恥辱の野外ヌードモデルが終わり、夕日も落ち初めた頃。
一人の女子生徒が不機嫌な顔をしつつ、職員室へ向かって足早に歩いていく。
「冗談じゃないわ」
誰もいない静まり返った廊下で、佳子は怒りをあらわにした。
その表情には怒りとともに、焦りが滲み出ている。
比較的冷静な彼女が苛立ちを感じるほど、して想定外な出来事だった。
それは帰り際に白鳥が語った一言。
『明日からは本当に下着をつけていないかの検査します』
野外ヌードモデルという異常な体験をさせられ、疲れ切った時を狙ったように白鳥はとんでないことを言った。
理由はモデルの立場をわきまえずに、下着を付けていた罰だという。
白鳥が放った次の一手は、佳子にとって大きな誤算であり想定外だった。
いくら美術部の権限が強いとは言え、所詮は学校の部。
部活動時間外まで、その影響力があるわけでもない。
むろん学校側との約束であるヌードモデルの規約にも縛られている。
つまり、白鳥がどんなに嫌がらせをしようとしても、その影響力は部活動中の放課後のみのはずだった。
今回、白鳥が打った手は、まさに規約の隙をつき、佳子に残された自由時間を狙い撃ちにしたものと言えた。
もし、下着検査をされるとなれば、彼女は常にノーブラノーパンでの学校生活を余儀なくされる。
そんな状態になれば、嫌をなしに行動は制限され、反撃の下準備どころでなくなるのは間違いなかった。
本当に部活動時間外の下着検査が規約違反に当たらないのか。
その真偽を確かめるべき佳子は職員室へと急いだ。
「失礼します」
職員室の扉を開ける。室内はがらんとした雰囲気。
時計を見れば、時間はもう午後5時を回っている。
当然如く、職員室には数人の先生しか残っていなかった。
もう帰ってしまったのか。焦りを感じながら佳子は目的の教師を探すためあたりを見渡す。
「あら、佳子さん。こんな時間にどうしたの」
その時、背後から若い女性の声が聞こえた。
佳子が振り向くと、そこにはいかにも学校を出たばかりの新人の雰囲気を持つ女性がたっていた。
女性は優しい眼差しで見つめる。
彼女の名は藤沢紗栄子。
数少ないヌードモデル制度反対派の教師であった
「先生、少し困ったことになって」
佳子は先程あったことを細かく教えた。
先程行われた校外ヌードモデルのこと。ノーパンノーブラで通わなくてはいけなくなったこと。そして美術部が毎日行おうとしている身体検査のことも。
藤沢教師は椅子に座り、難しい顔をしながら答える。
「身体検査が違法に当たらないかどうかってこと?……うーん。それだけだと微妙だわね。検査する人次第で違法性を問えるんだけど、そのあたりはどう?」
「交代でと言ってたような気がするのでおそらくは美術部員かと」
「やはり美術部員だけ……ちょっと聞くけど、このまえ渡部教師に呼び出されたみたいだけど、なにを話したの?」
藤沢教師はなにかを思いついたように話す。
「裸にされました」
佳子は教師の目を見ながらストレートに答えた。
それは感情が一切感じられない冷たい声だった。
「どういうこと?」
ただならぬ雰囲気に思わず眉をひそめる。
「ヌードモデルの適正を見るから服を脱げと命じられたので私は言いつけ通り渡部教師の前で全裸になりました」
淡々と事実だけを述べた。
「そう……となるとやはり渡部教師があなたに興味をもったのね」
むろん渡部教師に佳子をけしかけたのは白鳥部長なのは容易に予想がついた。
「……」
二人の会話が止まり重苦しい空気が漂う。
渡部教師が佳子に目をつけた。この可能性は2人にとって最悪だった。
相手は学校への発言力もある中堅教師であり、ヌードモデル氏名制度の責任者。
弱小部の部長と新人教師には荷が重すぎる相手だった
「先生。話は変わりますが、この前頼んだヌードモデル被害者名簿は入手出来ましたか?」
重い沈黙に耐えかねた佳子が突然話題を変える。
「ごめんなさい。私のアクセス権限ではサーバーに入れないの。どうも美術部の生徒よりもランクが低いみたいなので」
再び重苦しい空気が漂う。
