人生最後の日

人生最後の日

 人生最後の日は突然やってきた。
 いつものように携帯をいじりながら女子校に向かっていた。
 よく危ないから辞めろと注意はされていたが、そんなことは気にも止めなかった。
 だってそうでしょう。事故なんて運の悪い人が起こすんだから自分に関係があるはずがないのだから。
 その奢りとも言える代償は今日支払われることになった。

 左側から車のクラクションが聞こえたと思ったその瞬間、私の体は宙を舞った。
 地面に叩きつけられる私の体。
 私はその様子を『うげー痛そう』と他人事のように眺めていた。
 ううん、そうじゃない。あれは完全に他人事だった。
 なぜなら私の魂はもうその体にはなかったのだから。
 そう。車がぶつかった時に死んだ。
 魂は抜け落ち、空をふわふわと飛ぶ幽霊のような状態になっていた。

「あああ、どうしよう。は、早く救急車を」
 車から飛び出した男がパニックを起こしながら電話を掛けようとしている。
 いやぁ、もう死んでいるから救急車は意味ないっすよ。
 ほら、足は変な方向に曲がっているし、地面には血が広がっている。
 幸い顔には怪我がないようだけど体はきっとスプラッターよ
 あーあ。処女を捨てる前に体がミンチになるとは。
 自業自得とはいえ馬鹿なことをしたなぁ……

「どいた、どいた」
 しばらく経つと救急車がやってきて、中から1人のムサイ男が飛び出してきた。
 男は野次馬をかき分けながらこちらに近づいてくる。
 うわ、デブでキモ。町で歩いていても距離を取りたくなるようなキモさ。
 こんなに太っていても緊急隊員ってなれるものなんだ。

「バイタル……脈拍数……」
 デブは私の体を触りながら何かをチェックし始めた。
 あのう、もう死んているんだから触らないでくださる。
 そんな声が聞こえるはずもなく、男の手が私の顔を触る。

「くそ、呼吸していない。生きろ。死ぬんじゃない」
 デブの手が私の鼻をつまむ。
 ん。コレってまさか。

ぶちゅーーーー

 きゃあああぁ。私のファーストキスが。

「すうううう。はああああ」
 油ぎみったデブの唇が何度も何度も私の唇と重なる。
 デブの唾液の味が伝わってきそうな。いやああぁ。気持ち悪い~

「やばい、心室細動」
 デブが私のセーラー服の胸元をつかむ。
 そして、躊躇なくデブは私の制服をびりびりびりと一気に引き裂いた。
 血の跡があちらこちらに付いている私の上半身が露わになる
 ちょ、ちょっとなにするのよ。
 ここは外なの。周りには野次馬もいるのよ。

「ええい、くそ、邪魔だ」
 今度は、お気に入りの白いブラを引きちぎろうとする
 やめてやめて。そのブラ高かったのに。

ぶち

 私の願いもブラが弾け飛ぶ。
 少しだけ自慢の大きな乳房が剥き出しとなった。
 明るい太陽の日差しに当てられる私の乳首。
 あーあああ。なんてことを

「わーおっぱいだ」
「おーすげー」
 しらないうちに野次馬が増えている
 20人30人はいそう。指を刺すガキから黙々とケータイで画像を取る男までいる。
 いやああぁ。私の胸が晒しものに~


 デブは野次馬ことを全く気にせず除細動器を私の胸に置く。
「チャージ……… もう一回」
 心臓への電気ショックを繰り返す。

「くそ、死ぬな。生きろ」
 デブは放電しきった除細動器を放り投げ、左乳房のマッサージを始めた。
 なにをしているのか私にはわからない
 わかるのは誰にも触らせたことこがない胸を素手で鷲掴みにされ揉まれていることだけだ。
 しかも大衆の面前で。

もみもみもみもみ

 乳房はまるでつきたての餅のように形を変える……
 ファーストキスは奪われる。胸はさらし者になる。最後に至っては直接揉まれた
 もう駄目だ。死のう。さようなら。
 私は意識が遠くなるのを感じながら現世に別れを告げた。


エピローグ


「……さん。聞こえますか」

 目を開けると目の前には看護婦さんがいた。
 看護婦さんは横になっている私の顔を覗き込むように見ている。
 これってどういうこと。死んだんじゃないの?

「あ、術後3日しか経っていないんだからまだ動いたら駄目よ。貴方は交通事故にあったの。覚えている?」
 看護婦さんがなにか説明している。
 そうだった。私は交通事故にあったんだ。そこで……

「助かったのは奇跡と言っていいわ。そのぐらい酷かったの。よほど現場での処置がよかったんだろうと主治医が感心していたわよ」
 現場の処置…… そっか。あの人が助けてくれたんだ。
 確かに今思えば、あの人の目は真剣そのものだった
 ただ私を助ける。その一点だけを考えている目。
 だから、あの人は野次馬の存在も目に入っていなかったんだ。

「ははっ」
 自然と私の口から笑い声が出た。私って死ぬ寸前でも馬鹿だな。命の恩人を恨んだりしてさ。本当に馬鹿だ。
 私は自分の唇に指をあてた。唇にはあの時の感触がまだ残っている気がした。
 うん。ファーストキスは奪われたけど許してあげる。
 私の王子様。

終わり
 
 
窓の椿-保護者だったはずの私はいま隣の子とスケベに身体を重ね合っている-