神崎刑務官が脱衣場の扉を開ける。そして使用中と書かれた木製の古びた札をドアのノブにぶらさげた。
この拘置所は結構近代的な建物なのに、ところところ妙に前時代的な遺物が残っていた。
もし見学に来ていて、これらを見せられたら『なぜこんな古いものを使っているの』と質問したいところだが、今の姉の立場ではそれも出来るはずがない。
「入りなさい」
言われた通りにパンツ1枚の姉と全裸の女性が中に入る。
脱衣場は明るく、最初から電気が点けられた。
入浴は2人一組で行われるのが定例であることを考えても、すでに何組も終えていたことを窺わせた。
神崎刑務官が笛を杉浦に渡す。
「今日はあなたがやりなさい」
「はい。まかせてください」
先程の失態を帳消しにしようと言わんばかりに杉浦は張り切った声を出した。
(うえ、最悪)
あのクソ女に命令されながら風呂に入る。
姉は考えただけでうんざりした。
ジロジロと裸を見られつつ、あれこれ指図されるのだから溜まったものじゃなかった。
「4番。下着を降ろしなさい!」
さっそく偉そうに指示してくる。
姉は不満そうな顔をしながら野暮ったい支給品のおばさんパンツを脱いた。
すると隣りに居た全裸の女性がジロジロと姉の薄い陰毛に見て、含みのある笑みを浮かべた。
「ひっ」
姉はさっと手で股間を隠す。
殆どむき出しの割れ目を見るたびに自分の立場を思い出させる。
もちろん人に見せるのも辛かったからだ。
「そんじゃ身体検査でもやりますか」
杉浦刑務官がどこか気持ち悪い笑顔をしながら言った。
それを聞いた姉は咄嗟に口を挟む。
「は? さっきやったば……いえ、何でもありません」
黙り込んだ姉の拳がギュと握りしめられる。
杉浦は数いる刑務官の中でも最悪の部類に入った。
反論は一切許さず、常に自分勝手。
どんな正統な反論も受け入れられるとは思えなかった。
姉ともう一人の女性が横一列に並んだ。
(なんか……これ)
入浴前の身体検査もたまにあるが、今日はやたら惨めに感じた。
いつもなら年取ったおばさんと並ぶため、そこまで相手のことを意識しない。
だかしかし、今回はあまりに比較物が悪すぎた。
すぐ真横で全裸を晒している女性は嫌味を感じさせない大きな目が印象的だった。
ショートボブの髪もよく似合っている。
そんな美女がD以上はあるであろう乳房を堂々と晒していた。
ただ大きいだけならそこまで気にしない。この女性の乳房はまるで重力に逆らっているかのように垂れる事なく乳首が正面を向いていた。
大きく垂れないバスト。
同じ女性として劣等感を感じないわけがなかった
あえてこの女性の欠点を上げるとすれば無尽蔵に生えた濃い陰毛ぐらい。
これでは勝負にならない
「手を上げて。後ろ向き。次は横」
そんな姉の気持ちも知らずに杉浦刑務官は時間を掛けて目の前にいる全裸の女性二人の体に視線を走らせる。
今日何度目かもわからない他人の視線が姉の股間に向けられる。
彼女の陰毛は申しわけ程度に生えているだけなので、女の割れ目はもちろん隠れていない。
一見すると子供のような陰裂だがよくみるとやはりそうではない。
高さもあり谷間も深い。その淫らな唇もピタリと閉じているがやはり子供のものではない。
女性なら誰もが疑問に思うだろう。なぜこの子は陰毛を剃っているのかと。
「ふふっ」
そんなみっともない姿を杉浦が遠慮なくまじまじと見る。
姉の表情がさらに固くなった。
そしてゆっくりと背後に回る。
「合格。入ってよし」
なんでわざわざ後ろで言うんだろうと思う暇もなく『パン』と軽い音が1回響いた。
「ひゃわ」
姉な体が飛び跳ねるようにピクリと反応した
まるで肩を叩くかのように杉浦が姉の生尻を軽く叩いたのだ
力も何も入っていない暴力行為とは程遠いものだっだか、生まれて初めての感覚に姉の目が泳いだ。