この事実は藤沢教師がどれだけ学校から嫌われ、邪魔もの扱いされているかを暗示させた。
「いえ、先生は良くしてくれています」
残念な結果にも関わらず、佳子は感謝の言葉を述べる。
これは嘘偽りない本心だった。
「やはり名簿を知りたいなら弟さんに聞いたほうが」
「それだけは出来ません」
藤沢教師の意見を遮るように佳子はきっぱりと断る。
彼女はこの問題で弟の力を借りる気はまったくなかった。
これ以上、弟に対して不信感を積もらせたくないとも思ったからだ。
校舎内に本日最後のチャイムが鳴り響く。
時計を見れば午後5時30分を回っていた。
「こんな時間までありがとうございました。失礼します」
深々とお辞儀をし佳子は帰ろうした。
「そういえば、さっき鈴森さんがやってきたわよ」
藤沢が思いついたように言う。
「奈々が?なにか書道部に問題でも」
予想だにしなかった部活の後輩の名が出てきて思わず立ち止まる佳子。
「いえ、部ことではなくあなたのことについて。なぜヌードモデルなんかをやっているのかと」
「どうしてそのことを?」
「直接聞いたわけではありませんが、おそらくアレのせいかと。帰りに美術部前に行ってみなさい」
「美術部ですか。わかりました」
藤沢教師はそれ以上何も言わなかった。そして佳子も聞かなかった。
そこに何かあるのかは予想が付いていたからだ。
「失礼しました」
ガランとした職員室を後にし美術室へと向かった。
階段を下り廊下を歩く。そして正面玄関近くにある美術室の前へたどり着いた。
「やはりこういうことね」
佳子の眉が不愉快そうにぴくりと釣り上がる。
美術室の前には大きなパネルボートが置かれていた。
そしてそのパネルには15枚の絵が貼られていた。
これは月恒例の美術部による裸婦画発表会。
使われているモデルは先月美術部に選ばれた生徒。つまり貼られているのは姉のヌード画だった。
佳子は鋭い目つきをしながら絵を一枚一枚見ていった。
むろん彼女も絵に関しては素人だ。他の生徒同様に絵の良し悪しはわからない。
しかし、白鳥部長の絵が飛び抜けて上手いのは、見て感じとる事が出来た。
この絵を見ているだけで頬が赤く染まった。
まるで自分が裸にされ、絵の中に閉じ込められているような恥ずかしさに襲われた。
ただ似ているだけではこうはならない。絵から発される存在感が凄いのだ。
(でもこれじゃ誰だかわからないよね)
圧倒的な絵の魅力に囚われながらも、佳子は安心感も覚えていた。
確かに部長の絵は上手い。
逆に言うと佳子という人間の本質を捕らえすぎているのだ。
ここまで本質に近いと、よほど佳子と仲がいい人ぐらいしかわからない。
佳子は嫌われるタイプではないが、親友と呼べるほど浸しい生徒もいなかった。
それこそ身内の弟か、一方的な尊敬の眼差しで見つめる後輩の奈々ぐらいだった。
佳子はこの場から立ち去ろうとした。
その時、視界に一枚の絵が入り、思わず足が止まる。
(これは……)
その絵は一番奥の目立たないところに置かれていた。
上手くはない。それどころが一番下手と言ってもいい。
しかし、佳子の裸の特徴を一番よく表しているとも言えた。
まるでこの絵はトレースしたように胸の形から細かなホクロの位置まで、正確に姉の裸体を暴いていた。
佳子はこの絵を見て、恥ずかしさと不安な気分に襲われた。
部長の絵から自分にたどり着くのは不可能だと確信している。
でも、この絵からはどうだろうか。自分の裸を見たことがある人ならピンと来るのではないのか。
むろん、佳子が裸を見せたのは美術部関係者のみ。
そして美術部にはヌードモデルの規約であるモデルの名は公開しない制限がある。
普通に考えれば線は繋がらないはず。
絵の著者名を見た佳子は逃げるようにこの場から立ち去った。
不信感。一度は忘れようとした疑念が再び頭をもたげてくるのを感じた。
なぜアイツはヌードモデルの詳細を話してくれなかったのか。
なぜアイツはここまで自分の裸の詳細を詳しく書くのか、書けるのか。
