「何を揉めているのかよくわからないけど、この2人の同席を認めるんでいいんだよね」
もたもたしていることに苛ついたのか不機嫌な顔をした女性刑務官が4番の手錠と腰縄を外しながら言う。
「はい、構いません」
先ほどと同じような決意がこもった声で四番が言う。
「それでは持ち物検査をします。いつも通り全部脱いで」
女性刑務官がなんのためらいもなく全裸になるようにと指示を出す。
ぴーんと張り詰めた空気が部屋を覆う。
しかし4番は動かない。頬をピンク色に染めながら固まったようにじっと立ち尽くしていた。
構わないと言ったばかりなのになぜ脱がないのか。皆の疑念の視線が一斉に4番に向けられる。
(そうよ。脱ぐはずがないわ)
綾瀬は同じ女として4番が脱がないことを確信してきた。
確かに今の4番の立場は女囚と何ら変わらない。裸になれと言われれば嫌でも脱がなくてはいけない。
刑務官がまるで日常会話のように全裸体を命じたのを見ても、それは明らかだった。
だが、今は普段のそれとはまるで違う。部外者が2人もいるのだ。
しかも、部外者の一人は男であり、4番が脱ぐ瞬間を捉えようとカメラを向けている。
いくら命令で言われたからってそれだけで脱げるはずがなかった。
「4番!」
苛ついた女性刑務官が怒鳴り声を出す。
すると4番は覚悟を決めたように目をつぶりながら、白い体操着を脱いだ。
下にはブラを付けていないため、真っ白い二つの乳房が露わになる。
乳房の大きさこそ平凡だが、形は綺麗な丸みを帯びており、いかにも20代前半の女性らしい健康的な色気があった。
そんな乳房を狙って、デジカメの疑似シャッター音がカシャカシャカシャと部屋に鳴り響く。
その音は4番の初々しい乳房がマスコミのカメラに収められた証拠でもあった
「81か2かな。確かに大きさよりも全体の形がいいな。乳輪も控えめだ。生意気な女らしい少し上を向いた乳首も悪くない」
鈴木はいやらしい声で剥き出しになった乳房の感想を言いながら楽しそうにシャッターを切る。
何と言っても先ほど言い負かされた女が苦痛に満ちた顔をし、その柔肌を晒しているのだ。
彼にとってこの状況は、面白くないはずがなかった。
「くっ」
自分の胸を写真に撮られた恥辱からか、4番の知的な顔が歪む。
頬がさくら色に上気する
だが、手で胸を隠すこと無く、そのままグレー色のズボンを下ろす。
スラリと伸びた若々しい4番の両脚と飾りのないシンプルな白いパンツが剥き出しになる。
続けてパンツにも手をかけ、ずるりと下げた。
実年齢よりも大人っぽく見える4番の雰囲気には似合わない薄い陰毛が外気に曝される。
「ハイ、ポーズ」
全裸になった4番に向かって再びシャッターが切られる。
シャッター音がするたびに、彼女の綺麗な二本の脚が、悲しげに震えた
それでも鈴木は容赦をしない。特に割れ目まで覗ける薄い陰毛は、何度も何度もカメラの餌食となった。
遠慮ないカメラの暴力についに耐えきれなくなったのか、4番の目頭にはいつしか涙の前兆が浮かぶ。
「気を付け!」
誰もが4番の裸を見つめている時、突然男の声が響く。
叫んだのは篠原刑務官だ。
掛け声を聞いた4番はまるで条件反射のように手が体の側面へ付けられる。
そして顎を引き、強張っていた顔を前に向いた。
「なんでそこまで」
綾瀬は悔しさで歯を噛み締めながら全裸直立不動をする4番の姿を見ていられなかった。
同じ女として、男に向かって裸のままポーズを取らされる彼女の辛さが痛いほどわかったからだ。
そんな女性の気持ちも考えずに篠原刑務官は書類を持ちながらマジマジと4番の裸体に目をやる。
刑務官の視線はまず剥き出しの乳房を眺め、そして下半身へと流れていった。
「つぅーーー」
