友達と銭湯に行く話

友達と銭湯に行く話

 とある小学校の5年の教室
 須崎野江はかつてないほど緊張していた。
 普段は地味で目立たない女の子でしかない彼女からは考えられないほど顔はこわばり異様な雰囲気を漂わせていた。

(今日こそ、はっきりと言おう)
 ガタという音とともに野江は自分の席から立ち上がる。
 勇気を振り絞り、隣の席で帰り支度を初めている前原めぐみに声を掛けた。 

「前原さん、話があるんだけど」

「ん?なに?」
 めぐみはキョトンとした顔で野江の方を向く。
 無口であまり接点がない野江が話しかけてきたことに驚いているようだ。

「え、えっと私とお友達になってください」
 野江は顔を真っ赤にしながら言った。

「ははっ僕みたいなガサツな女の子でもいいの?」
 ボーイッシュな雰囲気を持つ前原らしいサバサバした言い方。
 
「も、もちろんです。むしろあこがれていました。意地悪な男子から私を守ってくれたこともあったし」
 5年のクラス替えから友達がいない野江にとっては前原の男っぽい行動力は眩しく思えた。

「僕のことを知ってるなら安心だね。じゃよろしく」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 野江は喜びを表情を隠すこと無く頭を下げる
 勇気を出して頼んでよかった。これで三ヶ月のぼっち生活が終わると思うと野江は涙すら流しそうになった。

「友達になった記念も兼ねて、遊びに行かない?」
「は、はい。喜んで」
 いきなりの誘いに満面の笑みを浮かべる野江。

「じゃ家から着替えとタオルを持ってきてね。集合場所は駅裏の銭湯前で」
「はい?」

 なにか間抜けな返事をしてしまう
 それだけめぐみの言ってることが予想外だった。

「やっぱ友達になったら風呂に入らないとね。みんなにも紹介したいし」
 やはり冗談ではなく本気だ。なぜここで銭湯なのか。
 野江にはめぐみの考えがさっぱりわからない。

「え、えっと。どういうこと?」

「おっとごめんごめん。説明が足りなかったか。駅前に昔から通っている銭湯があって一日おきに行くのが日課になっているんだ。今日は行く日なのでせっかくだから一緒に入ろうかなと」

「いえ、行きます」
 初めての誘いをいきなり断るのは悪いと思い野江は承諾する。
 むろん、本音を言えば行きたくなかった。
 なぜなら風呂に入るということは裸になるということだったからだ。

 野江は無意識のうちにめぐみの胸を見る。
 無い。真っ平らだ。めぐみは背こそ高いが胸の成長は明らかに遅かった。
 一抹の不安が彼女の心をかすめる。
 めぐみとは逆に野江の胸の成長は平均よりかなり早かったからだ。
 既にブラも付けており、そのことで男子はおろか女子からもかわれることも少なくなかった。
 風呂に入るはいいが、このことでめぐみの気分を害さないか。
 それが心配だった。

「あー友達と風呂とか久しぶりだな。銭湯のみんなに自慢してやろうっと。楽しみー」
 そんな心配も他所に喜ぶめぐみ。
(大丈夫よね)
 嬉しそうなめぐみの姿を見て野江は安心感を覚えた。
 自分が友達になりたかっためぐみはそんな人の体を見て妬んだりバカにしたりするなんてありえない。あるはずがないと。

「あーそうそう。もし遅れたら先に男湯に入っていて。じゃあとでね~」
 そう言うとめぐみは急いで教室から出ていった。
 なにやらまだ用事が残っていたようだ。

「え? 男湯?」
 根拠のない考え事をしていた野江がふと我に返る。
 急いで聞き直そうとするが既にめぐみの姿はなかった。
(ま、いっか)
 ただの聞き間違いだろうと思った。
 来年には6年生になろうとしているこの年齢で男湯とかどう考えてもありえなかったからだ。 

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 夕暮れ。野江は約束の銭湯にやってきた。
「あーここか。懐かしい。まだあったんだ」
 彼女は幼稚園の頃まで父と一緒に来ていたのを思い出す。
 建物は改装したあともなく、いかにも何十年も前からある古い銭湯と思える外観をしていた。

「お待たせー。遅くなってごめーん」
 めぐみが手を振りながら野江の元へと走ってくる。
 ラフなシャツに短めのズボン。服装は先ほどと変わっていない。

「ううん。私も今来たところだから」
「そうなの? ならよかった。では早速入ろうか」
 そう言うとめぐみはなぜか男湯のほうの扉に手をかけた。

「めぐみ。そっち男湯!」
 思わず大声を出す野江。
「平気平気。ほらいこ」
 そんな反応も気にせずめぐみは野江の手を持ちながら扉を開け、強引に男湯の中へと連れて行く。
「きゃ」
 中にいるであろう男の裸を想像した野江が目をつぶり悲鳴を出す。

