入院生活の日常


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 あれから30分後。
 今まで静まり返っていた入院病棟の廊下にバタバタと人が行き来する足音が鳴り響く。
 しかしそこには緊張感はなく、患者の笑い声すら聞こえる。
 時間は午前8時。誰もが至福のときを感じる朝食の時間だった。


「はい。あーん」
 看護学科の女子生徒、船本紀子が優奈の口元にスプーンを運ぶ。

「ぱく。うんうん。これはなかなか」
 ベットの背もたれを60度程度までギャッジアップし体を半分起こした優奈は満足げに口を動かす。
 まだ全粥のような食事でも優奈にとっては代えがたい御馳走に見えた

「食事の許可が出てよかったわね。昨日までは水だけだったから辛かったでしょう」
 愛くるしい笑顔を見せながら紀子がいう。

「食べられるようになったのは嬉しいけどこの手足がね。早く動くようになればいいんだけど」
 優奈はまるで長年の友達のようなフレンドな口調で話す。
 紀子が優奈の補助をやるようになってから2日目。年齢も近いこともありすっかり仲良くなっていた。

「こればかりは焦らずやらないと。ハイ、あーん。これが最後」
「ですよねー。ぱく。御馳走さん」 

 食べ終わったのを確認した紀子はベットの角度を戻し食事の後片付けをした。
「……」
 片付けも終わりこのまま部屋から出て行くと思いきや、なにか言いたそうに優奈の顔をちらりと伺った。

「どうしたのですか」
 疑問に思った優奈が聞いた。

「え、えーと、今日はフォーリーカテ……のチェックをしないといけないんだけど」
 なにやら、恥ずかしそうにもぞもぞした喋りをする。

「フォーり……何?」
 どうもよくわからない。優奈が聞き返す。

 紀子が何処か照れながら優奈の腰近くを指挿し、
「それよ。それ」と言った。
 向けられた先には細い管があった。
 これはベットにつけられた尿袋と優奈を繋ぐ管。
 もちろん管の出発点は優奈の体の中。つまり尿道の入り口から膀胱へと入っていた。

「えええ、えー!」
 優奈が顔を赤くし大声を出す。
 ようする管の状態を調べたいから、あそこの中を見せてくれということ。
 戸惑う優奈。いくら気が合う人とはいえ、あそこを見せてと言われていいよと言えるはずもなかった。

「うう、昨日はそんなこと言わなかったのに」
「だって今日からのカリキュラムだし。あと一緒に性器の炎症チェックもやることになっているの」

「炎症チェック? そんなのやったことあるの?」
 優奈がぼそっと思った疑問を聞く。昨日初めての実習だと聞いていたからだ。

「やったこと……もちろんないわ」
 なんとも言えない気まずさが漂う。
 裸を見せ慣れていない入院未経験の患者。裸を見慣れていない看護師の卵。
 お互いに緊張するなというほうが無理だった。

 このままでは埒が明かないと思った紀子はごほんと軽く咳払いをする。
 そしてまるで重い雰囲気を打ち払うかのように冗談ぽくこういった。

「ははっ。でも何事を経験と言うでしょう。炎症チェックと言ってもいくつかのポイントを見るだけだから簡単簡単。私の単位のためにも優奈ちゃんは安心して任せなさい」
 言い終わると、ペロと舌を出した。

「あー、酷い。自分の成績のため練習台にするんだ。おにー、あくまー」
 釣られて優奈が笑う。
 むろん、彼女もわかっていた。自分を裸にするのに許可なんか取る必要がないことを。 
 わざわざ聞いたのは紀子の優しさでしかないことも。

「でも真面目な話、私が出来なかった場合は違う学生がやることになると思うけど次も女子生徒が当たるとはか……」

「それは勘弁して」
 聞きたくない現実を言われ、優奈は会話を打ち切るように言った。
 そう。この病院が男女のプライバシーとか考えるはずがない。
 今回、同じ女性が当てられているのは、たまたま運が良かっただけ。
 次もそうである保証なんてあるはずがなかった。