4番は唇を歪ませ、歯軋りしながらその視線を受け止めている。
隠したいのに隠せない。女の葛藤が見える4番の表情だった。
散々視線をなめまわした篠原刑務官が笑みを浮かべて言う。
「四番本人と確認」と。
「あっありがとう……ございました」
それを聞いた4番が全身を真っ赤にさせながら頭を下げた。
一見すると普通にお辞儀をしているように見える。
だが、彼女の手は強く握りしめられており全身も怒りで震えている。
今訪われた行為が恥辱と屈辱で満ち溢れたものであったことを伺わせた。
「い、今のなんですか!」
女の人権を無視したような検査に怒った綾瀬が声を荒げる。
「んー。識別のための身体検査って言ってもわからんか。ようするに裸を見て本人かどうか確認する検査」
涼しい顔で篠原が答える
「裸を見ないと本人かわからないなんてそんなバカな」
「裸体の特徴というのは顔なんかよりも変えられないとのからな。だから前もって囚人の体を徹底的に調べておいてデータ化しておく。そうすれば万が一顔を変えても一発でバレる。いやぁ本当によく出来た法律だよ」
いやらしい顔をしながら篠原刑務官が話す。
「……こんないつ作られたのかもわからないカビの生えた法律が役に立つわけないじゃない。ホント馬鹿みたい」
4番が小さな声で言う。
毎回受けているこの検査が相当嫌なようだ。
「篠原くん。今からガラス棒検査をするから準備して」
4番の愚痴が聞こえたのか、これまで黙って見ていた女性刑務官が突然声を上げ、慌ただしく3本のガラス棒が置かれた机に向かう。
そして少し考えるような仕草をした後、親指2本分ぐらいの太さのある一番大きいガラス棒を手に取った。
「久美子ちゃんのガラス棒検査を見るのも久しぶりだな。頑張れよ」
薄いビニール製の手袋が入った箱を開けながら篠原刑務官が馬鹿にしたような声を出す。
「……あんたって人は」
4番が手で胸と股間を隠しながら篠原刑務官を睨む
そこには明らかに怒りの感情が感じられた。
「4番、私語は厳禁。いい加減にしなさい! あと篠原くんも言葉には気をつけなさい」
透明な手袋を付けながら女性刑務官が怒鳴ったような声を出す。
(久美子)
綾瀬は篠原刑務官が漏らした名を聞き逃さなかった。
「ガラス棒検査の姿勢を取りなさい」
「……はい」
女性刑務官を怒らせた時点で覚悟したのか、4番は素直に俯き、ゆっくりと4つのマークが書かれた中央へと向かって歩く。
そして大きな間隔を取られたマークに合わせるように手を床に付け、足を立て、お尻を掲げるような四つん這いのポーズを取る。
「おいおい凄いな。なにもかも丸見えじゃないか」
ヌードモデルですら躊躇うような哀れな格好に喜んだ鈴木はシャッターを連続で切る。
「嘘……」
綾瀬も足をいっぱいに開いて、女の秘所を晒している無惨な4番の姿から目が離せなかった。
「では初めます。力を抜きなさい」
綾瀬たちの反応を見ながら女性刑務官は4番のささやかな恥毛に守られた割れ目を右手一つで器用に開く。
すると女性器はくぱぁと言う粘着質な音を立てながら開き、その独特な肉壁を奥の奥まで曝け出される。
「あッ、なんでそんなとこっ」
4番が驚きのような声を出す。
どうやら普段の出入り口検査では性器の中まで見ないようだ。
「サービスよ」
女性刑務官はそう言うと割れ目から手を離し、本命である尻肉を掴むグイっと左右に開く。
すると白い谷間は谷底までさらけだされる。
彼女の肛門は健康そうな茶色をし、小さく縮こまっていた。外見から見ても異物等が入っているようには見えない。
そんな何の問題もなさそうな肛門に冷たいガラス棒の先端が当てられる。
4番の表情に、ひきつった怯えの影が走る。
棒は明らかに肛門よりも太く感じられた。
こんなのが本当に入れるのか?入るのか?
