数日後。
白い薄地の体操服、下は太股がむき出しのショートパンツを格好をした姉が手錠腰縄姿で拘置所の廊下を歩かされていた。
「止まれ」「足踏み始め」「進め」
掛け声とともに合流する人数が増えていく。見たことがない主婦っぽい女性。問題ばかり起こすオバサン。そして最後に5人目の愛が列に加わる。
手錠を掛けられ、猿まわしの猿のようにみっともなく紐で繋がれている女たちも今日はどこか明るい。
中年太りをしているオバサンも、若い大学生である姉も目的地である真正面の扉を見ていた。
先頭を歩く神崎刑務官が扉を開くと明るい日差しが廊下を照らした。
列の中央にいた姉は手錠と縄で縛られた手を目の前に置く。
眩しかった。ここに来る前はなんとも思わなかった太陽の光がなんとも神々しかった。
「列を乱さないように」
厳重な監視下のもと、扉をくぐるとそこには小さなグラウンドがあった。
さほど高くないコンクリート塀の向こうには車が走っている音も聞こえる。
後ろを振り向けばそこそこ新しい拘置所の建物。
そう。ここは敷地内とはいえ建物の中ではない。外なのだ。
5人の刑務官たちが1人1人拘束を解いた。ここで暴れたりすれば速攻で牢に逆戻りだ。
オバサンもおとなしく刑務官の言うことを聞いていた。
姉の手錠と腰縄が若い刑務官の手によって外される。
思わず手を伸ばし背伸びをすると刑務官はよかったねとニコリと笑う。
軽くお辞儀をした姉は決められた場所に行く。
「天突き体操、初め!!」
女たち5人が並ぶと刑務官の大声がこだまする
姉は腰を落とし「よいしょー」と掛け声とともに両手を広げてバンザイポーズで天に突き上げる。
再び腰を下ろし同じ動作を繰り返す。
最初はなんだこの体操はと思った。これが大昔から伝わる刑務所の運動だというから笑わせる。
とても知り合いには見せられない滑稽な運動なのは間違いないし、命じられたままやるのもプライドが許さないが牢の中でモンモンとしているよりはマシなのもまた事実だっだ。
決められた体操が終わり自由時間になった。
あるものは芝生に座り、あるものはどこか遠くを見るように暖かい日差しの空を見上げていた
そんな中で姉は全力疾走でグラウンドの端から端まで駆け抜けた。
「ふう。あーすっきりした」
インドアの彼女にとって本来は運動がさほど好きではない。
それでも日差しが当たる場所で自由に動けるのは何物にも変えられなかった。
「ぴー」
どなり声とともに笛の音がした。どうやらオバサン同士の喧嘩のようだ。
この時間は薬物関係の特殊拘置所だからこそ行われる特別処置なんだろうが当然トラブルも起こる。
刑務官たちは誰もがピリピリしていた。いや、一人の若い刑務官をのぞいで。
その刑務官が姉に近づき言う。
「良い天気よねー」
短めの髪型、人懐っこいやさしげな顔つき。
ここ来てからずっと目をかけてくれる喜美刑務官だった。
姉も最初はこの刑務官を警戒していた。
こんなところにいい人はいるわけがないと思っていたからだ。
だが、そうでないことに気がつくのも時間はかからなかった
思えば喜美刑務官は初対面の時から人に腰縄をつけ手錠を掛けるときも辿々しく不慣れさがあった。
全裸検査もあまり見ないようにするような気配りもあったし、そしてなによりも好感を持った理由は喜美にはガラス棒検査はおろか性器や肛門を見られたことがないのに気がついたことだった。
真面目な刑務官だと朝の定期検査ですら性器の中に指を入れ、肛門にガラス棒を突っ込んでくることを考えればありえないレベルの優しさであった。
姉が木のそばで座ると喜美刑務官がそっと手の中のものを渡してくれた。
飴玉だ。姉は「ありがとう」と言って速攻で口の中に放り込む。
二人が仲良くなるにつれてこういう違法行為はちょいちょいあった。
もちろん表立ってベタベタはしない。話だっていつも短時間だ。
年齢が近い女性が他にいないからかもしれないが、それでもお互いにこの関係は良い気晴らしになっていた。
「……はぁ」
そんな喜美刑務官が大きなため息を付いた
「どうかしたのですか?」
