入院生活の羞恥

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プロローグ。

 田舎町にある古びた高等学校に下校時間を告げるチャイムが鳴り響く。

「じゃ、また明日ね。ばいばいー」
「ばーい」
 後片付けが終わった生徒たちは一斉に教室を出て玄関へ向かった。
 部活に行く男子。自宅に帰る女子。
 上級生も下級生も一つしかない生徒玄関口に集まり、人だかりの山を築く。
 玄関付近はあっという間に身動きも取りない状態に陥った。

 そんな混乱の中、一人の女の子がその小柄な体をうまく使いながら出口へと進んでいく。
 その女の子は中学生と言っても通用しそうなぐらい背が小さく、華奢な感じがする生徒であったが、スイスイと器用に人混みをかき分けながら玄関を抜け、グラウンドまで移動した。

「今日はいつも以上に混んでいたなぁ。制服も皺だらけ」
 女の子こと高校2年生の石田優奈は制服の乱れを直しながら、一息を付く。
 そして再び歩きだそうとしたその時、
「石田!! たまには一緒に帰ろうぜ」
と、突然男の声がグラウンドに響き渡った。

 男の大声に驚いた優奈はキョロキョロを周りを見渡す。
 しかし近くには顔見知りはいない。
「はて?」と彼女は首を傾げる。

「だから。上。2階!!」
 再び男の大声がした。
 その声は先程よりも更に大きくはっきりと聞き取れる。

「げ、この声は」
 優奈はその特長あるショートヘアがサッとなびかせながら校舎を見上げた。
 そこには2階窓から顔を出し、手を降っている男子生徒の姿。

 「櫻井!! 恥ずかしいからやめてよ!」
 2階に向かって優奈は大声で話す。
 男の声の主は櫻井貞。優奈にとってはクラスメートかつ腐れ縁の幼なじみの男子だ。

「いいから一緒に帰ろうぜ。今からそっちに行くからさ!」
 櫻井の声は相変わらず大きい。二人の会話を聞いていた周りの生徒はみな笑っている。
 女子が帰ろうとしたら、男子が引き止めて、一緒に帰ろうという。
 他人から見れば、カップル同士の会話にしか聞こえなかった。

 四方八方から茶化すような視線を感じ、優奈は顔を赤くする。

「誰が待つものですか。先に帰るわよ。追いかけてこないで」
 あまりの恥ずかしさに優奈は突然走りだす。
 回りの視線から逃げるように、一気に校門を駆け抜ける。
 路地を曲がる。たがスピードは落ちない。全力疾走したまま大通りの交差点にたどり着く。

 歩行者の信号は赤。

 それを見た優奈は「おっと」と舌打ちをし急ブレーキ。
 ようやく走るのをやめた。

「はあはあ、もう恥ずかしいな。明日あったら文句言ってやる」

 車はろくに通らないが信号は赤のまま。
 なかなか変わらない信号にイラつきながら、優奈は先ほどの出来事を愚痴り続けた。

(まったく櫻井も悪い人ではないんだけど無神経すぎ。医者の家系だったらもっと女の子の扱いを覚えなさいよ)
 そんなことを考えながら、彼女はひたすら信号が変わるのを待ち続ける。

「って櫻井と恋人関係になるなんてありえないし、そんなこと考えても仕方がないわね」

 信号が青に変わる。
 どことなく照れた表情をしながら、優奈はふらっと道路に出た。
 完全に不注意だった。変なことを考えずに周りを見ていれば気がついたはず。
 右からやってくる大型トラックの存在に。

 バンと鈍い音とともに優奈の体はサッカーボールのように宙を舞う。
 彼女が覚えている記憶は、ぶつかる寸前の大きなトラック。
 そして地面に叩きつけられてから見た、一瞬の青空だった。

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forr / 2014年12月01日
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