放課後。授業を終えた隆は藤沢先生を呼びに職員室へ来ていた。
彼と藤沢との面識は殆ど無い。どんな人物なのかもよく知らなかった。
ただ、あまり人のことを褒めることがない姉が慕うのだから性格のいい教師であることは容易に予想できる。
常に生徒側に立つ優しい教師。その程度の認識だった。
(おっと)
そのような人物の乳房を今から見ると思うと隆は己の股間の盛り上がりを抑えきれずにいた。
興奮を落ち着かせるように大きな深呼吸し、ゆっくりと職員室の扉を開けた。
「失礼します。美術部のものですが藤沢先生はいますか」
さっと見渡すが女性の姿はない。男性教師が数人座っているだけだ。
まだ戻っていないのかな?と思いながら立ち尽くしていると、扉の近くに座っていた男性教師がめんどくさそうにこちらを振り向く。
年齢は50代ぐらいで頭の毛が薄い禿げた教師。
どこかで見た気もするが、はっきりとは思い出せない。
「藤沢なら校長室に行っている。そろそろ戻ってくるからそこに座って待っていなさい」
隆は「はい。わかりました」と言って近くに置いてあった椅子に座る。
職員室は人が少なくガラリとしており、殺風景な感じがした。
「美術部ってことは例の見学の話かね。まったく藤沢も何を考えているのやら。他の部の顧問が関係ない部にちょっかいを出すなんて決して許されることじゃない。しかも裸になってまでもやるなんて」
男性教師は相手が生徒だというのに不機嫌そうに話す。
たったこれだけの会話でもわかる。藤沢先生が学校側から相当煙たがられていることを。
「やはり教師が生徒の前で脱ぐなんて許されませんよね」
隆は適当に話を合わせた。教師の威厳を損なう行為は男性教師も当然嫌っていると思ったのだが
「いや、それはいい。アレだって学校の一員だ。生徒が決めたとはいえ約束は守ってもらわないと困る」
と、きっぱりした口調で現状を肯定した。
それは隆にとってあまりに意外な言葉だった。
同僚の教師が生徒の前で裸になるというのにまるで動じていない。
どんな意味があるのか?言葉の真意は?
どう答えていいのかわからず、しばし無言で考えていると後ろの扉が開く。
すると男性教師がまるで生徒をイビるような挑発的な声を出した。
「おやおやーー、暗い顔してどうなさりましたか。今日はかねてからの希望であった査察の日だというのに元気ありませんねぇ。なにか恥ずかしいことでもあるのですか」
男性教師は入ってきた女性こと藤沢先生を見たなりあからさまな嫌味を言った。
その姿は隆の目から見ても権威の欠片も感じさせない見苦しい姿だった
「ご冗談でしょう。私は自分の判断に信念を持っています。そのためならどんな犠牲を……ってその生徒は?」
藤沢は男性教師との会話を早々に切り上げて隆に向かって話す。
「えっと美術部の福留隆です。迎えに来ました」
隆は相手の目を見てはっきりと答えた。
こんな間近で藤沢先生を見ることは殆どなかったが、確かに噂通りの可愛いと綺麗な同居しているような印象を受けた。
生徒と歳が近すぎることを誤魔化すためか、いかにも教師らしい長すぎない髪型に地味で厳格な濃紺のスーツやスカートも意外と似合っていた
「そう。君が佳子の弟さん……」
口調から多少の警戒感が感じられた。
姉から聞いていないのか。それとも悪口を聞かされているのか。
彼にも判断が付かなかった。
「笹村教頭。お話でしたら明日にも改めて。失礼します」
教頭だったのか。隆が驚きの顔を見せると笹村は「楽しんでこい」と意味深なことを言った。
なんて返事していいのかわからず困っていると藤沢が隆の手を強引に引っ張り廊下へ連れ出した。
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「え、えっと」
「なにしているの。美術室に行くのでしょう」
ギクシャクした雰囲気の中で2人は美術室へと向かった。
生徒は誰も通らない。静まり返った廊下を歩いていると藤沢が口を開く。
「隆くんはなぜ美術部に入ったの?やはり女の子の裸が見たかったの?」
隆は少し考えてから「もともと絵が好きだったので」と答えた。