「あれ?今日は誰もいない。ほら、まるで貸し切りみたいよ」
 上機嫌なめぐみの声。おそるおそる野江は目を開ける。
 がらんと閑散とした脱衣場。確かに客はひとりもいなかった。

「そうなんだよね。今日はまだ客が来ないんだよねー」
 突然男の声。正確には番台があるほうから声がした。
「あ、」
 野江はやや上にある番台があるほうを向く。
 そこには番台に座る大学生ぐらいの若くて綺麗な男性の姿があった。

「兄さん。今日は友達を連れてきたよ」
 まるで自慢するようにめぐみは野江を指さし紹介した。

「は、始めまして。今日から友達になった須崎野江といいます……って今、兄さんと言いました?」

「あー、兄さんと言っても本当の兄じゃないよ。小さい頃からここに通っていたら知らず知らずのうちにそう呼ぶようになってさ」
 めぐみは楽しそうに話す。本当にこのイケメン風の男と仲が良いようだ。

「そうそう。めぐみがそこでオシッコをたれておむつを取り替えている頃から知っているからもう何年になるやら」 

「やだなーそんな昔のことを言わないでよ」
 と、言いながらめぐみは服を入れるカゴを持ちながら番台の側まで行く。
 そして男が見ている真ん前で突然ズボンを下ろした。
 なんの飾りっけもない白いパンツがむき出しになる。

「ちょ、ちょっと何やってるの」
 驚きのあまり止めに入ろうとする野江。

「何って風呂に入るのに脱がないと」
「だからってそんなところで裸にならなくても」

「いいからいいから。ほら野江もこっち来て」
 笑いながらめぐみはパンツを下ろした。
 めぐみの女とも言える綺麗な割れ目が野江からもはっきりと見えた。

「ははっ。俺は番台歴が長いからね。今更裸を見てどうこう思わないから安心して脱いでいいよ」
 男はそういいながらめぐみの割れ目をジロジロと眺める。
 めぐみのあそこはまさに幼いそれだった。
 毛はまったくない。あるのはやや高めの盛り上がりに刻まれた一本の線のみ。
 いかにも固く閉じられている割れ目はこの子が女の子の階段すらまだ登っていないことを伺えさせられた。

「え、えっと私はあっちで脱ぐから」
 めぐみの裸を見る男のなんとも言えない気持ち悪い視線に嫌悪感を覚えた野江は逃げるようにロッカーが設置されている壁際まで行った。

「そういや兄さん、聞いてよ。今日の体育の時間に…さ…」
 後ろから楽しそうな声を聞こえた。
 野江はそっと番台のほうを見る。
 めぐみが全裸姿で楽しそうに雑談をしてきた。
 目の前に女の子が全裸になっているというのに男は当たり前のような態度だ。
 めぐみのほうも裸を見られているのに全く気にせず盛り上がっている。

(今のうちに)
 男がこちらを見ていないことを確認した野江は急いで服を脱ぎだした。
 むろんこんな障害物がなにもない場所だ。
 見られないはずもなかったが、めぐみのようにマジマジと見られながら脱ぐのはとても耐えられそうもなかった。
 手慣れた手つきでブラを外しパンツを脱ぐ。背後からはまだ二人の楽しそうな雑談が聞こえる。

 小さなタオルで前を隠す。
「野江ー もう終わった?」
 まるで全裸になるタイミングを図っていたようにめぐみの声がした。
 野江が振り向くと二人の視線が彼女に集中してきた。

(やだ)
 野江のほほが赤く染まる
 いくら前を隠しているとはいえ所詮は小さなタオル。
 肩はむき出し。横から見れば胸の膨らみの形まではっきりとわかる。
 下半身に至ってはかろうじて股間が隠れる程度。
 後ろはもちろん何一つ隠れていない。背中もお尻も丸出し。
 とても男の前でする格好ではなかった。

