ヌードモデルに選ばれた姉


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 父親のような画家になりなさい。
 松山祐太はずっとそう言われ続けてきた。
 祖父は全国で個展を開けるほどの実力者であり父も画家で食っていけるほどの成功を収めた。
 そうなれば、孫である裕太にも当然期待が集まった。
 蛙の子は蛙というが孫はどうなのだろう。
 そんな疑問を持つ人たちも多かったが、幸か不幸か少年には才能があった。

 誰もが言う。こんな金持ちで裕福な一家に生まれ育ち、才能まで持って幸せものだと。
 だが、その絶賛の言葉も少年にとってプラスに働くことはなく自然と他人をバカにする人格が形成されていった。
 自分は生まれた瞬間から人を踏み台にして生きていくことを許された存在。
 ああ、なんて楽しい人生なんだろうと。

 少年は大人も驚くような絵を書きながらも内心では美術を軽蔑し性格はどんどん歪んでいった。
 それは中学に上がり当然のように美術中等部に入ることになっても変わらない。



「まったく。この俺様に他の一年と同じテストを受けろとかあの先輩もいい度胸しているよな。お前も思うだろ」
「はい。ご主人様」

 裕太は自宅にある大きなアトリエで明日美術部に提出する絵を書いていた。
 日本を代表する画家の孫に向かってテストとはいい度胸と思った少年は珍しく本気で取り組む。
 小さな頃から毎日書いていたモデル相手とは言え、筆は乗りに乗っていた

「で、お前のクラスはどうだった。確か隣の2組だったよな」
「笑顔が絶えない面白いクラスでした。男子も女子も明るくてそれは楽しく……」

 モデルの少女は一瞬だけ笑みを浮かべたがすぐ鉄仮面に戻る
 こいつがこんな話をして面白がるとは思えなかったからだ。
 この少年は全てを憎んでいる。絵も大人も異性である女性さえも。


「ふーん。ならその男友達が今の格好を見たらどう思うのだろうな」

 両手を頭の後ろに回して佇む小柄な少女のむき出しの肩がぶるりと震える。
 中一らしいなだらかな膨らみが怯えるようにぴくりと動く

「や、やめてください……お願いします」

 少女は全裸を晒しながら慈悲を求めた。
 そう。少年が書いているのはヌード。同学年の少女の裸。

「お前たち姉妹が路頭に迷わないのもジジイのおかげであることを忘れるなよ」
「もちろん感謝しています……」

 だからこそ少女は全て少年の言いなりになってきた。
 髪を短くしろと言われたから肩には掛からない程度で我慢しているし、まだ薄い陰毛も指示通りに自然のまま伸ばしている。

「しかし胸が膨らんできたと思ったらすぐ下の毛も生えてくるのだから女の体の成長は早いよな。もう昔の体とは全然違うじゃないか」

「やめ……てください」
「なんだよ。人並みに恥ずかしさなんて感じているのか。うちに来てから6年以上も裸を見せてきたくせにさ」

 少年が知らないことは何もない。いつ胸が膨らんだかも陰毛が生えきたのかがいつなのも知られている。
 そもそも小一の時からほぼ毎日のようにヌードモデルをやらされていれば隠し通せるはずが無い。

 少年はいつものように少女が嫌がることするために真後ろにある机の引き出しを開けた。
 それに耐えるかのように少女は静かに口元をかみ締める。

 
「いつもの写真みるか。記念すべき初潮の日の裸」

 少女にとってモデル中に初潮に見舞われたのは人生最悪の出来事だった。
 おそらく長い人生でもこれ以上の屈辱はもう二度とない。
 人前で裸を強制されようが躾という名の折檻されようがあの日の出来事に比べれば可愛いもの。

「ご主人様には感謝をしています」
  
 少女は先程と同じように感情を感じさせない声で感謝を述べた。
 これは半分は本心だった。今こうして姉妹が一緒に暮らせるのは間違いなくこの一家のおかげ。
 画家志望の姉に至ったは他の画家の卵が妬まれるほどの恵まれた環境を提供してくれた。
 それを考えればヌードモデルをやるぐらいの条件は安すぎる……はずであったが。


「そういやあの学校にはヌードモデルをやると高待遇が貰えるシステムがあるらしいな。お前もやってみたらどうだ」

「あれは高等部だけのシステムだと聞いてしますので私には無理かと」
 
 ヌードモデル志願制度の話は当然聞こえていた。
 志願といいつつ半強制。しかしやれば学校から様々な高待遇が貰えるという。
 少女はまるで今の自分の立場のようじゃないかと自虐っぽい表情を一瞬浮かべた、


「そこは考えがあるんだよなー。そのためにもお前も美術部に入ってもらわないと困る。居候とはいえ、うちの関係者なんだからきちんとした絵を書けよ」
「絵はもう出来ています」

 才能が認められて弟子になった姉ほどではないが少女も絵を書くことは嫌いじゃなかった。
 少年の祖父にも筋は悪くないと言われて色々と手ほどきを受けたこともある。
 このまま画家の道に歩むことも考えなくはないが、そうなればこの家から、この少年からは永遠に逃げられない
 一日でも早くこの家から出たいと考えていた少女にとっては悩ましい問題だった

「ならいい。中学の三年間を楽しく過ごすためにも速攻で美術部を乗っ取るぞ。お前も手伝えよ」
「はい。わかっています」

 少年の笑顔とは裏腹に少女は明日が憂鬱だった。
 なにをやらされるわかったものじゃない
 
「とりあえずの目標は高等部のようなヌードモデル志願制度の導入だな。なかなか美人な先輩も多かったし裸を見るのが楽しみだわ」

 例え街中でも裸になれと命じられれば自然と体を動くように躾られている少女でも今の少年の言葉に「ハイ」と言うことは無かった。
 青春を謳歌する楽しい時期に裸になって過ごすなんて目にあうのは自分たち姉妹だけいいと思ったからだ。

 そう。この少年は裸になる女子の苦しみなんて何も考えていない。
 むしろざまーみろと勝ち誇る行動すら取る。こんな少年の毒牙にかかる女子が増えるなんて決してあってはいけないのだ。決して。
 


 
 

 


FOR / 2015年06月20日 template by TIGA