それから1時間後
古木家の近くにある古びた雑居ビルの一室に3人の男がいた
モニターの前に座る男が「ターゲット帰宅。監視開始」の掛け声とともにマウスをクリックする。
すると400メートルほど離れた古木家の全ての部屋の画像が分割で表示された。
玄関。子供部屋。居間、両親の部屋、風呂やトイレまでも映し出されている。
それは先ほど極秘裏で設置した無数の隠しカメラが機能している証でもあった。
「しかしこんな小娘がスパイなんて本当なんかね。ただの女子高生にしか見えないけど」
3人の男がモニターに集中すると娘の部屋がズームアップした
動く物体があると自動追尾するシステムのようだ。
絵玲奈が鼻歌を歌いながら制服を脱いでいく。
背を向けているので胸の大きさは拝めないが、ブラの色がピンクであり、パンツは白であることは確認できた。
娘の帰宅時間と下着の色を記入しながら男が疑問を口にする
「今時の若者はブラとパンツの色を合わせることはしないものなのか?」
「そうなんじゃね。俺も未成年の監視はしたこと無いからよく知らないけど……ってボスどうしました?」
2人の男が1人だけ体格の良いボスに注目する。
ボスは難しい顔をしながらじっとモニターを見続けていた。
「この女、何処か不自然だと思わないか」
「そうでしょうか。そのあたりにいる小娘にしか見えませんが」
男が見直すが、やはりただの学生だ。
あえて言えば高2年としては少し体の線が細い。
お尻の大きさも中学生とかわらない。
気がつくことと言えば、そんな身体的な特徴ぐらいだった。
「見られているのがわかっているように思える」
ボスがボソリと疑念を口にすると部下たちは強く否定した
「そりゃありませんよ。私服に着替えたのが何よりも証拠ですし」
盗撮されているのがわかっているのに脱ぐ思春期の女子なんているはずがない。
もっともな話だった。
「女はずっと後ろを向いている。あれはカメラの位置を把握し意識しているからではないのか」
「まさか」
ボスがそんなことを言ってるうちにラフなシャツとショートズボンに着替えた娘が部屋から出て階段を降りる。
向かう先はトイレのようだ。
「これではっきりしますね」
3人の男がモニターを見つめると絵玲奈がトイレに入る。例によって画像がアップになった。
娘が躊躇いもなくズボンとパンツを同時に下ろし陰毛をさらけ出す。
顔に似合わず、なかなか濃い陰毛だった
どかっと洋式の便器に座る。足はやや開き気味のため座っても陰毛は確認できた。
娘の体がぶるりと震るとカメラが股間をアップに撮らえる。
男3人がモニターに注目する中で尿が勢い良く流れ出した
「決まりですね」
部下が書類に18時11分トイレ、尿を確認と記入しながら確信じみた声を出す。
着替えまでならいざ知らず盗撮されていると思う女子高生が堂々と尿を出せるわけがない。
しかし女子高生の放尿シーンを見せられても、ボスはまだ納得していなかった。
「この動画を心理分析班に回せ。顔の表情から尿の出方まで不自然なとこほどのないか徹底的に調べるのだ」
あまりの慎重さに部下たちが口を挟む。
「こんなまどろっこしいことしないで、やはり適当な罪をでっち上げて逮捕しましょうよ。あんな小娘、留置所の生活させれば数日で洗いざらい吐くだろうに」
「何度も言うがそれは駄目だ。あいつはあの弁護士の娘なんだぞ。あんな不祥事を二度と繰り返してはならない」
ボスがパソコンを操作し絵玲奈の母の名である古木由布子資料を映し出す。
そこには去年の7月に逮捕。一週間後、心臓発作のため医療病棟に緊急搬送。現在は○○刑務所で経過観察と書かれていた
「あれは避けられない事故ですって。入監前の身体検査や健康診断もパスしていますし我々の落ち度はないですよ」
部下が由布子の身体データを表示させる
医師が行った身体的な特徴が書かれていた。
年齢39歳。女性。身長159cm。体重41キロ。バスト88。
歯並び普通。左乳房にほくろ。陰毛濃いめ。膣、上つき。肛門やや大きめ。非処女。出産経験あり。健康体。