最初、何をされたのかすら理解できなかった。
だが、お尻に残る気持ち悪い他人の手のひらの感触がじわじわと広がっていくと否応無しに自覚する。
頭にカッと血が登った
検査のために触るなら我慢もする。
しかし今回のは明らかに遊び。相手を人してみていないからこそできる行為。
姉の心に羞恥とは別の感情が生まれる
それはここに来るまでは考えもしなかった人間の本能とも言える気持ち
「張り倒したい」
今すぐ、そのすかした顔にビンタをすれば、どんなに気持ちいいか思った。
もちろん、そんなことをやれば全てが終わることはわかっている。
それでもやりたい感情が押さえつけられない。
一ヶ月も黙って言うこと聞き、裸を晒し続けた鬱憤が爆発しそうになった。
『やめておきなさい』
その時、真横から声がした。
平然な顔で全裸を晒している隣の女性がボソリといった。
顔に出ていたのか。それとも知らず知らずのうちに口に出していたのか。
「なにしているの。早く浴室に入って体洗いをしなさい!!」
大声とともにやかましい笛の音が響く。
まだ怒りが収まらない姉はあまり似合わない反抗的な顔つきで杉浦を睨む。
だがそれ以上は何もせず、黙って浴室の透明なガラス扉を開ける。
浴室の中は広くて明るい。二坪ぐらいある浴槽には豊富な湯が貼っていた。
浴室に入るともう一人の女性が扉を閉める。
そしてそっと近づいてきた。
「はじめまして。榊原愛よ。仲良くしましょう」
あまりにはっきりとした声に驚いた姉は咄嗟に出入り口を見る。
ここは私語厳禁。バレたら怒られるのは目に見えていたからだ
しかし刑務官たちはまったく気が付かず二人で何やら会話していた。
愛と名乗る女性は短めの髪をさっとかき上げて一番近くのシャワーの蛇口をひねる。
「このぐらいの声の大きさなら意外と聞こえないものよ」
愛は再び姉の薄い陰毛をじっと見ながら話を続ける。
「その様子ならここに来てから一ヶ月ってところかしら。私はもう半年になるわ。ってこれは言わなくてもわかるよね」
愛は自分の下半身を指差す。
そこには手入れもせず無尽蔵にはえ揃った濃い陰毛があった。
「ええ、」
姉は体を洗いながら自身の情けない陰毛を見て当時の怒りがこみ上げてきた。
こういう思いをさせるのが真の目的だとわかっているが、それでも感情が抑えきれない。
「まったく。カミソリを貸してくれれば自分たちで手入れするのにね。融通がきかないにもほどがあるわ」
愛が真横で愚痴っぽい話し方をした。
この方針にはウンザリしているのは同じのようだった。
「保安のためか何か知らないけどこんなの許されるわけ無いわ……」
姉が恨みをこもった声を出す。
そう。彼女の陰毛が蹂躙されたのは留置所からこの特別拘置所に移送された当日。
そこで姉は予想もつかないような目にあった。
むろん、知識として拘置所が厳しいのはわかっていた。
留置所のように◯◯さんとは呼んでくれないだろうし、身体検査の際もバスローブが貰えず、パンツ1枚で受けなくてはならないことも覚悟していた。
だが、現実は姉の想像を遥かに超えたものだった。
まず最初につれてこられた身体検査室で姉は生まれて初めて人に命じられて全裸になる屈辱を味わった。
悔しさのあまり、全裸のまま怒りをあらわにしたが、検査員はなにも動じることなく決められた入監手続きを進めるだけだった。
結局その日は姉にとって生涯忘れられない数々の『初めて』を味わった日となった。
すべての手続きが終わると、姉は名実ともに1人の囚人になりたてた。
昨日までの彼女はもういない。ここにいるのは女体を管理された哀れな女。
それは初めて味わったガラス棒検査のおぞましい感触と失われた陰毛が物語っていた。
その時になって姉はようやく今の立場を理解した。
警察は冤罪の可能性なんてまるで考えていない。
