ヌードモデルに選ばれた姉

41話 お互いの思惑


公民館の依頼を終えた佳子は河原で時間を潰していた。
 本来なら真っ先に自宅に戻らないといけないが今日はそんな気分になれない。
 公民館の恥辱を振り払うには時間が必要だった。
「いくぞーー」
 少し離れたところで子供たちが楽しそうに遊んでいる。
 そんな様子をぼーと眺めていると否応なしに現実を思い出させる。
 子供たちはあんなに楽しそうなのに自分は下着も付けずになにをやっているんだろうか。   
 同じ疑問が何度となく湧き、そして消えていった。

 結局、自宅に戻ったのは日も落ちきった午後7時頃だった。
 彼女は玄関で「ただいま」と声を出すが弟は出てこない。
 弟の部屋の前を通ると何やら物音がした。どうやら部屋で篭って何かを夢中でやっているようだ。 

 扉に手を掛けると、何か嫌な予感がした。
 先程の出来事が頭をよぎる。公民館にいた人たちは概ね真面目に絵を書いていたが股間を膨らませている男が何人もいた。
 いくら恥ずかしいから見ないでと思っても男たちの性欲は欲望の固まりだ。
 そしてそれは弟とて例外ではない。
 
 結局、佳子は声を掛けずにそのまま自室へと戻った。
 部屋の中は当然のごとく暗いままだった。
 明りを付けると外出前に脱いたパジャマが床に散乱しているのが見えた。
(ふう)
 軽くため息をついた彼女は部屋の鍵を掛け、扉が開かないことを確認する。
 そして着ていた私服を脱いだ。
 下着を付けていないせいもあり僅かな手間と時間で全裸になると、そのままベッドの上に仰向けになり体を投げ出す。

 自室で素っ裸になることはそんなに多くない。息を大きく吸うと乳房が僅かに揺れた。
 なんとも言えない開放感を感じた。
 もちろん今でも彼女に露出の趣味はない。裸を見られたいとも思わない。
 しかし常にプレッシャーが掛かるノーブラノーパン生活の影響のせいで意識が変わりつつある自覚はあった。
 他人の視線がない自分の部屋にいるとそんな精神が落ち着いていくのを感じた。
 自分の体は自分のもの。決して人に見せるためのものではない。
 
 佳子は全裸のまま目を瞑る。
 明日はやることが多かった。どうやって裕太の祖父に合うか。
 いくら裕太が話を通しても何の関係もない学生が会える人物ではない。
 となれば美術部からアポを取るのが一番の近道。
 どうやって白鳥を誘導して祖父との関係を作るか。
 嘘とハッタリの会話術が試される日になりそうだと思いながら彼女の意識は深い睡眠の中へと消えていった
 



翌日
 佳子は朝早くから学校に来ていた。
 下着を付けていないことがバレないように朝早く来ることは多くなっていたが今日は特に早かった。
 早朝登校の理由はただ一つ。他の部員がいないうちに白鳥を会う。
 そして上手く誘導して裕太の祖父と合わせてもらうようにするためだった。

 そんなことを考えながら佳子が美術部の扉に手を掛けると中から人の気配がした。
(まったく。こんなことを毎日するから先生たちの信頼が高いのよね)
 彼女は舌打ちをしながら扉を開ける。
 するとそこには机を一つ一つ拭き掃除をしている白鳥の姿があった。

「あれ?誰かと思えば佳子じゃない。なんでこんな早く来たの。って……あーあれね。わかっているわよ」
 わかったと聞いて佳子の歩みが止まる。
 白鳥の性格はアレだが、頭は切れることをよく知っている。
 今日来ることも呼んでいたのかと身構えるが。
「昨日のヌードモデルが忘れられず体が疼いているのでしょう。やはりご近所に裸を見られるのは新しい興奮よね。いいわよ。体を開いてあげるから早く脱ぎなさい」
 ニヤニヤしながら白鳥が言った。人を小馬鹿にしているのは明らかだった。
「違うわよ!!公民館のことよ」
 思わず大声を出す。揶揄われているのはわかっているのに白鳥を前にすると感情が押さえきれない。
「公民館?なにか問題でもあったの?」
 どうやら白鳥にとっては逆に予想していない話だったようだ。
 妙に意外そうな顔をしながら聞き返してきた。
「裕太って子供が私の胸を揉むとか言ってるのよ。白鳥だってそんなこと許可を出しでいないでしょう」
「裕太? 松山北辰のお孫さんのこと?」
「え、知ってるの」
「もちろん知ってるわよ。この界隈では有名人だし何回か会ったこともあるわよ。そっか……あの子がいたの……」
 と、言われても美術の世界に疎い佳子にはわからない。
 あのクソガキにそこまでの知名度があったことのほうが意外だった。
 だがこれは好都合。祖父との繋がりを作るハードルが下がったとも言えたからだ。