「怖い上司に怒られちゃった。やる必要がないと言っただけであんなに怒ること無いじゃない。そりゃ私がやらなくても誰かがやるんだから変わってもらう行為に意味がないとは確かだけどさ」
いくら気が合うとはいえ、囚人に近い立場の姉にする会話ではなかった。
どう見ても喜美には他の刑務官みたいな厳格さは欠片もない。
初対面の時はもう少し真面目さがあったんだが、親しくなるにつれて地が出てきたようだ。
学生気分が抜けていないのが、ありありと感じられた。
「相性が悪い教師と当たると本当に大変だよね」
姉も自分が大学生であったことを思い出すかのように会話を続けた
しかしこの幸せな時間も長くは続かない。
所詮は気晴らし、気の緩みでしかないからだ
「またね」
少し雑談をした後に喜美は仕事に戻っていった。
再び1人になった姉は太陽の日差しに当たるため座り込んだ。
(本当にいい天気)
のんびりとくつろいているとスラッとした足が視界に入っていた。
足は細く長い。そのくせショートパンツから伸びる太ももははちきれんばかりの健康美。
こんなダサい服装でも着る女が良ければ様になる。
姉は感心しながら上を見上げる。そこには入浴の時に知り合った榊原愛がいた。
どうやら喜美刑務官が離れるのを待っていたようだ。
「あの新しく来た刑務官、可愛いわよね。学校を卒業したばかりだから当たり前だけど初々しくていいわ。それだけに冤罪の大学生をモノのように扱うのは辛いでしょう」
姉の体がピクリと動く。
まだ何も話していないのに愛は自分の事情を把握している
やはりと思った。愛の正体が根拠の薄い妄想から確信へと変わる。
「愛さんはどこまで知っているのですか」
「新聞報道で知ったぐらいですわよ」
白々しく答える愛。姉は嘘だと思った
なぜなら姉の事件はそこまで話題性のある事件ではないからだ。
馬鹿な大学生が薬物をやって逮捕された。ただそれだけ。冤罪という主張も地方欄の三面記事レベルにすぎない。
そんな事件の詳細を知っている人物となればおおよそ絞られる。
「何か知っているなら教え…うっ?」
姉が焦る気持ちを抑えきれずに迫る。
すると愛は座り込み、右の人差し指を伸ばして押すように姉の唇を抑えた。
しーーと内緒のポーズ。
「焦らないで。今は大人しくしてなさいと言ったでしょう。今やることは刑務官と喧嘩することでも新事実を探すことでもないわ。ただじっと待つことだけ。そう、2人でね」
唇を触っていた指が下へと滑べる。
顎から鎖骨。鎖骨から体操服で隠された胸の谷間をなぞり乳房の天辺へと滑らせるように触っていく。
「ひぃ!」
姉は咄嗟に立ち上がり距離を取る。
全身に寒気が走った。体操服の上から触られただけだと言うのに乳房の周りになんとも言えない指の感触が残った。
「あら、残念。そっちの趣味は無いのね。でも覚えておいたほうがいいわよ。女子刑務所ではこれを上手くやれない新人は毎日イジメぬかれますし」
愛から聞こえてくる刑務所の話は恐怖でしかなかった。
冤罪の可能性がある人物ですら毎日全裸にしてこんな目に合わせるのだ。罪が確定したらどんな目に合わされるかわかったものじゃない
「何か事件のことについて知ってるなら教えてください。このままでは私……」
近寄ってはいけない人物。刑務官の忠告の正しさを身にしみながらも姉は頼み込んだ。
もう他に頼れるものはない一心で。
「そのことはまた今度話しましょう。それより今はこれからやられることを覚悟したほうがいいわよ」
愛はそう言うと監視をしている神崎刑務官に目をやった。
姉の脳裏に神崎と初めてあった時の悪夢が蘇る。
そうだった。あの日も運動の時間の後だった。
神崎は久しぶりに運動が出来て上機嫌だった女性たちを一斉に裸にし屈辱的な検査をしたのだ。
あの時の体験は今でも姉の心を苦しめていた。
刑務官以外の人にガラス棒検査をされているところを見られたのも初めてだったし、他人のガラス棒検査を見たのも初めてだったからだ。
わざわざ他の人たちに見せるような異常な検査。それはまるで緩んだ心を引き締めるかのような見せしめ要素が強い検査だった。