だからこんなことをする場所に入れたのだと。
「ぴー、洗い方やめ。直立姿勢!!」
突然、笛の音がなり、指示が飛ぶ。
はっと我に帰った姉は急いで体を流し、出入り口の前で直立不動のポーズを取った。
「2番も早くしなさい」
「はーい」
愛はいかにもやる気がないような動きで真横に並んだ。
実際にやる気なんて起こるはずがなかった。
これになんの意味があるのかまるでわからないからだ。
なぜ体を洗ったあとに必ず直立不動の姿勢をし、裸を見せないといけないのか。
「湯船に入れ!」
ようやく二人はお湯がたっぷり入った湯船に浸かることが出来た。
幸いお湯は綺麗で垢もろくに浮いでいなかった。
「はぁー」
姉は何日ぶりかで至福の感情を堪能していた
温かいお湯に首まで浸かると頭の中からモヤモヤが晴れていくのを感じた。
先程までの怒りも一緒に消えていく。
「いい湯ね」
愛が近づいてくる。どうやら話をしたいようだ
姉にとってもそれは願ったり叶ったりだった。
ずっと独房でひとりぼっちだったため、人との会話に飢えていたのかもしれない。
「えっと愛さんはなんでここに?」
どう見てもこんなことに来る女性には見えなかった。
化粧禁止にもかかわらず顔にはシミ一つない。外で合えばモデルが何かに思うだろう。
「ここに来た理由? それは言わないでおくわ。嫌われたくありませんしね。でも他のことならなんでも教えてあげる。私はここに来るのは2回目だから大抵のことはわかるわよ」
「2回もこんなところに……」
姉は目を大きく開き驚きの視線で愛と名乗る女性を見た。
やはり人は見た目とは違う。こんな感じのいい女性でも薬関係の犯罪常習者なのだから。
「ふふっ。こんなところといいますけどここも悪いところじゃないわ。刑務所に比べれば天国のようなものですし」
姉はドキリとした。このままではいずれ有罪になり刑務所に行くはめになるからだ。
現状ですらこんな扱いなのに刑務所となればどんなに酷い扱いになるのか。
「刑務所は本当に地獄よ。あんなところに行くぐらいなら死んだ方がマシと思えるぐらいにね」
愛はどこか遠い目をしながら語る。
それは体験者だからこそ言える重みがあった。
「15分経過。湯船から出て体を拭け」
入浴時間はとても短かった。
姉は温かい湯を名残惜しそうに出て体を拭き始める。
「胸周りをきちんと拭け。次は股の間」
情けない。体拭く順番も決められないとは。
姉はウンザリしながらも言われたとおり体を拭き終える。
「あとは私が引き継ぎます。4番。下着を履いて手を出せ」
ずっと黙っていた神崎刑務官がテキパキと姉に対して指示を出す。
姉はまるでロボットのように言われたとおりパンツを履き、手を差し出した。
ガチャリ
せっかく温まった腕に冷たい手錠が掛けられる。
早い。命じられてからここまで30秒も掛かっていない。
姉は決められた手順通りに動く自分の体を恨めしく思えた。
これでは躾けられたペットと変わらない。
「またね」
愛が手を降る。
横にいた杉浦刑務官が急いで注意するが、まるで相手は気にしない
それもそのはず。相手は全裸だというのに杉浦の声に貼りはない。
どこか腰が引けていた。
姉は愛に一礼をし廊下に出る。
すると神崎刑務官はいつもに増して真面目な声を出した。
「相手にしないほうがいいわよ」
「?」
姉が首を傾げる。
「2番のことよ。あの女性はカタギのあなたが近づいていい人物じゃないわ。いずれ社会に復帰したいと思うなら二度と関わらないほうがいい」
姉は返事をしなかった。
確かに危険な人物であることは感じ取っていた。
今思えば杉浦が愛を全裸で連れ出したのも恐怖の現れだったのかもしれない。
(それでも……)
愛が有益な情報や力を持っているのも間違いなかった。
この戦いは長期戦になる。得るものがあるなら胡散臭いジャーナリストだろうか犯罪者だろうが全て利用する覚悟だった
