少年院で苦しむ女子たちの話
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本編
11月も終わりを迎え、2学期も終わろうとしていた時、高校2年生の利彦は教室で頭を抱えていた。
確かに悪いのは彼自身だった。まさに自業自得。それを証明するかのように友人たちが揶揄うように喋りだす。
「だから早く提出すればよかったのに。学生の就職体験をやっている地元企業なんて数少ないんだから取り合いになるなんてわかっていたじゃん。中学の時もそうだったろ」
ぐうの音も出ない正論だった。この地域の学校は社会体験を重視しており、それをサボったとなれば内申書にも響きかねない大失態。
利彦は貰ってきた3枚のパンフレットをカバンから取り出し、机に広げた
「えっと。残っているのは警察署、少年院、消防署?うわー見事なまでにお役所ばかり。うげー選びたくねぇ」
警察は1週間みっきりと護身術を習わしてくれるようだ。
消防署も走り込みをしている写真が載っている。
背こそ高いが華奢な体の利彦にはどちらも向いていないのは明らかだった。
「そういや、お前は教師になるんだろ。なら少年院とかどうだ。問題児をどうやって躾けるかも教師にとって必要な知識だろ。プロの現場を体感しておくのも悪くないんじゃね」
確かに利彦は教師を目指すつもりだった
だが少年院と学校は違うだろうとも思う。
学校は愛情を持って生徒の成長を手助けする場。
しかし、少年院は既にひん曲がった子供を叩き直すような場。
似て非なるもの。役に立つとは思えなかった。
「俺は体罰とか精神論が苦手なんだよ。前も言ったけど理想は生徒の目線に立つ教師。少年院の現実なんて見せられたら夢が壊れるじゃないか」
少年院は間違った道に行った子どもたちを鍛え直す場だ。
その生活は下手な刑務所よりも厳しく反抗心を徹底的に潰すという。
生徒の自主性を重んじる彼にとってはあまりに相反する世界。
「なに?少年院なんて見たらこんなやり方は許さないと正義感を爆発させそうなの?」
友人が揶揄うように茶化しだす。
「まさか。知らない施設のやり方に文句を言うほど子供じゃないよ。犯罪者を更生させるためには厳しいルールだって必要なことぐらいは理解しているし」
ぺージをめくると1枚の大きな写真が目に入る。
朝礼のワンシーンなのか直立不動をし、なにやら宣誓している女子の姿が写っていた
「あれ、こんな大きな女性も少年院なんだ。同年代? いや年上に見える」
綺麗な女性を見て友人が食いつく。
女性は短髪で白い体操服を着ており、体つきは大人っぽく見える。
一般に公開させるパンフレットにもかかわらず目線とかはなく、どことなく知的な感じがする顔つきもはっきりと写っていた。
「少年院は16歳未満。少年刑務所は19歳以下のはずだからここは少年院というより刑務所に近いんじゃないかな。近年は色々あってそこまで明確な区別は無いらしいけど」
法律がコロコロ変わって利彦もよく把握はしていなかったが、ここが比較的年齢が高めの施設であるのは間違いないようだ。
「へぇ。そうなんだ。なら年上の可能性もあるな」
なぜかこの女性は様々な場所の写真に写っていた。
走り込みの体育中。室内の授業中。昼休みの食事中。
どれも目線がなく本人のプライバシーなんてまるで考えていない写し方だった。
「おい、これ見ろよ」
友人が入浴施設紹介の写真を興奮気味に指差す
「え?」
突然肌色が飛び込んていて利彦は目を見開く。
その写真は入浴施設の脱衣室の様子を捉えたものだった。
それだけなら問題ないが、写真は後ろ姿の白パンツ1枚の女子とその先にいる男性教師が一緒に写っていた
利彦は思わず生唾を飲み込む。
裸の肩。抜けるような肌色の背中。ダサいシンプルな白のパンツが修正もなく写されている。
女子の手はパンツの両端を掴んでおり今から下ろそうと動かしたのか尻の割れ目も少し見えている。
そう。これは脱衣中の女子を後ろから撮った写真。
「顔が見えないけどこれもあの女性だよね。身長も同じぐらいだしパンツから浮き出る尻の形とか太ももとか妙に大人っぽくて、どうみても子供の体つきじゃない。すげーわ」
先程まで見てきた綺麗な女性が後ろ姿とは言えいきなりパンツ1枚になって現れたことで友人のテーションが上がる。
冷静に装っていたが利彦も内心穏やかではなかった。
「手足が細いし筋肉もなさそう。運動とかが得意な女性ではないんだろうな」
写真の女性に興味を持っていたのは利彦も同じ。
知性や冷静さを感じさせる雰囲気でどう見ても少年院にいるタイプには見えなかったからだ。
だからこそお尻の形が丸見えなパンツ姿が晒されていたのは衝撃だった
ラッキーと思う気持ちがある反面、これを載せた人はいったいなにを考えているのかとも思った。
本人はこの写真を公開することを承諾しているのか。そもそもこれを公開することにどんな意図があるのか。
その疑問に答えるかのように友人がボソリと言った
