プロローグ 十字架を背負った少女
とある中学の1年1組の生徒たちが入学初日だと言うのにグラウンドに集まっていた。
担任が提案したグラウンド5周の勝負をすることになったからだ。
ルールは単純。クラスメイトの全員が一斉に走って誰が一番になるかを競うだけ。
これだと当然女子は不利。列の後方も不利になるが、そんな不満の声は上がらなかった。
そもそもこれはガチなレースではなく、中学に入学したばかりの新入生がクラスメイドたちのことを知るための一種の親睦会のようなものだった。
担任が笛を鳴らすと生徒たちは一斉に走り出す。
男子だから足が早いとは限らない。そして女子だから遅いとも限らない。
半周もしないうちに軍団はバラバラになり遅いグループと先頭の早いグループにわかれていった。
「お、なんだあいつ。はえーな」
抜かれた男子が驚きの声を出す。短髪の女子が後方の団子から抜けだしたのだ。
その女子は他のクラスメイトより背が高く顔つきも大人っぽい感じした。
体の成長も早いのか周りの女子よりも一回り大きなバストに男子の視線が向けられる
そんな邪な視線を振り切るかのように女子は先頭グループに追いついた。
先頭グループの5人はみな男子で運動が得意そうなメンツが集まっている。
そんな中に女子が入れたことに誰もが驚いた。
女子に追いつかれたら男子の威厳に関わる。
そんな古臭い考えがあったのかはわからないが、1人の男子がペースを上げて先頭集団から抜け出す。
結局、その男子が最後までリードを守り、入学初日の親睦会の授業は終わった。
「やるなぁ。こんな早い女子は初めて見たわ。名前はなんていうんだ」
トップで走りきった男子こと栄村が先頭グループに最後まで残った女子に聞く。
女子の周りには健闘を称える生徒であふれかえっていたが、本人は別に嬉しそうな顔を見せない。
それどころか何処か冷たい雰囲気を漂わせながら言う。
「私の名前ですか。名前は……北野麻有。北野千加子の1人娘」
「北野? 」
名を聞いた栄村はもちろんこの場にいる全ての生徒が固まった
麻有から見れば、この反応はいつものこと。
変に隠して後から気まずくなるよりは最初に言ったほうがいいことは学んだが、やはりこの扱いは精神的に堪える。
「そういうことだから私に近寄ってもいいことないわよ」
そう言って麻有がグラウンドから去ると、残された生徒の1人がボソリと言った。
「北野千加子の1人娘ってことはあいつは刑務所から学校に通っているってことだよな」
「マジかよ。じゃあの女子は女囚だというのか」
「うそぉ。近くの小学校に子供の囚人が通っているとは聞いていたけどまさか同級生になるなんて」
「でも何処かかっこよくね。なんか大人っぽいし」
ざわざわとした騒ぎは途切れることはない。
北野麻有は入学初日からクラスの……いや学校の超有名人になってしまった。
1章 刑務所で育った女の子
この刑務所には女の子がいた。その子の名は麻有。囚人番号205。下手な囚人よりも長く収監されてる女の子だった。
新しい刑務官が配属されるとみな口を揃えて言う。
『この子はなぜ女子刑務所にいるのか。いつからいるのか』
高原も5年前に赴任した時は同じことを言った。
なぜ小学低学年の女の子がこんな刑務所にいるのかと。
すると1人の刑務官が冷静な声で言う。
「あの女の子はここで生まれた子供で名は麻有。母親はこの子が*歳になるまで同じ牢で暮らしていたが今は別の刑務所にいる。父親は無期懲役の判決後に自殺」
説明を聞いた高原は即座に事情を察する。
つまりこの子は江戸時代から続く悪名高き親の罪は家族にも適応される連座制で罪人に落とされたのだと。
夫の罪のため何も悪くない妻が収監され、その時たまたま妊娠しておりその子供にまで父の罪を背負わすためになった。
こんな小さな子が本来ならとっくに廃止されるべき刑によって刑務所暮らしをさせられている。
似たような例はこれまでも見てきたが無垢な少女を前にすると、やはり同情せざるおえなかった。