弟の絵を見た姉の心は激しく揺れていた。
一人の女子生徒が不機嫌な顔をしつつ、職員室へ向かって足早に歩いていく。
「冗談じゃないわ」
誰もいない静まり返った廊下で、佳子は怒りをあらわにした。
その表情には怒りとともに、焦りが滲み出ている。
比較的冷静な彼女が苛立ちを感じるほど、して想定外な出来事だった。
それは帰り際に白鳥が語った一言。
『明日からは本当に下着をつけていないかの検査します』
野外ヌードモデルという異常な体験をさせられ、疲れ切った時を狙ったように白鳥はとんでないことを言った。
理由はモデルの立場をわきまえずに、下着を付けていた罰だという。
白鳥が放った次の一手は、佳子にとって大きな誤算であり想定外だった。
いくら美術部の権限が強いとは言え、所詮は学校の部。
部活動時間外まで、その影響力があるわけでもない。
むろん学校側との約束であるヌードモデルの規約にも縛られている。
つまり、白鳥がどんなに嫌がらせをしようとしても、その影響力は部活動中の放課後のみのはずだった。
今回、白鳥が打った手は、まさに規約の隙をつき、佳子に残された自由時間を狙い撃ちにしたものと言えた。
もし、下着検査をされるとなれば、彼女は常にノーブラノーパンでの学校生活を余儀なくされる。
そんな状態になれば、嫌をなしに行動は制限され、反撃の下準備どころでなくなるのは間違いなかった。
本当に部活動時間外の下着検査が規約違反に当たらないのか。
その真偽を確かめるべき佳子は職員室へと急いだ。
「失礼します」
職員室の扉を開ける。室内はがらんとした雰囲気。
時計を見れば、時間はもう午後5時を回っている。
当然如く、職員室には数人の先生しか残っていなかった。
もう帰ってしまったのか。焦りを感じながら佳子は目的の教師を探すためあたりを見渡す。
「あら、佳子さん。こんな時間にどうしたの」
その時、背後から若い女性の声が聞こえた。
佳子が振り向くと、そこにはいかにも学校を出たばかりの新人の雰囲気を持つ女性がたっていた。
女性は優しい眼差しで見つめる。
彼女の名は藤沢紗栄子。
数少ないヌードモデル制度反対派の教師であった
「先生、少し困ったことになって」
佳子は先程あったことを細かく教えた。
先程行われた校外ヌードモデルのこと。ノーパンノーブラで通わなくてはいけなくなったこと。そして美術部が毎日行おうとしている身体検査のことも。
藤沢教師は椅子に座り、難しい顔をしながら答える。
「身体検査が違法に当たらないかどうかってこと?……うーん。それだけだと微妙だわね。検査する人次第で違法性を問えるんだけど、そのあたりはどう?」
「交代でと言ってたような気がするのでおそらくは美術部員かと」
「やはり美術部員だけ……ちょっと聞くけど、このまえ渡部教師に呼び出されたみたいだけど、なにを話したの?」
藤沢教師はなにかを思いついたように話す。
「裸にされました」
佳子は教師の目を見ながらストレートに答えた。
それは感情が一切感じられない冷たい声だった。
「どういうこと?」
ただならぬ雰囲気に思わず眉をひそめる。
「ヌードモデルの適正を見るから服を脱げと命じられたので私は言いつけ通り渡部教師の前で全裸になりました」
淡々と事実だけを述べた。
「そう……となるとやはり渡部教師があなたに興味をもったのね」
むろん渡部教師に佳子をけしかけたのは白鳥部長なのは容易に予想がついた。
「……」
二人の会話が止まり重苦しい空気が漂う。
渡部教師が佳子に目をつけた。この可能性は2人にとって最悪だった。
相手は学校への発言力もある中堅教師であり、ヌードモデル氏名制度の責任者。
弱小部の部長と新人教師には荷が重すぎる相手だった
「先生。話は変わりますが、この前頼んだヌードモデル被害者名簿は入手出来ましたか?」
重い沈黙に耐えかねた佳子が突然話題を変える。
「ごめんなさい。私のアクセス権限ではサーバーに入れないの。どうも美術部の生徒よりもランクが低いみたいなので」
再び重苦しい空気が漂う。
