水泳部の伝統 12

水泳部の伝統 12


三十分後

「それでさ……あいつが」
「ってことは女子の候補は……」
 男女ともに自己紹介が終わったというのに部員たちのざわめきは止まらない。
 それもそれはず。誰も本日最後のイベントであるが一年リーダーテストに興味があった。
 ここでリーダーに選ばれた一年は高い確率で代表選手となりキャプテンの道を歩むこととなる。
 数年後、この部を引っ張る生徒は誰になるのか。それは1年のみならず上級生も興味がある話だった。


「では最後に一年のリーダーを決める。男子は中村順」
 田中キャプテンがそう宣言すると男子部員たちのざわめきが大きくなる。
 やはりと納得するもの。なぜ、あいつがとやっかみの声も少なからず聞こえる。

「はい」
 騒がしい周りも気にせず大きな掛け声とともに一人の全裸男子が立ち上がる。
 男子の候補は中村という男。背も高くガッチリした体型で、いかにも男子水泳部員と感じさせる男だった。
 中村は前を隠すことなく堂々のしたものおいで第三レーンの前に立つ。

「女子。堺由衣」
 不機嫌そうな藤井キャプテンの声が響く。
 本当は選びたくない。そんな雰囲気がマジマジと感じられた

「はい」
 男子に続いて由衣が立つ。
 下は海パン。上半身は裸。いつもの海パン組の姿だ
 だが、胸はしっかり手で隠している。
 もうどれだけ見られたかもわからないというのにそれでも彼女は隠そうとした。

「よ、巨乳ちゃん頑張れ〜」
 男のヤジを聞き流しながら由衣はゆっくりと第二レーンの前まで歩き、意を決したような面持ちをし台の上に立つ。
(よし)
 彼女はリーダーを本気でやりたいと思い始めていた。
 もちろん彼女は今でも水泳部の伝統は納得していない。
 それでも、リーダーの地位は魅力的に思えた。
 なぜならリーダーになれば彼女の夢の実現に大きく近づくからだ。
 全国の頂点を目指すという夢に。

 由衣は少し躊躇いながらも手を下ろし腰を曲げた。
 すると軟らかそうな乳房がポロンと剥き出しになる。
 乳房の頂に覗かせる小さめの乳輪と桜色の突起がなんとも愛らしい。

「間近で見るとやはりデカイな」
 隣のレーンに立つ男子の代表である中村が由衣の剥き出しにされた胸を見つめつつ馬鹿にしたような声を出す。

 由衣は間近で同学年の男子に見られる羞恥に顔を赤らめながら中村の方を向く。
 だが、すぐ視線を逸らす。
 なにか嫌なものを見たと言わんばかりの表情を見せる。

「へへ、俺の立派だろ。これが大人チンコだぜ。ほれ、もっと見ろよ」
 中村は腰を動かしながら謎のアピールをする 

(おちつけおちつけ)
 由衣は中村の嫌がらせを無視しようと必死に自分の心を落ち着かせようとしてきた。 
 実のところこのテストで男子に勝つ必要はまったくなかった。
 そもそも女子が男子に勝てるはずもないし、そういうテストでもなかったからだ。
 あくまで異性の前で肌を晒しながらいかに自分の泳ぎが出来るか。
 心の強さが試されているテストだった

「なあ、掛けをしようぜ。負けたほうはこの格好のままグラウンド一週なんてどうよ」
 思いっきり馬鹿にしたような言い回して中村が言った。
 これが挑発なのは由衣も十分わかっていたので「嫌よ」と冷たい声で即答する。

「いやいや、やろうよ。俺だけそんないいオッパイを見ているのは心苦しいので友達にも見せてやりたいわけよ。お前だって見られれば気持ちいいんだろ。これは誰も損をしない掛けだぜ」

「気持ちいいか。……なら、もし私が勝ったらアンタがグラウンド一周をやる。それならやってもいいわよ」
 由衣は少し考えた後で静かに言う。
 すると中村が驚愕の表情を浮かべる。
 ただの挑発に乗ってくるとは思っていなかったようだ。

「よし、決まりだ。お前らも聞いたな。負けた方はグラウンド一周だ」
 中村は皆に聞こえるように大声を出し、位置へと付いた

 由衣は真剣な表情をしプールの先を見る。
 こんな掛けに乗った彼女だったが別に自暴自棄になったわけではなかった。
 確かに胸を見られて気持ちいいんだろの暴言には頭にきた。
 でもだからこんな掛けには乗らない。
 これは自分への挑戦。ここで負けるようでは夢なんて叶えられるはずがない

