バタンと扉がしまう。
男の刑務官は急いで出て行った弟の姿を楽しそうに眺めた。
「ヘタレな弟はいなくなったぞ。残念だったな。せっかく弟にお前の大事なところを見せるチャンスだったのにな」
刑務官はその若い年齢に似合わない、ひどく下品な声で、挑発的な話し方をした
姉はその挑発を聞こえないふりをしつつ、先ほど命じられた通りパンツを下ろした。
そして男の前で直立不動のポーズを取り、その下半身を晒す。
もう何度もやった下半身丸出しの検査姿勢。
普通に生きていれば永遠に体験するはない恥辱のポーズを取らされた彼女は、 やりどころのない怒りと羞恥を感じ、顔を真っ赤に染めた。
「4番。いや、副部長の久美子ちゃん。いい格好だな」
男は生唾を飲み込みながら、まだ少女のようなしなやかな足を舐めるように眺め、
そのまま股間に視線を合わせた。
彼女の股間はようやく生えそろったかのような薄い陰毛が翳っていた
この存在もわかりにくい非常に薄い毛は生まれつきなのか。
それとも入監時の全裸検査で剃らされたのかはわからない。
だが、そのおかげで割れ目がはっきりと確認できた。
彼女の女と言える部分はぴっちりと閉じた綺麗な形をしていた。
「……」
彼女はまじまじと自分の大切なところを見られる恥辱に耐える。
屈辱感で体が小刻みに震えた。
―――なんでこんな男に。
この刑務官は姉の中学時代のテニス部先輩だった。
もちろん、ただの先輩であり卒業後は一度も会ったことがない。
出会わなければ存在も思い出すこともなかったはずの男が、
何の因果か新人刑務官として彼女の前に現れた。
この現実は彼女の心を大きく乱した。
まったくしらない赤の他人なら屈辱的な対応にも耐えられたかもしれない。
しかし、なまじ自分を知っている男となれば話は別だ。
この男は懐かしいねと昔話をしながら元部活仲間を番号で呼び、 手錠を掛け、面白半分に裸検身を命じる。
男は仕事だからゴメンネというが、その姿はどう見ても楽しんでいる。
その疑惑を裏付けるがごとく、今日もまた必要がない裸体検査を命じられた。
しかも弟がまだ部屋から出る前にだ。これが嫌がらせでなければなんだというのだろうか。
「しかし中学時代の後輩にこんなところで会えるとは思わなかったな。 あんな優等生が今では犯罪者なのも驚いたわ」
姉の痴態をさんざん楽しみながら男は語る
「私は本当にやってない」
犯罪者という男の暴言に我慢できず、姉は反論した。
本当なら、刑務官に許可無く話かけてはいけない。
それは彼女もわかっている。
だが、規則を破ってまでも言わなくてはいけないことだった。
「ふん。4番。手を床につけ四つん這いになれ」
男は姉の反論を鼻で笑いながら突然命じる。
「えっなに」
この流れで検査姿勢を取らせる理由がわからず姉は戸惑った。
「早くしろ」
再びどなり声。
―――こんな男の前で四つん這いなんて
顔見知りの男の前でやる四つん這いは想像しただけでも、
顔から火の出るような恥ずかしさに思えた。
姉は片膝をつき、両手を床についた。
検査姿勢はここから足を広げないといけないが、姉はなかなか広げることが出来ない。
ここで足を開ければ性器はもちろん、お尻の穴に至るまで男の前に明らかになってしまうからだ。
「ふん」
男は戸惑う姉の後ろに回りこみ股間を覗きこんだ。
たとえ足を開かなくても、この角度なら見える。
そう言わんばかりの男の行動だった。
「い、いやぁ」
姉は自分のすべてが覗かれているのがはっきりとわかった。
男の目には自分の肛門や陰毛の絡んだ陰裂の中も見られているだろう。
全身を羞恥と屈辱で真っ赤に染めた。
―――酷い。こんなの酷すぎる
