ヌードモデルに選ばれた姉 33


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 藤沢先生をヌードモデルに決めてから早数日。美術部には平穏な時が流れていた。
 次の大きなイベントであるヌードモデル当日まではまだ2週間近くもある。
 その間は美術部員にとってもやることがなかった。
 真面目な生徒は自主的に新しい絵を書き始め、やる気がない生徒は遊び歩く。
 緊張感もないだらけきった状態であったが、これは姉にとっても願ってもいない状況になるはずだった。
 美術部が暇になれば、当然ヌードモデルに選ばれた生徒も暇になるからだ。
 しかし、現実はそういかない。白鳥が仕掛けた様々な罠は姉の日常を確実に蝕んでいた。


 早朝。 
 これまで浴びた汚れた視線を忘れるかのように姉はシャワーを浴びていた。
 たちこもる湯気。若さを象徴するかのようにお湯が肌を弾くように流れていく。
 こうしているとこれまでのことが嘘のようだった。
 ヌードモデルに指名されてからはいつも視線を向けられている気がしていた。
 授業を受けていても廊下を歩いていても誰かに指を刺されているような感覚。

『あいつがヌードモデルなんだぜ』
『知ってる。俺なんてあいつの裸をみたことあるんたぜ』
『マジかよ。どんなだった?』

 もちろん、彼女はそんなことを言われたことはない。
 しかしあれだけ裸にされたのだ。誰が何を言ってるかわかったものじゃなかった。
 
 姉は無言のまま自分の体を見つめた。年齢相当でしかない乳房、陰毛が無くなった下半身。
 果たして何人の男子に見られたのだろうか。20人? いや30人?
 数えられないほどの男子に肌を晒したというのに姉の体は綺麗なままだった。
 触られることはあっても犯されることはない。唇すら奪われていない。
 それでもヌードモデルをやる前にはもう戻れない。そんな気がした。

「ふん」
 姉は再び怒りをあらわにしながら、白色の長袖インナーを手に取る。
 ブラとパンツは持ってこなかった。下着の着用が禁止されているからだ
 誤魔化す手はいくつか思いつく。だが彼女はあえて実行しなかった。
 そう。これは白鳥との戦い。やるならもっと相手の裏を掻かなくてはいけない。
 生半端な対策をやれば、しっぺ返しが来ることは容易に予想ついたからだ。

「ん?」
 下着を付けずに直接スカートを履こうとしたのになにか軽い違和感が彼女の肌に刺さった。
 これは散々味わった裸を見られている時の感覚。
 キョロキョロと周りを見渡す。狭い脱衣場。あるのは鏡に洗面所ぐらい。人の気配なんてまったくない。
(気のせいね)
 姉は気を取り直してインナーに手を通す。
 肌着は繊維が細かく厚めの生地を使っているものを選んだ。
 これは乳首への擦れとポイントが表に出ないようにするための苦肉の策
 それでも違和感は隠しきれない。僅かでも乳首が反応すればセーラー服の上からでも位置がわかるし、なによりも心細い。
 ブラとパンツをつけずに外に行く。たったこれだけのが、ここまで無防備に感じるのか。
 姉はここ数日のノーパンノーブラ生活でそのことを思い知らされていた。

(白鳥も自分でやってみたらいいのよ。そうすればどんな辛いことかわかるでしょう……?)
 制服を着て、その姿を鏡に写した時にふと懐かしい気がした。
 なんだろうか。このどこか恥ずかしそうな制服姿は前にもみたことあるような?