「って父親が無期懲役で自殺、母は獄中で出産? もしかして母親の名は……」
話を聞いた高原は脳裏にある女性の姿が浮かぶ。
その女性は夫が起こした殺人事件のため職を追われて獄中生活を余儀なくされた悲運の検事。
逮捕前は弁護士と真正面から向き合い天才検事とまで呼ばれた女性。名は確か。
「そうだよ。検事の頭脳こと北野千加子だ」
彼女が逮捕された当時は世間的にも大ニュースとなった。
連座制の是非も含めて話題を攫ったが、今は誰も語らない。
それもそのはず。この子が北野千加子の娘だとすれば事件から長い時が経っている。
母は既に40歳代。その時に産まれた子供も小学2年。
世間が興味を失うのには十分すぎる時間だった。
「麻有っていうの。よろしくね。けいむかんさん」
初めて会った麻有ちゃんは真っ直ぐで澄んだ瞳。明るく屈折のない笑顔を見せていた
どんよりした空気が立ち込める刑務所の中に咲いた一輪の花。そんな感じすらする。
「えっとね。囚人がそんな言葉づかいをしてはいけないよ。先生と呼びなさい」
いくら子供でもこの子の立場は囚人。規則を守らせようとやんわりと注意するが。
「うん。しってる。このけいむかんしつではそんなこといわなくていいって」
微妙に話が通じない。思わず先輩の刑務官のほうを振り向くと困ったなぁと表情をしている。
事情を聞くと麻有ちゃんが24時間の監視カメラ付きの独房で寝起きするようになってもコッソリとおやつをやったり甘やかす刑務官が相次いた。
そのため妥協として刑務官室では自由。ただし他の囚人に示しがつかないので他の場所では規則を必ず守られる暗黙の了解が刑務官たちの間でなされたという。
そしてここは刑務官室。麻有ちゃんを子供として扱っても良い場所だった。
「それじゃお菓子を食べようか」
「うん!!」
子供のあどけない笑顔にさっそくデレデレになる高原だった。
あれから5年の月日が流れた。
母親が逮捕された当時は様々な議論がなされたが、未だに法改正はなく母親と麻有ちゃんの名誉は回復していない。
ただ母親はともかく子供に罪は一切ないという意識は社会の常識になっていた。
そのおかげで麻有ちゃんは刑務所から学校に通えるようになり、まるっきり普通の子供として小学生を卒業して今月から中学生になった。
学校からの報告を聞く限り、イジメ等もなく上手くやっているようだ
大人たちの理解は進んだ。子どもたちも受け入れている。
後は古くて時代に合っていない連座制が廃止されれば全てが丸く収まる。
世間ではそう思われているし実際にそんな動きも出てきたが、現場の人間にとっては施行されている法こそが全て。
当然のように毎日が苦悩の連続だった
「高原さん。麻有が中学校に行く時間です」
金城にそう言われると刑務官室で待機していた高原の表情が曇る。
囚人が外に行くためには外出の規則をやらなくてはならない。
そして未だに麻有の立場は囚人だ
つまり彼女が刑務所の門をくぐるためには規約通り全裸にして性器や肛門をガラス棒で奥まで探らなくてはならない。もちろん帰宅時にも同じ作業が待っている
いくら学校に通わすためとは言え、麻有を娘のように見ている高原にとっては耐え難い苦痛だった
「麻有ちゃんももう中学生だしやはり男の自分がやるのはまずい。弦月刑務官に変わってもらいませんか?」
麻有ちゃんは小学2年の頃から知っている。
愛情も掛けていた子だけに不憫に思えた。
「変わっても意味ありませんよ。麻有は無期懲役でこれからもずっとここにいるんだし、裸になることもガラス棒検査も我慢させないと。それにうちは女子刑務所とはいえ人手不足のせいで男性刑務官も多いし高原さんが避けても他の男性刑務官がやるだけですよ」
同じ男性刑務官の金城は言う。
金城は去年ここに来た新人のせいか麻有ちゃんには思い入れもないようだ。
「それに麻有は駄々をこねたりしないし僕が担当でもきちんと脱いでくれますよ。気にし過ぎでは」