「野江ー。脱ぎ終わったのなら早く入ろうよ」
 めぐみは大声でそう言うと可愛いお尻を見せながら浴槽へと歩いて行った。

「ちょっと待ってよ」
 お尻丸出しでも気にしないめぐみとは対象的に、お尻を見られたくない野江はロッカーな背を向け、カニ歩きのようにしながら浴槽へと向かう。

「ははっ、かわいいな」
 男の笑い声が脱衣室に響き渡る。 
 野江の行動がよほど愉快に見えたのだろう。

「くぅぅ」
 顔を真っ赤にし、恥ずかしがる野江。
 もちろん、こんなことしても意味がないことは、彼女もわかっていた。
 なぜなら番台は脱衣室から見て、少し高いところに作られていたからだ。
 いくら隠しながら脱ごうが、上からの視線から逃れられるはずがない。
 しかも、脱衣室の四つ角には、わずかな死角すらなくすように大きな鏡までおかれている。
 ここはまるで客の裸を、隅々まで見るために作られたような空間。
 つまり、いくら隠しても無駄なのだ。
 野江のなだらかに膨らんだ乳房も、少しだけ生えた股間のありさまも、既に見られているのは間違いなかった。
 だからこそ、男は笑ったのだ。もう全部見たんだから今更隠しても仕方がないよと。

 野江は男の視線から逃げるように浴室へと入った。
「おそーい。もう先に初めているよ」
 めぐみは椅子に座り体を洗っていた。
「ごめんなさい」
 なるべく裸を見られたくないので離れて座ることも考えたが、めぐみに悪いと思いあえて横の席に座った。

「あー、兄さんが言うとおり本当に胸が大きいんだ」

「そんなこと……」
 いったい番台でどんな会話がなされていたのか。
 恥ずかしくなった野江がうつむく。
「どうしたの。僕悪いこといった?」
「ううん。そんなことない」
 そう。めぐみは何も悪くない。ただ今までのクラスメートと同じ反応だっただけな話。

「いいなー羨ましい」 

「羨ましい?」
 はっと顔をあげる野江。
 それだけめぐみが言ったことが意外だった。

「そりゃそうでしょう。女に生まれた以上はやはり大きくないとね」
「そんなもんなの?」

「ははっ当たり前でしょう。僕は無いからわかるよ」
 めぐみは笑いながら立ち上がる。
 相変わらずツルペタな体だ。
 でもだからってそれを妬んだりはしていない。  
 素のままの自分を受け入れてきた

(私って馬鹿だな)
 野江は自分の体にコンプレックスを感じてずっと悩んでいたことがバカバカしいと思った。
 そうだ。恥ずかしがることなんて何もなかったんだ
 人より早い体の成長も自慢出来ることであり、恥ずかしがることなんて何処にもなかったんだ。

「おーい。早くこっち来いよ。気持ちいいぞー」
 肩までどっぷりと湯船に浸かっためぐみは手巻きをしている。

「今行くよー」
 悩みがなくなり、気持ちも大きくなった野江が立ち上がる。
 そして湯船に入ろうと歩き出そうとしたその時、がらがらがらという音がした。
 脱衣室に繋がる扉が開く。 

「え?」
 中に入ってきた二人の男を見た野江が全裸のまま固まる。
 目の前には既に中年の域に入った二人の男。もちろん二人とも全裸だ。
 野江もタオルは手に持っており、体は何も隠していない。
 油断だった。完全に頭から消えていた事実を今になって思い出す。
 そう。ここは男湯。いつ全裸の男客が入ってきてもおかしくない場所だったのだ。
「き、きゃーーー」
 男湯に女の子の悲鳴がこだました。

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エピローグ
「うう、見られた。今日だけで三人の男に裸を見られた」
 野江は銭湯の玄関前で頭を抱えながら座り込んでいた。

「ごめん。まさかあんなに恥ずかしがるとは思わなかった。あそこに来る客はみんな顔見知りばかりだし新しい友達を自慢するつもりで男湯に連れて行ったんだけど……」

「紹介してくれるのは嬉しいんだけどね」
 なぜ男湯なのか。野江はやや恨みっぽい視線をめぐみに向けた

「僕のこと嫌いになった?」
 先程から反省しきりのめぐみは普段からは考えられないな弱々しい声でいう。

「ううん。そんなことない。楽しかった」
 酷い目にあったが新しい友達との入浴が楽しかったのもまた事実だった。

「よかった。ならまた一緒に入ろうよ」

「そうね。でも男湯はやめてよね」
 いくら大切な友達でもここだけは譲れない言わんばかりに野江ははっきりと言った。

「えーどうして。みんな優しいし男湯でいいよ」
「ダーメ。めぐみも女の子なんだから自分の体を大切にしないと。そんなサービスしては駄目」 

「サービスってどういうこと?。みんなは僕の裸を見ても何も言わないよ」
 めぐみは目をくりっとさせて聞き返してくる。
 どうやら本当に羞恥心を感じていないようだ。
 これは手強い。そう思った野江は真剣な顔をしながら話を始めた。
「つまりね。女の子の裸は男に見せるものではなく……で、……あり、……だから」

おしまい
OVA初恋時間。#5