続けて全裸写真添付と書かれたファイルをクリックすると入監時に撮られた直立不動な裸体画像が映し出される。
化粧を落とされ、生まれて初めての全裸撮影のため当然のごとく顔は強ばっていたが、それでも知的そうで美しい女であることははっきりとわかった。
年齢を感じさせない肌の色や体のライン。娘とは明らかに違う大きくて張りがある乳房。
まるでこの日の撮影を覚悟していたかのように下の毛も綺麗に整えられている。
子供を産んでもこのプロポーションなのだから体に気をつけるタイプだったのが伺えた。
だからこそ、この一週間後に発作を起こし死にかけるなんて予想だにできない。
「高学歴の弁護士だけにプライドが高そうな女やね。顔は睨みつけているし乳首も生意気そうに自己主張していやがる。まぁそんな女も毎朝全裸検査をされて尻の穴にガラス棒を突っ込まれる生活には耐えられなかった形ですかね」
部下が茶化しながら言うがボスは真面目な顔で反論する
「そんなことで人は倒れない。健康診断で心臓病を発見できなった我々の落ち度だ」
由布子を誤認逮捕のすえ、殺しかけたのはB地区の管理する警察の最大の失態だった。
地元ではそこそこ名がしれた弁護士ということもあり市民からの抗議も凄かった。
警察組織はもう昔とは違う。クソだ。人殺しだの声も多く寄せられた。
だがそれは違う。我々は決して被疑者を殺すような真似はしない。
事実、拷問も禁止されており、死刑制度すら廃止しようとしているのだ。
「そういや、この女弁護士はまだ刑務所にいるんだな。冤罪だと発表されたのに」
資料を読んだ部下が不思議そうに言った
「本人のスパイ容疑は白だったが家族は未だに不明だからな。家族にプレッシャーを賭ける目的も兼ねて身柄を抑えておきたいのだろう。幸い収監させるだけの微罪は沢山見つかったからな」
心臓病の治療を終えた由布子が刑務所に移送されてから1年たつ。
この生意気そうな弁護士も刑務所の規律ある生活のおかけで、すっかり変わっているだろう。
番号で呼ばれるのが普通になり、看守に服従する抵抗感もない。
今では看守が裸になれと言えば睨みつけること無く素直に脱ぐはずだ。
そんな妻の変化を夫はどう見るか。
ピポという効果音とともにモニターに映る画像が台所に切り替わる
娘が夕飯の準備を初めていたようだ。
鼻歌交じりに父親の分まで作っている。
「良い子ですね」
「そうだな」
妻だけではなく娘も逮捕しろ。1人になればきっとボロを出す。
そんな強硬意見があったのは事実だった。
しかしボスは反対した。若い女性が逮捕されるところを見たくなかったからだ。
今の時代は逮捕というのはあまりに重い。未成年であろうが逮捕されたその日には情報公開の名の元に氏名や写真、個人情報が発表されるからだ。
情報の中には手錠腰縄姿はもちろん入監時の身体検査の情報も含まれている。
先ほど部下が見せた母親の全裸写真も内部資料でも何でも無い。
逮捕当日に一般公開された逮捕者データなのだ。それは後から冤罪だとわかっても消えることはない。
永遠に逮捕された人物の情報としてひと目に晒され続ける。
一度逮捕されれば生活も人間関係も一変する。
どんな仲のいい友人も逮捕された時の姿には興味があるものだからだ。
実際に冤罪逮捕は許さないとあれだけ抗議が来たのに、この美しい女弁護士のデータには未だにアクセスが絶えない。
酷い、可哀想といいつつ冤罪で捕まり、項垂れた女の手錠姿が見たい。不当逮捕なのに全裸検査をされた写真が見たい欲望が渦巻いている
人なんてそんなんもんだった
だからこそ、こんな高校生をそんな目にあわせたくなかった。
娘の父親ならわかってくれるはず。この盗撮事件に込められたメッセージの意味を。
そう思ってボスは今回の計画を立てたが。
(この娘は本当になにも知らないのか?)
監視を続けているうち自信が無くなってきた。
それは昔、殺人課の刑事として働いていた時に養われた第六感のようなものだった。