金城がここに来た当初は麻有ちゃんの係にしないようにしていたが、人手不足の刑務所でそんなことが出来るはずもなく、あっさりと麻有ちゃんの仕事もやるようになった。
今では週1で身体検査係や入浴監視。トイレ指導が順番が回ってくる。
麻有ちゃんはそのことに文句一つ言わない。
だが、他の凶悪犯と同じように強い言葉を使い徹底した指導をする金城にやられて心を痛まないわけがない。
「脱衣!!遅い。何やっているんだ」
「胸を隠すな!!」
「もっと足を開け!!」
「放尿開始!! 恥ずかしがるな。出せ!!」
そんな声が1週間に一度は聞こえてきて刑務官の間ですら物議を呼んだ。
麻有ちゃんは思春期なんだからもう少し優しくできないのかと。
しかし金城は言う。
「いや、思春期だからこそ厳しくやらないと駄目だよ。今のうちに羞恥心や反抗心を潰して、どんな場面でも裸になれるように躾けておかないと後から困ることになるって」
その意見に皆黙り込む。私情が入っていないだけあまりに正論だった。
「金城の意見は正しい。だからこそ可哀想なんだよ」
と、言って高原は鍵を持って刑務官室から出た。
廊下は静まり返っている。刑務所特有な重々しい空気が充満していた。
階段を上がりいくつかの扉をくぐり麻有ちゃんが暮らしている独房の前に付く。
高原は大きく深呼吸した後に独房の鍵をはずし扉を開けた。
部屋の中には短髪のセーラー服姿の女子がいた
麻有は教科書をカバンに入れて登校の準備をしていたが、高原の姿を見たら急いで正座をする。
そして頭を深々と下げ土下座をしてこういった。
「おはようございます。今日は生理もなく体調面も問題ありません」
(うっ……)
決められた規則では言え、こんな子に土下座をさせて生理の有無を言わせていることに良心の呵責を覚える。
「朝の身体検査してから学校に行くので準備をしなさい」
高原がそういうと悲しそうな顔と喜びの表情が混ざった顔を見せる。
身体検査が始まったのは麻有ちゃんが小学に通うようになってかららしい。
最初のうちはお互いに苦痛ではなかったと聞く。実際に高原が赴任してきた小学2年の時も身体検査室で裸になって着替える程度の意識しかなかった。
しかし初潮が始まったあたりから抵抗感が出てきた。
返事をしても服がなかなか脱げない。下着を下ろすのにも時間がかかるようになった。
それは小学校を卒業し中学に入るとより強く現れてきた。
「はい!」
そんな思いを吹っ切るように麻有は囚人として決められた大きな声を返事をした
少し前まではいかにも子供っぽかった麻有もすっかり大きくなり、今では自分の立場も完璧に理解するようになった。
まだわがままも言いたい年齢だろうに規約を守り問題を起こさないように心がけているのが痛いほど伝わる。
麻有は硬い顔をしながらセーラー服を脱ぎ上半身裸になった。
身体検査があるはわかっているのに制服を着ていたのは無意識のうちに出た反抗心の現れなのかもしれない。
麻有ちゃんの体は中1らしく丸みを帯びて胸の膨らみも大きくなっていた。
本当ならとっくにブラを買ってあげるべきなのだがブラ禁止の刑務所ではそれもできない。
続けてセーラー服とペアの紺色のスカートを下ろそうとするが今日も躊躇いの動作を見せた。
「早くしなさい」
ここは刑務官室ではない。どんなに不憫に思っても他の囚人と同じ扱いをしなくてはならない。
「すみません!!」
まるで自分に言い聞かせるかのように大声で返事した後にスカートと下着が下ろされる。
そして壁に手を付けてお尻を突き出す格好をした。
いくら毎日のこととはいえ、この女の全てを晒す姿を見せられると良心の呵責に耐えられなくなる。
ガラス棒による性器と肛門検査。
この刑務所では最低でも1日一回のガラス棒検査が義務付けられていた。
ガラス棒は太さも長さも大人用の規定しかなく、麻有が低年齢の時はドクターストップが掛かっていたが小学4年になるともう大丈夫だと許しが出た。
初めてガラス棒検査をした日のことは忘れられない。