 姉は大きく深呼吸した。今は昔のことを思い出していても仕方がない
 「よし」と気合を入れる言葉を言いながら脱衣場から出た。
 そして普段通りにリビングへと向かう。

 リビングには弟がまるでイタズラをした子供のように小さくなり椅子に座っていた。
 弟がこういう姿を見せるときは決まっている。
 苦手な人物が前にいるときだ。
 姉は珍しく時間があった人物に向かって挨拶をした。
「お父様、おはようございます」
 もうそろそろ50代になろうかというのに、父の存在感は健在だった。
 ごつい顔、立派な髭。なめられてはいけない商売をしているのがひと目でわかる。

「おはよう。今から学校か」
 重みのある声。伊達に世界を相手に商売をしているわけじゃない凄みがある。
「はい。今日は早めに行こうと思っています」
 ふだんは決して使わない堅苦しい言葉を言いながら、姉はふと今の状況を相談しようかと思った。
 父に説明するだけ材料もある。弟から例の全裸写真を奪い取って突き付ければいいだけなのだから。

 可愛い娘が学校で裸にされていると知れば、父はなんて言うだろうか。
 怒るだろうか。学校に乗り込んで抗議してくれるだろうか。

(そんな甘い父じゃないよね)
 姉はあっさりと希望的観測を打ち消した。
 おそらく父は実の娘の全裸写真を見ても眉一つ動かさないだろう。
 それどころかこれが部活動の一環だと知れば、しっかり役目を果たしなさいというのが関の山だ。
 そう。父は途中で逃げ出すことを何よりも嫌う。
 このことは娘である彼女が一番良く知っていたし、そもそも姉自身も逃げ出す気は毛頭なかった

「行ってきます」
 姉は向きを変えて出口へと向かう。
 父の鋭い視線が背中に感じる。父の観察力は尋常ではない。
 おそらくブラもパンツも付けていないことがバレているだろう
 まるで裸を直接見られているような羞恥を感じながら急いで玄関まで行った。

「気をつけていってきなさい」
 扉の向こうから父の声がした。
 やはり、娘の異常を見ても助け舟は出してくれない。
(でもこれでいいわ)
 姉は思う。これは白鳥と自分との戦い。父親なんて全くの無関係で巻き込む必要なんてまったくないのだからと。

「あっ、待って。僕も一緒に行くから」
 玄関を開けようとすると、なぜか弟が駆け寄ってくる。
 父から逃げるタイミングを探っていたのかなと、深く考えることもなく「早くしなさい」と姉は答えた。

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「姉さんと一緒に学校行くのは久しぶりだね」
 弟が妙に上機嫌でついてくる。
 どんな風の吹き回しか。これまでの不仲が無かったような態度だ。
「そうね。何日ぶりかしら」
 姉は警戒しながら相打ちを打つ。 
 弟の信頼度は地に落ちているが、それでも実の弟。嫌いになれるはずがない。
 話を聞かながら彼女はゆっくりと歩いた。
 

 しばらく歩いていると町中に入り、人が増えてきた。
 周りに視線があると姉の手が自然とスカートを抑えようと動く。

(もしここでスカートが捲れたりしたら)
 そう思うと顔から血の気が引き、代わりに下腹の奥が脈打っていくのを感じた。
 ほんの一瞬だけ変な気持ちになった姉は必死に首を振った。
 陰毛を剃られノーパンノーブラ生活を余儀なくされてからは性的なことに体が敏感になっていた。  
 もちろん、見られて嬉しいとかそんなのは違う。
 これは女性としての防衛反応の一種。レイプされた女性が体を守るために濡れるのと同じようなもの。
(とはいえ、こんなことでは白鳥の思う壺だわ)
 姉はこの程度の嫌がらせに振り回される己の心の弱さを悔いた。
 偉そうに弟の盛り上がった股間を攻めたのに当の本人がこれでは話にならない。
 心を奮い立たせるように歩く速度を上げた。

「あれ、駅はあっちだけど」
 早足になると同時に弟が不思議そうに話しかけてきた。
 そう。普通は電車を使う。徒歩で行こうとすれば倍の時間が掛かるからだ。

「隆、少しは考えてものを言いなさい。下着もつけずにあの急な階段を上がれるはずないでしょう」
 姉は少しムッとしながらも冷静に喋る。
「えー。ってことは歩くの? ダルいから電車で行こうよ」
 なぜか弟は電車を使うことを頑なに主張した。 
 姉は更に不機嫌になりながらも本音を言った