それは半分本当だった。絵を書いていたことがあるから入る気になった。
もちろん裸を見たい欲望もあったが。
「好きなのはいいことよ。でもそのために女子生徒を苦しめていいはずはないわ。そのことは被害者の家族である君が一番良くわかっているはずよね」
痛いところを突かれて隆が黙り込む。
あまりに気まずい空気が漂いながらも2人は歩き続けて美術室へと到着する。
扉を開け、中に入った。
美術室内にはまだ来ている部員も少なく、噂の美人な先生を連れてきても反応は薄かった。
「白鳥部長ならまだだよ」
一人の生徒がそういった。まずは白鳥部長と話すと思ったようだ。
「了解ー。来たら準備室にいると言ってくれ」
隆は仲のいい一年に頼む。
後は準備室で先生を上半身裸にするだけだが、果たして言うとおり脱いでくれるだろうか。
本人は承諾したと言ってたが、やはり一抹の不安が残った。
隆が準備室の扉の鍵を開けると藤沢が素早く中へ入る。
そしてさっと準備室を見渡し、机の上に置かれたパソコンに目をつける。
「へぇ。こんなところにパソコンがあるんだ」
止める間もなく、机の椅子に座り、パソコンの電源を入れた。
ピポッと言う起動音とともにパソコンが立ち上がる。
普段なら姉の裸体写真を壁紙に使った見慣れたデスクトップが現れるはずだが、今日はなぜかパスワード付きのロック画面が現れた。
「あ、ちょっと。触らないでください」
隆は急いでパソコンのスリープボタンを押した。
すると藤沢は机の引き出しを開け、中に入っていたノートを読み始めた。
(やはりこの先生は……)
ここまで露骨にやられればわかる。
この先生は部の不正かなにかを探しに乗り込んできたのだ。
早く止めさせなくては。
「先生、やめてください」
かなり大きな声で言ったが、振り向くことさえしてくれない。
それどころかもう一度パソコンの電源を入れた。
このままでは何をしでかすかわからない。
早くなんとかしないとと思いっきり焦っていると、ふと彼の脳裏に白鳥部長から聞かされた話がよぎる。
『あんたさ。ヌードモデルに選ばれても文句を言う女子はどうすればいいのかわかる? とにかく上だけでも脱がせるのよ。殆どの女子は乳房を剥き出しにされると大人しくなるわ。それだけ女に取って乳房とは神聖なものであり見せてはいけないもの。だから上半身さえ裸にしてしまえばあとは簡単なものよ。負い目と諦めに押しつぶされて何でも言うことを聞くようになるわ』
(よし)
隆は白鳥部長のアドバイスを実行しようとした。
とにかく上半身裸になってもらおう。
おっぱい丸出しで家捜しなんて出来るはずもないし一石二鳥。
「せ、先生、もうその辺でいいでしょう。は、早く脱いでください」
美術部の部員としてすでに何人ものの裸を見てきたが、今回は大人の女性。
しかも教師となればやはり緊張し口は思うように回らない。
それでも藤沢の動きが止まる。一瞬だが眉に潜める。
軽くフッと謎の笑みを浮かべて立ち上がる
「あら、教師に向かって脱げとは大胆ね。それともこんな若い女性は教師に見えないってことかしら」
隆が戸惑っていると藤沢は後ろを向き上着に手をかけた。
表情は見えない。平気なのか辛いのか、屈辱的なのか納得しているのか、なにもわからない。
後ろ姿とはいえ、教師が目の前で脱いでいく姿に隆は慄く。
スーツを脱ぎ、肌着を脱ぐと、抜けるような肌の色と黒いブラの紐が見えた。
手を後ろに回すとパチンというブラのホックが外れる音がした
それと同時に動作が止まる。
どうしたんだろうと思っていると藤沢が突然前を向いた
「え?」
予想だにしていない行動に隆は思わず後ろに下がるが、あっさり壁に追いつめられた。
藤沢はまるでメロンのように熟れた乳房を片手で押さえながら迫る。
手で抑えているというのに歩くたびに乳房がかすかに揺れていた。
乳首こそ見えていないが、その柔らかそうな肉の塊は彼が今まで見た女子生徒の乳房とは何もかもが違っていた。
「まだ遅くないわ。洗いざらい白状して。そうすればこの部は潰さないで存続させてあげるから」
顔が赤い。教師の仮面を被っているが恥ずかしいのは見て取れる