「では用意ー」
 藤井キャプテンが手を叩くと二人が水の中へと飛び込む。ほぼ同時にクロールで泳ぎ始める。
「え?」
 二人の泳ぎを見ていた男子たちが驚きの声を上げる。
 みるみるうちに二人の差が広がっていったからだ。
 由衣が横乳を見せながら息継ぎをする。そのたびに中村との差が広がっていく。
 別に中村が遅いわけではない。由衣が異常に早かった。
 泳いでいてもはっきりと確認できる軟らかそうな乳房を見なければどちらが男子がわからない。
 それだけ由衣の泳ぎは力強く逞しかった。

「いっけー由衣!!」
 1年女子たちの必死な応援が響き渡る。
 男子に裸を見られて惨めな思いをしているのは他の海パン組も同じ。
 何とか男子たちに一矢報いたい。その期待を背負いながら由衣は泳ぐ。

 由衣がゴールし中村も数秒遅れでゴールする。
 二人とも疲れ切った顔をしながら水から上がった。

「はあはあ」
 プールサイドに上がった由衣は晒された乳房をさっと手で隠し顔を赤らめる。
 上半身裸の恥ずかしさも困惑も、試合に集中していたからこそ隠されていたもの。
 それが終われば由衣もただの女の子でしか無かった。

「ええい、くそ」
 突然中村が大声を出す。
 そのまま由衣の方を見ず男子たちが座る場所へと歩き始める。

「何処へ行くの。アナタはこれからグラウンド走るのでしょ」
 胸を隠したまま由衣が中村に話しかける。

「おいおい、ただの冗談に決まっているだろ。この時間のグラウンドには生徒がたくさんいるんだぜ。出来るはずないだろ」
 相変わらず人を馬鹿にしたような言い草で中村は言った。
 自分がやることはまるで想定していなかったのがありありと感じられた

「それは無いんじゃないかしら。田中キャプテンもそう思いますよね」
 二人の会話を聞いていた須崎が田中に向かって話しかける。

「あ、ああ。そうだな。中村、今から走ってこい」
 田中キャプテンはやや怯みながらそう答えた。
 いや、実際に田中は須崎の迫力に押されたのだ。
 上半身裸でその特徴的な大きな乳房を晒したままの須崎の雰囲気に飲まれていた。

「はい、わかりました」
 中村は悔しさを顔に滲ませ走り出す。

『覚えていろ』
 由衣の横を通った中村がそう呟く。
 それは明らかに恨みがこもった言葉だった

「由衣、あんなことして大丈夫なの?」
 中村の声を聞いていた同じ海パン組の女子が心配そうに話す。

「平気よ。あんなに裸を見られたんだからあのぐらいの報いは受けてもわないと気がすまないわ」
 由衣は息を大きく吐き、なんとか自己紹介が終わったことに安堵の表情を見せる。
 全裸でやる意味は未だにわからないし納得も出来ないが、自己紹介を終えて彼女は充実感を感じていた。
 由衣にとって今日からが本当の始まり。
 夢へ向かっての第一歩だった。

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エピローグ

 兄の教室。昼休み

「そういや、あれから妹とあった?」
 由衣の兄こと祐一は妹の様子を隼人から聞き出そうと、さりげなく話題を振った。
 妹が入部してから早二週間。
 祐一は、今の妹の状況を何一つ把握してはいなかった。
 入部当初こそ、よく愚痴を話していた妹も今ではなにも話さない。
 隼人から聞いた全裸自己紹介はどうなったのか。
 妹は今でも海パン姿で、練習しているのか。
 兄として知りたいことは山のようにあった。

「由衣と最期にあったのは合同自己紹介の時なので俺もそこまでしか知らんのだわ。すまんな」
 謝りながらもどこかニヤついた顔で隼人は話す。

「……」
 自己紹介と聞いて祐一の心は揺れる。
 妹は話してくれないが、やはり合同自己紹介は行われていた。
 つまり隼人は既に妹の全裸を見たということ。
 そのせいか隼人の妹の呼び方が由依ちゃんから由衣に変わっている。
 これが裸を見た男と、見られた女の立場の違いなのか
 なんとも行けない苦しみが祐一を覆う。

「でも立派だったぞ。あのおかげで一年のリーダーに抜擢されたんだし」

「立派……」
 何が立派なのか。胸なのか、アソコなのか。
 そもそも体が立派だからリーダになれるのか。

「どうしたんだ。由衣について聞きたいことがあるならはっきり聞けよ。ホクロの位置まで教えてやるよ」
 隼人は祐一の心を読んでいるかのごとく自慢げに話す。
 祐一は思った。もうダメだ。変態と罵られても構わない
 準備室で妹の胸を見た時感じた疑問を今ここで解決したい。   

 祐一はどうしても聞きたかったことを隼人に質問しようとした。
 隼人の耳に口を近づけ、他の人には聞こえないような小さな声でこういった。

「うちの妹のあそこってもう毛が生えているの?」

一部 終わり
曖昧な僕ら2 彼女はたぶん、これからめちゃくちゃセックスする