大人でも初日の検査は打ちのめされるというのに麻有ちゃんは涙を見せること無く耐えてみせたのだ。
初めての性器検査を証明するかのように赤く染まったガラス棒を見て女性刑務官のほうが狼狽していたぐらいだった
高杉も麻有ちゃんの真っ白の太ももに流れる1筋の赤い血は一生忘れられない。
法の名の元に1人の女の子の大切なものを奪ったのだからこの十字架は刑務官全てが背負わなくてはならない。
「4月10日、205番の性器検査開始」
高杉は決められた宣言をした後にビニール手袋をし検査器具が置かれているトレーンを見た。
トレーンには長くまっすぐ伸びている肛門検査用のガラス棒とくねった形をしている性器検査用のガラス器具があった。
やや辛い顔をしながら高杉は性器検査用のガラス棒を手に取る
性器検査の器具も肛門検査用と同じガラス製ではあるが真っ直ぐな細長い棒ではなかった
先端部は細い棒がありそこからややカーブを描きながら中央にはゴルフボールぐらい球体の丸みが2つある。
表面には横線の溝が細かく掘られておりザラザラとした感触があった。
これは苦痛を与える目的の拷問器具でもなければ性的快感をもとめるディルドでもない。
性器内に異物が隠されていないか探るためだけに作られた残酷な検査器具だった。
高杉は感情を押し殺しながらガラス棒を麻有ちゃんの薄い毛が生えた割れ目に置く。
少し力を入れると先端の細い部分がするっと入る。更に力を入れると続いてゴルフボールぐらいある中心の球も中へと消えていった。
「は、はぁ……」
2つの球を飲み込むと麻有は悲しそうな声を出す。
高原は手の感触から先端が子宮口を叩いているのが感じる
器具の形は女性器の構造を見事に捉えており何の抵抗もなく最終地点に辿り着いた。
マニュアルではここで更にガラス棒を奥に入れて子宮口をこじ開けることになっていたが既に中間の2つの球で膣が1杯になっている麻有ちゃんには必要ない。
無言のまま高原は棒を引き抜くと声にもならない苦痛の叫びが聞こえた気がした。
「性器内部に異物なし!」
悪魔の検査が終えると麻有の割れ目は何事もなかったかのように閉じていった。
この検査器具は精神的な苦痛こそあれ痛みを与えない。たとえ処女が受けても本人が痛みを感じる間もなく膜を裂傷させる
血が流れて初めて気がつく囚人も多いし実際に麻有ちゃんもそうだった。
高原はやるせない気持ちになった
麻有ちゃんが性器の検査を毎日やるようになってから3年は経つ。
この3年で麻有ちゃんの性器は女性らしく成長しつつあった。割れ目の厚みも出てきたし陰毛も生えてきた。
外見だけ見れば普通の女の子と同じ年相当だが中は検査器具の蹂躙を隅々まで受けている
「肛門検査開始!!」
「あっ……」
決められた宣言の後に真っ直ぐなガラス棒を肛門に入れる。
麻有ちゃんは中1とは思えない艶っぽい声を出す。
無理も無いと思った。性に目覚め始める大切な時期に体を開発されたようなものだったからだ。
今、検査している肛門も同じだ。今では本人が意識していなくても検査になれば肛門は勝手に口を開ける。
本当なら成長とともに開かれる性の蕾が検査によってこじ開けられたのだ。
「あん……」
また麻有ちゃんが色っぽい声を出した。
辛く悲しい検査なのに声が出てしまうようだ
本来なら声を出すなと言って叱るところだがそれは言わない。
なにしろ大切な麻有ちゃんの体を開発しこんなふうにしたのは自分も含めた刑務官たちなのだから。
「肛門異常なし。最後に排尿をして通学準備」
「は、はい」
麻有ちゃんには24時間監視付きの独房が与えられていた。
危険人物とは言えない麻有ちゃんにそこまですることはないのだが子供であることを考えると他に選択肢はなかった。
だがそこで新たな問題が発生する。独房の規約はトイレも監視のもとで行われることが義務付けられているからだ。
小さい頃はさほど大きな問題でもなかったが中学生となると両者にとって最も辛い時間になった。
刑務官も見たくないと言って目を逸らすわけにも行かず、麻有ちゃんも嫌だからといって出さないわけには行かない。