白い薄地の体操服、下は太股がむき出しのショートパンツを格好をした姉が手錠腰縄姿で拘置所の廊下を歩かされていた。
「止まれ」「足踏み始め」「進め」
掛け声とともに合流する人数が増えていく。見たことがない主婦っぽい女性。問題ばかり起こすオバサン。そして最後に5人目の愛が列に加わる。
手錠を掛けられ、猿まわしの猿のようにみっともなく紐で繋がれている女たちも今日はどこか明るい。
中年太りをしているオバサンも、若い大学生である姉も目的地である真正面の扉を見ていた。
先頭を歩く神崎刑務官が扉を開くと明るい日差しが廊下を照らした。
列の中央にいた姉は手錠と縄で縛られた手を目の前に置く。
眩しかった。ここに来る前はなんとも思わなかった太陽の光がなんとも神々しかった。
「列を乱さないように」
厳重な監視下のもと、扉をくぐるとそこには小さなグラウンドがあった。
さほど高くないコンクリート塀の向こうには車が走っている音も聞こえる。
後ろを振り向けばそこそこ新しい拘置所の建物。
そう。ここは敷地内とはいえ建物の中ではない。外なのだ。
5人の刑務官たちが1人1人拘束を解いた。ここで暴れたりすれば速攻で牢に逆戻りだ。
オバサンもおとなしく刑務官の言うことを聞いていた。
姉の手錠と腰縄が若い刑務官の手によって外される。
思わず手を伸ばし背伸びをすると刑務官はよかったねとニコリと笑う。
軽くお辞儀をした姉は決められた場所に行く。
「天突き体操、初め!!」
女たち5人が並ぶと刑務官の大声がこだまする
姉は腰を落とし「よいしょー」と掛け声とともに両手を広げてバンザイポーズで天に突き上げる。
再び腰を下ろし同じ動作を繰り返す。
最初はなんだこの体操はと思った。これが大昔から伝わる刑務所の運動だというから笑わせる。
とても知り合いには見せられない滑稽な運動なのは間違いないし、命じられたままやるのもプライドが許さないが牢の中でモンモンとしているよりはマシなのもまた事実だっだ。
決められた体操が終わり自由時間になった。
あるものは芝生に座り、あるものはどこか遠くを見るように暖かい日差しの空を見上げていた
そんな中で姉は全力疾走でグラウンドの端から端まで駆け抜けた。
「ふう。あーすっきりした」
インドアの彼女にとって本来は運動がさほど好きではない。
それでも日差しが当たる場所で自由に動けるのは何物にも変えられなかった。
「ぴー」
どなり声とともに笛の音がした。どうやらオバサン同士の喧嘩のようだ。
この時間は薬物関係の特殊拘置所だからこそ行われる特別処置なんだろうが当然トラブルも起こる。
刑務官たちは誰もがピリピリしていた。いや、一人の若い刑務官をのぞいで。
その刑務官が姉に近づき言う。
「良い天気よねー」
短めの髪型、人懐っこいやさしげな顔つき。
ここ来てからずっと目をかけてくれる喜美刑務官だった。
姉も最初はこの刑務官を警戒していた。
こんなところにいい人はいるわけがないと思っていたからだ。
だが、そうでないことに気がつくのも時間はかからなかった
思えば喜美刑務官は初対面の時から人に腰縄をつけ手錠を掛けるときも辿々しく不慣れさがあった。
全裸検査もあまり見ないようにするような気配りもあったし、そしてなによりも好感を持った理由は喜美にはガラス棒検査はおろか性器や肛門を見られたことがないのに気がついたことだった。
真面目な刑務官だと朝の定期検査ですら性器の中に指を入れ、肛門にガラス棒を突っ込んでくることを考えればありえないレベルの優しさであった。
姉が木のそばで座ると喜美刑務官がそっと手の中のものを渡してくれた。
飴玉だ。姉は「ありがとう」と言って速攻で口の中に放り込む。
二人が仲良くなるにつれてこういう違法行為はちょいちょいあった。
もちろん表立ってベタベタはしない。話だっていつも短時間だ。
年齢が近い女性が他にいないからかもしれないが、それでもお互いにこの関係は良い気晴らしになっていた。
「……はぁ」
そんな喜美刑務官が大きなため息を付いた
「どうかしたのですか?」
