ヌードモデルに選ばれた姉

09話 白鳥部長の思惑


 朝の温かい陽気の中、美術部部長の白鳥は清々しい気分で学校へと続く道を歩いていた。
 佳子がヌードモデルをやってから早2日。
 この2日間は白鳥に取って至福の時間だった。
 何と言っても、入学時からずっと気に入らなかった佳子をさらし者にすることが出来たからだ。
 悔しそうにバスローブを外し、その初々しい乳房を晒す佳子の姿は今でも忘れられない。
 どうすれば佳子はまたあんな表情を見せてくれるだろうか。
 そんなことばかり考えながら、彼女はこの二日間を過ごしていた。

 白鳥はやや足早に校門をくぐり、3階にある自分の教室へと入る。
 教室内は既にかなりの生徒が登校を済ませており、和気あいあいとした空気に包まれていた。
 そんな人だかりを避けるように白鳥はキョロキョロと首を動かし目的の人物を探す。
 すると教室の角っこの席から自分の方を凝視している一人の女子生徒と目が合う。佳子だ。
 獲物を見つけた白鳥の口の端に薄い微笑が浮かぶ。

 白鳥はゆっくりと佳子の元へと近寄る。
 そして「佳子、おはよう」と、なんの躊躇もなく声を掛けた。

 他人から見ればただの朝の挨拶。他愛もない会話。
 だが、白鳥の表情は優越感と敗者の顔を見ようとする勝利者の顔。
 佳子はすぐに白鳥の意図を読み取ったのか、怪訝に眉を潜めながら「なにか、よう?」と言った

「あら、意外と元気そうね。裸を見られたショックで落ち込んでいると思ったのに。あーわかった。裸を見せる楽しさに目覚めてしまったのね」
 白鳥は座ったまま睨んでくる佳子を挑発するように話す。

「だ、誰がそんなこと思うものですか。もう二度とあんなことやらないわよ」

「まだそんな態度が取れるの? あんたは常に体を開くことを心がけろと言ったでしょう。裸を見られる喜びと、見せた相手への感謝の気持ちを持ちなさい」
 白鳥はまるで汚いものを見るような冷たい視線を佳子に対して向ける。
 それはゾクッと背筋が凍るような目つきでどう見ても同級生を見る視線ではなかった。

「私は娼婦でもストリッパーでもないのよ。なぜそんなこと考えなくてはいけないのよ」
「そうね。違うわ。あの人達は自分のために体を見せて金を貰う、きちんとしたプロフェッショナルですもの。でもあんたは違う。他人のためにその裸を晒し続ける存在よ」

「な、なのよ。それ」
「今にわかるわよ。楽しみにしていなさい」

 会話が途切れ、2人の間に嫌な雰囲気が立ち込める。
 互いに相手の姿をじっと睨みつけて動かない。
 沈黙に耐えかねたのか佳子は席から立ち上がり、
「あなたね。いい加減に……」と、文句を言おうと口を開く。

 白鳥はそんな文句の声を気にもせず、ふふんと鼻で笑いながら佳子の胸元へと視線を移す。
「やだ」
 胸に視線を感じた佳子はサッと腕をクロスさせ胸を隠すようなポーズを取る。 
 もちろん今の佳子は服を着ているし、胸も露出していない。
 しかし佳子は、まるで自分の胸が見られているような反応をした。
 いくら服を着ていてもその乳房の有り様は隅々まで知られている。
 そう語っているような白鳥の視線だった。

「うぅ」
 顔を真っ赤にし怒りとも羞恥とも付かない表情を佳子は見せる。

「じゃまたーね」
 白鳥は佳子の戸惑う顔を眺めながら席を離れた。
 まさに白鳥の完勝だった。長年の宿敵とも言える佳子を一方的に打ちのめしたのだ。
 あれだけ勝てなかった相手が今では小さく見えた。
 これは佳子の全裸を見たからだけではない。
 ヌードモデルをやらせたという事実が大きかった。
 白鳥はこれまで何人もの無関係な女子生徒をヌードモデルとして指名してきた。
 当日になって泣き出す生徒。一見、平気な顔をして脱ぐ生徒。
 様々な生徒がいたが、終わった後の反応はみな同じだった。
 誰もが不安そうな顔をし、自信なさそげな態度を見せる。
 それは裸を見せてしまったという後悔の念。
 そして撮られた身体写真の扱いについての不安。

(いくら佳子と言ってもこれじゃ逆らえるわけないよね)
 白鳥は上機嫌のまま自分の席に座り、時間を確認する。
 時間は8時15分。授業開始まではまだ時間がある。
 そのせいか周りの席にはまだ誰も座っていなかった。

「さてと」
 白鳥は時間つぶしに自分のケータイをそっと開き、お気に入りの画像を表示させる。
 ケータイに映し出されたものは首から下の部分をとらえた女性の全裸画像。
 顔の部分はフレームアウトされていて誰だかわからない。
 しかし、女性特有の張りのある瑞々しい乳房や、立派に生えそろっている下の毛は、はっきりと映っており、一目で若い女の裸だと分かる画像だった。
 そう。この画像は別室で撮られた佳子の身体情報のほんの一部。