「嫌よ。この時間なら席には座れず立っていないといけないし、そもそもこんな時にいつもの痴漢が出たら目も当てられないわ」
「え?姉さん。痴漢にあったことあるの?」

 弟が好奇心いっぱいに聞き返して来る。
 だから話したくなかったのだ。そう。弟は性の話が大好きなエロガキだった。

「数回ね。それ以来、混んている時間は乗らないようにしているわ」
「へぇ。痴漢されている姉さん色っぽかったんだろうな。ああ、見たかったな……って痛ぁ。なにするんだよ」
 言い切る前に姉が弟の頭を叩いた。
「ばーか」
 あまりにもくだらない会話。
 彼女は久しぶりに弟と本音で話し合った気がした
 そうだった。小学生頃まではこんなふうに気兼ねなく喋っていたんだ。 
 それが中学になり高校になり自然と距離が離れていった
 そして今回のヌードモデル騒動。
 もう昔の明るくてシモネタ好きな弟はどこにもいないと思っていた。
 だがこうして喋ってみるとわかった。美術部の話題に触れなければ弟は昔のままだ。


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 安全な道を選んだかいがあって今日も何事もなく学校前につく。
 まだ時間も早く生徒の数も少なかった。

 姉は大きく息を吐いた。
 仲が良かった姉弟との関係も終わり。
 ここからはいつもの美術部所属の弟と、ヌードモデルに選ばれた姉の関係に戻る

「で、今日の下着検査は誰なの」
 姉は現実を突きつけて弟の反応を待った。
 いくら何事もなかったかのように振る舞っても美術部に課せられた義務が消えたわけではない。
 今日も脱がなくてはいけないのだ。

「今日は隣のクラスのはらもとだと聞いたけど」
「原元?隣なクラスってことは1年? 男女どっちなの? 場所は?」
「1年男子だよ。場所は体育館倉庫」

 白鳥は的確に人の嫌がることをやってくる。
 おおよその答えは想像できたが、案の定の答えが帰ってきて姉は天を仰いだ。
 副部長の時以来の体育館倉庫だったが、あそこは嫌いだった。
 下級生相手に裸を見せるのも辛いし、どんな反応が帰ってくるかと思うと恐怖心すらある。

「僕も行こうか。姉さんだけじゃ心配だし」
 弟が提案を出す。確かに副部長の時は弟がいたから素っ裸で廊下に出なくて済んだ。
 普通に考えれば願ってもない提案だったが、姉は首を横に振った
「今回は1人で行くからいいわ」
 せっかく良くなった関係が再び壊れるのが怖かった。
 自分の裸を見て股間を大きくする弟なんて二度と見たくないし、白鳥と繋がっている可能性も排除できない。
 この問題に巻き込むべきではないの判断は今でも変わらなかった。

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 姉は弟と別れて1人体育倉庫へと向かう。
 時間はまだ早い。だが相手より先に体育倉庫に入らなければいけなかった。
 遅れれば、どんな仕掛けをされるかわかったものじゃないからだ。
 部外者を忍ばすことも出来るし、盗撮カメラを設置する可能性もある
 彼女は殆ど駆け足で体育倉庫まで行き、扉を開けるが。

「あ、先輩もう来たのですか。いやはや、いち早く裸を見せに来てくれるなんて嬉しいなぁ。」
 すでに先客がいた。身長は弟と同じぐらいだろうか。
 眼鏡のかけた生意気そうな1年がマットを広げようとしているところだった。

「あんたが原元? 」
「ええ、そうですよ。話すのは初めてだから始めましてというところなんだけど何か変な感じですね。先輩もそう思わない?」
「なにが?」
「だって初対面なのに僕は先輩の体を隅々まで知っているのですよ。胸は特別大きくないけど乳首の色がいいとか陰毛の形とか。これって凄いことだと思いません?」

