後日の放課後。
「はいはい。注目。モアレ検査促進のサンプル本が出来たので配るぞ。各自きちんと読んで検査の意味を考えるように。恥ずかしいなんて言ってあとで困るのはお前たちなんだからな」
担任の御大層な説教は誰にも届かない。実際に生徒たちはそれどころではなかった。
前々から噂になっていた裸の写真が載せられるというのは本当なのか。 誰もが急いで配られた本を開く。
「まったくこいつらは。まぁこれで反省してくれればよいのだがな。そうすればあの子も少しは救われるってものだし」
そんな生徒の反応を教師はやや含みを持った笑い顔を見せながら教室から出ていった。
「ん?」
「これは……」
いち早く本を開いた生徒から戸惑いの声が漏れる。
本の内容は細かな説明と、正規の本用に作られたと思われる写真予定と書かれた空欄ばかり。
噂の裸の写真はなさそうでため息とも安堵とも取れる声が教室中に溢れるが、その声はすぐ驚愕の声へと変わった
最後のページ付近に裸の写真が2枚もあったからだ。
1枚目は背後から全裸の生徒を写した写真だった。
綺麗な後ろ髪のショートカットな髪型こそわかるが顔は見えない。もちろん誰かもわからない。
(これ、やっぱ女子だよな)
田中が裸の写真をマジマジと見直す。
写真の生徒は小さなお尻こそ丸出しだが胸やあそこが見えないため女子であることの確証が持てない。
だが、この筋肉もない小さな肩幅と真っ白な肌にしなやかなSラインを描いている背中。
ピタリと腰に付けられた細く長い手。キュッと持ち上がった、形のいい小さなお尻。
右の足首には本来あるべき場所から降ろされ丸まっているパンツ。
それはどうみても男のものには思えなかった。
(女の子が選ばれるなんて本当にありえるのか)
田中はわざわざモデルに選ぶほど教師から嫌われていた女子生徒がいた事実を受けいれられずにいた。
どんなことをすれば裸の写真のモデルに選ばれるのか想像すらつかない。
なにしろこの本は県内に配られるのだ。悪いことをした女子が裸で罪を償うにしてもあまりに重すぎる
しかし現実は何度見ても女子の肌にしか見えないし、背中に残るブラのあともこの生徒が女子であることを物語っていた。
震える手でページを捲る。
「うあ。やば」
思わず田中は目をつぶった。
おそるおそるページを見直す。
ページには細かな説明文。そして裸のまま正面を写した写真があった。
こちらは一枚目とは違い首から上は写っていない。写真からはこの生徒が誰なのかの情報は皆無だった。
だが、その代わりに女の裸体の特徴と言える部分は丸出しだった。
乳房は先っぽこそ黒丸で隠されているが、小さな膨らみや形がはっきりと映されていた。
股間も同様。小さな黒丸で割れ目を隠しているとはいえ、やや上付きの薄い下の毛はモロ見えだった。
同学年の女子の陰毛の生え方を見てしまった田中は何かいけない物を見た感じすらした。
「なあなあ、これ誰だと思う」
後ろの席に座る友人の櫻井が興奮気味に話してきた。
「わかるわけないよ。同学年の裸なんて見たこともないし」
田中は裸の写真をガン見しながらなにか手掛かりがないかと調べているがやはりわからない
あえていえば身長は低め。痩せ型で乳房はやや上寄りで小さめ。腕の筋肉はあまりない。
そして下の毛は薄めで。下で丸まっているパンツの色はおそらく無地の白。
後は綺麗なお尻の形をしているぐらいだ。
「ほら、ここを見てみろ。足を開いている股の部分だ。あんなところにホクロがあるんだよ」
確かにある。陰毛が丁度途切れたあたりだ。女とも言える生々しい部分にある身体的な特徴に田中は生唾を飲み込む。
「こんなところのホクロは本人だって知らないだろう。俺達は本人すら知らない位置にあるホクロをしったということなんだぜ」
「……」
そんな恥ずかしいところの身体情報を晒された女子は今どんな気持ちなんだろう。
黙りこくっていると友人は話を進めた。
「これは数少ない個人を特定するホクロだよな。つまりだ。今日女子たちは家に帰ったらこの写真が自分でないことを確認するためにあそこ付近を鏡で確かめるんだぜ。なんか興奮しないか」
「確かに。……って痛っ」
マジマジと写真を見ていると頭部に衝撃が走る。
「こら、何イヤらしい顔をしてそんなもんを見ているのよ。ほら帰るわよ」
由利が突然声をかけて来る。
裸の写真をガン見していたことを怒っているようだ。
「おいおい。待てよ。今行くから」
田中は急いで本をカバンに入れ一緒に教室を出た。
数分後
「しかしまさかモデルが女子とは思わなかったなぁ。他の女子は何か言ってたか?」
田中はあの写真のことがどうしても気になり、わざとらしく話題を振った。
「別に。友達の理香子も私たちで無くてよかったね。とやたら強く言うぐらいだし……」
由利はなにか腑に落ちない顔をした。
「やはり女子たちもあの写真が誰なのかわからないのか」
「わかったところで何もしてあげれないしモデル探しはしないんじゃないかな」
ごもっともな判断だった。同じ女子だからこそ裸の写真がばら撒かれる恥しさと全裸を見られる深刻さを重く受け止めていた。
そして今日起きたことはもう何をやっても消えない。全校生徒に裸を見られた事実は変えようがない。
この問題の解決の難しさを認識しているようだった。
重苦しい空気を変えるべく田中は冗談っぽく話す
「そういや、あそこ付近にホクロがあるって話は女子の間で話題になった?」
「初めて聞いた。流石に男子はよく見ているねぇ。最低ーー。この、この、スケベ魔神が」
「ははっ。そんなカバン攻撃が当たりますか。ひよいひょい」
2人はいつもと同じような楽しい雑談を続けようとしたが、やはり会話はすぐに途切れた。
「……」
何処ともしれぬ不安が2人の心にのしかかる。
重い沈黙後にようやく分かれ道にたどり着くと由利は「じゃね」と手を振りながら去っていく。
田中はその去っていく後ろ姿をなんとなく見ていた。
すると一瞬由利の裸の姿が透けて見えた。
まるで彼女の裸を見たことがあるかのように。
ps
結構前の作品なのでちょっと直しました。
2023年2月6日