少年院で苦しむ女子たちの話
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あれから5年が経った。
結局、利彦は平凡なサラリーマンの道へと進み、教師になる夢は夢のまま終わった。
彼の人生設計を狂わせたあの少年院も空き地へと変貌し、当時の面影はどこにもない。
それもこれも冤罪が証明されたお姉さんの活動が大きかった。
お姉さんは好奇の視線に晒されながらも自身が受けた体験を話し続け、少年院の責任を訴えた。
そのせいなのかどうかはわからないが、あの少年院は隣の市の少年院と統合され廃止された。
あそこにあった数々の資料も消去されたと聞く。
それでも、お姉さんは責任者の追求をやめない。
他の卒業生は口を閉ざし、完全に孤立無援になっているのにも関わらず、声を上げ続けた。
もちろん、そんなことをしていれば反発する層も増える。
利彦はその手の集まりのサイトを見るのが日課となっていった。
別にお姉さんが嫌いなわけじゃない。辱めたいわけでもない。
ただ自分の欲望のため、お姉さんの話題を風化させるわけにはいかなかった。
>お宝発見。
>なにこれ?校門の写真に教室の写真?更衣室。これは風呂場か?
>当時配られたあの少年院のパンフレット全ページ。この脱衣場にいる後ろ姿の女子ってあいつだよな
>なぜそう思う。顔も写っていないのに。いや待て。確かにこのグラウンドで挨拶している体操服姿の女はあいつだ。
>みたいだな。しかしここの体操服は太ももまで丸見えなんだな。
>ブルマってやつだろ。そんなことよりこの太ももと後ろ姿で下着を下ろそうとしている女の太ももは同じじゃね。
>間違いない。あいつの裸じゃないか。パンツ丸見え。尻デカ
利彦は数日前のアップしたファイルの反応を見てニヤついていた。
ファイルはあっという間にマニアの間で広まり拡散していった。
調子に乗っていると思われている女のセミヌードが見つかったのだからこれ以上無い玩具になった。
その日のうちに背中のほくろの位置が全て暴かれ、記者会見の真面目な格好と比較するかのように半裸の写真や体操服姿と組になった画像が拡散していった。
むろん、こんなことをお姉さんが望んでいるとは思えない。
こんなパンフレットはお姉さんも見つけているはずなのに、証拠として使ったことはなかったからだ。
それでも利彦はパンフレットに載せられていたお姉さんのセミヌードをネットに晒した。
なんでこんなことになったんだろう
当時の彼は未来の希望に満ち溢れており、決してこんな陰湿なことをする性格ではなかった。
全てはお姉さんと委員長の裸を見て尻を叩いた時に何もかも狂ってしまった。
(委員長、どこにいるんだよ)
結局、委員長は3学期を待たずに転校し彼の前から姿を消した。
必死に探したが、未だに居場所はわからない。
利彦が委員長を最後に見たのは最終日の検査室。全裸のまま髪を切られ、丸坊主されようとする悲壮感漂う後ろ姿だった。
あの時、バサリバサリと落ちていく自分の髪を見て委員長が何を考えていたのかはわからない。
だが、利彦の人生が変わったように委員長も髪を切られた時に人生が大きく変わったのは間違いない。
利彦は引き出しから古びた2つの手帳を取り出す。
これはお姉さんと委員長の身分帳。女性職員が帰り際に渡してくれたもの。
目を閉じればあの時の光景が浮かぶ。
そう。あれは帰り支度を始めた時。
女性職員は突然やってきて2冊の身分帳を手渡した。
「それは?」
「君が担当した2人の身分帳。2冊ともあげるわ。今週には破棄されるものだけど、せっかく作ったのに勿体無いしね」
利彦は渡された新しい方の身分帳をパラパラとめくると、暗く辛い顔をした委員長の全裸が目に飛び込んできた。
初日に撮られたものなので髪もあり可愛い乳房や陰毛までばっちり写されていた。
これは委員長のプライバシー全てを記入された身分帳。
誰にも見られたくないはずの全裸写真も当然のように添付されていた。
「これを貰って良いのですか」
どう見ても門外不出のもの。部外者が持って良いものじゃない。
「卒業する生徒の身分帳は破棄し、デジタルデータだけ残すが決まりだから良くはないわね。でもせっかく作ったんだし勿体無いじゃない。だからあげる」
「しかし……」
「いいから持っていきなさい。今にきっと役に立つわ」
女性職員がなぜこんなものをくれたのかは当時はわからなかった。
だけどこんな事態になった今ならわかる。
これはあの少年院で行われたことの決定的証拠にもなりえるし逆に口封じにも使えるものなのだ。
「次は委員長の裸体写真か。最初の1枚だからまずは目線を入れて顔を隠しておくか。胸や下の毛も隠していいけど興味をもってくれないと困るので体は無修正と。うん。こんなもんかな」
しかし利彦には少年院の闇を暴くお姉さんの運動に興味はなかった。あればとっくにお姉さんと接触している。
彼がずっとやっていたこと。それは委員長を探し出すこと。
探してどうするのか。それはわからない。謝りたいわけでもない。ただ顔を見たかった。
初々しい学生時代の委員長の裸をアップしたが、ネットの反応は
案の定悪かった。
顔に目線が入った全裸の女子が直立不動で写されているだけの画像。
委員長の体は女としての魅力に欠けていた。胸が特別大きいわけでもないしスタイルが良いわけでもない。
おまけに目線まで入っているのだから裸の画像だらけのネットで埋もれるのは必然だった。
>なぁ、この画像に写っている机ってあの少年院の部屋にある机と似ていないか。
>え?マジ?
>あー、同じものだな。つまりこの裸の女の子はあそこの生徒なのか。
>あいつに比べたら貧相じゃね。胸も小さいし。
>でも俺はこの胸の形好きだな。乳首の色もいいし素朴な感じがする。きっと田舎の女子だぜ
利彦はポチポチとヒントを打ち込むと反応が素早く返ってきた。
なんてことないヌード写真もあの少年院で撮られた生徒のものとなれば見る目が変わる。
狙い通りに炎上し、裸の写真の女の子探しが始まっている。
なんとかして目線を外そうとする人。胸の形、乳首の大きさ。陰毛の長さ。裸体の全てを暴き数値化して身体的特徴を探し出そうとする人。
この裸体を探していますのポスターっぽい画像も作成され、様々なサイトで委員長の裸が晒された。
ネットの住民や騒ぎを聞きつけたお姉さんが委員長までたどり着けるかどうかはわからない。
委員長は犯罪を犯して入ったわけではないし、通常の調査では名はおろか、存在を確認するのも困難であることは容易に想像が付いたからだ。
だが、利彦は信じていた。自分の裸がネットに晒されていることに気がついた委員長が助けを求めてくることを。
「まだかな。まだかな」
利彦は暗い部屋で鳴らない電話をずっと待ち続けた。
終