この拘置所は結構近代的な建物なのに、ところところ妙に前時代的な遺物が残っていた。
もし見学に来ていて、これらを見せられたら『なぜこんな古いものを使っているの』と質問したいところだが、今の姉の立場ではそれも出来るはずがない。
「入りなさい」
言われた通りにパンツ1枚の姉と全裸の女性が中に入る。
脱衣場は明るく、最初から電気が点けられた。
入浴は2人一組で行われるのが定例であることを考えても、すでに何組も終えていたことを窺わせた。
神崎刑務官が笛を杉浦に渡す。
「今日はあなたがやりなさい」
「はい。まかせてください」
先程の失態を帳消しにしようと言わんばかりに杉浦は張り切った声を出した。
(うえ、最悪)
あのクソ女に命令されながら風呂に入る。
姉は考えただけでうんざりした。
ジロジロと裸を見られつつ、あれこれ指図されるのだから溜まったものじゃなかった。
「4番。下着を降ろしなさい!」
さっそく偉そうに指示してくる。
姉は不満そうな顔をしながら野暮ったい支給品のおばさんパンツを脱いた。
すると隣りに居た全裸の女性がジロジロと姉の薄い陰毛に見て、含みのある笑みを浮かべた。
「ひっ」
姉はさっと手で股間を隠す。
殆どむき出しの割れ目を見るたびに自分の立場を思い出させる。
もちろん人に見せるのも辛かったからだ。
「そんじゃ身体検査でもやりますか」
杉浦刑務官がどこか気持ち悪い笑顔をしながら言った。
それを聞いた姉は咄嗟に口を挟む。
「は? さっきやったば……いえ、何でもありません」
黙り込んだ姉の拳がギュと握りしめられる。
杉浦は数いる刑務官の中でも最悪の部類に入った。
反論は一切許さず、常に自分勝手。
どんな正統な反論も受け入れられるとは思えなかった。
姉ともう一人の女性が横一列に並んだ。
(なんか……これ)
入浴前の身体検査もたまにあるが、今日はやたら惨めに感じた。
いつもなら年取ったおばさんと並ぶため、そこまで相手のことを意識しない。
だかしかし、今回はあまりに比較物が悪すぎた。
すぐ真横で全裸を晒している女性は嫌味を感じさせない大きな目が印象的だった。
ショートボブの髪もよく似合っている。
そんな美女がD以上はあるであろう乳房を堂々と晒していた。
ただ大きいだけならそこまで気にしない。この女性の乳房はまるで重力に逆らっているかのように垂れる事なく乳首が正面を向いていた。
大きく垂れないバスト。
同じ女性として劣等感を感じないわけがなかった
あえてこの女性の欠点を上げるとすれば無尽蔵に生えた濃い陰毛ぐらい。
これでは勝負にならない
「手を上げて。後ろ向き。次は横」
そんな姉の気持ちも知らずに杉浦刑務官は時間を掛けて目の前にいる全裸の女性二人の体に視線を走らせる。
今日何度目かもわからない他人の視線が姉の股間に向けられる。
彼女の陰毛は申しわけ程度に生えているだけなので、女の割れ目はもちろん隠れていない。
一見すると子供のような陰裂だがよくみるとやはりそうではない。
高さもあり谷間も深い。その淫らな唇もピタリと閉じているがやはり子供のものではない。
女性なら誰もが疑問に思うだろう。なぜこの子は陰毛を剃っているのかと。
「ふふっ」
そんなみっともない姿を杉浦が遠慮なくまじまじと見る。
姉の表情がさらに固くなった。
そしてゆっくりと背後に回る。
「合格。入ってよし」
なんでわざわざ後ろで言うんだろうと思う暇もなく『パン』と軽い音が1回響いた。
「ひゃわ」
姉な体が飛び跳ねるようにピクリと反応した
まるで肩を叩くかのように杉浦が姉の生尻を軽く叩いたのだ
力も何も入っていない暴力行為とは程遠いものだっだか、生まれて初めての感覚に姉の目が泳いだ。
最初、何をされたのかすら理解できなかった。
