放課後。美術室
「すみません。遅くなりました」
予定より10分ほど遅れた隆は謝りながら美術室へと入った。
部室に入ったなり、女部長から「遅い」の怒鳴り声。
1年の隆にとって3年生の言葉。部長の言葉は絶対。
隆は素直に頭を下げ、決められた席についた。
女部長の白鳥は席についた隆を見て、ニヤリと厭らしい笑い顔をした。
隆は白鳥部長が苦手だった。
虐められているわけではないが、ネチネチと嫌味を言って来る。
白鳥部長に嫌われるようなことはしていないのに相手は嫌っている。
理由はわかっていた。
白鳥部長は隆本人が嫌いなのではなく、隆の姉である佳子が嫌いなのだ。
隆が姉に『同じクラスの白鳥さんってどんな人?』と聞いたらそれはもうボロクソに話してくれた。
あの優しい姉が白鳥部長をここまで嫌っているんだから、2人の関係は憎しみさえも超えた最悪の状態なのは、第三者である弟にも容易に予想できた。
「ようやく部員が全て揃ったわね。それでは本日の議題である次回のヌードモデル選定を始めます。これまでのモデルは1年生が多かったですが、今回は3年生であるこの生徒をヌードモデルに推薦したいと思います。皆さんの意見も聞かせてください」
白鳥部長は黒板に次のモデル候補の名前と写真を貼り付ける。
ここで全ての部員たちの意見を聞き、正式に決定するのがいつもの流れだった。
写真を見た部員たちは一斉に感想を言い合う。
「ほほう、可愛いいというより美人系だな。肩までかかったストレートの髪がすげー綺麗」
「端整で聡明そうな顔立ちの女やね。こんなヌードモデルとはまるで縁がなさそうな子を裸にしたら楽しそうだ」
「3年2組ってことは部長のクラスメート?。3年生が候補に上がるのは今回が初めてだよね。いつもは先輩と呼ばないといけない人の裸を書くのも面白そう」
部員からは概ね好評な意見が飛ぶ。
隆は黒板に書かれた名前を見て思わず声を上げた。
「ちょっと待って下さい。なぜぼくの姉が候補になっているのですか」
黒板に書かれているのは彼の姉である佳子の名。
その横には生徒手帳で使われている写真を引き伸ばしたと思われる佳子の写真まで貼られていた。
「姉? そんなこと言われてもね。隆くん、芸術に私情を挟まれては困ります」
白鳥部長は隆の抗議を全く気にせず黒板に姉の情報を書き続けた。
部にとってモデルの選考は重要な選択である。
なにしろモデルの良さによって絵の出来が変わると言ってもいい。
学校側もそれはよくわかっており候補者の個人情報は全て部長に伝えられるシステムになっていた。
白鳥部長は学校側から提供された佳子のスリーサイズを黒板に書き続ける。
バスト83、ウエスト63、ヒップ86 、身長160、体重45キロ。
普通なら他人に知られることはない姉の身体的な個人情報が次々と書かれていく。
数字を見るたぴに部員からは「顔だけではなくスタイルもいいな」「これならヌードモデルにピッタリだよ」の声が上がった。
「僕は反対です」
隆は知りたくもない、知られたくもない姉の個人情報が黒板に書かれるのを我慢できずに、少し大きな声で反対の意志を表明した。
「理由はなんですか。反対するだけの根拠はあるんでしょうね」
白鳥部長は予想通りの行動と言わんばかりに涼しい顔で聞き返す。
「それは……」
理由と言われて隆は言葉に詰まる。
彼は、この会議で異議を唱えたことはない。
例え、同じクラスの女子が選ばれようとしていても反対はしなかった。
それどころかクラスメートの裸が見られると内心喜びさえした。
今更どの面を下げて、反対意見を言うのだろうか。
「どうせ自分の姉だから反対と言うんでしょう。でもね。君だってもう何人の生徒のヌードを書いてきたでしょう。いざ身内がその順番に回ってきたら嫌なんて筋が通らないのは分かるでしょう」
部長はグウも言わせない正論を言う。
「で、でも」
「それでは採決します。次のヌードモデルに3年2組、福留佳子を選ぶことに賛成の人は手を上げてください」
あっさりの決議を取る部長。
「それじゃ俺は賛成。こんな綺麗な先輩の裸を書けるチャンスを逃す手はないよ」
「私も賛成かな。今まで3年だけ選ばれなかったのは不公平だと思っていたし」
「俺は佳子のクラスメートだけど別に友達というわけではないので賛成するわ。顔見知りの裸を書くいうのはなかなかおもしろそうだしな」
次々と手を上げる部員たち。
先輩を裸にし、スケッチする行為に抵抗感がある5人の男子部員は手を上げなかったが、
女子部員は一人も欠けること無く全員が賛成に回った。
もちろん、隆は手を上げなかった。
姉は美人だが男子と付き合った経験はないはず。
家族の隆ですら姉の裸を見たのは遥か昔の幼稚園時代の記憶だけだ。
そんな姉の裸がこんなところで晒される。
隆はなんとしても防ぎたかったが、これ以上どうしようもなかった。
―――――――――「姉の裸を見せてあげるね」
さっきから気になっていた白鳥部長の一言。
今になって隆は確信した。
これは僕ら兄弟に対する嫌がらせだ。
この部は白鳥部長と同じクラスの男子生徒が多い。
それはつまり姉と同じクラスメートも多いということ。
姉の裸をクラスの男子に見せ、晒し者にする気なんだ。
そして弟にも姉の裸を見せて苦しませる。
姉がここまで部長に恨まれていることに、
隆は驚きを隠しきれなかった。
