逮捕された姉 32話

32話 ノート


「そういえば来月に例の拘置所で矯正展をやるらしいわね」
「例の拘置所って久美子が収監されているあの?」
「それじゃ見に行こうよ。あんな痛くもない腹を探られて迷惑したんだから一言文句言いたいし牢の中に入っているあいつも見たい」
「流石に会えないとは思うけどどんな目にあってるかぐらいはわかるかもね。これを見て」
「なになに。各種グッズ販売に臭い飯の食事体験?つまらなそう。これがどうしたって」
「その下よ。下」
 暇を持て余した4人の女子の視線がパンフレットに注目する。
 そこには刑務官の仕事見学と書かれていた

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 大学生の友人が逆恨みをしていることも知らずに久美子こと姉は独房でノートを広げていた。
 ここの生活は規則正しい。起床、点呼、食事、運動、就寝も細かく時間で決められている
 入浴やトイレも監視の目があってプライベートな全く無い。
 それでもやってもいいことはいくつかあった。
 そのうちの一つがノートの使用。ノートを貰った姉は今日の検査担当者の名前から肛門検査の有無まで毎日ノートに書き込んでいた。
「ふう」
 姉は大きく息を吐きながらノートを最初から読み直す。
 別にこれで復讐しようなんて気はないし、刑務官たちに謝罪を求めるつもりもなかった。
 そもそも、ここの刑務官たちは彼女の目から見ても真面目だった
 確かに機嫌が悪い時は八つ当たりをしたり、私怨を混ぜて接してくる人物もいるが、プロらしい仕事ぶりに関心することのほうが多い。
 だからこそ、正確に残さなくてはならない。ここでの生活の記録は開放後の運動にきっと役に立つものなのだから
「○日。喜美刑務官。下半身露出指示。肛門検査、ガラス棒あり」
 姉は初めて喜美の名をノートに書いた。あの時は取り乱してしまい半泣きながら許しをこいた。
 それでも喜美はガラス棒を肛門に入れた。あれはあまりに強烈な体験だった。
 これまでの幾度と無くガラス棒検査を受けていたが、あれほどの衝撃は初めてやられた時以来かもしれない。
 今思い出しても恐怖に顔が歪みガタガタと震えだす
 いくらやめてと心の中で懇請し哀願しても喜美の手は止まらない。
 友人と思っていた人に不浄の場所を晒し冷たいガラス棒を押しこまれる。
 ガラス棒は肛門粘膜を擦り付けるように進みそのたびに体がビクビクと痙攣した。
 あの酷い感覚はこの世のものとも思えない嫌悪の爆弾のようだった。

 姉はここの規則を呪った。喜美にこんなことをさせたのは規則のためなのがわかりきっているからだ
 いくら薬物犯罪者のための拘置所とはいえここの規則は酷いものばかりだった。
 特にガラス棒検査に至っては人権侵害も捗捗しい。

 そんなことを考えているといきなり扉が開き30代後半ぐらいの女性刑務官が
「4番、入浴の時間だ。パンツ一枚なって移動準備」
 、と言った
「わかりました」
 初めて見る刑務官だったが姉は決められた通りに土下座をし指示のお礼を示した
 土下座は何度やっても屈辱的だったし当然のように怒りも感じるがそれを顔に出すことはもちろん許されない。
 姉に出来ることは初対面だろうか常に土下座をし自分の立場が下の下であることを受け入れていることを示すのみだった。

 パンツ一枚の姿になると手錠だけ掛けられて廊下に連れて行かれる。
 今回は腰縄はなく手錠のみなので普段よりも気持ちは楽なはずであったが、廊下という空間での半裸姿はやはり惨めさが先に出た。
 
 1歩ずつ耐えながら歩いていると少し離れたところからガヤガヤと聞きなれない音を聞こえた
 姉は思わず手で胸を隠す。
 普段ならこの時点で速攻で怒られるはずだが、今日の刑務官は何も言わない。
 姉は手を上げて発言の許可を貰った後に「何か工事でもやっているのですか」と聞いた。
「あれは矯正展の舞台を作るための工事の音ね。私も矯正展の準備ためにここに呼ばれたのよ」
「矯正展……」
 名は聞いたことはあった。国民に監獄というものがどのようなものが知らせるためのイベント。
 つまりそれって……と嫌な予感が一瞬頭をかけめぐる。
「あ、別に心配しなくてもいいわよ。4番のような犯罪歴がない未決を市民の目に晒すような真似はしないからね。ここは犯罪者しかいない刑務所じゃないだからさ」
 そう聞いて姉はホッとした顔を見せた。
 いくら遠い関係とは言え、こんな姿を知り合いたちに見せたくはなかったからだ
「ここね。入って」
 刑務官は入浴室の扉をあける。
 中には誰もいない。運が良ければまた愛さんに会えるのではと思ったが今日は無人のようだった。
 「じゃ身体検査するからそこで立って」
 手錠を外してもらうと、いつものが始まった。
 外部からの臨時刑務官とは言え、基本的なことは変わらないようだ。
 姉はパンツを脱いだ後に両手を広げて体全体を晒した。
 これで終わりならまだマシであったが。
「OK。いいわよ。じゃ最後にお尻ね。四つん這いになってお尻開いて」
 やはり尻穴チェックがあるようだ。見たところ手ぶらなのでガラス棒検査はなさそうだが初対面の人物に肛門を見せるのは情けなくて泣きたくなる。
「はい」
 もちろんそんな泣き言を言っても何も好転しないのは十分すぎるほどわかっている。
 姉は顔から火が出る思いで四つん這いにり肛門をむき出しにすると、すぐに視線を感じた。
「もういいわ。しかし未決女のモノなんて何年ぶりかに見たけど流石に綺麗なものね。色は健康的でいいし形も崩れていない」
「………」
 見られたくない肛門を評価されて姉は思わずムッとした
「嫌なことを強要する刑務官たちを恨みたい気分はわかるけどそんな顔しなさんなって。挨拶やガラス棒検査も慣れてしまえばそんなに苦しくなくなるからね」
 刑務官は笑いながら姉の違反である反抗的な態度を見逃した。
 それどころかもっと言ってもいい雰囲気すら漂わせていた。
「土下座やガラス棒検査をやったこともやられたこともないあなたになにがわかるのですか」
 姉は刑務官の好意に甘えて言いたかったことを口にした。
 このことは優しい言葉を掛けてくれた喜美刑務官にも言いたかったこと。
 ここまで言っても刑務官は怒らない。それどころを諭すように言う。
「わかるさ。刑務官だって一度は同じ目に合う人が多いからね」
「どういうことですか」
「どういうことだろうねー」
 そう言って刑務官は黙り込み何処か遠い目をする。
 脱衣場には遠くから聞こえてくる矯正展の工事の音だけが響いた。
媚肉の監獄

1,480円

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