 少し考えてから白鳥はやや真面目な顔をしながら言う。
「佳子、裸になって」
「はい?」
 真面目そうに突然何を言い出すのか。佳子の思考が追いつかない
「いいから早く脱ぎなさい」
「いやよ。なんでこんな時に」 
「どうせ後から身体検査を受けるだから今やってもいいでしょ。ほら早く脱いで」
 どことなく焦っているような白鳥が言った。
 確かに後で男子部員に身体検査されるぐらいなら今のほうがまだマシかもしれない。
 諦めた佳子は制服に手を掛け、1枚1枚脱いていった。
「隠したら駄目よ」
 全裸になると本能的に手で胸とあそこを隠してしまうか当然白鳥はそれを許さない。
 強引に窓の近くに立たされる。例によってカーテンは閉められていない。
 朝日が背中に当たるのを感じた。
 
 白鳥は佳子の足元で膝をつく。
 そして下半身から煽るように裸身を下から上まで眺める。
 佳子はそんな視線を避けるように、赤らんだ顔を横向けて裸身を硬くした。

「正面は大丈夫そうね。となれば……」
 突然背後に回られた。
 相変わらず視線が低い。不安そうにヒクヒクする真っ白の尻を見られているのがわかる。
 佳子の顔が羞恥に歪み、白鳥の目が輝く。
 嫌がる同性の尻を見る行為ほど魅力的なものはない。
 そう言わんばかりの表情だった。

 彼女は尻をマジマジと見られた経験はあまりない。
 いつもと違う怯えが体をかけめぐる。
 そう。これは人の本能のも言える反応。
 無防備な尻に何をされるのか。恐怖で足が震えた。

「背中やお尻にも傷や打ち身はなしか。何もされていなさそうだけど一応穴も調べておこうか」
 白鳥の手がすべすべの尻を撫でまわしたと思ったら尻肉を何の遠慮もなく押しひろげられる
  真っ白な尻たぶが大きく割れ 奥に秘められた羞恥の根源がむき出しになった。
 肛門に空気を感じた佳子は白鳥の魔の手を振り払い、急いで距離を取る。

「み、見た?」
 まるで子供のようにお尻の押さえながら彼女はうろたえ恥ずかしがった。
「何を驚いているのやら。肛門だって別に初めて見られたってわけでもないでしょう」
 前も見られている事実を再確認させられた佳子が黙りこくる。
 何を言っても白鳥に負い目を感じるのはそういうこと。
 裸を隅々まで見られた女は弱いことを感じずにはいられない。

「まぁ無事なようで安心したわ。裕太くんってモデルに手を出すことでも有名なんだよね。あ、手を出すと言っても肉体関係とかじゃなくて物理的にね」
「物理?」
「モデルを縄で縛ったりお尻とか叩いて絵を書くらしいわね。これは春画の流れを持つとさせる祖父の影響だろうけど本当に何を考えているんだろうね。こっちはモデルの体のために下着を避けているというのに。まぁあの一家に口を出せる人なんていないからどうでもいいけど」
 白鳥は手を広げながら、やれやれと呆れたような表情を見せる。
 それを見た佳子は確信を持つ。やはり裕太くんは危険な子だ。 
 そして祖父の力は白鳥も逆らえない大きなものであるのも間違いなさそうだった。

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「白鳥。実は裕太くんから頼まれごとをされて……」
 佳子は胸と股間を手で隠しながら慎重に嘘とハッタリだらけの話に入った。
 危険な賭けであることは理解している。
 しかし一発逆転を狙うためには祖父の力がどうしても必要だった

