ヌードモデルに選ばれた姉


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 夜7時。自宅。
 隆は姉と一緒に夕食を食べていた。
 静まり返った中で、箸や味噌汁を啜る音だけが聞こえる。
 2人に会話はなく、相変わらず気まずい雰囲気だけが蔓延してきた。

(今日は姉の裸を二回も見てしまった上に怒らせてしまった)
 それでも姉は一緒に夕食を食べてくれている。
 それは姉の優しさ以外何者でもなかった。
 今なら普通に話せるかも知れない。
 そう思った隆は言葉を選びながら慎重に口を開く。

「藤沢先生は明日の美術部参加のことを何か言ってた?」
 姉が藤沢のことを慕っているのは知っている。
 だから迂闊なことは言えない。いかにも心配そうな口調で言った。

「自分で参加することを決めたんだからあなたは心配しないでだって。もうどうすれいいのよ……」
 姉は困り果てたような声を出す。
 止めさせようとしたが、説得に失敗した無念さがありありと感じられた。

「姉さんは明日どうするの。まさか行かないよね。部長も必ず来いとはいわなかったし」

「なにを言ってるの。行くに決まっているわよ。先生だけ恥ずかしい思いをさせられないわ。そんなの当たり前じゃない」
 少し怒った口調。明らかに地雷を踏んでいるが、それでも隆は引かない

「いや、姉さんは来なくていいよ。ボクがなんとかするから」
 隆は明日は来ないようにと促した。
 もし藤沢先生が次のヌードモデルに決まれば姉は何を言い出すかわからない。
 そんな爆弾と一緒に選考会なんて出来るはずがなかった
 
「もう行くと決めたの。それにこれは私と先生の問題なのだから隆は黙っていて」
 姉独特の意志の強い声。
 こうなると決して自分の意見を変えない。
 弟も家族として、そのことはよく把握していた。

「でもそれじゃ……あっ」
 ふいに姉の胸元を見た隆は思わず言葉が詰まる。
 今日の姉は白いブラウスを着ていた。
 昔からよく見る普段着だが、これまでとは明らかに違うところがあった。
 それは左右の胸のふくらみの中央にポチッとした輪郭が浮かび上がっていたからだ

「? まあいいわ。ごちそうさま」
 弟の戸惑いに気がつくこと無く姉が立ち上がり、自分の食器を洗う。

 隆はますます姉の考えが理解できなくなっていた。
 どう見ても今の姉はノーブラだ。今までなら弟の前でそんなだらしないことはない。
 なぜブラを付けていないのか。考えられる可能性は一つだけ
 姉は自宅までノーパンノーブラの約束を守っている。
 いつから下着を付けていないかはわからない。昨日からかも知れないし今日からかも知れない。
 だが、それをやる必要がどこにあるのだろうか。
 それに……

(明らかに大きかったよな……)
 隆は実の姉の胸の大きさも乳首のサイズも完璧に把握していた。
 今では何も見なくてもヌード絵を書ける自信すらある。
 だからこそ些細な変化も読み取れる。
 つまり今の大きくなった姉の乳首は見られて擦れて興奮している証。

 妄想力を全開にし、失礼すぎることを弟が考えていると皿の水洗いの音に混ざりながら姉の声が聞こえた。

「隆は私に何か言うことあるんじゃないの」

「え?」
 突然の質問に隆は言葉を失う。
 姉に隠していることが多すぎて何のことがわからない。身に覚えがありすぎるのだ。
 先生をヌードモデルにしようと思っていることなのか。
 それとも白鳥部長から姉の私生活の写真を撮るようにと言われたことなのか。
 他にも姉に黙っていることは沢山ありすぎて、何のこと何か全くわからない。

「明日の身体検査のことよ。場所は何処?」
 姉がぶっきらぼうに言う。予想とは全く違うことで隆が安堵の息を吐く。

「体育館倉庫。検査員は副部長だって」
 行きたくないのは山々だろうに、約束を破るという選択肢もないらしい。
 隆は姉らしい変わらない意地っ張りに呆れながら場所を告げた。
 すると姉の動きが止まり、考え事をするように片手をあごの下に当てる。

「倉庫で検査員がアイツ?……なるほど。そういう思惑ね。なら隆も一緒に来てよ。別に1人で行かなくてはいけないってわけじゃないんでしょう」

 今朝は検査中にジロジロ見すぎて怒ったというのに今度は見てほしいという。
 辻褄が合わない姉の言動。
 違和感を抱きながら隆は「わかった。じゃ行くよ」と答えた。

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 最後まで微妙な空気だった夕食が終わり、隆は自分の部屋に戻った。
 ベットに横になり、スマホを開いて、お気に入りの画像を映し出す。
 目の前に現れたのは、副部長から貰った姉が全裸で直立不動をしている写真。
 隆はこの写真を使い、実の姉の裸婦を完成させた。
 もちろん、絵を書き終えれば、もうこの写真は必要ないはずだった。
 実際に削除しようと思ったことも、1度や2度ではない。
 しかし、この写真の価値に気がついた彼には消せなかった。 

 隆は姉の裸を何度も直接見ている。だからただの裸の写真であるなら、そこまで固執する必要はない。
 だが、これはただの全裸写真ではなかった。
 初めてカメラの前で、肌を晒した時の写真なのだ。
 姉が裸になる時は相手を睨みつけて怒りをあらわにする。
 それは美術室で裸になったときもそうだった。
 どんな恥ずかしい目にあっても弱みを見せない女性。それが姉だと弟も思っていた。

(あぁ、やっぱり可愛いな)
 しかしこの写真に映る姉はまるで違う。
 普段は決して見せない姉のどんよりした暗い瞳を見た弟は自分の股間が大きくなるのを感じた。
 それだけ写真に写っている絶望に満ちた姉の姿は性的に美しく、そして残酷だった。
 見慣れた乳房も剥き出しの下半身も普段とは違う。
 まるで写真に撮られるのを拒むように体中が縮こまっていた  

 この写真から伝わるのは圧倒的な負のオーラ。
 全てを失い、裸にされた女性が最後に残った肉体すら明け渡した瞬間を写した決定的な瞬間。
 おそらく今の姉を裸にして写真を撮ってもこんなショットにはならない。
 まさに女が一生に1度だけ見せる姿。

(委員長の全裸写真もこんなのかな)
 隆の手が自然とズボンとパンツを下ろすために動いた。
 強制的に撮られた姉の屈辱的な全裸写真。ヌードモデルの時に見た委員長の裸。
 そして、熟した女の身体であろう藤沢先生の全裸を妄想しながら弟の夜は更けていった。
 



 

 


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