33話 姉の1日(中編)
「本当に先輩って可愛い」
原元はスカートを捲っている姉の足元に座る。
彼の目の前に広がるのは盛り上がった女の谷間。
毛が剃られているため、まるで少女のようにツルツルだが、その深い丘や僅かに覗けるピンク色の小陰唇が姉の体は既に大人であることを感じさせた。
「……」
姉は羞恥に震えながらも無言で少年を睨んだ。
これはただの嫌がらせ。なぜなら美術部員は許可なくモデルの体を触れることは禁止されているからだ。
白鳥は糞だが、美術部員の教育はきちんとなされているのは、これまでを見ても明らか。
少年はこれ以上何も出来ない。出来るはずがなかったが
「ふうーーー」
原元は姉のあそこに向かって息を吹きかけた
「ひゃっん」
あまりに予想外の刺激に姉は可愛い声を出して座り込んだ。
「やっべー。この反応、ちょー可愛い。本当に先輩は無理しているのがバレバレなんですよ。そんなことでは立派なヌードモデルにはなれませんよ」
「ヌードモデルなんてやりたくてやってるわけじゃないから当たり前じゃない!!」
姉はこんなアホな嫌がらせに心を取り乱したことが情けなくて涙が出てきそうになった。
ノーパンで直接汚いマットに座り込んでせいでお尻にゴミが大量に付いた感覚まであり、より心を惨めにさせた。
だが、こんなことで挫けていたら相手の思う壺。
姉はゆっくり立ち上がりお尻やスカートに付いた埃を払う。
もう1秒でもこいつの前にはいたくない。
急いで出口に向かおうとするが。
「ヌードモデルをやりたかる人はいないって? ところがそうでもないんだよねー。最初の先輩とか1回目から堂々としていたし、足だって平気な顔して開いてくれたよ」
扉に手をかけた姉の動きが止まる。
そうか。こんな糞でも美術部員なのだ。上手くやれば情報を聞き出せるのではないのかの思いがめぐる
「へぇ。そんな変人がいるんだ。でも他の人は嫌がっていたのでしょ」
「そりゃ次のメガネっ子は泣き虫だし。あいつの比べたら佳子先輩のほうが堂々としているね」
あまりに口の軽さに姉は警戒心を覚える。
これも白鳥の罠ではないのか。
「またまたそんな怖い顔をして。僕は先輩の味方ですって。こんな可愛い先輩が白鳥部長の手に落ちるのは可哀想だなと思っているだけで下心なんてありませんよぉ」
どうも掴みどころがない。何処からか本当で何処からが嘘なのか判断がつかない。
これが同性の女子相手なら彼女は見破ることが出来るが、性欲に塗れた男の嘘を見抜くには経験がまるで足りていなかった。
「なにが目的なの。可哀想だからなんて嘘なんでしょう。私の味方をしてあなたが得られるものはなに? はっきり言いなさい!!」
回りくどく探るのは姉の性格的にあわない。普段と同じようにストレートな言葉をぶつけた。
「僕の目的?そりゃもちろん土 下 座。ほら早く裸になって僕の足元に這いつくばってよ」
いけしゃあしゃあと笑顔を見けながら原元は述べる
どうしても土下座の屈辱を見たいようだ。
ほんの一瞬、恥を忍んでやるべきなのではないかの思いが姉の心を過る。
美術部員に味方が出来れば美術部の暗部とも言える情報も手に入り、この戦いに終止符が打てる可能性が高い。
それはあまりに魅力的な話だった。
だが、姉は急いで首を降る。
ここまで何度も裸になったか、それはあくまでと強制されているからで他ならない。
しかし、もし情報欲しさに土下座をすれば、それは自分の意志でやったことになる。
やはりここだけは譲れない。やれば白鳥が言ってたいつでも何処でも体を開く女になるのと大差ない。
「あれ?行っちゃうの? こんないい話なのに」
原元の驚く声を背にしながら姉は扉をあけて外に出た。
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廊下に出ると複数の生徒たちが自分たちの教室へ向かって歩いていた。
姉はノーパンであることを感じ取られないように静かに歩くながら先程聞いた話を整理していた。
(白鳥は私が初めての3年生のヌードモデルだと言ってた。つまり原元から見た最初の先輩とは2年女子。そしてもう1人のメガネっ娘は先輩と言わなかったから1年女子)
全て鵜呑みにするのは危険とは言え、抜けていたピースは埋まりつつあった。
ヌードモデルは月に選べる女性は1人が絶対条件のはず。
つまり4月は2年女子。5月は1年の女子。6月は姉。そして7月が藤沢先生。
現在いるヌードモデルに選ばれた女性は4人。一応計算はあった。
(でも協力的なヌードモデルがいるなんて本当なのかしら……)
姉の作戦は至ってシンプルだった。
ヌードモデルに選ばれた被害者が一致団結して対抗する。ただそれだけ。
それも喜んでやっている生徒が1人でもいればその計画は大きく狂う。
己の利益のために自らの裸を売る生徒。
姉の常識ではとても考えられない。やはりこのネタそのものがフェイクである可能性も捨てきれなかった。
「おはようー」
そんなことを考えいると駆け足でクラスメートが通りすぎる。
