柔道部の伝統 17


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 全裸ジョギングを終えた大輔は良美の姿を探した。
 しかしどこにもいない。下駄箱を見ると靴もない。
 スマモも繋がらず今は手が離せない状態のようだ。

 つまりスマホも取れない状況。否応なしに裸の良美の姿が頭を過ぎる。 
 廊下で先輩たちに全裸挨拶をする良美。校門前で顔を真っ赤にしながら生尻叩きを受ける良美。
 むき出しの真っ赤な尻を遠巻きに見ている一般生徒たち。
 

(って今の時間なら銭湯か)
 時間を見ればもう校門もしまっているし生徒が残っているはずがなかった。
 となれば良美はいつもの日課である古い銭湯へ行き汗を流している可能性のほうが高い。

 大輔は急いで帰り道の寂れた場所にある小さな銭湯へ行く。
 今時珍しい男女が分かれた古い入り口の扉を開けて潜ると、25歳ぐらいの髪の長い綺麗なお姉さんが番台に座っていた。

「ちょっと聞くけど良美、来ていない?」
 大輔にとってもここは古くからの憩いの場であるので当然番台とも顔見知りだった。
 
「良美ちゃんなら来てるよ。えっと今は薬膳風呂のほうにいるのかな」
「そうか。なら少し待ってるわ」

 大輔は小銭を払い、コーヒー牛乳を飲んだ。
 今日は色々あったせいか身体はクタクタになっていた。

「まだ掛かりそうだから大輔も入っていきな。いつものように借り切りなのでお得よ」

 お姉さんは笑いながらお得意の自虐を言った。
 確かにこの古い木造の銭湯はいつも空いていた。
 それだけにお姉さんのギャグは洒落になっていないのだが、それでも大輔は笑いながら答える。

「ははっ。じゃ潰れないようにお客になってあげますか」

 大輔はお姉さんが見ている前でぱっぱと服を脱ぐ。
 中学生の頃は恥ずかしさもあり、この銭湯にもなかなか足が運ばなくなっていたが、柔道部に入った今となってはなにも気にならない。

 視線を感じながらもパンツを下ろす。
 歳相当に皮も剥けたチンコがホロリと出た。
 そのまま前を隠さず、お姉さんの前まで行き、お金を払った。

「おー、今日もいい脱ぎっぷりだね。良美ちゃんもこのぐらい堂々としてればいいのにねー」
 番台から脱衣場は筒抜けだった。
 だから裸を見られることに抵抗感がある客はこんな銭湯には来ない

「え?良美って番台に見られるのが恥ずかしがるタイプなの」
 初耳だった。良美も子供の頃からこの銭湯に通っているので、そんなこと気にするような性格にも思えなかったからだ。

「私の時はそうでもないけど父や弟が座っている時はいつも隅っこで脱いでいるらしいね」

「ふーん」
 アイツにそんな乙女チックなところがあるとは。
 大輔は良美の意外な側面を可愛いと思いつつ、そんなメンタルで羞恥罰を受けていると思うと何とも言えない気分になった。
 それだけ無理をしているのは間違いなかったからだ

「ところで、あのお尻はどうしたの。真っ赤で痛々しかったけど」

 少し心配そうにお姉さんが言う。
 見慣れた常連客のお尻が腫れ上がっていればそれは気になる。

「部活でちょっと」
「あ、そっか。2人は柔道部だったね。ってことは我が母校の部は今でもおっかないんだ。それは良きこと良きこと」

 番台のお姉さんは少しだけ懐かしげな顔をし、うんうんと頷いた。
 
「そういえばお姉さんは元陸上部だったんだっけ なら似たような伝統は体験しているよね」

「もちろん。1年の時はどれだけ尻を叩かれたかわからないわ。度胸付けだと言われてマッパで町内10周したこともあるわよ」

「マッパってことは真っ裸……」

 思わずゴクリと生唾を飲み込む。
 特別美人というわけでもスタイルがいいわけでもないが、顔見知りが学生時代に全裸で外を走ったと聞いて想像しない男はいない。

「でもマッパ町内よりも尻の穴を男子たちに初めて見せるはめになったときのほうがショックが大きかったわねー。お尻を直接触られた時は恥ずかしくて泣きまくったものよ」

「へ、へぇ」
 大輔はお姉さんが涙目になりながら肛門がむき出しになるように自らの両手で尻を開き、男子のゴツゴツした手が柔らかい生尻に触れるところを想像しそうになったがすぐに打ち消した。
 なにしろ今はチンコ丸出しなのだ。そんな恥ずかしい姿を見せるわけには行かない