「じゃ私でいいわね」
 真剣な顔で看護師が言う。

「でもやめてと言ったらやめてよね」
 顔を強張せながら、優奈が些細な願いを言った。

「わかったわ。では始めるわよ」 
 看護師は優香にかけられた布団をずらし、手順を一つ一つ確認するかのようのバスローブ風パジャマのヒモを解く。
 先ほど体を起こしていたせいで突っ張ったのか、縛りがなくなったローブは一気に乱れる。
「あ、」
 思わず紀子が声を出した。
 優奈の裾がめくれ、股間が丸出しになっていたからだ。
 むろん、看護師もこのローブの下が全裸なのは把握している。
 脱がしやすい構造に特化したローブなので、すぐ患者の肌がみえるのもわかっていたつもりだった。
 だが、初めてみた優奈のあそこは意外なものだった。
 そう。生えてなかった。
 年齢を考えれば当然大人並みに生えていてもおかしくない。
 実際に彼女の割れ目の肌はツヤツルで、一見すると子供のようにも見える。
 しかし、割れ目の形を見ると、やはり年相当な成熟を見せていた。
 真っ白な割れ目の中央部分から、僅かに紫色がかったピンクのビラがはみ出ており、恥丘も高くてなだらかな盛り上がりを見せている。
 これは優奈が既に子供が産める体であることを示しているものだった。

(早く終わらせないと)
 そう思った紀子はやや乱暴な手つきで優奈の足を大きく左右に広げる。
 そして割れ目に触れた。
 むにゅ。女性器特有の弾力に戸惑いの顔を見せながら割れ目を開く。

「くっ」
 性器の中に外気が入っているのを感じだ優奈が歯を食いしばる。
 なぜ自分がこんな目に。嫌なのに『また』見られた。さっきまで仲良く話した人に恥ずかしい内側まで見られた
 あまりの恥ずかしさに優奈は「やっぱ止めて」と言った。
 だが、返事はなかった。紀子の指は相変わらず優奈のあそこを開いているし、中をガン見している視線も動かそうとはしない

 なぜなら紀子も他のことを考える余裕はまるでなかった。
 はじめて触る他人の女性器。初めて見る他人の女の内部。いくら教科書で習っているとは言え現実はあまりに違った。
 しかも相手はさっきまで楽しく話していた女の子なのだ。

「陰核よし、大陰唇異常なし、小陰唇……、大前庭腺……」

 それでも紀子は必死に優奈の性器チェックをしていた。
 早く終わらせることが優奈のためであることを信じて。

「ふう。終わったわよ。ちょっと尿口が赤くなっているけどそんな心配することはないと思うわ」
 紀子はそう言いながら優奈のパジャマを治す。
 
「……」
 今度は優奈が返事をしない。
 顔を背け、なにやら考えこむような仕草を見せている

「優奈?」
 心配そうに看護師が優奈の顔を覗きこむ。

「あはは……あなたで三人目よ。おめでとう」
 涙目をした優奈は突然やけっぱちな声でそういった。

「なんの話?」
 意味がわからない紀子が聞き返す

「主治医の佐々木教授、看護部長の金沢さん。そして紀子さん」

「もしかして」
 名を言われた人はすべて優奈の担当だった。
 つまり、

「そうよ。私の裸を見た人の数よ……」
 悔しそうに優奈が言う。

「え、でもそれは」
 恨みの対象のような言い方に紀子は戸惑った。
 治療の過程で患者の裸がなるのは仕方がないこと。
 しかもここは医師の育成も兼ねている大学病院なのだ。
 患者を裸にすることを躊躇していたら何一つ始まらない。
 
「もちろんわかっているわ。あなた達が何も悪くないことを。これまで見られた人数だっておそらくあってはいないのことも。でもね。本当に嫌なの。退院まであと何人の人に裸を見られて身体を弄られるのかと思うと恥ずかしいやら悔しいやら」

 無理もない話だった。まだ高校生で敏感な思春期の女の子がローブ一枚の裸同然の生活を余儀なくされているのだ。
 何するにも人の力を借りなくてはいけない。
 そのたびに裸を見られる生活。逆恨みをするなというほうが無理だった。

 紀子はどう言って励ませばいいのかわからず呆然とした。
 いや、数分前なら慰められたかもしれない
 だが優奈のあそこに見て触った今の自分にその資格はないことを紀子は自覚していた。
 今でも手に感触は残っているし、優奈の性器の色や形も詳細に思い出すことが出来る。
 そしてこの経験こそが看護師になるうえで必要なものであり、欠かすことが出来ないものであることも分かっていた。
 だからこそ優奈に対して謝ることも慰めることも出来ずにいた。


 重い沈黙が続く中、優奈がボソリと言った。

「疲れたから少し寝るね……あとごめんなさい。私どうかしていた」
 それは短く内容もなかったが、精一杯の気持ちが伝わる謝罪の言葉だった

「わかっているわ。お互い頑張りましょう」
 紀子には優奈が当たり散らすような人物でないことは分かっていた
 今回、病院の不満を顕にしたのはそれだけ心を開いてくれた証。
 そう思うと紀子は嬉しくもあり、自分ではどうすことも出来ない悩みをぶつけられ、悲しくもなった。


 

White Blue 〜欲望に晒される白衣の天使〜White Blue 〜欲望に晒される白衣の天使〜