ヌードモデルに選ばれた姉

12話 姉の覚悟


「くっ」
 佳子は後ろを向き、教師に背を向けながら手早くセーラー服のスカーフを解いた。
 恥ずかしがったりすれば、相手を喜ばすだけ。
 これはヌードモデルをやらされた時に強く感じたことだった。
 羞恥心を表に出さず、ただつまらなさそうに脱いでいるように見せる。
 この無意味とも取れる行動は佳子が今出来る数少ない抵抗であった。

 佳子が白のシャツ姿になると、教師は淡々と話し始めた。

「お前の弟の絵を見たが大したものだ。彼には才能がある」

「才能ですか」
 震える手で紺色のスカートを降ろす。
 真っ白な純白のパンツが露出する。
 佳子は平然と脱いでいるように見せているつもりだったが、渡部の目には、彼女がつらい思いをしているのが物分かりだった。
 純白のパンツに包まれた形の良いお尻は小さく震え、周りの太ももは真っ赤に染まっている。
 羞恥と屈辱で全身が火照っているのは、誰が見ても明らかであった。

「ふん。白か。おまえ、男の経験ないだろ」
 話の途中だというのに教師は突然下着の色を指摘した。

「なっ、そんなこと言われたくありません!!」
 何を言われても冷静でいるつもりだったのに、渡部のあまりに失礼に発言に、ついカッとなり佳子は大声を出す。
 しまったと思った時には既に遅く、言葉として出していた。
 また怒らせたかと思いながら佳子は相手の反応を待つ。
 しかし、渡部は何も言わない。

 今の大声を鼻で笑いながら、渡部は何もなかったように話を続けた。

「弟の話だったな。さっき弟の絵を見たがなかなかの出来だった。前とは全然違う。なぜだがわかるか」

「いえ」
 先ほどの失態を反省しながら、佳子はシャツのボタンを外した。
 そっとシャツの前を開け、スルリと下ろす。
 上半身は白のブラ。下半身は白のパンツ一枚。
 下着姿になると、背中を見続けている教師から生唾を飲み込む音が聞こえた。

「絵が良くなったのはモデルが素晴らしいからだ。これは弟だけではない。他の部員のレベルも格段に上がった。この現象はお前の裸が引き出してものだから誇っていいぞ」

「そんなこと言われても」
 裸になることは辛いことでしか無いのだから、いくら褒められても嬉しいはずがない。
 佳子は生半可な返事をしながら、背中に手を回しブラのホックを外す。
 プルンと音が聞こえてきそうな勢いで若々しい弾力のある乳房がブラから外れる。
 乳房が外気に晒されると、教室内にふわっとした少女の爽やかな匂いが漂う。

「しかし、お前はヌードモデルとしてまだ未熟だ。もっと経験を積まなくてはいけない」

「経験?」
 佳子は片手で胸を隠しながら、ブラを教師に見られないように脱いだ服の下に隠す。
 これで、もうパンツ一枚の姿。今の彼女の体を隠しているのはその白いパンツのみ。

「来週からはヌードモデルの特訓だ。それが終わり次第、中等部に行ってモデルをやれ」

「私に中学生の前で裸になれというのですか!」
 パンツに手を掛けて下ろそうとしたら、とんでもないことを言われ佳子は思わず大声を出した。

「もちろんそうだ。大半の中学生にとって女の体を見るのは初めてだからモデルの責任は重大だぞ。特に男子中学生にとっては生涯忘れることはない記憶になるからな」

「こ、断ることは」
「さっきも言ったが退学覚悟なら好きにしろ。まぁ、弟のためだと思って諦めることだな」

 脅迫とも取れる話を聞きつつ、佳子は腰と足を殆ど曲げずにパンツをさっと脱いだ。
 脱いだというより、パンツをそのまま下ろしたような動き。
 後ろに視線がある以上、いつもと同じようにパンツは下ろせない。
 女にとって後ろの視線がもっとも危険なのは重々承知していた。

 教師に背を向けたまま、全裸で立ち尽くす佳子。
 彼女からは教師の姿は見えない。
 しかし、教師の視線はその顕になった綺麗なお尻に集中しているのは、肌で感じ取っていた。
 静まり返る教室。未だに教師は何も言わない

「尻のボリュームが少し足りんが形はまずまずだな。それじゃその台の上に乗りこちらを向け。手は腰につけてな」

「台って」
 教師が指差す台は美術室の窓際にあった。
 窓にはカーテンが引かれており、外から見られる心配はないが、それでも佳子は台に乗るのを躊躇った。
 なぜならあの台は、彼女が初めて肌を晒した場所。
 近寄りがたい場所であった。

「はやくしろ」
 教師の怒鳴り声が響く。
 佳子は感情を押し殺しながら台の上に乗る。
 そしてゆっくりと教師の方向へ向いた。
 手で体は隠さなかった。その形の良いお碗型の乳房も豪毛と言える陰毛も全て渡部の前に晒した。

