憶があった。
 つまりこれも伝統の一環。

「ごめんよ」
 大輔は心にもないことを小さな声で呟き、スマホを取り出す。
 すると良美は「キャッ」と驚いたような声を出し、手で胸を隠そうとする。
 だが、動きはここまで。腕はすぐ元の腰の位置まで戻された。

「ううう。あとで覚えていなさいよ」
 顔を真っ赤にし、恨みっぽい目つきをしながらも乳房を晒し続ける良美。
 どんなに恥ずかしくても脱衣の命令中は身体を隠さない。
 新田主将の躾の成果が伺えた。

 カシャ。大輔はまず苦悶に満ちた良美の顔をアップで撮った。
 次になだらかな乳房のアップ、パンツのアップと3枚を撮る。
 もちろん全身像も忘れない。この裸体が良美のものであることを証明するかのように頭から足まで入った写真も撮った。

「おい、場所を変わろうぜ」
 金月の裸を撮り終えた宮井と交代すると、良美の表情がかつてないほど引き攣く。
 憎き宮井のスマホに自分の恥ずかしい画像が記録されることを嫌がっているのは間違いなかった。

「はい、ポーズ。小さなオッパイ可愛いねー」
 撮られたことをわかると「ああっ」と良美が艶っぽい熱みを帯びた声が漏れた。
 それでも宮井は気にしない。いったい何枚撮る気なのかと聞きたくなるほど連続で撮りまくる。

「あ、そうだ。次はこの紙を持ってよ」
 散々パンツ姿の画像を撮った宮井は妙なことを言って1枚の紙を良美に手渡した。
 その紙は今日の日付が書かれているただのプリント用紙。
 いつもホームルーム前に配られるもので良美も大介も持っているなんの変哲もないものだった。

「なんでそんなこといないといけないのよ」
 当然不審に思う良美。どうせろくなこと考えていないと思うのも当たり前だった

「これはお前のためでもあるんだぜ。ほら、紙を両手で持てばその貧相なオッパイが隠れるだろ。余計な恥をかかなくて済むんだから感謝してほしいもんだ」

 明らかに裏がある話だったが指導中に逆らうことは許されない。

 反論を諦めた良美は命令通りにかろうじて両乳首が隠れる程度の大きさしか無い用紙を胸の前で掲げた。
 いくら紙を広げそうとしても、この横幅では横乳は隠れないし、縦の長さも胸の谷間やヘソを隠すには足りない。

「おー、いいよいいよ。乳首が見えそうで見えないのがエロいねー」
 パンツ1枚でプリントを掲げるあまりに滑稽な格好めがけて、擬似シャッター音が鳴り響く。

「くっ…」
 それだけやられても良美は動かない。
 ただ唇を噛み締め、屈辱に耐えていた。


(アイツもなにやってるのやら)
 大輔は宮井の甲高い喜びの声に軽くため息を尽きながら金月の前に立つ。
 良美と同じように4枚の裸体写真を撮るためだ。
 先程は大きな乳房の迫力に驚いたが、真っ白な肌やくびれたウエスト。スラッとした足も魅力的だった。

 カチャ
 後輩にセミヌード写真を撮られていると言うのに金月はやはり何の反応も示さない。
 他人には決して見られたくないはずの乳房をアップで写しても無表情な顔をしている

 大輔はイマイチ盛り上がらないままスマホを掲げ続けた。
 確かに金月のプロポーションは素晴らしい。本当なら口を利く機会もないほどの格上な女子なのは間違いない。
 だがしかし……

(やっぱ俺は良美のほうがいいや)
 高嶺の花よりも幼馴染の胸を見れたほうが嬉しかった
 小さい頃からよく遊び、よく喧嘩した腐れ縁の女の子。
 そんな彼女の胸を見て心は喜びに満ち溢れた
 それが喩え、良美にとって男子たちに乳房を見られた屈辱の日であったとしても。


 良美の画像を撮り終えた宮井が思い出したように声を出した。

「そういや、他の2人はどうしたの? ちっこい1年とデカイ2年の女子がいたよな」

 このことは大輔も疑問に思っていた。
 ここには4人のパンツ姿の女子がいるものと思い込んでいたからだ。

「彼女らは休ませました。今日は私1人でこの部を見極めるつもりだったので」

 金月は真横で同じく胸を晒している後輩をちらりと見た。
 どうやら今日は良美が無理を言って付いてきたようだ。 
 おそらく朝の掃除も金月が1人でやるつもりで8時集合と言ったのだろう。