誰もが息を飲み、疑問に思ったその瞬間。
「ひぃ」
綾瀬が手を口に抑え、悲鳴を押し殺す。
肛門の中心に置かれた太いガラス棒がゆっくりと埋めこまれていったからだ
ガラス棒が沈むたびにメリメリという音が響いているような気がした
「うぐぐ、い、いやあ……あ、ああ……」
たまらず4番の口から悲鳴にも似たうめき声がした。
目がギョロと開き、汗が床に垂れ落ちる。
「へえ、これが刑務所名物のガラス棒検査か。初めて見たわ。なかなか迫力あるな」
鈴木が感心したような顔をしながらシャッターを切る。
「こんなことが未だに行われているなんて」
綾瀬も知識としては知っていた。
昔の刑務所では違法ブツの持ち込みを防止するために囚人たちの肛門にガラス棒を突っ込んで調べていたと。
「ひッ、……うう、くうッ、あっ、」
顔を真っ赤にさせた4番が首を左右に振ってイヤイヤと言っているような動作を取る。
だが、その声無き悲鳴に答える人も、4番の気持ちがわかってくれる人もいない。
なぜなら肛門をガラス棒により貫かれていく苦痛や、それによる気も狂わんばかりの汚辱感を経験したことがある人なんているはずもなかったからだ。
ガラス棒の進行がようやく止まる。
女性刑務官は棒を回しながら何かを探るような動作を取る。
どうやら直腸に異物が入っていないか確かめているようだ。
「くは、うぅ」
直腸越しに子宮が刺激されるのか4番は苦しそうでどこか切ない声を出す。
そして女性刑務官は「問題なし」と宣言した。
感覚的にはとても長く、実際には一分にも満たないガラス棒検査が終わる。
4番の肛門からズルッとガラス棒を引き抜かれる
ガラス棒には茶色い便こそ付いているが、出血の痕跡はまったく見られなかった。
「流石ですね」
取り出されたガラス棒と赤く腫れながらもゆっくりと閉じていく肛門を見た篠原刑務官が賛美を贈る。
女性刑務官は普段では使わない太いガラス棒をあえて使用した。
それでも4番の肛門が避けたりはしていない。
これは女性刑務官が4番の体を知り尽くしており、彼女の肛門が耐えれるギリギリのサイズすら把握している証だった。
「ハァハァ」
謂われもない余計な恥辱を与えられた4番は真っ青な顔をしながら、ふらふらと立ち上がり衣服を着直す。
息も絶え絶えで、先ほど見せた覇気も知的な雰囲気もまるで感じさせない。
まるで何歳も老け込んだような4番の姿がそこにはあった。
「なぁ、いつもこんな検査をやっているのか」
4番の着衣シーンをカメラに収めながら鈴木が質問をする。
「ガラス棒は不定期だけど全裸検査は毎日必ずやる。これをやっていればどんな悪党でも大人しくなるし欠かすことは出来ないな」
「毎日……」
綾瀬は今日見せられた全裸検査からガラス棒検査の意図をようやく理解する
これは一種の儀式なんだ。お前はもう普通の人間ではないを体にわからせる儀式。
毎日裸にされ、肛門をイジられ、番号で呼ばれればどんな人間の反抗心も崩れ去る。
身体検査は治安維持のために必要という表向きの説明も決して嘘ではなかったのだ。
「今日の取材はここまでだな」
4番が部屋から連れ出されていくのを見た鈴木がカメラの片付けを始める。
どうやら今日の予定はこの保安室だけだったようだ
「そういや鈴木さん、例の話の女性記者ってあの子なのですか」
「そのつもりよ。4番ではないがやっぱこういう企画は擦れていない若い女のほうがいいだろ」
「確かに。結構いい体してそうですしね」
なにやら不安な会話がなされていたが、今の綾瀬の耳に届くことはなかった。
ジャーナリストの端くれとして、今彼女が考えるべきことは山のようにあった。