 ヌードモデルに選ばれるまでは誰にも見せたことがない裸。
 それがたった一週間の間に、3回も晒すためになった。
 しかも、今回の相手は中年男性。
 佳子の心のなかには、過去の2回とは違う感情が吹き荒れる。
 それはただの羞恥ではなかった。あえて言えば怒り。
 顔を体も既に真っ赤であるが、それは羞恥より怒りによるものが大きかった

「ふん」
 教師は近くにおいてあるライトを彼女に向ける。
 撮影用のライトが光の輪を描き、佳子の全身を照らし出す。
 すると作り物の彫刻のような裸像が浮かび上がった

「くっ」
 あまりの強い光に、佳子の目がくらむ。
 教師の視線が佳子の体中を走る。
 まるでストリッパーのような扱いに彼女の怒りは更に増す。
 全裸を晒しているというのに教師を睨みつけた。

「うむ。胸は少しこぶりだが形はいい。乳首の色も綺麗だ。だけどな。そのぼうぼうな陰毛はないだろ。これからは色々な人に見せないといけないんだから少しは手入れしろ」
 教師は佳子の陰毛を指差しながら呆れたように言う。
(?)
 佳子は少し惚けたような表情をしながら教師が言われたことを理解しようとする。
 何を言っているのか一瞬理解できなかった
 そして陰毛が濃いと言われたことを把握し愕然とする。
 ガクンと視線を床に落とす。
 恥ずかしさのあまり頬が赤く染まる。
 決して人前に晒すものではない陰毛を他人に評価され、彼女の心は大きく揺らいだ。

 陰毛が濃い。この指摘は白鳥もしていた。
 佳子自身は自分の陰毛が他より濃いのかはよくわからない。
 そもそも人のを見る機会もなく、気にしたこともないからだ。
 だが、2人が揃って同じことを言われると、やはり自分の体は他の人とは違う疑念が生まれる。
 その可能性は彼女の羞恥心を増大させ混乱された。
 恥ずかしい。逃げたい。もうこれ以上、自分の体を見られたくない。
 佳子は冷静さを欠きながら、切り札として取っておいたカードを切った。

「私は書道部部長の活動があるのでヌードモデルをやる時間はありません」
 佳子は最後の抵抗を試みた。
 書道部はこの教師と対立している藤沢先生の部活。
 実績は美術部に到底適わないが、それでもそれなりの実績はある。
 部の実績こそ勝者の学校にとってこれは無視できないはず。

「あー、書道部だと。あの糞生意気な新人女教師の部か。そんなもん休めばいい。そもそも書道なんか価値ないだろ。お前はヌードモデルの心構えをみっちり教えないといけないから、そんなお遊びをやってる時間はない」
 くだらんことを聞いたと言わんばかりの渡部は語る

「なっ!」
 その言葉を聞き佳子の顔つきが変わる。
 まるで部長と対峙しているような戦う女の顔に。

 昼休み終了のチャイムが鳴り響く。

「今日はここまでだな。特訓は来週からだ。もし来なかったら書道部の連中に代わりをやってもらうから忘れずに来いよ」
 渡部はそういいながら美術室から出て行った。

 教師がいなくなり、広い美術室で佳子は取り残される。
 周りには誰も居ない。いるのは全裸のまま立ち尽くす一人の少女。

「ふざけるな!」
 佳子は突然、全裸のまま、近くの机の上においてあるものをなぎ倒し、当たり散らす。
 その怒りはもちろん渡部に向けられたものであったが、自分自身の不甲斐なさにも向けられていた。
 実際に彼女の見通しは甘かった。
 反対派である藤沢先生の存在を出せば、相手が躊躇うと過信していた。
 しかし、完全に逆効果だった。
 藤沢先生は新人。書道部の実績も全国レベルではない。
 少し考えれば分かることをだったのに読みきれなかった。
 それは恥ずかしさによる焦り。
 全裸状態が彼女の判断力を著しく低下させた結果。

 床に散乱した小道具を見て佳子は「ふぅ」と一つ大きな深呼吸をする。
 取り乱したのは一瞬だけ。落ち着きを取り戻す。
 佳子は無言のまま服を脱いだ場所まで歩く。 
 白いパンツを手に取り履き直した。
 続いてブラ、スカートと、次々と手早く脱いだ服を着ていく。

 制服を着て普段通りの格好になった佳子。
 その姿は凛々しく、表情に迷いは感じられない。
 白鳥との確執。撮られた全裸写真の行方。
 美術教師の嫌がらせ。自分に与えられたヌードモデルの役目。
 愛すべき弟のこと。藤沢先生に迫る危機。

 状況は最悪だというのに彼女の心はスッキリしていた。
 それは目標と覚悟を決めた時の女の強さ。

「今に見ていなさい。このお礼は必ずしてあげるから」
 佳子は一言そう呟くと、力強い足取りで美術室から出て行った。
修学旅行、彼女奪られる熱帯夜 総集編