柔道部の伝統 11


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「大輔、おはよう! 今日は良い天気だね」
 翌日。大輔の心配をよそに良美は元気に登校し教室へやっていた。
 昨日はあんな目にあったのだから、相当落ち込んていると思いきやこの反応。
 大輔は不思議に感じながら「おはようっ」と返した。

 良美はそのまま自分の席に座り、仲がいい友達と雑談を始めた。
 様子はなにも変わらない。早朝のパンツ1枚での掃除もやってきたはずなのに
普段のままだ。

「でさー。昨日のテレビで」
「そうそう。あのイケメンがあんなことを」

 一瞬、空元気かと思ったが、そんな感じでもなかった。
 裸を見られる恥ずかしさ。他人に生尻を触られる嫌悪。そして痛み
 男子でも辛いのに女子がこんな目にあって平気なわけがない。
 数々の大舞台を勝ち抜いた強靭な精神力を持つ金月先輩ですら、裸にされ初めて生尻を叩かれた瞬間は狼狽し、屈辱感で体を震わせていた。
 良美がいくら気が強くても限界は軽く超えていたはずだ。

(つまりこれは……)
 一人の力ではなく団結力。女子部の結束の強さを感じざるを得なかった。
 金月先輩のカリスマもあるだろうが、上下関係の恐怖で縛られている男子部ではありえない力。
 もちろん、大輔は女子部のことを知らない。それでも素晴らしい部であったことは容易に想像できた。
 そうでなければ4人も付いてくるはずがないからだ。

 
 自由時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
 今日もまた一日が始まる。それは退屈であり刺激的な日常の始まりでもあった。

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 何事もなく昼休みになった。
 生徒たちは和気あいあいと昼飯の準備を始める。

「で、なんなんだ。これは」

 大輔は机の上に突然置かれたジュースの缶4本分をじっと見た。
 蓋は開けられていない。オレンジ2本にサイダー2本。
 どう見てもただのジュースだ。売店でも売られている変哲もなにもないもの。

「それは昨日の賭けの商品だ」  

 ジュースを置いた張本人の宮井がスマホ取り出し大輔に向かって見せる。
 スマホに映った良美の姿を見て大輔は納得するかのように頷く。

「ああ、あのパンツ当ての話か」

 画像の中の良美はパンツ1枚で日付が書かれた紙を持たされていた。
 紙は胸元で広げられているため、上手いこと乳首は見えない。
 だが、それが余計にいやらしさを増幅させていた。 
 乳首という女子に取って大事なところをいくら隠しても、白いパンツははっきりと映っているし、乳房も半分近くは見えている。
 顔を見れば、心中の苦悶がありありと現れるように表情が固く強ばっている。

 たとえ事情を知らなくても、この画像が本人の意志ではなく強制的に撮らされたのがわかる。
 だからこそ美しく残酷なセミヌード画像と言えた。


「でもなんで4本もあるんだ」

 そもそもあの賭けは宮井との他愛もない遊びだったはず。
 ジュース4本が景品では計算が合わない。
 大輔は問い詰めようとするが。

「参加者が5人いるから」

 あっさりと宮井が答えを言う。
 答えを聞けばどうってことない疑問だった。

「なるほど」

 柔道部1年は8人いるから驚きはしない。 
 毎日厳しい練習ばかり。たまには息抜きをしたいと思う1年の気持ちは大輔もよくわかっていたので、そのことで咎めるつもりもなかった。


 そんな話をしていると良美が目の前を通り過ぎる。
 右手に弁当を持っており、どこか他で昼飯を食べるようだ

「良美。これやるよ」

 大輔は手元にあったジュースの缶をぽんと投げる。
 オレンジ色のした缶がゆるやかな放物線を描く。

「ん?ありがとう」

 良美はちらりと振り向き、見事な反射神経で缶を受け取る
 そして手を振りながら教室を出ていった。
 その様子を見ていた宮井の嫌味っぽく言う。

「ははっ。あいつもびっくりするだろうな。そのジュースが自分のセミヌード写真で稼いだものだと聞いたらさ。大輔もなかなか皮肉の利いたことをするな」

「別にそんなつもりじゃねえーよ。ほら馬鹿なこと行ってないで俺達も食いに行こうぜ」

 大輔が笑いながら立ち上がる。
 実際に悪意なんてなかった。柔道部内の他愛もないお遊び。
 どうせ全柔道部員にはパンツ姿を見られるんだからそのぐらいの遊びは許してほしい。
 そのぐらいの軽い気持ちだった。

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 20分後。
 食堂で昼飯を終えて、教室に戻ろうとしていた大輔と宮井は思いもしない不運に襲われた。
 廊下で機嫌が悪そうな副主将の小沢先輩と出会ってしまったのが運のつき。

「脱衣!! 尻を出せ」
 周りに人がいようが、必然性がなかろうが知ったこっちゃない。
 明らかに副主将は一年に八つ当たりをしていた。

「ハイ!」
 二人は一般生徒が多い廊下で下着を下ろし、尻叩きのポーズを取った。
 当然、周りからは白い目。好奇心や軽蔑の男女の声。様々な視線を感じながら二人は尻叩きを受ける。
 いくら毎日全裸で走らされているからって恥ずかしくないはずがない。
 終わる頃には宮井は半泣きになっていた。

