妹と自転車

妹と自転車

 騒動の始まりは寝ようとする間際に起こった。
 いつも元気でやかましい妹がパジャマ姿で俺に部屋を押しかけてきたのだ。

「兄貴、自転車を買って!スポーツ系でかっこいいやつ。欲しいの。買って買って!!」
 夜11時という時間も考えず妹は俺の部屋でのたまわった。
 またかと思い、大きくため息を付く。
 妹のわがままはこれまで何度もあったことだからだ。

「自転車?やめとけ、やめとけ。どうせ、いつものごとく3日で飽きるって」
 妹の飽きっぽさは幼児の時から、まったく変わっていない。
 ピアノ、バレー、カルタ。やりたいと言い出して放り投げる。
 それは中学一年になった今も同じだった。

「えー、兄貴だけずるい。私も兄貴が乗るようなカッコいい自転車が欲しい欲しい。どたばた」
「うるさーい。そもそも俺のが欲しいというがあれはロードで20万ぐらいしたんだぞ。中1のお前には早すぎる」
「じゃクロスバイクでいい。giant R3なら5万であるでしょう」

「R3か……確かにあれなら初心者向けだし5万なら出さなくもないが……」
 妹はキラキラした目で見つめてくる。
 いかん。知らず知らずのうちに、妹のペースにはめられている。
 海外の自転車メーカー名がすらっと出てきたことを考えても、妹はかなり下調べをしている。
 俺に金を出させるために、入念な計画を練っている証だ。
 これは気を入れないと、とんでもないしっぺ返しが来るぞ

「そもそも、なんでスポーツ系の自転車が欲しいんだ。人気アニメの影響か。このミーハーが」
「うんにゃ。アニメじゃなくて漫画ののりりん。兄貴と一緒にサイクリングとか楽しそうだし」
「なるほど」

 俺の好きな少しだけマイナーな自転車漫画の話が出てきて心が動く。
 確かに自転車を買ってやれば、一緒サイクリングが出来る。
 自転車仲間がいない俺としても悪くない話だ。

「えへへ」
 妹が下心まる出しな笑みを浮かべる。我が妹ながら無邪気なしぐさがなんとも可愛い。
 だからいかんと。騙されてダメだって。これは全て妹の策略。
 先ほどの質問を即答したことだって、あらかじめ俺の本棚を調べた可能性も高い。
 俺の心の隙を巧妙に突いて来ているだけだ。
 そもそも、この飽きっぽい妹に自転車なんて続けられるはずがない

「やっぱ駄目。すぐ飽きそうだし、乗り続ける覚悟もないだろ」
「そんなことない。覚悟はある。必死に練習もするって」

 妹が上目遣いな目をしながら側まで近寄る。
 う、妙に色っぽい。
 男子のような、短めの髪のせいか子供っぽい妹だが、こうして擦り寄られるとやはり女なのを感じさずにいられない。
 胸も意外と育っていそうだ。

「覚悟があるって本当か?」
 俺の心は既に決まっていた。
 だが、そのまま買ってやるのは癪なので、少し意地悪をすることにした。
 
「買ってくれるの。やったー」
「待て待て。まだ買うとは言っていない。あくまで俺の質問に答えたらの話だ」

「よくわからないけど、ようするにテスト? どんと来て」
 自信満々で妹が言う。
 もう自転車を手に入れた気分のようだ。

「では言うぞ。まずはお前の身長、体重、スリーサイズを教えろ」
「え?スリーサイズ?」 

 しばし沈黙。当たり前だ。何処の世界に思春期の妹のスリーサイズを聞いてくる兄がいる。
 ここで変態、キモいと怒鳴られるのは予想済み。
 だが俺は妹の抗議を完璧に打ち砕く、屁理屈な説明を用意してある。
 自転車が欲しい妹は恥ずかしい思いをしながら、自分のスリーサイズを言うしかないのだ。

「そう。スリーサイズだ」
 ニヤつく顔を抑えながら、妹が怒り出すのをまった。

「えっとね。身長155センチ体重45キロ。スリーサイズはB77W60H78」
 予想に反して妹はさばさばした口調で語った。

「バスト77?」
 思わず声に出る。
「そう。77」
 やはり抵抗感なく妹は答えた。これはいったい。

「なんでスリーサイズが必要なのか聞かないのか?」
「だって自転車を買うのに必要なんでしょう。あ、に、き」

 俺の下心を見抜いているようなしゃべり方に軽くムカつく。
 くそ、そっちがその気なら容赦しない。お金の分を楽しませてもらうぞ。

「もちろん必要なことだ。なら次はサドルの高さを計算するぞ。お前も調べたなら知ってるだろ」
 俺は下調べをしている妹の知識を逆手にとることにした。

「股から足の長さ……だっけ?」
 うむ。少し自信なさげだがよく勉強している。
 これならイケるか。

「そう。股下寸法 × 0.88だ。今から測るからズボンを脱いで壁際に立って」
 妹の目が一瞬驚いたように大きく開いた。
 むろん、ここで妹が拒否しても何も困ることはない。
 こんなのは買うときに実車で測ればいいだけなのだから。
 これはただの意地悪。困った顔をさせるだけの些細ないたずら。