「部を見極める?」
 思わず大輔が口を挟む。
 
「そうです。私たち女子柔道部は自分達を鍛えて強くなるために男子部との統合に合意しました。決して男の玩具になるためではありません。本当に男子柔道部は規律ある部であるのかどうか。後輩たちを任せるに値する部なのか見極める責任は私にあります」

「で、お前の目から見てこの部はどうだったよ」
 新田が真剣な顔で言う。

「私の胸を見て恥ずかしそうに俯く人。同情する人。厭らしい目でジロジロ見る人と様々な部員がいましたが、規律を破って女性を襲いそうな部員はいませんでした。昨日の練習を見ても柔道をやりたいと思う人のみが入部を許される説明に嘘は無さそうです」

「ふん。そんなこと当たり前だ。俺の部だぞ」

 実際にこの部は新田主将が作り上げたと言ってもよかった。
 新田は古臭い柔道部の伝統に忠実に守り、規律もモラルも徹底的に部員たちに叩きこんでいた。
 その結果、不真面目や問題を起こす部員は早々に排除されていた。

「でも異性の前で裸になる必要はない意見を変えるつもりはありません。全裸練習は同性のみでやるべきもの。柔道部の伝統とはそういうもののはずです」
 
 見事な胸を晒しながら金月はきっぱりと言った。それは女子部のやり方こそ正しい柔道部の伝統であると信じている目だった。

「ったく頭固いな。だからそれが間違っていると何度言えば……まぁいい。金月も裸体練習をやっているうちに理解するさ。男子部のやり方こそ正しかったことをな。ほら、1年もなにやっているだ。早く更衣室に入って着替えろ」
 
 気が付けば結構な時間が立っている。
 道場では部員たちが始まるのを待っているはずだ。


「あ、すみません。じゃ良美またな。あっ」

 大輔はいつものように良美に声を掛け……そして固まった。
 普段と変わらない挨拶。なんの問題もない行動だったが、今はあまりに状況が違っていた。
 不意打ちに良美のむき出しの乳房を見てしまい大輔の目が泳ぐ。
 
「きゃっ」
 隙を突かれたのは良美も同じだった。
 咄嗟に胸を両手で隠し、しゃがみこんだ。

「まったくこいつは」
 新田が体操座りをして身体を隠している良美の顎をくいと持ち上げる。
 胸の前で腕をクロスさせて乳房を必死に隠しているところが妙に色っぽく見えた。

「あ、これは」
 良美が言い訳をする前にいきなりビンタが飛ぶ。
「キャ」
 あまりの強さに良美の顔が勢い良く反対方向に傾く。
 一発で終わるはずのなく右左、右左、右左と往復ビンタを食らい彼女の顔が恐怖でひきつる。
 それでも新田は許さない。最後にもう一発、強烈に頬を張った。

「何度言えばわかるんだ。隠すな」

「ハ、ハイ!!」
 顔面蒼白ながらも良美は素早く立ち上がり、手を下ろす。
 再び、すべてが丸見えになるが、もう隠す素振りを見せない。
 恥ずかしさに歪む顔も、男たちの視線に耐えるように震えている乳首も、白いパンツも何一つ隠さない格好を取り続けた。

(そういうことか)
 大輔は晒された裸体を見ながら心の中で頷いた。
 あの気が強い良美が男子部員全員にきちんとオッパイを見せたなんておかしいとは思っていたが、これで納得がいった。 
 先ほど新田主将が言っていた叩きすぎて手が痛くなったは誇張でもなんでもなかったんだ。
 確かにこれだけのことを胸を隠すたびにやられれば、たまったものではない。
 もう隠す動作そのものが、恐怖になるはずだ。

「おお、こわ。大輔、早く行こうぜ」
 似たような指導を散々受けてきた宮井は逃げるように更衣室へ入る。

「ああ」
 良美のことが心配だが、主将に口を挟むわけにも行かない。
 それにオッパイ晒しとビンタぐらいで音を上げていたらこの部でやっていけないのもまた事実。
 大輔は頑張れよと小さく呟き、この場を離れた。
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