逮捕された姉 31話

31話 様々な友情


 もともと彼女は人付き合いは多い方ではなかった。
 それでも高校時代は友達と言える人も複数いたし、つるんでいれば楽しくもあったが、どこか退屈さとかったるさも感じていた。
 大学に行けばそういった面倒事から開放され静かに学べると思い進学したが大学も意外とコミュニケーションが必要なことが多かった。
 そんな時、同じ専門科目でサークルを作っている上原遥に出会った。
「さっきの発表を聞いていたけど頭いいんだね。よかったら私のサークルに入らない?」
 上原遥はショートカットの黒髪とくりっとした瞳が印象的な女性だった。
 どこか軽い感じがして勉学のため大学に来たというより青春を楽しんでいるタイプに見えた。
 その証拠に後ろには女性だけではなくチャラそうな男性の姿も複数いる。
 「宗教?」
 いつも通り彼女は相手を怒らせて追い払おうとしたが上原遥は笑いながら言う。
「ハハッ。違うよ。でも宗教なんかよりも新しい世界を見せてあげるよ」
 

「あ、」
 悪夢にうなされるかのように姉は目を覚ました。
 辺りは静まり返っている。眠い目を擦るとむき出しの便座が見えた
 そう。ここは2人部屋の牢の中。同室だった婦人もすでになく、やや広い部屋で1人布団を引いて寝ていた

(ったく、なんてあんな夢を)
 姉に首を降って嫌な顔を忘れようとする。
 彼女にとって上原遥は思い出したくない人物だった。
 確かにサークルは楽しかったし上原遥ともうまくやっていた。
 だが遥は警察の目が向けられると即座に距離を取った。
 困っている友を助けるという意思を見せないその姿は裏切りにしか思えない。
 もう二度と会いたくないしこんな姿を見せたくない一番の相手になっていた。

 突然「こほん」と入り口から咳払いの声がした。
 いつ来たのか入り口の扉が開けられており、そこには喜美刑務官が立っていた。 
 時間を見ると既に起床時間を過ぎている。
 どうやら慣れない同室のプレッシャーから開放されたせいですっかり気が緩んていたようだ
「す、すみませんでした」
 姉はテキパキと布団と片付けながら心の中でホッと安堵の息を吐いた。
 今日の担当はこれまでの良くしてくれた喜美刑務官。
 寝坊ぐらいなら見逃してくれると期待するが、喜美にはいつもの笑顔はない。
 それどころかあまり見たことがない硬い表情でボソリと言った。

「土下座」
 今度は姉の表情が固まる。
 土下座挨拶の作法は厳密に決められたものではなく刑務官の判断に任せられていた。
 そのおかげで優しい喜美刑務官から求められた記憶は殆どない。
 それだけになぜ?の疑問が浮かんだ。

「4番、早くしなさい」
 どうやら冗談ではないようだ。
 姉は無言のまま正座をし、そのまま額を畳に擦りつけた。
「おはようございます。寝坊してすみませんでした」
 いくら年齢が近くて仲が良い刑務官相手とはいえ、こうして土下座をすると否応なしに立場の違いが身にしみた。
 そんな思いを補完するかのように喜美が再び口を開く。
「尻」
 思わず彼女は顔を上げた。なんとも言えない気まずさが2人の間に漂う。
 検査姿勢の中でも尻は一番辛かった。
 下半身裸の姿で四つん這いになり尻を持ち上げる。 
 刑務官に性器と肛門を捧げるこのポーズは精神的に堪えた。
 しかも最も恐れるガラス棒検査が行われる可能性が高い姿勢なのも恐怖に拍車をかけた

「はい……」
 いくら嫌と言っても逆らえるわけじゃない
 ズボンとパンツを脱いた姉は四つん這いになり、喜美に向かってむき出しのお尻をくいと持ち上げる。
 その瞬間、カッと体が熱くなった。
 
 喜美は差し出された真っ白で瑞々しいお尻を見ながらビニール製の手袋を嵌める
 そして姉の性器に2本の指をそっと置いた。
「ひっ」
 やめてくださいの思いも虚しく喜美の指は外側に向かって力を入れられた。
 裂け目が開いて中のピンク色をした粘膜が露出する。
 中は乾いており性的興奮の跡はなかった

 喜美はペンライトで中を照らしながら匂いを嗅ぐ。
「自意行為の痕跡なし」
 姉は美貌を真っ赤にして屈辱の検査に耐えている。
 それと同時に一つの疑問が頭に浮かぶ。
(なぜこんなに馴れているんだろう……)
 喜美は下半身の検査はあまりやったことないしやる気もないとよく愚痴を漏らしていた。
 実際にやられたこともなかったのでその言葉に嘘はないはず。
 なのに今の喜美刑務官はスムーズに検査を行っている
 それはまるで神崎刑務官のような人を物として扱う機敏な動作だった

 性器内部の確認が終わると手が離される。背後からガサゴソと音がした。
 カチンという硬いものが何かに当たった物質まで聞こえる

 「ねぇ。やめてよ。お願い……それだけは嫌なの」
  私語禁止にも関わらず姉は許しをこいた。
  喜美刑務官はそんな違反を怒るわけでもなく、ただ静かに尻を開き肛門をむき出しにする。
 そしてガラス棒を排泄の口に置く。
 するとまるで肛門が怯えるかのようにすぼまった

 そんな女の本能的反射を見た喜美が小さな声で呟く
 「ごめんね」
 (え?)と思う間もなく姉の視界に火花がちった。体中の皮膚から鳥肌が立ち、強烈な吐き気が襲った。
 それはガラス棒が無慈悲にも肛門の入り口をこじ開け、奥まで入った証だった


 10分後
「全収容者のガラス棒検査を実施しましたが異常ありませんでした」
 刑務官室に戻った喜美は責任者である神崎刑務官に報告をした
「よろしい。2番(姉)と4番(愛)の検査の詳細を報告しなさい」
 喜美にとって検査の抵抗感がある2人をピンポイントで指名する神崎の目は確かだった。
 憎たらしいと思いながらも喜美はありのままを報告する

「4番は性器検査後に肛門のガラス棒検査を実施。若干の抵抗があったため最後に全裸体を強制し土下座をさせました。2番は性器のガラス検査後に排便を実施。便の処理後に全裸土下座を指示しお礼を言わせました。4番、2番ともに問題ありません」

「よろしい。喜美もようやく刑務官らしくなってきたわね。教えたかいがあったわ。これからは真面目に仕事をやるように」
「はい」
 喜美は感情を殺して返事をしたつもりだったが不満たらたらなのは駄々漏れであった。

「あと15日から行われる矯正展の準備のため今日から飾り付け等の関係者が入ります。余計な接触を避けるため被疑者を外に出さないようにしてください」
「わかりました」
 矯正展とは年に1回行われる一般向けの広報活動。
 拘置所の必要性と仕事内容の理解を広めるために施設を一般に開放する。
 刑務官たちから見ると施設の説明や見学者の対応に追われる負担が大きいイベントだった