だが、お尻に残る気持ち悪い他人の手のひらの感触がじわじわと広がっていくと否応無しに自覚する。
頭にカッと血が登った
検査のために触るなら我慢もする。
しかし今回のは明らかに遊び。相手を人してみていないからこそできる行為。
姉の心に羞恥とは別の感情が生まれる
それはここに来るまでは考えもしなかった人間の本能とも言える気持ち
「張り倒したい」
今すぐ、そのすかした顔にビンタをすれば、どんなに気持ちいいか思った。
もちろん、そんなことをやれば全てが終わることはわかっている。
それでもやりたい感情が押さえつけられない。
一ヶ月も黙って言うこと聞き、裸を晒し続けた鬱憤が爆発しそうになった。
『やめておきなさい』
その時、真横から声がした。
平然な顔で全裸を晒している隣の女性がボソリといった。
顔に出ていたのか。それとも知らず知らずのうちに口に出していたのか。
「なにしているの。早く浴室に入って体洗いをしなさい!!」
大声とともにやかましい笛の音が響く。
まだ怒りが収まらない姉はあまり似合わない反抗的な顔つきで杉浦を睨む。
だがそれ以上は何もせず、黙って浴室の透明なガラス扉を開ける。
浴室の中は広くて明るい。二坪ぐらいある浴槽には豊富な湯が貼っていた。
浴室に入るともう一人の女性が扉を閉める。
そしてそっと近づいてきた。
「はじめまして。榊原愛よ。仲良くしましょう」
あまりにはっきりとした声に驚いた姉は咄嗟に出入り口を見る。
ここは私語厳禁。バレたら怒られるのは目に見えていたからだ
しかし刑務官たちはまったく気が付かず二人で何やら会話していた。
愛と名乗る女性は短めの髪をさっとかき上げて一番近くのシャワーの蛇口をひねる。
「このぐらいの声の大きさなら意外と聞こえないものよ」
愛は再び姉の薄い陰毛をじっと見ながら話を続ける。
「その様子ならここに来てから一ヶ月ってところかしら。私はもう半年になるわ。ってこれは言わなくてもわかるよね」
愛は自分の下半身を指差す。
そこには手入れもせず無尽蔵にはえ揃った濃い陰毛があった。
「ええ、」
姉は体を洗いながら自身の情けない陰毛を見て当時の怒りがこみ上げてきた。
こういう思いをさせるのが真の目的だとわかっているが、それでも感情が抑えきれない。
「まったく。カミソリを貸してくれれば自分たちで手入れするのにね。融通がきかないにもほどがあるわ」
愛が真横で愚痴っぽい話し方をした。
この方針にはウンザリしているのは同じのようだった。
「保安のためか何か知らないけどこんなの許されるわけ無いわ……」
姉が恨みをこもった声を出す。
そう。彼女の陰毛が蹂躙されたのは留置所からこの特別拘置所に移送された当日。
そこで姉は予想もつかないような目にあった。
むろん、知識として拘置所が厳しいのはわかっていた。
留置所のように◯◯さんとは呼んでくれないだろうし、身体検査の際もバスローブが貰えず、パンツ1枚で受けなくてはならないことも覚悟していた。
だが、現実は姉の想像を遥かに超えたものだった。
まず最初につれてこられた身体検査室で姉は生まれて初めて人に命じられて全裸になる屈辱を味わった。
悔しさのあまり、全裸のまま怒りをあらわにしたが、検査員はなにも動じることなく決められた入監手続きを進めるだけだった。
結局その日は姉にとって生涯忘れられない数々の『初めて』を味わった日となった。
すべての手続きが終わると、姉は名実ともに1人の囚人になりたてた。
昨日までの彼女はもういない。ここにいるのは女体を管理された哀れな女。
それは初めて味わったガラス棒検査のおぞましい感触と失われた陰毛が物語っていた。
その時になって姉はようやく今の立場を理解した。
警察は冤罪の可能性なんてまるで考えていない。
だからこんなことをする場所に入れたのだと。