「何を驚いているの。君だって同じ柔道部なんだから良美ちゃんのそんなところを見たし触ったのでしょう」

「見ていないよ!」
 
 大輔は強く否定した。確かに全裸も見たし尻も叩いたが肛門とかあそこの中ははっきりと見ていなかった。
 はっきりと良美の秘部を見たのは今日の新田主将ぐらいのはず。

「ふーん。私の時は入部初日にお股を男子に開かれて上下関係を教えられたけど今は違うんだ。これも時代だねぇ」

「ははっ」
 前々からシモネタっぽいことをズバズバいう面白いお姉さんだと思っていたが潜ってきた修羅場の数が自分とは違うことに大輔は改めて驚いていた。
 

「でも今となってはいい思い出よ。全国大会にも行けたしね。厳しい指導をした先輩や顧問にも感謝をしているわ」

 流石に10年近く前の学校の状況は大輔にはわからない
 だが今の柔道部に負けない厳しく熱い部であったことは間違いなかった
 

「ん、なに。大輔が来ているの」

 壁の向こうから良美の声が聞こえた。
 どうやら風呂から出たようだ。

「おう。一緒に帰らないかと思ってな」
「いいわよ。少し待って」 

 良美が普段と変わらない反応をしていて大輔はホッとする。
 どうやら無事に先輩たちの挨拶も終えたようだ。

「ごめん。やっぱ今日は入るのを止めておくわ」

 服を着直した大輔が番台に向かって言った。だが返事は帰ってこない。
 お姉さんは女湯の方をじっと見てなにやら難しい顔をしていた

「?」
 少し不思議に思いながらも大輔が出入り口の古い扉を開ける
 するとお姉さんが良美に聞かれないようにそっとつぶやく。

『今日の良美ちゃんはパンツを履いていないから守ってあげな』
『履いていない?なぜに?』
『脱ぐ時もやっとかっとだったしおそらく痛いからじゃないかと』

 なるほどと大輔は思った
 女子の制服はスカートだ。腫れ上がったお尻にはスカートの生地のほうがまだマシなのかも知れない。

 大輔が銭湯の出入り口をつ括ると間もなく良美も出てくる。

「おまたせ。帰ろっか」

 普段よりもやや顔が赤い。
 湯上がりのせいか、それともパンツを履いていないせいかどこか普段より女っぽく見える。
 否応なしに、ここ数日散々見てしまった制服の下に隠された裸体を思い出さずにはいられない。
 自然と大輔の心臓の鼓動が早くなっていく。

(なんだかこれって……)
 そう。外から見れば初々しく頬を赤くした恋人と一緒に歩く男子しか見えなかった。
 良美は頬を染めながら何やら恥ずかしそうだ。
 とても良い雰囲気になりこのまま告白でもするのではないかと一瞬思ったが。

 
「あのさ大輔。ちょっと愚痴を聞いてくれるかな」

 手で頬をさすりながら良美が言った。
 愚痴と言われて大輔はあっさりと現実に戻された。

(あー、顔が赤いのは新田先輩の往復ビンタのせいなのか。そういえば裸を隠す仕草があるとか言って叩かれていたっけ)

 淡い期待があっさりと裏切られた大輔は笑いながら

「何を改まって。愚痴なら昔からよく聞いてやっていたじゃないか」

 と言うと良美は軽く笑みを浮かべながら話す。

「うちの女子柔道部ってさ。凄い厳しくて新入部員が初日に大量にやめたんだよね。みんな金月先輩についていけないって」

「……だろうな」 

 金月とは出迎えで少し会話したぐらいしか接点はないがそれでも自分に厳しく他人にも厳しい人物であることはわかった。
 一度こうだと決めたら、何がなんでもやり抜くタイプ
 そうでなければ、あんなプライドが高そうな女が男子が大量にいる道場で下着をためらいもなく下ろすはずがない。


「でも私は金月先輩の凄さを知っていた。先輩のようになりたいからここまでついてきたの。そのことに後悔はないわ」

 金月は乙女の乳房を晒しているにも関わらず一瞬の隙も見せない。
 恥ずかしいから体が縮こまる。恥ずかしいから思考が停止するといった人として当たり前の反応がまったくない。これは感情と体を完全に切り離しているからこそ出来ること。
 ここまで達するにどれだけの鍛錬をしたのか。凡人である大輔には想像もできないし喧嘩っ早い幼馴染があそこまで到達できるとはとても思えなかった

「だからさ。私を守ってね。大輔」

 妙に色っぽい声に大輔はドキリとした。
 やはり気のせいじゃなくて良美は女らしくなっていた。
 乳房を男たちに晒すことで本来持っていた女子としての魅力が表に出たのかもしれない

「お、おう。まかせろ。俺は先輩の挨拶もやりきった男だぞ。裏道も回避法も教えてやるよ」
「なになに。どんなの」
「えっとな……」

 女としての自覚が生まれる
 それは金月先輩みたいになりたいと思う方向からはまるで逆の結果。
 もちろん、新田主将の方針である尻を叩いて羞恥心を消し心を鍛える方針からもかけ離れているように思えた。

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