 1分後
「ふーん。なるほどね。つまりあの北辰がうちのヌードモデルに興味があると。それはちょっと困ったわね」
「もちろん私は嫌よ。そんなモデルを叩くようなところに誰が行きますか」
 佳子は拒否の言葉を口にした。会いたいのは山々だがそんな危険人物に会いたいなんて言うのはあまりに不自然だからだ。
 頭のいい白鳥ならすぐ違和感を察知するだろう。

「わかっているわよ。それに佳子みたいな未熟なモデルを送って怒らせたら大変なことになるし。いや待って。逆に未熟さを言い訳にすれば……」
 白鳥はブツブツいいながら歩き出す。
 その動作にはいつもの落ち着きは無く、ただひたすら美術室の中をぐるぐる歩いている。
 今のうちとばかりに佳子が服を着なおそうとすると白鳥は突然立ちどまる
「あ、まだ服を着たら駄目よ」
「どうしてよ!!」
「挨拶して欲しい人がいるからね。もうすぐ来る時間だから」
 挨拶するから裸のままでいろ?
 佳子には白鳥が言ってることが何一つわからなかった。


「挨拶?な、何を言ってるの」
 唐突な話に警戒した佳子は胸と股間を隠しながら後ずさりをした。
 白鳥の目。この目は何か良からぬことを考えている時の目だった。
 過去にも何度も見たことがある。決して冗談を言ってる時ではない。

「佳子も部長なんだから知っているでしょう。ほら、朝に各教室の点検をする用務員のおじさん。丁度いいから2人で挨拶しようと思ってね」
 白鳥はニコニコ笑いながら言った。
 言ってる事自体は何もおかしくない。用務員さんが近くを通るならお礼も兼ねて挨拶するのは当たり前。
 部長としては当たり前の行動であり実際に何度もしてきたが。
「裸でそんなこと出来るわけないじゃない!!」
 佳子も用務員さんのことは知っていた。
 年齢こそいっているが物静かな男性でお互いに名前も知っている。
 そんな顔見知りに向かって裸で挨拶しろ?どう考えても頭がおかしい提案だった。
「そろそろ佳子も美術部以外の人たちに裸を見られることに慣れてもらわないと困るのよね。目的もなく裸の見られる惨めさは実際に『体験』したものにしかわからない独特なものがあるわよ」
「い、いやよ。そんなの」
 佳子は自分の顔が青ざめていくのを感じた。
 これまでも幾度となく裸を見られてきたが一応美術のためという建て前があった。
 だが今回は違う。今、用務員さんに裸を見せる理由なんて全く無いのだ。
 無関係な人に裸を見せる。それはもうただの露出狂かストリッパーと大差ない。
 これまでは次元が違うことを白鳥をやらせようとするのだ。
 一度やればもう後戻りが出来ない。

「ほら平常心平常心。そんな顔をして不審に思われたらどうするの。佳子だってあんな優しそうな用務員を巻き込むのは本位じゃないでしょう」
 そう。あの用務員さんは優しい。もし裸を隠している姿を見てイジメか何か受けていると勘違いすれば学校側に訴えることもありえる。
 そうなれば用務員さんの立場が悪くなるかもしれない。
 他人を巻き込むわけには行かなかった

「わかったようね。じゃ体は隠さずに堂々としているのよ」
 白鳥に引きずられるように彼女は扉の前で立たされる。
 カツカツと廊下が歩く足音が近づいてくる。喉仏がゴクリとなった。 
 上部にはめ込んである曇ガラスに人の姿が映る。背の高い男だと思った瞬間、ドアが開いた。

 用務員さんは楽な作業着で片手にゴミ袋を持っていた。
 扉をあけて教室をのぞき込むと「え?」と驚きの表情が浮かんだ。
 視線が佳子のむき出しの胸を捉え、そのまま下半身へと落ちる。
 ひときれの布も身につけていないのに佳子の手は前を隠さない。
 今隠せば不審に思われるのは間違いなかったからだ。