 何だ。この一年坊主は?
 姉は失礼極まりない後輩に向かって睨みつけた

「おー怖。先輩のためにわざわざ来たのにそんな態度は良くないなぁ」
 相変わらず舐めきった雰囲気。部活に関係なければ張り倒しているかもしれない。
「無駄口はもういいわ。早く初めてちょうだい」
 とはいえ、こんなところで揉めても仕方がない。早く終わらせるため姉が言った。
「そうだね。じゃそこのマットの上で正座して」
 どうせ『全部脱げ。裸になれ』と言ってくるとばかり思っていたのに正座?
 なんだろうと思いつつも姉は先ほど惹かれたマットの上で正座をした。
「そうそう。そしてゆっくりと頭を床に近づけて」
 言われるままに頭を下げようとしたら、目の前に少年の足が見えた。 
 はっ、と上を見上げると勝ち誇ったような表情をした少年の顔。
 手にはスマホ。今この瞬間の格好を取ろうと待ち構えていた。
 そう。これではまるで……

「なにやらせるのよ!!」 
 姉は急いで立ち上がった。座った位置。少年が立つ場所。
 明らかに土下座をやらせるつもりだった。
 2学年も上の先輩をなんだと思っているのか。
 姉は怒りを表し、相手の胸元を掴んだ。

「離してくださいよ。これも白鳥先輩の指示なんですから」
「あいつが?」
「そうです。裸で土下座させるようにと言われましたが、先輩にそれは失礼だと思って土下座だけで誤魔化そうとしたのにひどいなあ」
  
 姉が口をあんぐり開けて今の言葉を理解しようとしていた。
(土下座。裸で?1年の男子に向かって?私が?)
 頭がぐるぐると回って思考が追いつかない。
 白鳥はヌードモデルとしての心構えを教えるといった。いつでも体を開き、肌を晒せるように羞恥心やプライドを潰しておくと。
 だが、全裸土下座はそんな生易しいものではない。人の尊厳を破壊する行為。
「ふざけないで。美術部員でもない私がそんなことをやる義務はないわ」
 姉が正論を言う。どう考えても土下座なんかを命じられる立場ではない。
 
 すると少年はふっと笑いながら姉の手を払い、乱れた制服を整える。

「わかりました。白鳥部長にはそう言っておきます。ただ先輩はいずれ僕に向かって全裸土下座することになると思いますよ。そしてこう言うの。今からあそこの中を見せるから、どうか私の濡れた恥ずかしいところをスケッチしてください。ってね。今からその日を楽しみに持っておきます」

 本当にこの美術部は癖の強い生徒が多すぎる。
 白鳥の性格の悪さを表しているような部だ。
 姉は敵の手強さを再認識しながらセーラー服のスカートを持ち上げた。

「そんな日は永遠に来ないわ。私があなたにも白鳥にも許しを乞うなんてことはあるはずがない」
 そう。こんな奴らに許しを乞うことは死んだ方のマシ。
 彼女の考えは至ってシンプルだった。その感情はすべてを優先する。
 脱ぐことの恥ずかしさ。ヌードモデルをやることによる学校側の恩。そんな打算はこの感情の前には些細なこと。
 負けたくない。その一心がスカートを持ち上げる手を動かす。

 少年は目を見開いた。何も指示していないのに先輩のあそこが露わになっていく。
 陰毛を剃られてむき出しの割れ目がさらけ出されても姉の表情は変わらない。
 怒りを表したままだ。
 
「毛は?……ってなるほどそういうことか。ははっ白鳥部長もやるねぇ」

 白々とした下腹部にある盛りあがったツルツルの割れ目を見て原元は思わず歓喜の声を上げる。
 普通なら見る者すら恥ずかしくなるようなあられもない姿がそこにはあった。

「いいねぇ。先輩、超いいよ」
 原元は1人で盛り上がっていた。
 これが白鳥部長のライバル。佳子という存在。
 屈辱と怒りに塗れながらスカートを持ち上げ、股間を見せる姿はあまりに美しく、相手を噛み殺すかのような狂気すら漂わせた。


 
 
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