麻有ちゃんは悲しそうな顔をしながら全裸のまま洋式の便座に座る。
我慢していたのかすぐさま黄金水が勢い良く便器内に叩きつける。
尿独特の匂いや音が響くと麻有ちゃんの目に涙が溜まっていくのが見えた。
2章 片思いをする男子
いくら子どもたちの間でも理解が進んていると言っても所詮は子供。
性的好奇心の前には配慮なんて吹き飛ぶものだった。
「なぁ。学校来る前に全裸に剥かれて検査されるって本当なの?」
昼休みの楽しい雰囲気には似合わないことを1人の男子が言った。
あたりが静まり、謎の緊張感が教室を支配するが、麻有はくだらないとばかりに広げたばかりの弁当を片付ける。
こんな揶揄いは小さい頃からあった。決して悪気があるわけじゃない。
みんな刑務所内の生活、特にエロい話に興味があるだけなのだ。
悪意のない相手と喧嘩しても何も得るものはないを知っている彼女は立ち上がり教室から出ようとする。
「あ、ごめん。そんな怒らないでくれよ。刑務所の生活のことを聞きたいだけなんだからさ。ガラス棒で処女をやぶられる都市伝説の話とかそんな他愛もないデマ話をしたいだけであってそんな虐めるつもりはなかったんだ」
男子は謝罪をしながら冗談を言った。こんなネタは信じていないしありえないと思っていたからだ。
空気を和らげるつもりで有名な刑務所シモネタを言ったつもりだったが。
「ガラス棒検査の話なら本当よ。私も毎日やられているわ」
と、麻有がいうと教室の空気が一変する。
なんてことを言わせてしまったのかの後悔の念とともにクラスメイトの視線が麻有の下半身に集中した。
「え、それってつまり麻有はもう……」
聞いた男の方が引いている。麻有が冗談を言うタイプには見えなかったのも話の説得力に拍車をかけた。
「ったく」
騒動に巻き込まれたくない麻有は屋上へ行った。
1人になりたい時はここに来ていたからだ。
今日も屋上の日差しもよく、心が落ち着くのを感じた。
5分ぐらいのんびりしていると、1人の男子が屋上にやっている。
麻有の目の前に現れた人物は今やクラスのリーダーとも言える栄村だった。
「さっきは男子の1人が馬鹿をやった。俺がクラスを纏めきれていない証拠だ。本当に済まなかった」
栄村が頭を下げる。彼は常日ごろから本当に良くしてくれていた。
麻有がクラスに受け入れられるように皆に説明し説得に回ったとも聞いている。
実際にクラスメイトの信頼も高い。それだけに先程の出来事は本当に事故みたいなものだったのだろう。
「なんでそんなに気を使ってくれるの。栄村のおかげでみんな優しいけど私はただの囚人なのよ。距離を取ったほうがいいのに」
今までも優しい人はいた。しかし栄村の優しさは他とは違う。
同情でもなければ哀れみでもない。それだけに不思議な男子だと思った。
「なんだそんなことが不思議なのか。なら答えは簡単だ。俺はお前のことが好きだからさ。あ、ここで言う好きはクラスメイトしてじゃないぞ。1人の女子として愛していると言ってるんだ」
「はい?」
間抜けな声が出た。この男子はいったい何を言っているのか。
愛している?こんな臭い言葉が少女漫画以外で存在しているとは。
あまりにストレートな告白だった。
「入学式の日にかけっこがあったろ。俺を追い抜いていく姿が超かっこよくてな。あの時思ったね。これはもう結婚を前提に付き合うしかないと。もちろんその後の囚人の話は驚いたさ。でもそんなことでは俺の思いは変わらないしなんの障害にもならない。だから付き合おうぜ」
「バッカじゃなの!」
中1の分際で結婚とまでいい出した。一時の気の迷いとしてもどうかしている。
熱弁の恥ずかしさに耐えきれず彼女はここから去ろうとするが。
「待てよ。返事を聞かせてくれ」
真剣な眼差しで栄村が言った。彼は本気だ。冗談でも何でもなく本当に付き合おうとしているのだ。
麻有はあまりの熱心さに腹が立ってきた。
なんでこの男子はこんなに馬鹿なのか。囚人でも関係ない?