「しかし少年院って女子であっても男性職員に監視されながら風呂に入るのか。配慮も何もないな。おっかねぇ」
友人の反応を見て、なるほどと利彦は思った
確かにこの写真は女性が少年院でどんな生活を虐げられているかを明確に示していた。
女性の先にいる平たい棒を持った男性職員は女の乳房が丸見えにも関わらす平気な顔をしている。
それはこの施設が異性の前で裸になることすら日常のひとコマである証だった。
この写真を見れば誰もが思うだろう。こんなところだけは行きたくないと。
それだけのインパクトがこの下着写真にはあった。
「あー。本当に綺麗な体だな。やっぱここにしろよ。上手く行けばこの子の全裸が見られるぞ」
興奮気味に友人が話すが、彼は冷静に状況を分析し返した。
「流石にそれはない。確かに指導を体験してもらうようなことが書いてあるけど、どうせやらせてもらえるのは男相手だろうし」
「あーここは男子もいるのか。だから募集が男女一つずつか。それじゃ女子の生活風景を見る機会はなさそうだな」
当事者でもないのにがっかりしている友人を見ながら利彦はパンフレットを裏表紙を見る。
すると女子募集枠の欄にペケが付けられていることに気がつく。
男子はまだ空いているが、どうやら女子の募集は既に締め切られているようだ。
「へぇ。女子で少年院を見たいって変人がいたのか。すげーな。顔を見てみたいわ」
同じことに気がついた友人がやや大声で言う。
いや、興味を持つ持たないに性別は関係ないだろうと注意しようとしたら少し離れた席から女子の声がした。
「その変人って私のことよ。なにか文句あるの!」
「げっ。委員長」
メガネを掛けたこのクラス一番の堅物であり背も一番低い中村靖子がやってくる。
どうやら会話は筒抜けだったようだ。
「え?これに募集したの委員長だったの? またどうして……あっ」
利彦は途中まで言いかけるがあることを思い出す。
そうだった。このクラス一番の堅物でルールルールと煩い委員長の進路先は司法試験に強いとされる大学。つまり。
「そういうこと。私が弁護士志望なのは知っているよね。今後のために少年院とはどんなところなのか見ておきたかったの。あとはこの女性のことも気になるしね」
「どういう意味? この写真の女性と知り合いなの?」
「面識はないわ。年も2学年違うし。でも彼女がどれだけ優秀なのかは知っている。だからこそパンフレットに見た時はショックだったわ。あれだけの頭脳を持った彼女が好きでもない男の前で下着を下ろすことを強制されている。あまつさえもこんなセミヌードをパンフレットに載せられて世間のさらし者になっているなんて」
委員長はパンフレットを広げて問題の写真を見ながら厳しい目で言った。
それを聞いた利彦はやや首を傾げながら話す。
「でもこの女性はよくやっているんじゃないかな。きちんと罪を、償おうとしているし」
確かにパンフレットに載せるような写真とは思わないが、犯罪者を指導する方針としてはそこまで間違っているとも思わなかった。
それはこの写真が示しているとも言える
「どうこと?」
「こうして男の前で下着を下ろすぐらい順応していることがもう反省している証だと思う。自分が悪かったと思わなければこんなことしないだろうし」
「利彦くん。そうじゃないのよ。だって彼女は……」
珍しく委員長が言葉に詰まる。
(どうしたんだろ。委員長らしくない)
校則にうるさく男子からは好かれている女子とはとても言えなかったが利彦から見れば特に苦手な女子というわけでもなかった。
確かにルールルールと口煩いが決して間違ったことは言っていない。
頭の回転も早くて考えそのものも比較的近かった。
それだけに答えに困る委員長を見るのは物珍しさのほうが強い。
「決めた。少年院にするわ」
委員長と一緒ならつまらない場所も面白そうだ。
利彦はニコリと笑いながら手を差し伸べた。
「ええ、じゃ3日間一緒ね。意見は少し違うけど喧嘩しないように頑張りましょう」
小さな腕を可愛らしく伸ばしながら委員長は語った。
こうしてみるとおとなしそうに見えるが性格は勝ち気、成績は優秀、運動神経も抜群なんだから人はわからない。
委員長が握手を返す。
低身長らしく華奢な手をしていた。
すると先程から黙っていた友人が再び揶揄うように言う。
「ここに注意書きがあるけど2人で一つの評価なんだな。つまりどちらか片方がリタイアしたら失格。こんな条件のもとに行って委員長、大丈夫なのー」
「? なにがいいたいのよ」
「別にーー ただ委員長は『可弱い女の子』なので犯罪者に怒鳴られてたら泣いちゃいそう」
「誰が可弱いですって!!」
1年間も聞かされ続けた堅物委員長と不真面目男子との漫才を聞きながら利彦は応募の注意事項を読む。
期間は2泊3日。評価は2人一緒に行う。規則やマニュアルには絶対に従うこと。体験体感出来る生徒のみ応募可能。
(体験体験を2つ書く意味は何なんだろ)
彼の認識では体験は身をもって経験することであり、体感は身に受けて感じること。
それまで違うがある言葉にも思えない。
わざわざ2つ書く意味がわからなかった。