監視社会で生きる人々 04


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 昼休み

 絵玲奈は全ての女子更衣室を巡って一つ一つ調べていた。
 父はやめろと言ったがこのまま何もせず逮捕されるぐらいならやったほうがマシだ。
 その思いで必死に調べるが当然のごとに何も見つからなかった

(どういうことなの?カメラの設置どころか盗撮されたことすら誰も気がついていないなんて)

 更衣室の中で腕組みしながら考えていると体操部の1年女子が3人ほど入ってきた。

「あ、いいところに合った。ちょっと聞きたいんだけど」
 
 彼女は出会う人全てに同じ質問をした。 
 盗撮の話、不審者の話。しかし返ってくる言葉はいつも同じ

「聞いたこと無いよね」
「私もない。そんなことになってたら学校中大騒ぎだよ。こんな監視カメラの中で盗撮なんて出来るわけないし」

「だよね。ありがとう」
 絵玲奈は更衣室から出て天井を見上げると監視カメラが設置されていた。
 学校内の監視カメラは警察と学校の共同管理だった。
 それはすなわち怪しいやつが女子更衣室に入れば学校側が確実に気がつくという事であり犯人がわからないなんてありえない

(やはりパパの見立て通りってことか)
 盗撮事件は最初から存在していないという望ましくない答えにたどり着き、絵玲奈は大きくため息を付く。
 警察と学校は一丸となってパパの正体を暴こうとしていることがはっきりとわかったからだ。
 
 午後の授業開始のベルが後者に響き渡る。

「五時限目は体育だっけ。早く教室戻らないとマズイじゃん」
 父は隠し事をしている。それは警察に言われるまでもなく娘である絵玲奈にもわかっていた。
 おそらく母もそれは感じ取っていたはずなのに、それでも父と結婚しこんな素晴らしい家族を作った。
 そこには嘘はない……はず

「よっ♪ほっ♪」
 彼女は笑顔を見せながら階段を駆け上がる。
 それはまるで内から湧き出る不安や疑念を吹き飛ばそうとするような無理な作り笑いだった。


-------

 それから数時間後。
「ただいまー」
 学校を終えた絵玲奈が家の玄関で元気一杯の声を出す。
 しかし返事は帰ってこない。
 父はまだ探偵事務所で仕事をしており、母は刑務所なのだから当然の結果だった。

(ママは今頃なにしているかな)
 ふと、母がいる刑務所のサイトに今日一日のスケジュール表があったことを思い出した絵玲奈はスマホを取り出しサイトを表示させる。

(今の時間は5時17分だから……あっ)
 欄を見た彼女の顔が曇る
 スケジュール表にはこう書かれていた。

【午後5時:刑務作業終了。移動。5時15分:身体検査室】

 それ以上のことは何も書かれていないが絵玲奈の脳裏に愛すべき母が全裸のまま列に並ぶ姿が浮かんだ。

「……早く着替えないと」
 嫌な想像を振り払うかのように自室に戻り、いつものように着替えをする。
 結局下着は変えていない。朝こっそりと替えの下着を持っていったはいいが、下着が変わっていることに気が付かれたらマズイと思って替えなかったからだ

(こんなことで悩んでどうする。ママは毎日あんな目にあっているのよ)

 制服を脱ぎ、下着姿になった彼女はそのままブラも外した。
 手のひらで完全に収まる程度のちんまい乳房がホロリと現れるが、もちろん周りの反応はなにもない。
 そのままクマのぬいぐるみに背を向けた状態で下着も下ろす。
 背後から見られているかもしれないと思うと、なんとも言えない感情が体中をかけめぐる
 動揺を悟らせないように新しい下着を付け、ラフな普段着に着替えた。

 感じ取られないように「ふぅ」と小さく息を付いた
 人が見ているかもしれないのに裸になるというのは、予想以上に恥ずかしいことであることを彼女は身を持ってしった。
 そして母のことを思うと余計に胸が締め付けられた。
 母は見られているかもではなく、直接目の前で見られながら裸になるのだから。 


 ピンポン
 その時、家のベルが鳴った。
 こんな時間に何だろうと彼女は何も考えずに玄関に出た。

「古木絵玲奈さん。逮捕状が出ています。ご同行を」
 
 男性警察官が書類を見せた。

「え?」
 固まる絵玲奈。あまりに急すぎる話でなにがなんだがわからない。
 確かに逮捕もあり得ると父から聞かされており心のどこかで覚悟はしていた。
 だが今日であることはまるで想定外だった。

「ちょっと、なんですか。容疑は」
「盗撮事件の重要参考人だ。カメラを回収している姿が監視カメラに映っていたのだから言い逃れはできんぞ」
「盗撮?? カメラ?? なんのこと。確かに今日は更衣室を見て回っけど……」
 
「いいたいことは署で聞こう」

「あっ」
 反論は許さないとばかりに警官はいきなり手錠を掛けた。
 冷たい手錠から伝わり絵玲奈の全身を蝕んでいく。
 いくら楽観主義のと言っても流石にショックが隠しきれない。
 続いて腰縄を付けられるが既に彼女に反論する気力もなく警察のなすがままになっていた。

「下がって下がって」
 強引に外に連れだされると案の定野次馬が集まっていた。
 今の時刻は夕方。普通自宅での逮捕は早朝に行われることを考えても配慮もなにもないのが伺えた。
 そう。これは完全に見せしめ。
 それを証明するかのように絵玲奈には顔や手元を隠すタオルは掛けられていない。
 
「だれなの?」
「あそこの娘さんだって」

 近所のおばさんの声がしたが絵玲奈にその方向を見る勇気はとても無い。
 まるで全裸のまま連れ出されたような恥ずかしさと惨めさを感じながらパトカーに乗せられた。

 後部座席の中央に座らされた絵玲奈は必死に冷静さを取り戻そうとしていた。
 右も左もゴツい男性警察官が座っており手には手錠。腰縄まで付けられている。
(まるで凶悪犯ね……)
 パトカーが走り出すと見慣れた自宅があっと言う間に見えなくなった。
 本当に帰ってこれるのだろうか。絵玲奈は心のどこかで最悪の事態すら覚悟していた。



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