水泳部の伝統 02

水泳部の伝統 02

「もうわかっただろ。うちの水泳部は実力主義でランク性を取っているんだ。一年や成績の悪い女子は乳丸出しの海パン一丁。男子の場合はフルチン。一番上の大会メンバーはスポーツ水着ってな感じで」
 隼人が話を続ける

「数年前までは男女一緒に練習していたんだけど、異性の前でおっぱいやチンコ丸出しは可哀想ということになって今では完全に分けられている。女子の練習風景を見られるのも月に一回の合同練習とこの教室だけになってしまった。これもまた時代だな」
 どこか残念そうに隼人は語る。
 隼人が入った時には既に男女分けられていた。
 全裸の1年男子と上半身裸の1年女子が毎日一緒に泳ぐ水泳部の伝統はもうない。

「でも、結局女子の練習風景をこうして見ているし、これでは分けた意味がないでは……」
 先輩たちに聞こえないような小さな声で祐一は疑問を言った。
 思春期の羞恥心を力に変えようとする水泳部の方針はわからなくもないが、それを男子部員が覗き見る必要はないはず。
 男子の場合だって同じだ。女子に裸を覗き見られていいわけがない。
 なんだかんだと屁理屈を言っているが、要するに異性の裸をただ見たいだけなのではないのか。

「難しい顔をしていないで楽しめよ。ほら、スタート台の一番右側にいるのが由衣ちゃんだろ」
 隼人がプールの一角を指差す。

「由衣……」
 隼人の言うとおり、妹はスタート台の上で、不満そうな表情をしながら立っていた。
 もちろん他の新入部員と同じ、上半身裸の海パン一つの姿で。
 妹の透き通るような肌色を見た祐一は思わず唾を飲み込む。
 数年ぶりに見た妹の胸は記憶と全く違っていた。
 記憶の中の妹の身体はつるぺたで女らしいところが何一つ無かった。
 それが今ではどうであろうか。童顔で背の低い妹には似合わないほどの女性らしい乳房がそこにはあった。
 先ほどの中学三年の須崎もなかなか立派な乳房をしていたが、妹の乳房は綺麗なお椀型をしており、形、大きさとも須崎を上回っているように感じられた。

「へー、由衣ちゃんって着痩せするタイプなんだな。胸だけ見ると先月まで小学生だったとはまったく思えんわ。乳首の色もいいねー」
 好奇心旺盛の隼人がニヤついた表情をしながら妹の胸を批評する。
 妹の若さみなぎる初々しい白い乳房は見るものを夢中にさせた。

「おい。見るなよ」
 と言いつつ祐一も妹の姿から目が離せない。
 明るい太陽の下で乳房を晒す異常さからか、妹は耳まで真っ赤に染めあげていた。
 普段は笑顔を絶やさない明るい妹とは思えないほど表情も硬かった。
 なぜこんなことをやらなくてはいけないのか。
 水泳部の理不尽な伝統に怒りを感じているような雰囲気だった。

「ふーん。おっぱいを晒しているというのに鋭い目つきしているな。俺が一年の時はチンコ隠すのが精一杯でとても周りなんか見ている余裕は無かったというのに。あんな一年は初めて見たわ」
 隼人が自分の体験を思い出しながら言う。
 確かに妹の態度は他の一年と大きく違っていた。
 他の海パン組は恥ずかしさで前もろくに見ていない。
 誰もが顔を俯き、身体を震わせ、背中を丸くして羞恥の時間を耐えていた。
 だが、妹は違う。
 羞恥のため顔こそ真っ赤に染めてはいるが、その態度は堂々たるものだった。
 背筋を伸ばし、隠したいはずの胸をあえて晒している。
 それはこんなシゴキは許されないと無言の抗議をしているような妹の態度だった。

「だから見るなって。由衣が可哀想だろ」
 祐一は妹の胸が見世物になっている状況に我慢が出来なかった。
 家族の自分ですら見たことがない妹の膨らんだ乳房。
 それを水泳の特訓と称して赤の他人が好き勝手に見ている。
 兄としてそんな状況を許せるはずがない。

「胸を見たぐらいで騒ぐなよ。どうせ自己紹介の時に全部見ることになるんだし今文句を言っても意味ないだろ」
 呆れたような顔をする隼人

「全部見る? それってどういう意味なん……」
 言葉の途中で祐一の顔色が変わる。
 彼には思い当たることがあった。
 水泳部で行われている自己紹介の噂。それは確か。

「お前も聞いたことあるだろ。水泳部には全裸自己紹介をやる伝統があるの。そこは男子も女子も関係ない。新入部員一人一人が自分の裸を隅々まで晒して名前と身体を先輩たちに覚えてもらう。まぁ度胸付けと仲間になる儀式みたいなものだな」

 隼人が説明し終わると同時に笛が鳴り、妹がプールに飛び込む
 上半身裸のままクロールで泳ぐ妹。
 胸が丸出しだというのに妹は早かった。
 今の妹の泳ぎを見れば誰もが彼女の才能に気がつく。
 こんな異常な状態でもフォームを乱さず泳げる精神力。
 これこそが水泳選手として必要な能力。彼女が持つ天性の素質だった。
心折れ、雌堕ちる。