「残りは柔道部でやる。逃げるんじゃないぞ」
「ハイ!」
 
 ようやく副主将はいなくなった。それと同時に野次馬生徒たちも一斉に目の前から消えた。


 宮井が涙を拭いながら言う。

「決めた。俺もやってやる!!」

「なにを?」

 決意あふれる大声に大輔は戸惑った。
 いきなりなにを言い出すのかと。

「部活時間外の尻叩きだよ。俺達一年男子は女子の指導権をもっているんだからあれが出来るんだぜ。だからやる。そしてアイツを人前で素っ裸にして泣かしてやる」
 
「やめとけやめとけ。女子と1年が全面対決になってもいいことはなにもない。そもそも女子も1年男子の指導権をもっているんだから復讐されるだけだって。ろくなことにならん」 

 大輔は頭が痛くなった。
 相変わらず全く後先を考えていない。

「いんや、やる。さしあたって1年の廊下でやってやる。どんな顔をするか見ものだぜ」

 尻の痛みが気を高ぶらしているのかまったく耳を貸してくれない。
 どう見ても説得は無理だと大輔は思った。
 そもそも、大輔自身も宮井の気持ちがわからないわけでもなかった 
 散々やられたことを下のものにやり返すのは、人間の本能のようなものだからだ。
 副部長だって1年の時は同じ目にあっている。だから1年は理不尽な一方的なシゴキにも耐えてきた。  
 そう。女子の指導権を与えられるまでは。


「俺、ちょっと用事を思い出したから先に行ってくれ」

 こうなっては良美本人が注意をするしか無い。
 もともと警戒心が薄く、なんでも力で解決できると思っている良美のことだ。
 今だって何も考えずにそのへんをフラフラ歩いているはず。
 大輔は宮井と別れ、校舎中を探しまくった。
 だが、良美はなかなか見つからない。


 5分後

「ん、大輔じゃない。そんなに息を切らせてどうったの」

 良美は裏庭から校舎に繋がる人気のない廊下を歩いていた。
 おそらく裏庭で弁当を食べて戻るところだったのだろう。  

 大輔は良美に現状を話した。
 宮井がちょっかいを出そうとしていること。
 廊下だろうが外だろうが平気で指導が行われることも言った。


「ふーん。ようするに宮井が特権を乱用して私を晒しものにしようと画策してるわけね。まぁ1年の教室近くでやる気なら心配することはないんじゃない。あいつにそんな度胸はないし、そんなことやって困るのは宮井本人だしねー」

「どういうこと?」

 懸念を伝えても良美は明るい。こんな状況でもニコニコしている。
 よほど自分の考えに自信があるようだ

「ほら、考えても見なさい。クラスメートが見ている前で同じクラスの女子を脱がしたりしたら間違いなく大顰蹙ものよ。いくら上級生と同じ指導が出来ると言っても所詮は同じ1年だからねー。上級生がやるのとは周りの反応も全く違うものよ」

「なるほど」

 大輔は素直に頷く。
 確かに宮井はバカだが、決して非常識な男ではない。
 いくら良美が嫌いと言っても、クラスで孤立するような真似はしないだろう。

「まぁ逆に言うと今みたいな知っている生徒が誰もいない状況が1番怖いんだけどねー」

 良美はあたりを見渡し、お手上げを示すように両手を広げる。
 確かにここは人目がない場所。今なにか行われても噂が広がることはない。

「ごくり」

 大輔は生唾を飲み込み、知らず知らずのうちに視線をセーラー服の胸の膨らみに向けた。
 そう。宮井に出来ることは大輔にも出来る。
 そして目の前にいるのは同じ柔道部員で指導すべき女子。
 彼が脱衣と一言いうだけで彼女は全裸になる。直接お尻を叩くこともアソコを開いて中を見ることだって出来るのだ。


「どう。大輔も試しに命じてみる? 気合い入れをしてやるからここで尻を出せって」

 大輔の秘めた葛藤を感じ取ったのか、良美はいたずらっぽい笑みを浮かべながら紺色のスカートの裾を両手で掴み、ゆっくりと持ち上げ初めた。
 みるみるうちにスポーツ選手らしい引き締まった太腿が大輔の目に晒される。
 あと少しで下着が見えるという段階になると持ち上げるスピードが極端に落ち、そして止まった。

「やめろ。このバカ」

 大輔は自分の顔が真っ赤になっているのを感じた。
 良美のあんな姿まで見ていると言うのに、たかがスカートの持ち上げ行為が異様にいやらしく見えた。
 ここは閉鎖された部室ではなく廊下。着ているものもセーラー服。
 たったこれだけで印象がまるで違う。

 見れば良美も頬が赤い。
 やった本人も相当恥ずかしかったようだ。

「あはは。これは予想以上に照れますねー」

 良美は先ほどと同じように笑顔を見せながら冗談っぽく語った。
 一見するといつもと変わらない。いつでも男子の前で脱がなくてはいけないというのに深刻そうには見えない。
 だが、大輔にはその笑顔の下に隠された女の苦しみが見えた気がした。

「そんな無理をするな。俺だって脱衣命令は半泣きになったからな。辛くて当たり前だ」 

 男子でも辛かったのだから女子の良美が辛くないはずはない。

「ありがとう。でもこれにも慣れないとね」
 
 女子が人前で裸になることを慣れなくてはいけない。
 果たしてそんなことが本当に必要なんだろうか。
 毎日のように全裸で走らされている大輔自身にもわからなかった。
 

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