何も知らないくせによくそんなこと言えるものだと。
「さっきの教室の話だけどあれは本当よ。私の処女はとっくの昔に冷たい検査棒に奪われたわ。それだけじゃない。毎日、男性刑務官の前で裸になってお尻の穴にガラス棒を入れられて調べられているのよ。私は女囚だからね。なんだったらこの場で裸になってオシッコを出してあげましょうか。監視されながらのオシッコもいつものことでしかないんだから簡単に出来るわよ」
そう言って麻有はセーラー服の3角タイをさっと抜き取った。
そしてクラスメイトの男子が目の前にいるというスカートの中に両手を入れて下着を下ろそうとする
「やめろ!! なんでそんなこと言うんだ。止めてくれ……」
栄村は苦しそうな顔をしながら叫んだ。
まるで自分の事のように彼女が置かれている立場を悲しんでいるのだ。
その様子を見て麻有は手を戻してフッと笑う。
「栄村はいい人ね。だからこそこっちの世界には来てほしくないの」
そういって麻有は1人で屋上から去っていった。
エピローグ
思いがけない告白を貰った麻有は逃げるように刑務所に帰ってきた。
自分に恋なんてありえないと思い続けただけに唐突な告白に頭が処理しきれない。
なんとかして断らないと思いつつも顔が緩むのを感じていた。
そう。告白されて嬉しい気持ちが抑えきれないのだ。
自分だって他の子と同じように恋に落ちて青春を過ごせるのではなのかと思いがよぎる。
「205番。脱衣して報告!」
そんな浮ついた心を現実に戻すかのように帰宅後の身体検査が始まった。
今日の担当は厳しい金城だ。金城刑務官は麻有の顔を見るやいなや脱衣を指示した。
この刑務所における脱衣とは下着を含む全衣服を脱ぎ素っ裸で立つことだ。
他の刑務官なら私情が入り、麻有に言うのは可哀想だと思う残酷な命令も金城はあっさりと言ってのけた。
「はい!!」
大きな返事とは裏腹に麻有は心の中でつばを吐いた。
金城の前での脱衣ももう珍しくないが、やはり脱ぐ時は抵抗感や惨めさが顔に出る。
なんで私だけこんな恥ずかしい目にと考えないほど彼女は大人ではなかった。
「午後5時帰宅。問題は何も起こりませんでした!!」
全裸姿で報告をすると頭の中に火花が散ったような感覚に襲われた。
この全裸報告は学校に通うようになってから初められたものでもう5年ぐらいやっている。
なぜ全裸になってから報告させられるのか。子供の頃はわからなかったが胸も膨らんで女の体に近づいた今ならわかる。
恥ずべき薄い陰毛すら晒した状態で嘘が付けるほど人は強くないのだ。
金城は晒された体をまじまじと眺める。
麻有の胸は驚くほど発育していた。まだ1*歳なのにもう一人前の女性の乳房と言ってもいい。
そのくせウエストの体幹は細いので余計に胸が大きく見えた。
「本人と確認。次は検査姿勢、尻!!」
「はい!!」
反射的に四つん這いになり尻を持ち上げた。
先程の全裸報告で精神がやられたのか、今回はスムーズに動いた。
その反応速度に満足した金城刑務官は右手で麻有の性器を開きペンライトで中を照らす。
彼女の中はピンク色でペンライトの光でキラキラと反射している。
「指導!!」
次の瞬間、突然パーーーンの音ともに体がビクリと震え、口から「あーーー」の叫び声が漏れた
金城の大きな手のひらが右側の生尻を思いっきり叩いたのだ。
意味がわからない。確かに駄々をこねて叩かれた経験はあるが理由もなく叩かれた記憶はない。
何かまずいことをやったのか考えるが、やはりわからない。
「ありがとうございました」
それでも指導のお礼は言わなくてはならない。
お尻の痛みの屈辱に塗れながらお礼を言うと金城は再び性器の中を開き、ペンライトで中を照らしながら言う。
「学校で何があったん?少し濡れているよ」
「な!?」
とんでもないことを金城は言ってきた。