「うわ、びっくりした。……って書道部の佳子ちゃんじゃない。あれ?今日はヌードモデルをやる日だったの?」
 用務員さんは突然現れた裸に戸惑ったようだが、状況そのものにはさほど驚いていないようだった。
 窓から差し込む朝日を浴びながらも惜し気もなくさらけだしているように見える裸身を遠慮もなくジロジロの眺めた
 佳子の体は特別色っぽいわけではない。文系だけあって手と足は華奢といっていいぐらいだ。
 しかし乳房や腰回りはそれなりに大人の体をしていた。
 そんな高3の裸を用務員の視線は遠慮なく何度も往復する
 体のラインや乳首、ツルツルの割れ目の形状さえも記憶するかのように何度も何度も。

「お、おはようございます!!」
 裸を見られてどう反応していいのかわからない佳子は無意識のうちに挨拶をし頭を下げた。
 その瞬間、目の前に火花が散ったような感覚に思われた。
 裸のまま頭を下げるのはなんて酷い感覚なんだろう。
 吐き気すら覚えた。

「うん。おはよう。佳子ちゃんの裸は初めて見たけど悪くない。これまで見た中でも上位に入るね」
 そんな気持ちも知らずに用務員さんは褒めてくれた。
 やはり何かがおかしい。顔見知りの女子生徒が裸でいてこんな反応になるわけがない。
 そもそも先程言ったヌードモデルをやる日とはいったい。
 その答えを求めるかのように白鳥のほうを向くと突然ボソリと耳そばで声がした。
『佳子、足を開いて』
 この女はまた何を言ってるのか。そんな疑問が消える間もなくお尻を触られる。
 白鳥の手はお尻を撫ぜつつ閉じたままの足の又先へ向かうような動きをした
 「ひやっ」
 反射的にほんの少しだけ足が開く。
 その程度では無毛の割れ目は開いたりしない。だがわずかに動いたのを感じた。

「へえ。佳子ちゃんもこれが出来るんだね。陰毛もきちんと剃られているし体も隠そうとしない。なかなか立派だ」
 割れ目の動きを見た用務員は満面の笑みを浮かべながら褒め称える
 佳子はようやく違和感の正体に気がついた。 
 そうだ。裸よりも女子生徒の陰毛がないのになぜ変に思わないのか。
 普通は真っ先に異常と思うはずなのに何の反応もない。それどころか陰毛がないのが当たり前だと思っている。
 なぜそう思うのか。答えは一つしかない。

「あまり褒めないでやってくださいよ。このモデルはまだ足もきちんと開けないしお尻の穴だって見せるのを嫌がるレベルなので」
「美術部のレベルは高いねぇ。確かに顔も真っ赤だし佳子ちゃんがまだまだなのは素人の自分が見てもわかるけどまだ頑張っているほうじゃないかな。ほら君だって最初のうちは泣きそうな顔をしていたじゃない」
「お恥ずかしい。そんなこともありましたね」
 白鳥が愛想笑いをすると用務員さんは「まぁこれからも頑張りなさい」と言って次の教室へと向かった。
 外部の人間がいなくなり再び静まり返る美術室。
 佳子が床に落ちていた制服を手に取り前を隠しながら言う

「騙したのね。用務員さんは美術部の事情を全部知ってるじゃないの。何が巻き込まないようによ!!」
「ふふ、騙されるほうが悪いのよ。でも口ではイヤイヤ言ってもスリリングな体験だったでしょう」
 と、言って白鳥は制服で前を隠しているだけの乳房付近を指差した。
 そのことを指摘されて佳子の顔が真っ赤に染まり手に力が入る。
 素早く隠したのにばればれだった。
 いくら生理現象とはいえ決して見られたくないものが制服の下にはあったのだ。

「私には今の佳子の気持ちが手に取るようにわかるわよ。見られた恥ずかしさ。嫌なのに体が反応してしまう罪悪感。今こうしていても居た堪れなくなっているでしょう」
「そ、そんなことない」
「なら証拠を見せなさい!!」
 白鳥が強い口調で言うと佳子は反射的に前を隠していた制服の束を床に落とす。
 佳子の裸を改めて見た白鳥は邪悪な笑みを浮かべる。
 そう。彼女の乳首は先ほどとは違い用務員の視線に反応し勃起していた。