「いいか。よく考えてみろ。なぜやっていない人間が、こんなところにいるのか。 なぜ、"好きでもない男"にあそこを晒しているのか。そして、これからどういう目で見られながら生きていくか。をな」
男は無残に晒されている秘裂と肛門の穴を眺めながら、 [好きではない男]をあえて強調し語った。
これは中学時代に告白し振られた私怨。
「それは……」
彼女は反論できなかった。四つん這いを支えている手と足がガタガタを震え、 男の言葉が姉の胸をきりきりと苦しめる。
確かに、こんな格好を晒している女の言い分なんて誰も聞くわけなかった
被疑者とはいえ、今の彼女の立場は囚人と何ら変わらない。
人間としての最低限の権利さえも剥奪された状態だ。
例え、冤罪が認められて釈放されたとしても、この薬物犯罪専用拘置所に収監された事実は消えない。
あの女は逮捕され、毎日のように手錠をかけられる生活をしていたんだ。
あの体も色々な人に裸を見られ続け、前も後ろも毎日の日課のごとく何度も何度も調べられたんだ。という好奇の目で見られる。
そんな女を誰が信じて付き合ってくれるだろうか。
―――それでも私は。
突然扉が開き、30前後の女性刑務官がやってくる。
刑務官は下半身丸出しのまま四つん這いになっている姉の姿をちらっと見て、またかという呆れた表情を見せながら、
「篠原くん。4号の引き継ぎをお願いします」
と、言った。
「ちぇ、もう引き継ぎの時間か。せっかくこいつを突っ込んでやるチャンスだったのにな。
あー、4番。着衣し腰紐を掛ける体位をとれ」
男は手に持ったガラス棒を名残惜しそうに眺めながら不満気に命じる。
その声を聞いた姉は素早くパンツを履きズボンも履き直す。
そして手錠腰紐をつけやすくするように手を前に出し背筋を伸ばした。
彼女はこの人を荷物のように扱う引渡しの作業が大嫌いだった。
だけど、この男の前で下半身を晒す苦痛に比べれば、ずっとマシだと思い、
急いで指定された体位をとった。
女性刑務官は姉のあまりの早業を見て、呆れた表情を見せる。
「いつもそんなに恥ずかしがっていたら身が持たないよ。早く人前で裸になることに慣れないとね」
同性の好みなのか、女性刑務官は姉に対してここで生活する上のアドバイスを語った。
「……」
姉は無言のままアドバイスを聞いた。
この女性刑務官に対して怒りを覚える。
裸になることに慣れろ?。冗談ではない。
それは人間らしい感情を捨てて、なんでもいう事を聞く奴隷になれといってるのと同じ
ここの人は他人に裸を見られることが、どれだけ辛いことなのかまるでわかっていない。
そんなことを彼女が考えていると突然手首に冷たい感触。
そしてガシャという残酷の音が部屋に鳴り響いた。
「あぁ」
姉は真っ青な顔をし、手にかけられた黒い手錠を見つめた
手錠腰縄は移動の際に必ず付けられるものであり彼女ももう何十回と味わった護送スタイル。
しかし何度やられても手首に食い込む手錠の冷たさや腰に巻かれた縄の感触に慣れることはなかった。
「4番の引き継ぎ完了しました。面会後の規則bに則り、精密検査室へ移動します」
女性刑務官は姉を連れて面会室を出た。
向かう先は検査室。彼女がこの施設で最も忌み嫌う場所。
前回連れて来られたときは絶望に打ちのめされ、歩くのもやっとな状態になったが、
今日の彼女の心には僅かな救いがあった。
自分には味方がいる。それがはっきりとわかった。
たとえ周りが、どんなに自分を犯罪者扱いにしても、弟だけは最後まで味方だ。
そんな弟が必ず助けると言った。
弟が信じてくれるのに自分が先に挫けてどうするんだと。
-----ひろし。私は負けない。必ずここから出てみせるよ
弟の思いを胸にして、姉はこの恥辱にまみれた拘置所生活を生きていく。