「怖い上司に怒られちゃった。やる必要がないと言っただけであんなに怒ること無いじゃない。そりゃ私がやらなくても誰かがやるんだから変わってもらう行為に意味がないとは確かだけどさ」
いくら気が合うとはいえ、囚人に近い立場の姉にする会話ではなかった。
どう見ても喜美には他の刑務官みたいな厳格さは欠片もない。
初対面の時はもう少し真面目さがあったんだが、親しくなるにつれて地が出てきたようだ。
学生気分が抜けていないのが、ありありと感じられた。
「相性が悪い教師と当たると本当に大変だよね」
姉も自分が大学生であったことを思い出すかのように会話を続けた
しかしこの幸せな時間も長くは続かない。
所詮は気晴らし、気の緩みでしかないからだ
「またね」
少し雑談をした後に喜美は仕事に戻っていった。
再び1人になった姉は太陽の日差しに当たるため座り込んだ。
(本当にいい天気)
のんびりとくつろいているとスラッとした足が視界に入っていた。
足は細く長い。そのくせショートパンツから伸びる太ももははちきれんばかりの健康美。
こんなダサい服装でも着る女が良ければ様になる。
姉は感心しながら上を見上げる。そこには入浴の時に知り合った榊原愛がいた。
どうやら喜美刑務官が離れるのを待っていたようだ。
「あの新しく来た刑務官、可愛いわよね。学校を卒業したばかりだから当たり前だけど初々しくていいわ。それだけに冤罪の大学生をモノのように扱うのは辛いでしょう」
姉の体がピクリと動く。
まだ何も話していないのに愛は自分の事情を把握している
やはりと思った。愛の正体が根拠の薄い妄想から確信へと変わる。
「愛さんはどこまで知っているのですか」
「新聞報道で知ったぐらいですわよ」
白々しく答える愛。姉は嘘だと思った
なぜなら姉の事件はそこまで話題性のある事件ではないからだ。
馬鹿な大学生が薬物をやって逮捕された。ただそれだけ。冤罪という主張も地方欄の三面記事レベルにすぎない。
そんな事件の詳細を知っている人物となればおおよそ絞られる。
「何か知っているなら教え…うっ?」
姉が焦る気持ちを抑えきれずに迫る。
すると愛は座り込み、右の人差し指を伸ばして押すように姉の唇を抑えた。
しーーと内緒のポーズ。
「焦らないで。今は大人しくしてなさいと言ったでしょう。今やることは刑務官と喧嘩することでも新事実を探すことでもないわ。ただじっと待つことだけ。そう、2人でね」
唇を触っていた指が下へと滑べる。
顎から鎖骨。鎖骨から体操服で隠された胸の谷間をなぞり乳房の天辺へと滑らせるように触っていく。
「ひぃ!」
姉は咄嗟に立ち上がり距離を取る。
全身に寒気が走った。体操服の上から触られただけだと言うのに乳房の周りになんとも言えない指の感触が残った。
「あら、残念。そっちの趣味は無いのね。でも覚えておいたほうがいいわよ。女子刑務所ではこれを上手くやれない新人は毎日イジメぬかれますし」
愛から聞こえてくる刑務所の話は恐怖でしかなかった。
冤罪の可能性がある人物ですら毎日全裸にしてこんな目に合わせるのだ。罪が確定したらどんな目に合わされるかわかったものじゃない
「何か事件のことについて知ってるなら教えてください。このままでは私……」
近寄ってはいけない人物。刑務官の忠告の正しさを身にしみながらも姉は頼み込んだ。
もう他に頼れるものはない一心で。
「そのことはまた今度話しましょう。それより今はこれからやられることを覚悟したほうがいいわよ」
愛はそう言うと監視をしている神崎刑務官に目をやった。
姉の脳裏に神崎と初めてあった時の悪夢が蘇る。
そうだった。あの日も運動の時間の後だった。
神崎は久しぶりに運動が出来て上機嫌だった女性たちを一斉に裸にし屈辱的な検査をしたのだ。
あの時の体験は今でも姉の心を苦しめていた。
刑務官以外の人にガラス棒検査をされているところを見られたのも初めてだったし、他人のガラス棒検査を見たのも初めてだったからだ。
わざわざ他の人たちに見せるような異常な検査。それはまるで緩んだ心を引き締めるかのような見せしめ要素が強い検査だった。