この事実は藤沢教師がどれだけ学校から嫌われ、邪魔もの扱いされているかを暗示させた。
「いえ、先生は良くしてくれています」
残念な結果にも関わらず、佳子は感謝の言葉を述べる。
これは嘘偽りない本心だった。
「やはり名簿を知りたいなら弟さんに聞いたほうが」
「それだけは出来ません」
藤沢教師の意見を遮るように佳子はきっぱりと断る。
彼女はこの問題で弟の力を借りる気はまったくなかった。
これ以上、弟に対して不信感を積もらせたくないとも思ったからだ。
校舎内に本日最後のチャイムが鳴り響く。
時計を見れば午後5時30分を回っていた。
「こんな時間までありがとうございました。失礼します」
深々とお辞儀をし佳子は帰ろうした。
「そういえば、さっき鈴森さんがやってきたわよ」
藤沢が思いついたように言う。
「奈々が?なにか書道部に問題でも」
予想だにしなかった部活の後輩の名が出てきて思わず立ち止まる佳子。
「いえ、部ことではなくあなたのことについて。なぜヌードモデルなんかをやっているのかと」
「どうしてそのことを?」
「直接聞いたわけではありませんが、おそらくアレのせいかと。帰りに美術部前に行ってみなさい」
「美術部ですか。わかりました」
藤沢教師はそれ以上何も言わなかった。そして佳子も聞かなかった。
そこに何かあるのかは予想が付いていたからだ。
「失礼しました」
ガランとした職員室を後にし美術室へと向かった。
階段を下り廊下を歩く。そして正面玄関近くにある美術室の前へたどり着いた。
「やはりこういうことね」
佳子の眉が不愉快そうにぴくりと釣り上がる。
美術室の前には大きなパネルボートが置かれていた。
そしてそのパネルには15枚の絵が貼られていた。
これは月恒例の美術部による裸婦画発表会。
使われているモデルは先月美術部に選ばれた生徒。つまり貼られているのは姉のヌード画だった。
佳子は鋭い目つきをしながら絵を一枚一枚見ていった。
むろん彼女も絵に関しては素人だ。他の生徒同様に絵の良し悪しはわからない。
しかし、白鳥部長の絵が飛び抜けて上手いのは、見て感じとる事が出来た。
この絵を見ているだけで頬が赤く染まった。
まるで自分が裸にされ、絵の中に閉じ込められているような恥ずかしさに襲われた。
ただ似ているだけではこうはならない。絵から発される存在感が凄いのだ。
(でもこれじゃ誰だかわからないよね)
圧倒的な絵の魅力に囚われながらも、佳子は安心感も覚えていた。
確かに部長の絵は上手い。
逆に言うと佳子という人間の本質を捕らえすぎているのだ。
ここまで本質に近いと、よほど佳子と仲がいい人ぐらいしかわからない。
佳子は嫌われるタイプではないが、親友と呼べるほど浸しい生徒もいなかった。
それこそ身内の弟か、一方的な尊敬の眼差しで見つめる後輩の奈々ぐらいだった。
佳子はこの場から立ち去ろうとした。
その時、視界に一枚の絵が入り、思わず足が止まる。
(これは……)
その絵は一番奥の目立たないところに置かれていた。
上手くはない。それどころが一番下手と言ってもいい。
しかし、佳子の裸の特徴を一番よく表しているとも言えた。
まるでこの絵はトレースしたように胸の形から細かなホクロの位置まで、正確に姉の裸体を暴いていた。
佳子はこの絵を見て、恥ずかしさと不安な気分に襲われた。
部長の絵から自分にたどり着くのは不可能だと確信している。
でも、この絵からはどうだろうか。自分の裸を見たことがある人ならピンと来るのではないのか。
むろん、佳子が裸を見せたのは美術部関係者のみ。
そして美術部にはヌードモデルの規約であるモデルの名は公開しない制限がある。
普通に考えれば線は繋がらないはず。
絵の著者名を見た佳子は逃げるようにこの場から立ち去った。
不信感。一度は忘れようとした疑念が再び頭をもたげてくるのを感じた。
なぜアイツはヌードモデルの詳細を話してくれなかったのか。
なぜアイツはここまで自分の裸の詳細を詳しく書くのか、書けるのか。
弟の絵を見た姉の心は激しく揺れていた。