「すみません。遅くなりました」
予定より10分ほど遅れた隆は謝りながら美術室へと入った。
部室に入ったなり、女部長から「遅い」の怒鳴り声。
1年の隆にとって3年生の言葉。部長の言葉は絶対。
隆は素直に頭を下げ、決められた席についた。
女部長の白鳥は席についた隆を見て、ニヤリと厭らしい笑い顔をした。
隆は白鳥部長が苦手だった。
虐められているわけではないが、ネチネチと嫌味を言って来る。
白鳥部長に嫌われるようなことはしていないのに相手は嫌っている。
理由はわかっていた。
白鳥部長は隆本人が嫌いなのではなく、隆の姉である佳子が嫌いなのだ。
隆が姉に『同じクラスの白鳥さんってどんな人?』と聞いたらそれはもうボロクソに話してくれた。
あの優しい姉が白鳥部長をここまで嫌っているんだから、2人の関係は憎しみさえも超えた最悪の状態なのは、第三者である弟にも容易に予想できた。
「ようやく部員が全て揃ったわね。それでは本日の議題である次回のヌードモデル選定を始めます。これまでのモデルは1年生が多かったですが、今回は3年生であるこの生徒をヌードモデルに推薦したいと思います。皆さんの意見も聞かせてください」
白鳥部長は黒板に次のモデル候補の名前と写真を貼り付ける。
ここで全ての部員たちの意見を聞き、正式に決定するのがいつもの流れだった。
写真を見た部員たちは一斉に感想を言い合う。
「ほほう、可愛いいというより美人系だな。肩までかかったストレートの髪がすげー綺麗」
「端整で聡明そうな顔立ちの女やね。こんなヌードモデルとはまるで縁がなさそうな子を裸にしたら楽しそうだ」
「3年2組ってことは部長のクラスメート?。3年生が候補に上がるのは今回が初めてだよね。いつもは先輩と呼ばないといけない人の裸を書くのも面白そう」
部員からは概ね好評な意見が飛ぶ。
隆は黒板に書かれた名前を見て思わず声を上げた。
「ちょっと待って下さい。なぜぼくの姉が候補になっているのですか」
黒板に書かれているのは彼の姉である佳子の名。
その横には生徒手帳で使われている写真を引き伸ばしたと思われる佳子の写真まで貼られていた。
「姉? そんなこと言われてもね。隆くん、芸術に私情を挟まれては困ります」
白鳥部長は隆の抗議を全く気にせず黒板に姉の情報を書き続けた。
部にとってモデルの選考は重要な選択である。
なにしろモデルの良さによって絵の出来が変わると言ってもいい。
学校側もそれはよくわかっており候補者の個人情報は全て部長に伝えられるシステムになっていた。
白鳥部長は学校側から提供された佳子のスリーサイズを黒板に書き続ける。
バスト83、ウエスト63、ヒップ86 、身長160、体重45キロ。
普通なら他人に知られることはない姉の身体的な個人情報が次々と書かれていく。
数字を見るたぴに部員からは「顔だけではなくスタイルもいいな」「これならヌードモデルにピッタリだよ」の声が上がった。
「僕は反対です」
隆は知りたくもない、知られたくもない姉の個人情報が黒板に書かれるのを我慢できずに、少し大きな声で反対の意志を表明した。
「理由はなんですか。反対するだけの根拠はあるんでしょうね」
白鳥部長は予想通りの行動と言わんばかりに涼しい顔で聞き返す。
「それは……」
理由と言われて隆は言葉に詰まる。
彼は、この会議で異議を唱えたことはない。
例え、同じクラスの女子が選ばれようとしていても反対はしなかった。
それどころかクラスメートの裸が見られると内心喜びさえした。
今更どの面を下げて、反対意見を言うのだろうか。
「どうせ自分の姉だから反対と言うんでしょう。でもね。君だってもう何人の生徒のヌードを書いてきたでしょう。いざ身内がその順番に回ってきたら嫌なんて筋が通らないのは分かるでしょう」
部長はグウも言わせない正論を言う。
「で、でも」
「それでは採決します。次のヌードモデルに3年2組、福留佳子を選ぶことに賛成の人は手を上げてください」
あっさりの決議を取る部長。
「それじゃ俺は賛成。こんな綺麗な先輩の裸を書けるチャンスを逃す手はないよ」
「私も賛成かな。今まで3年だけ選ばれなかったのは不公平だと思っていたし」
「俺は佳子のクラスメートだけど別に友達というわけではないので賛成するわ。顔見知りの裸を書くいうのはなかなかおもしろそうだしな」
次々と手を上げる部員たち。
先輩を裸にし、スケッチする行為に抵抗感がある5人の男子部員は手を上げなかったが、
女子部員は一人も欠けること無く全員が賛成に回った。
もちろん、隆は手を上げなかった。
姉は美人だが男子と付き合った経験はないはず。
家族の隆ですら姉の裸を見たのは遥か昔の幼稚園時代の記憶だけだ。
そんな姉の裸がこんなところで晒される。
隆はなんとしても防ぎたかったが、これ以上どうしようもなかった。
―――――――――「姉の裸を見せてあげるね」
さっきから気になっていた白鳥部長の一言。
今になって隆は確信した。
これは僕ら兄弟に対する嫌がらせだ。
この部は白鳥部長と同じクラスの男子生徒が多い。
それはつまり姉と同じクラスメートも多いということ。
姉の裸をクラスの男子に見せ、晒し者にする気なんだ。
そして弟にも姉の裸を見せて苦しませる。
姉がここまで部長に恨まれていることに、
隆は驚きを隠しきれなかった。