 暇さえあれば白鳥はこの裸体画像を見ていた。
 女にとって悲惨極まりない画像。
 軽々しく見ていいものではない同級生の裸。
 本人にとっては決して見られたくない姿。
 白鳥はこの佳子のヌード画像を見るたびに、自分の心が満たされていくのを感じた。
 いくら佳子が普段と変わらない態度を取ろうが、自分はいつでも裸を見られる。
 これを使って佳子を更に辱めることも出来る。
 この事実は白鳥にとって、優越感を保つに十分な材料だった。

(それにしても学校側はこんなものを集めて何に利用するつもりかしら)
 白鳥は佳子のぷにっとした乳首を見つめながら疑問を口にする。
 モデルの身体情報を調べて提出する。
 これはヌードモデル義務化を導入する際に学校側が求めてきた条件の一つだった。
 交渉成立を急いでいた白鳥は軽い気持ちで『女子生徒のヌードを書かせてくれるならついでにやります』と言ったが、
実際に学校側が要求した検査撮影項目は[ついで]というレベルを遥かに超えていた。
 そのためヌードモデルの時間を早めに切り上げ、終了後に部員3人がかりでモデルの裸体を計測し撮影すると言う、無駄な時間を取る羽目になっていた。

「お、裸の画像」
 白鳥が難しい顔をしながら画像を見ていると、横を通った男子生徒から声を掛けられる。
 男子の名は元木。特に白鳥と仲がいい生徒ではないが、お調子者としてしられている男だ。

「はは、美術の資料の一部よ。エロ目的じゃないし顔も写っていないから素人さんが見ても仕方がないわよ」
 白鳥は画像を覗き込もうとする元木の行動に少しだけ困った表情を見せる。

「ちょっとでいいから見せてよ」
 好奇心いっぱいの表情をしながら元木が頼む。

「まったくしょーがないわね」
 いかにも渋々見せるみたいな動作をしながら白鳥はケータイを渡す。

「これは……なんというか生々しい裸だな。ただ直立不動しているだけなのにエロ本の写真とは全然違う。妙に現実味があるというか」
 元木は感心したような声を出す。
 確かに変な写真だった。背景はいかにもそのあたりにありそうな小部屋。
 そんなありがちな背景の中で一人の女の子が乳房も脚の付け根の陰毛も全く隠さず、ただ立ちすくんでいる。
 頭が写っていないため、表情はわからない。
 しかし、手はギュと強く握られ、羞恥のためか、うす赤く色づいた股は局部を隠すようにぴったりと閉じられておる。
 例え表情が見えなくても、この女の子が辛い思いをしながら、裸体を撮影されたことを物語っていた。

「資料だからね。美しく見せる裸ではなくあくまで素のままの体を撮った写真。そりゃそこら辺のエロ写真とは違いリアルでしょ」
 なぜか鼻高々に喋る白鳥。
 元木がこの裸体画像を生々しいと思うのは当たり前だった。
 撮影場所はこの学校であり、モデルは毎日顔を合わせる同じクラスメートなんだから。
 いくら顔が映っていない裸の画像とはいえ、馴染みを感じないわけがない。


「へえ。この子、首筋にほくろがあるんだな」
 元木がぼそっと呟く。
 確かに写真の女性の首筋、丁度右胸上部方向に小さなほくろがある。
 そのほくろは、もし制服を着ていればギリギリ見えるかどうかの際どい位置にあった。

「見たからもういいでしょ。返しなさい」
 白鳥はケータイをひょいと取り上げる。

「えー、もう終わり。ちぇ、もっと見たかったな。やたら濃い陰毛とか最高だったのに。まあいいや。ありがと」
 元木は一瞬不満そうな表情をしたが、画像を見せてくれた白鳥にお礼を言うと機嫌よく去っていった。

「ふう」
 白鳥は自分の顔が赤くなっているのを感じた。
 クラスメートの裸を本人の許可もなく、勝手に男たちに見せる
 それはなんとも言えない背徳的な興奮を呼び覚ます行為だった。
 このやりとりは、元木で3人目。
 白鳥にとっては、ちょっとしたお遊び。
 もちろん、画像をあげてたりはしないし、佳子の裸だとバレないように、顔を写したものは持ち歩かないようにしている。
 男に見せるのは、あくまで佳子の裸体部分だけだ。
 この処置は佳子が可愛そうだからではない。
 もし、モデルの画像情報が流出すれば部長である白鳥の立場がマズくなるからだ。

(まだまだ許さないわよ。あんたはもっと堕ちてもらわないとね)
 画像の股間部分を指で叩きながら、にやりとする白鳥部長。
 羞恥に満ちた強制ヌードモデル。女体の秘密を全て暴いた資料の作成。
 これだけやっても佳子に対する怨みは全く晴れていなかった。
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