「りょうーかーい」
 そんな俺の考えを知ってか知らずか、妹は楽しそうに笑みすら浮かべながら、パジャマのズボンをさっと下ろす。
 その動作に何の躊躇いもなかった。

「げほげほ」
 突然、淡いピンク色した太ももと、水色のシンプルなパンツが目に入り、俺は思わずむせ返した。

「ん?測るんでしょう」
 取り乱す俺とは違い、妹は普段と変わらない。
 壁際に立ち、測りやすいようにわざわざ足まで少し開いている。
 むろんパンツ丸出しのままで

「わかった。じ、じゃ始めるか」
 俺は巻き尺を持ち、妹の足元に座る。
 視界いっぱいにパンツが広がり軽くめまいを感じた。

「ど、お、し、た、の。兄貴」
 上を見上げると妹が楽しそうに見ている。
 からかうつもりが完全にからかわれている

「なんでもねえよ。ただ子供っぽい下着だなと思っただけだ」
 俺は反撃とばかりに妹のパンツ姿をじっと眺めた。
 下から覗き込み食い込みを確認し、後ろを向かせ、お尻の形を見た
 だが、妹は平然としている。

「メジャーの先を持って」
 流石に股を触るわけには行かず妹に先端を押さえてもらい足の長さを測った。
 はぁ。疲れた。
 測り終えた俺は立つのもやっとなほどヘトヘトだった。
 ちょっと恥ずかしい思いをさせてやろうと思っただけなのに、なんでこうなった。
 顔を真っ赤にし、取り乱しているのは俺のほうではないか。
 
「兄貴、まだ終わっていないでしょう。足の次は腕の長さを図らないと」
 巻き尺を机の引き出しに戻そうすると、背後から声がした。
 どうやら、まだいじめ足りないようだ。

「もういいよ。俺が悪かっ……ぶーー」
 振り向くと、妹はパジャマのボタンを全部外して、腕を抜こうとしているところだった。
 パジャマの下は何もつけていない。シャツもブラさえも。
 なだらかに盛り上がる乳房や小さな乳首もはっきり見えた。

「あれれー。そんなに顔を真っ赤にして。ど、お、し、た、の。兄貴」
 脱いだパジャマを手に持ち、クルクルと回しながら妹が迫る。
 見られているのはわかっているのに胸を全く隠そうとしない。

「い、いや、その」
「だからなあーに?」

 妹の歩みは止まらない。
 あっという間に妹が間近にやってきた。
 俺は上半身裸で悪魔の微笑みを浮かべている妹に対してこういった。

「俺が悪かったです。悪乗りしていました」
「よろしい。それじゃ明日自転車を買いに行こうよ」
「はい」

 完敗だった。
 ほんの些細な悪ふざけだったのに、まさか妹がここまで体を張った反撃に出てくるとは思いもしなかった。
 もうからかうのは止めよう。あれは切れると怖い女だ。
 まさに触らぬ神に祟りなしである。
 

一ヶ月後
「兄貴、次の日曜は一緒に山へ行こう山。山道をサイクリング、サイクリング。るんるん」
「待て待て。お前は山は早い。もっと体力を付けてからのほうがいい」

 予想に反して妹は自転車に飽きなかった。
 毎週のようにサイクリングを行こうと誘ってくる。
 俺は思惑通り自転車仲間を手に入れ、妹も思惑通り自転車を手に入れた。
 winwinの話ではあるのだが、一つだけ気がかりなことがあった。

「この前、買ってやったサイクルウェアはどうしたんだ」
 サイクルウェアとは自転車用に特化した服だ。
 体のラインがモロに見えるピチピチスーツのため恥ずかしがる女子は多いと聞く。
 だが、俺の前で脱ぐようなガサツな妹はそんなこと気にするはずもない。そう思っていた。

「やーよ。恥ずかしい。誰が着るものですか」
 と、言って一度も袖を通さない。
 上半身裸になるのは平気でもピチピチスーツは嫌。
 やはり妹とはわからない存在である。

終わり
 
男の娘はメイドの性人形