監視社会で生きる人々 05


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 大きな警察関係の建物に連れてこられた絵玲奈は真っ先に身体検査室と書かれた部屋に入れられた。
 そこには女性二人。1人は年を取ったベテラン風の刑務官。もう一人はその部下のようだった

「まず簡単に今の状況を説明します。あなたは逮捕後に即日起訴され拘置所に移送されました。逮捕後の法的処置によりあなたはプライバシー保護適用除外者となります。よろしいですね」

 若い絵玲奈にはこの時代の逮捕の流れがいかに異常か理解できない。
 ただ母とほぼ同じだったので素直に「ハイ」と答えた

「よろしい。ではいくつな簡単な質問をします。嫌なら答えなくても構いません。あくまでも形式的なものなので答えなくても不利益を受けることはありません」
 名前、住所、年齢、学校名。普段でも聞かれることを答えていると少しずつ変な質問が出てきた

「異性との付き合いはありますか。性欲は強い方ですか」
 なんだろうと思いながらも「いいえ、普通」と答えた。

「では最後に。処女ですか」
 あまりに失礼な質問に頭にカッと血がのぼった。
 答えないのは簡単だが相手の印象を悪くしたくないと思った絵玲奈は「ハイ」といった。
 その瞬間、頭のどこかで火花が散った気がした。
 性体験を赤の他人に話すことがなんて恥ずかしいことなのか。彼女は身をもって知った 


「質問は以上です。次は身体検査をします。全部脱いでください」

 先ほどより更に冷たい声を出す刑務官
 もちろん絵玲奈も理解していた。今の自分の立場は凶悪犯と変わらない。
 凶器等を持ち込ませないために身体検査は欠かせない。
 逮捕時にもその説明は受けたし何をやられるかもわかっている。


 若い刑務官がゴム製の薄い手袋を嵌め金属製のトレイをテーブルの上に置く。
 そこには細くて長いガラス棒があった。

「口を開けて」「両手を上げて」
 刑務官は感情を全く感じさせない手つきで全裸になった絵玲奈の体を調べていく。
 髪の毛をボサボサになるまでかき回し口の中や耳を奥までペンライトを使い覗き込む。

 刑務官の手が顔から下がり乳房に触れると絵玲奈の体がピクリと震えた。
 それでもポーカーフェイスを崩さない
 
 
「腰曲げて」
 おそらくこの鉄仮面は刑務官なりの心気配りなんだろうがそれでも体を調べられる辛さは変わらない。 
 言われた通りに腰を曲げると、すかさず刑務官が股間をのぞき込み、割れ目をこれ以上ないほど大きく開いた。

 彼女の中は誰が見てもわかるほどの健康そうなピンク色をしていた。
 ろくに触ってもいない汚れなき色をしており、ここになにか隠し入れているなんてとても考えられない。
 それでも刑務官がペンライトを使い隅々まで鋭く視線を走らす。

(やだっ)
 裸を見せた時とは明らかに違う羞恥が体をかけめぐる。
 こんなところは人に見せたこともなく自分ですらろくに見たことがなかったからだ。
 はっきりとわかる熱い視線と奥まで空気が当たる感触に寒気すら感じた。

「ひぅっ!」
 突然、噛み締めていた口元から声が出た
 それは刑務官の指先が彼女も知らない肉裂の内側へ沈みこんだ瞬間だった

「問題なさそうね」

 結局、指はもっとも危険な領域に行くことはなく抜かれた。
 絵玲奈はボンヤリとした頭で先ほどの処女質問はこのためだったのかと悟った。

 刑務官がトレイの上に置かれていたガラス棒を手に取ろうとするともう一人の上司が口を挟む。

「それは私が明日やるからいい。それより写真撮影して早く独房に連れて行ってやれ」
 上司がいうまでもなく絵玲奈はもう限界だった。
 意識は朦朧としており体力の限界がとっくに超えていた。

「あ、はい」
 背後に目盛りが書かれた場所に立たされると、カメラのシャッター音がなった。
 絵玲奈はその様子を現実とは程遠い絵空事のように感じていた。

(あの写真はそういう……こと…なのね。馬鹿だなわたし……)
 彼女も思春期の女子。性のことには興味があった。
 逮捕された人物の裸が見られるようになったと聞いた時は一番で見に行った。
 真正面で映られた様々な男女の全裸写真は好奇心を満足させるともに映された人物を軽蔑した。
 3人に1人ぐらいは性的興奮の証があったからだ。
 悪いことをして逮捕されたくせに乳首を立てていたり男のシンボルが上を向いている姿は性に疎い絵玲奈には理解できず嫌悪感しか産まなかった。

 だがその理由もわかった。
 あれは全裸検査後の写真なんだ。他人に体中を調べられれば性的反応を示す人がいても何もおかしくない。

(ははっ……これ見たらクラスのみんなはなんて思うのだろ)
 何度めかのフラッシュが炊かれるなか絵玲奈は自虐的な笑みを浮かべた。
 カメラの前に晒された自分自身のピンク色の乳首もしっかりと立っていたからだ。


1時間後
 絵玲奈は独房の中で体育座りのように腿を引き寄せて座っていた。
 顔を下に向けまったく動かない。いくら楽観的な性格とは言え逮捕から全裸検査の洗礼は彼女の心を深く傷つけた。
 いくらある程度覚悟していたのは言え、実際にやられるとそんな覚悟は簡単に吹き飛んだ。

(くよくよしても仕方がないか)
 ゆっくりと立ち上がると胸に違和感を覚えた。
 私服は殆んど取り上げられたため、今着ている服は支給品の体操服のようなジャージと肌着。
 流石にパンツはくれたがブラは貰えずノーブラだった。

 胸元に心細さを感じながら部屋を見渡すと中央に置かれていた本が目に入った。

『これからあなたのことを69番と呼びます。呼ばれたらすぐにハイと答えるように。細かなルールは部屋に置かれた生活の手引書に書いてあるので必ず読んでおきなさい』
 
 刑務官が言ってた本はこれかと思いながら、彼女はパラパラとめくる。
 いくら早く出たいと言っても、いつ出られるかわからない。
 まずは情報と思い読み続けると、再び絵玲奈の顔から血の気が消える。
 そこには『朝起床。布団を片付けトイレ。点呼後に身体検査』と書かれていた。
 先ほどの身体検査の屈辱を思い出し、また頭を膝に付けて座る

 彼女は祈った。
 言いつけを無視して調査した報いなのは痛いほどわかっているがそれでも祈った。
 本当は何をやっているのかわからない自分の父に「助けて」と。

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