気がつけば教室の前で考え込んでいたようだ。
(これ以上考えていても仕方がないわね)
気を取り直して姉が教室に入ると、すかさず気の合う友達たちが声をかけてくる。
「おはよっ」
何事もない日常。いつもと同じ。この瞬間だけはヌードモデル前の日々に戻った感じがした。
「おはようー」
姉は軽く返事をし自分の席へと向かう。通り道には白鳥の席。
わざわざ避けるのも癪に障ると思った姉は無言のまま前をやり過ごそうとするが。
「佳子ー、太ももから愛液が垂れているわよ」
白鳥が小さな声でとんでもないことを囁く。
「え?」
姉は慌ててスカートの前を抑えるが、もちろんスカートも太ももも濡れてはいない。
「やーね。冗談よ。それともなに?心当たりでもあるの」
白鳥が楽しそうに笑う。
姉は顔を真っ赤にさせながら詰め寄る。
「そんなわけあるはずないじゃない!!」
「またまたムキになっちゃって。怪しいー」
「くっ」
これまで何度か繰り返されたやり取り。
性に関しては姉は何度やっても白鳥には勝てなかった。
ヌードモデルの体験。ノーブラノーパン生活。男子による下着検査。どれも姉が知らない部分の攻撃に他ならない。
「ふふっ。下級生に裸を見られて興奮している佳子にいいこと教えてあげる。今日の1限目は体育。出席はグラウンドでやるからすぐに集合だって」
白鳥が黒板を指差す。確かにグラウンド集合と書かれていた。
姉の顔色が変わる。下着なしを強要されている今は体育は避けたい授業だった。
着替えも授業中もバレる可能性がとんでもなく上がるからだ。
ホームルーム抜きでいきなり体育と聞いて教室内は早くも愚痴で溢れていた。
「今日の体育ってなんだっけ。出席を取る時間も惜しむってことはまさか……」
「そうだよ。マラソンだ。川の向こうまでいって帰ってくる例のアレ」
「今日は暑いのにそんなところまで行くのかよ。最悪ー」
登校してきた男子たちはカバンを置き、すぐに教室を出ていく。
体育の着替えは女子は教室。男子は更衣室代わりの空き室で行われるのが決まりだったからだ。
最後の男子が教室をあとにしたのを確認しカーテンが引かれる。
ここからは女子の着替え時間だった。
自分の席に戻った姉は周りの視線を気にしながら制服の上着を脱ぐ。
すると隣りの席に居た友人である大川育代が声をかけてくる。
「あれ、ブラどうしたの?つけていないよね」
何枚も肌着を着込んだのにあっさりバレた。
そりゃ一目見ればわかるのだから当たり前だった。
「それがさ育代、聞いてよ。登校途中でフックが壊れてね。ほらこんな状態」
姉はカバンから予め持ってきた壊れた白のブラを見せる。
これはノーブラがバレた時の言い訳に使うために持ち歩いているものだった。
「あらら。運がないわね。今日の授業どうするの」
「出ないとまずいでしょ。我慢するわ」
「でもノーブラで走ったらだだバレだよ。この頃は変な盗撮魔もいるんだし」
盗撮事件の話は姉も耳にしていた。
隠し録りした破廉恥な画像を武勇伝とばかりにネットに上げる悪質な連中がいると。
ただそれだけなら対岸の火事でしかないが、撮られた場所が見覚えのある場所で、被害者がうちの制服を着ていたとなれば他人事では済まない。
だからこそ痴漢が多発している駅には近寄らなかったのだが。
「あ、そうだ。私が男子の目や盗撮魔から守ってあげる。一緒に走りましょうよ」
少しだけ平均よりふくよかな育代がニコリと笑いながら言うと、姉は笑顔で「ありがとう」と答える。
友人を騙しているような罪悪感が胸を刺したが、背に腹はかえられない。
話をしながら姉はスカートを脱がずにショートパンツを履いた。
今時の体操服らしく長さも膝近くまであり、太ももの大部分は隠れたが、下着を付けていないため直履きの不快感は隠しきれない。
「しかしブラとは運がないよね。パンツなら履かないもありなのに」
「え?マラソンでパンツ履かないなんてあるの?」
ショートパンツの生地の感触に苦しんでいた姉は驚きの顔とともに聞き返す。
「ジョギング中に履かない人が1割ぐらいはいるらしいね。実際に一部の運動部はノーパンでやっているなんて聞いたわ」
「なにそれ。付けないと早く走れるとかそんな理屈があるの?」
「ははっ、佳子が冗談を言うなんて珍しいね。そんなわけないでしょう。気を引き締めるとかそんな精神的なものでしょ。実際に春大会で全国制覇をした陸上部の2年とかピチピチのランニング用スパッツを直履りで走ってるらしいわね」
これもまた姉には全くわからない世界。
別に知りたくもなかったが、ノーパンジョギングがそこまで異常な行為ではないと聞き、多少は気が楽になった。
「着替え終わった? 早く行きましょうよ」
「え、ええ」
姉は育代と一緒に廊下に出た。
ショートパンツはスカートとは違い中が見られる心配はまずない。
どう考えても制服姿よりも安全なはずなのに、なんとも言えない恥ずかしさを感じ取っていた。
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