麻有は顔を真っ赤にし恥ずかしがったが、性器を覗かれているんじゃ隠しとおせるはずもない。
諦めて告白されたことをすべて話した。
「なるほど。男子からの告白かぁ」
そう言って金城は性器検査棒を中に入れる。
「あっ、いや」
くちゅと湿った音とともに抵抗の声が漏れるが、そんなことも気にせず器具は奥へと進み棒の先端があっさりと子宮口に到達する。
麻有は小4からこの検査を受けているせいか、体の発育が同学年の女子より早かった。
膣も器具のおかげで上手く拡張されているがそれでも大人用は大きすぎる。
だからこそ他の刑務官ならここで検査を止めるが金城は手を止めない。
大多数の凶悪犯同様に子宮口の中に検査棒の先端を入れて回し始めた。
「かっ、はっはぁ、あっ」
子宮口をこじ開けられたことを示す独特の声が麻有の口から発せられる。
そんな刑務所でしか聞けない声を聞きながら金城が言う
「そいつの思いは本物だろうね。受ける受けないは205番の勝手だが真剣に考えてから返事をしてやってくれ」
「ほ、ほんもの?」
本来は男のものすら入ってこないはずの性器の奥の奥をいじられて混乱する頭の中で麻有は聞き返す。
「そうだよ。205番に近づいてくる人間は2つのタイプがいる。一つは同情心という仮面を被っている人。そしてもう1つは境遇とは関係なく麻有という人間に引かれるタイプ。話を聞く限りその男子は後者だ。だから信じられる」
まるで独り言のように金城が話を続ける。
この金城という男は軽い雰囲気とは裏腹に結構な人生経験を積んているのかもしれない
「これから205番に必要なもの人を見る目だね。もし失敗し駄目な人間を選んだ時は……」
「や、やだっ」
性器検査棒がようやく抜かれたと思ったら今度は肛門にガラス棒を突っ込まれる。
それはまるで駄目な男を選べばこんな目に合うと言わんばかりの乱暴な挿入で体全体に嫌悪感の信号が走りまくった。
ガラス棒が奥へと進む。肛門検査のやり方は特に決められていないのか刑務官によってバラバラだった。
殆どの刑務官は義務的に入れてすぐ抜いてくれるか金城刑務官は違う。
入れてから穴を広げるかのように円を描く。肛門を拡張するのが目的のような動きは吐き気をもよおすほどの気持ち悪さだった
「肛門異常なし。検査終了。礼!!」
ネチネチと肛門と直腸を探られ思ったら突然ガラス棒が引き抜かれる。
麻有は肛門が閉じるよりも早く直立不動をし頭を下げる。
「ありがとうございました」
手で肛門を抑えて痛みをこらえたり泣いたりする時間は与えられていない。
小さい頃から何年間も毎日やられたからこそ出来る動作だった
「囚人服に着替えて起立」
時間はもう午後6時。麻有が学生としていられる時間は過ぎてしまった。
もうセーラー服を着ることは許されないし手錠腰縄なしの移動も出来ない。
ここからの制服はこの支給されたラフなポロシャツにズボンだ。
使い古しの下着を履き上下と着ると麻有は身も心も女囚に戻っていくのを感じた。
「両手を前に」
「はい」
手錠を掛けられた音を聞くと頭の中に先程の告白の単語が唐突に浮かんだ。
『愛している。結婚を前提。付き合ってくれ』
生まれた瞬間から無期懲役の十字架を背負わされて死ぬまで1人で生きていくものだと諦めていた麻有にとってはあまりに儚く現実味に欠ける話に思えた
それでも彼女は彼の思いが本物であることも確信していた。
だからこそ距離を取らなくてはならない。
もし彼を愛してしまったら愛する人にこんな姿は絶対に見られたくない思いが生まれるのは目に見えている。
下手に希望が生まれればいつもやられている身体検査もずっと辛く感じるようになるだろう。
そんなリスクはとても負えないと思った。なんと言っても麻有は女囚。
生涯ここで暮らさなくてはならない囚人番号205番の無期懲役囚。
終わり