「ぴー、洗い方やめ。直立姿勢!!」
突然、笛の音がなり、指示が飛ぶ。
はっと我に帰った姉は急いで体を流し、出入り口の前で直立不動のポーズを取った。
「2番も早くしなさい」
「はーい」
愛はいかにもやる気がないような動きで真横に並んだ。
実際にやる気なんて起こるはずがなかった。
これになんの意味があるのかまるでわからないからだ。
なぜ体を洗ったあとに必ず直立不動の姿勢をし、裸を見せないといけないのか。
「湯船に入れ!」
ようやく二人はお湯がたっぷり入った湯船に浸かることが出来た。
幸いお湯は綺麗で垢もろくに浮いでいなかった。
「はぁー」
姉は何日ぶりかで至福の感情を堪能していた
温かいお湯に首まで浸かると頭の中からモヤモヤが晴れていくのを感じた。
先程までの怒りも一緒に消えていく。
「いい湯ね」
愛が近づいてくる。どうやら話をしたいようだ
姉にとってもそれは願ったり叶ったりだった。
ずっと独房でひとりぼっちだったため、人との会話に飢えていたのかもしれない。
「えっと愛さんはなんでここに?」
どう見てもこんなことに来る女性には見えなかった。
化粧禁止にもかかわらず顔にはシミ一つない。外で合えばモデルが何かに思うだろう。
「ここに来た理由? それは言わないでおくわ。嫌われたくありませんしね。でも他のことならなんでも教えてあげる。私はここに来るのは2回目だから大抵のことはわかるわよ」
「2回もこんなところに……」
姉は目を大きく開き驚きの視線で愛と名乗る女性を見た。
やはり人は見た目とは違う。こんな感じのいい女性でも薬関係の犯罪常習者なのだから。
「ふふっ。こんなところといいますけどここも悪いところじゃないわ。刑務所に比べれば天国のようなものですし」
姉はドキリとした。このままではいずれ有罪になり刑務所に行くはめになるからだ。
現状ですらこんな扱いなのに刑務所となればどんなに酷い扱いになるのか。
「刑務所は本当に地獄よ。あんなところに行くぐらいなら死んだ方がマシと思えるぐらいにね」
愛はどこか遠い目をしながら語る。
それは体験者だからこそ言える重みがあった。
「15分経過。湯船から出て体を拭け」
入浴時間はとても短かった。
姉は温かい湯を名残惜しそうに出て体を拭き始める。
「胸周りをきちんと拭け。次は股の間」
情けない。体拭く順番も決められないとは。
姉はウンザリしながらも言われたとおり体を拭き終える。
「あとは私が引き継ぎます。4番。下着を履いて手を出せ」
ずっと黙っていた神崎刑務官がテキパキと姉に対して指示を出す。
姉はまるでロボットのように言われたとおりパンツを履き、手を差し出した。
ガチャリ
せっかく温まった腕に冷たい手錠が掛けられる。
早い。命じられてからここまで30秒も掛かっていない。
姉は決められた手順通りに動く自分の体を恨めしく思えた。
これでは躾けられたペットと変わらない。
「またね」
愛が手を降る。
横にいた杉浦刑務官が急いで注意するが、まるで相手は気にしない
それもそのはず。相手は全裸だというのに杉浦の声に貼りはない。
どこか腰が引けていた。
姉は愛に一礼をし廊下に出る。
すると神崎刑務官はいつもに増して真面目な声を出した。
「相手にしないほうがいいわよ」
「?」
姉が首を傾げる。
「2番のことよ。あの女性はカタギのあなたが近づいていい人物じゃないわ。いずれ社会に復帰したいと思うなら二度と関わらないほうがいい」
姉は返事をしなかった。
確かに危険な人物であることは感じ取っていた。
今思えば杉浦が愛を全裸で連れ出したのも恐怖の現れだったのかもしれない。
(それでも……)
愛が有益な情報や力を持っているのも間違いなかった。
この戦いは長期戦になる。得るものがあるなら胡散臭いジャーナリストだろうか犯罪者だろうが全て利用する覚悟だった