当たり前だ。今の彼女の上半身に身につけている物は後ろのホックが外れた黒いブラだけ。
そのブラも紐がだらりとぶら下がっており、とても生徒の前でする姿ではない。
距離を詰めながら藤沢は「さあ答えて」と圧力を掛ける。
すでに両者の距離は手を伸ばせば乳房に触れられるまでに近寄っている
いくら彼が鈍くてもわかる。これは選択。
姉の味方である藤沢先生は白鳥を裏切ってこちらに付けと言ってるのだ。
口の中が乾く。これまで見てきた姉の裸やヌードモデルに選ばれた生徒たちの裸が彼の頭に浮かぶ。
無意識。本当に無意識のうちに隆は右手を動かす。
それはかつて白鳥部長が姉にしたことと同じ動作だった
そう。傍から見るとまるで握手を求める動作。
藤沢も一瞬笑顔を見せた。だが、それが間違いと気がつき、顔が歪む。
そして彼女は悟った。自分の説得が失敗したことを。
隆の右手は胸の前で開かれてきた。
その手のひらの上に置くモノを要求しているのかは明らかだった。
藤沢はブラを体から外して、隆の手のひらに置く。
もう隠しても仕方がない。彼女はまるで敗北者のようにダラリと両腕を下ろしその乳房を晒した。
ぬくもりが残るブラを強く握りしめながら隆は目の前に広がるものから目が離せなかった。
あまりにみずみずしく張った大きな乳房が眼の前にあった。
やはりこれまで見たどの生徒の乳房とも当てはまらないと思った。
ハリがあり、サイズが大きい。普通なら垂れそうな形なのに乳首がやや上についているため、そんな感じもしない。
(ああっ)
じっと眺めているうちにフラフラと膨らみの山頂にあるピンク色の乳首に手を伸ばしかけた。
こんな思いはこれまで感じたことがない。
委員長の裸を見たときも、姉の裸を見た時も触ってみたいとは思わなかった。
だがこの先生の肌は違う。このきめが細かさ。学生のものとは違う大きな乳房。
手で触れて感触を確かめたい。その思いが強く働いた。
そんな手の動きを藤沢は悲しそうな目で見ていた。
説得に失敗した報いを受けようと言わんばかりに隆の行為をただ見守っていたが。
「なにしてるの!!!」
突然、姉の声が狭い室内に響く。
振り向く間もなく、姉がズカズカと駆け寄り藤沢先生との前に割り込む。
「先生……なんてことを。、私なんかのために」
脱いだ本人よりも姉のほうがうろたえ混乱していた。
こんなに悲壮感が漂う姿は家族の隆も見たことがない。
「いいのよ。それに佳子さん。あなたのほうがもっと辛い目にあっているのでしょう」
「でも……こんなのってないわ」
隆が呆然と二人の会話を聞いていると、1人の女子生徒が室内に入ってきた。
白鳥部長だ。
「本当に何をしているのだよね。隆くん、弁解を聞きましょうか」
かつてないほど冷たい目。
白鳥部長が部員たちのモデルの扱いに細心の注意を払っていることは知っていた。
特に触ることを強く禁じられていた。
違反すれば一発で退部を匂わすことすら言っていたのだから、今の行動を許すわけがない。
隆は必死に言い訳が考えようとした。だが考えがまとまらない。
黙っていれば余計に立場が悪くなると思いヤケクソのように喋りだす
「え、えっと。オッパイの感触……じゃない形を確かめようと……いや、形じゃなくて胸の脂肪の付き方。そうそう筋肉や肋骨の構造を知りたくて……つい。その。……すみませんでした!!」
なんて下手な言い分か。これなら黙って謝ったほうがマシだった。
もう駄目だと思いながらも恐る恐る顔を上げる。
どんな目に合うかと思っていたが意外と白鳥は怒っておらず、むしろどこか感心したような表情をしていた。
「ふーん。なるほどね。美術解剖学に興味あるんだ。なかなか良い着眼点しているわね。でも勝手にやっては駄目よ。いずれやらせてあげるからそれまで待っていなさい」
そう言って白鳥部長は藤沢先生の方に向かった。
すでに興味は隆から離れたようだ。
(美術解剖学? 一体なんの話なのか。さっぱりわからない)
とりあえず怒られることも退部もなさそうだ。
最悪の事態を運だけで切り抜けることが出来て彼は心の底から胸をなでおろした。