とある中学の二年三組、教室
それは友人との雑談から始まった。
「そんで妹が水泳部に入ることになったんだよ」
祐一はやや自慢げに、妹のことを友人に話す。
この学校の水泳部は長い歴史があり、強豪と呼ばれるほどの実力があった。
もちろん入部希望者も多く、誰でも入れるわけではない。
妹はそんな狭き門の入部テストに挑んて見事合格した。
この事実は兄の祐一にとっても自慢できることであり、誇らしい話だった。
「え。妹って由衣ちゃんのこと? あの子がうちの水泳部に入ったのか?」
友人の隼人は驚きの表情を浮かべる。
そして「あーあ。ご愁傷様」と言った。
祐一は首を傾げる。
彼には隼人が驚く理由が、さっぱりわからなかった。
新入生がどこかの部に入ることは当たり前。
小さい時から泳ぎが得意で、地方大会にも出たことがある妹は、当然のように水泳部を選んだ。
ただそれだけの話。他愛もない雑談。ご愁傷様なんて言われる要素は何もないはず。
「そうだけど、何か問題でもあるのか」
祐一は少し不安そうな顔をしなから隼人に問いかける。
そもそも祐一が、この話題をしたのは隼人が水泳部の部員だからだ。
気が強くて、どこか世間知らずなところがある妹を助けて欲しい。
そう頼もうとした矢先に、この反応。
兄として不安にならないはずがなかった。
「由衣ちゃんが水泳部員になったというのが少し驚いてさ。いや、俺的にはラッキーというほうが正しいかな。見たかったものが見れるしな」
妙にニヤニヤしながら隼人は話す。
祐一にとって隼人は小さい頃からの遊び友達だ。
妹と三人で海水浴に行ったこともある。
考えば考えるほど祐一は隼人の態度が理解できなかった。
ラッキーとはどういうことなのか。
「そもそも、なぜ由衣が入部したことをしらないんだ。お前だって水泳部だろ」
「同じ水泳部と言っても男子と女子は完全に分かれているからな。メニューも違うし練習日も違う。ほら、一緒にやると色々まずいんだよ」
相変わらず、惚けたような言い方をする隼人。
「男女別? なんでそんなことしているのだ?」
水泳部の内部が分かれていることは祐一も初耳だった。
妹はただ水泳部に入ったと言っただけで細かなことは話さなかったからだ。
「うーん。由衣ちゃんには悪いけど直接見てもらったほうが早いな。ちょっと付き合えよ」
隼人が立ち上がり、教室から出ていく。
「待てよ。何処へ行くんだ」
急いで隼人の後を追いかける祐一。
隼人は妙に早足で三階へと上がっていく。
「ほら、あそこの教室だ」
隼人が言う教室は三階の端にあった。
そこは普段使われていない教室らしくやや寂しさを感じた。
「ここは水泳部の用具置き場であり、プールの監視所代わりにもなっているんだ。女子がプールを使っている時はここで担当の男子がプールの監視をやる。その逆もまた同じ。男子の日には女子がここにいる」
扉の前で話す隼人
「監視?」
せっかく男女が分かれているというのに監視は異性がやるという。
いくら説明を聞いても水泳部のシステムがさっぱりわからない。
「見ればわかるって。それじゃ入るぞ。失礼します」
隼人が教室へ入る
教室には二人の男子生徒が窓側に座り外を見ていた。
「先輩。見学よろしいでしょうか」
隼人がやや緊張した顔をしながら先輩たちに挨拶する。
「そいつは誰だ」
柄の悪そうな先輩がジロリと祐一を睨む
「自分の同級生です。妹が水泳部に入ったらしいので説明してあげようかと思いまして」
隼人につられて頭を下げる祐一。
「妹ねぇ。まあいいか。二人ともここに座れ」
隼人の話に納得したのか先輩はめんどくさそうに横に来いと手巻きする。
「失礼します」
先輩の隣に座る祐一たち。
「ほら、あそこだ」
先輩が窓から手を出し、斜め下を指差す。
祐一は先輩が示す方向に視線を向ける。
そこにはプールが見えた。
タイムアタック中なのかレーンごとに女子が泳いでいる。
そしてプールサイドには新入生らしき十人ぐらいの男子グループが海パン一つで立っていた。
「ん?」
祐一はプールサイドに立つ男子を見て何かおかしいことに気がつく。
プール際は光の加減ではっきりと見えないが、男子にしては体つきが華奢すぎる気がした。
「次、須崎」
コーチらしき図太い声が響き渡る。
「はい!」
その返事と思しき少女の声。
海パンを着た1人の生徒がプールのスタート台まで歩いていく。
その様子を見ていた先輩たちが話す。
「あれ須崎じゃね。なぜ3年生のエースである須崎が海パン組なんだ」
「あー。あいつこの前の大会で大失敗したんだよ。しばらくは乳丸出しだろう」
「あらら、カワイソ。中3の身体になって海パン組とはな。見ろよ。あの大きな胸を」
先輩の会話を聞いて祐一はようやく状況を理解する。
スタート台に両足を揃えて立ち、綺麗なポーズを取っている海パン姿の生徒。
そのむき出しの上半身には女性特有の丸みを帯びた乳房があった。
普段は決して晒されるはずがない白い乳房は太陽の光の下で輝いているように見えた。
ぴぃと笛が鳴ると女の子が飛び込む。
空中で乳房がぷるんと揺れながら女の子は水中へと消えていった。